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「ブランド」の形〜FC町田ゼルビアとサイバーエージェントの件で思う〜

駅とかで偶然知り合いを発見したらまあまあ高確率で知らない人のふりしてます…

 

どーもこんばんは

 

さてさて、本日こちらのブログで書いていきたのは、先日10月11日に会見が行われたFC町田ゼルビアの件です。


 

 

まず事の経緯から振り返ると、昨季の町田は開幕から好調を維持し、常にJ1昇格争いの中心に立ち続けていた一方で、施設面などの不備からJ2優勝してもJ1に上がれない…という事が話題になりました。

それと同時期の2018年10月1日、「アメーバブログ」や「Abema TV」の運営で知られるインターネット広告事業を展開しているサイバーエージェント」が町田の経営権を取得した事を発表。すぐさまAbemaTVにてFC町田ゼルビアの番組が作られるようになり、今まで不安定だった経営面も安定するなど、チームの今季の不振はさておき、ゼルビアファンはそれなりに明るい展望を抱けていたのではないかと思われます。

 

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状況が大きく変わったのは今年の9月の頭でした。サイバーエージェントにより「FC町田トウキョウ」というこれまでのチーム名であった「ゼルビア」を廃し、「トウキョウ」を冠したチーム名が商標出願され、同時に新しいエンブレムやチームロゴ、マスコットキャラクターも出願されるという事が話題に。

そして10月11日、サポーターミーティングの場にサイバーエージェント藤田晋社長が出席し、チーム名変更や今後の方針についてを説明する事になりました。そこで説明された事をざっくり纏めると↓

 

・チーム名、エンブレム、マスコットを変更する

・チーム名は「FC町田トウキョウ」となる

・クラブカラー、及び本拠地を変更するつもりは無い

・2021年にはJ1参戦、2024年、2025年にはJ1、ACLの優勝を争える規模のチームを目指す

 

という事が主な要点です。

しかし、その後の質疑応答での町田サポーターの想いに対する藤田社長の解答が若干喧嘩でも売っているかのような対応だった事もあって会見は大荒れ。Twitterのトレンドワードでは数々の台風情報やプロ野球クライマックスシリーズ、更には「孤独のグルメ」や「時効警察はじめました」といった話題のドラマがひしめく中で「ゼルビア」という名前がTOP10に位置し続けるなど大変な話題に。

まあ、これに関しては藤田社長のアンサーが余りに宜しく無かったので擁護しようはないのですが、若干話から理性的なものが無くなってしまった感はあるので(ゼルビアファンなら感情的になるのも当然だし)、この件に関しては理性的にモノを見れる立場にいるので、あくまで冷静に今回の件を自分なりに考えていこうと思います。

(今回の会見というよりは、あくまで今回の件に関して中立的に、ビジネス的に見て…というスタンスで書いていきたいので藤田社長の波紋を呼んでいる発言などはここでは触れずに書いていきます)

 

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まず、Twitterでは当然藤田社長に対する批判が相次いでいますね。ただ、その一方で藤田社長は町田の発展、強化を真剣に考えている事は確かだと思います。その理由は他でも無く、批判の要因の一つとして挙げられていますがハッキリ言ってFC町田ゼルビアがビジネスツールだから」です。

要するに藤田社長のポケットマネーでは無く、サイバーエージェントとして資金を投入した時点でサイバーエージェントには企業として一定の責任が発生する事になります。これが例えば藤田社長の個人の活動として、全てをポケットマネーで行うとすれば、藤田社長には途中でそれを放り投げる権利も有する事になる…岡崎慎司の契約問題でも話題になったマラガCFの例がまさしくそれで、藤田社長では無くサイバーエージェントの資金が投入された時点で、FC町田ゼルビアの件は「趣味」や「道楽」から「プロジェクト」になり、これは町田にとってはネガティヴにならなくてもいい事なんじゃないかなと。

実際問題サイバーエージェントが経営権を取得するようになってから、練習場やクラブハウスなどサイバーエージェント退陣後も残る設備の改修などにも取り組んでおり、その甲斐もあってJ1ライセンスを獲得するなど、既にサイバーエージェントが一定以上の恩恵を町田にもたらしたいる事も事実な訳で、町田はここ数年には考えられなかった未来の展望がサイバーエージェントの参画によって開ける可能性が出来た事は頭に留めておくべき事実であるという事です。

そもそも、メディア関係の会社がバックに付くメリットは広告的にもかなり大きく、ネット媒体とはいえ全国で見られる応援番組を持つJリーグチームがJ1も含めてどれだけいるのか…という話もあり、個人的には今、この件を機にサイバーエージェントが100%の悪者として扱われるのは少し不憫な気もするのです。

 

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…で、肝心なのはクラブ名に関してです。

サポーターミーティングの場で藤田社長は「チーム名に『東京』を冠する事でブランド力を高めたい」というような主旨の発言をしました。

実際に東京はロンドン、パリ、ニューヨークと共に世界四大都市とも言われており、来年には東京オリンピックも控えていますから、「TOKYO」という名前のブランド力には確かに強いものがあります。藤田社長は外国人選手やスポンサーの獲得に於いて「東京」の名がある方が強い…というような事を言っていましたが、確かに外国人選手からすれば「TOKYO」と聞けば「おっ」となる人もいるでしょう。その「東京」という言葉を入れたいというメリットは理解出来るものですし、それは同時にFC町田ゼルビアという東京都内にあるクラブが持つ特権であり、一つのセールスポイントでもあるとも言えて、藤田社長という個人では無く、サイバーエージェントという会社単位で世界に向けてブランドを拡大するに当たって、その考え自体は同意するかは別にしても納得は出来ます。

ですが、その方針、ビジネス的なメリット、現時点でサイバーエージェントが一定以上の恩恵を町田にもたらしているからこそ…こんな一介のどぐざれ若輩者が上場企業の社長に対してこう言うのも気持ち悪い話ですが、ビジネス的に見ても「ゼルビア」の名前は外すべきではない、外さない方がいいでしょう。感情論で無くとも。

 

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サッカーに限らず、スポーツチームに於いて「愛称」とは思っている以上に意味は大きいです。

過去、Jリーグにはチーム名を変更したチームはいくつかありますし、そのパターンもいくつかに分かれます。東京V(ヴェルディ川崎東京ヴェルディ1969)、湘南(ベルマーレ平塚湘南ベルマーレ)のように地名だけ変わったパターン、札幌(コンサドーレ札幌北海道コンサドーレ札幌)、群馬(ザスパ草津ザスパクサツ群馬)のように固有名詞を加えたパターン、東京V(東京ヴェルディ1969東京ヴェルディ)、名古屋(名古屋グランパスエイト名古屋グランパス)、京都(京都パープルサンガ京都サンガFC)のようにチーム名を短縮したパターン…主にこの3つがありますが、この3つの特徴は「チームの愛称はいじっていない」という点です。名古屋や京都に関しても、チーム名変更前の時点で多くの人が「グランパス」「サンガ」と言っていたので、町田の件には当てはまらないでしょう。商標権の都合でロッソがロアッソになった熊本や、チームごと消滅した横浜フリューゲルスの件以外で、愛称ごとチームが変わった事例というのは過去のJリーグで一度も無いんです。これは単純に「たまたまそういう事例が無かった」という訳ではなく、プロスポーツに於けるチーム愛称の重要性、特殊性の結果と言えるでしょう。

サイバーエージェントという企業を成長させた藤田社長が優秀な経営者である事に疑いの余地はありませんが、サッカーに限らずプロスポーツ事業というのは良くも悪くも一般企業の経営とは種類の異なる、特殊なビジネスなのです。

 

藤田社長は「町田から世界に向けて発信する為に東京を冠する」という事を仰いました。しかしながら、現時点で世界からも認知されているJリーグチームなんて本当にごく僅かです。ジーコの作ったチームとして知られ、クラブW杯でレアルと激戦を繰り広げた鹿島、アンドレス・イニエスタを始めとしたスター選手を獲得し続けている神戸、ACLでの実績がある浦和に加えて、クラブW杯出場経験のあるG大阪、柏、広島、近年に大物選手が在籍していたC大阪鳥栖がギリギリ…くらいの感じなのでは無いでしょうか?いくらサイバーエージェントが参画したところで神戸のように急にイニエスタクラスを獲得する事が出来ない以上、町田が世界に向けたブランドを確立する為にはまず、国内での地盤を固める必要性があります。その為には既存の層を下敷きとした上で新規層を取り込む事…即ち、新規層を取り込む事と同じくらい既存層を逃がさない事は大前提で、「ゼルビア」の名を外すという事は既存層を逃がし、世界に目を向ける前に国内、ひいてはホームタウンにそっぽを向かれるだけの可能性があるのです。

サポーターミーティングの場で藤田社長は「収入は殆どが『入場料収入』『グッズ』『スポンサー収入』の3つのみ」と言っていました。それは確かにその通りなのですが、今回の件ではその3つの大きな収入源の中で今あるものすら失う可能性があり、本末転倒な未来しか待っていない可能性すらあるのです。

 

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「たかが名前にそんな意味があるのか?」と思う方もいるかもしれませんが、サッカーに限らずプロスポーツに於いて、地名では無い名前が持つ意味は非常に大きいです。

三木谷浩史氏がヴィッセル神戸を買収した時、チームカラーを白黒から臙脂に変え、エンブレムまでもを変更しましたが、ヴィッセル神戸」という名前は変えませんでした。三木谷氏が神戸買収の際に設立した運営会社クリムゾンフットボールクラブ(現在は楽天フットボールクラブ)にあやかって「クリムゾン神戸」とかにも出来たかもしれませんが「ヴィッセル」という名は変えなかったのです(もちろんどうしても「東京」と入れたい今回のケースとは違うけれど…)

これはサッカーに限った話ではなく、例えばサッカー以上に親会社の持つ力の大きなプロ野球の例を見てみると、横浜ベイスターズDeNAが買収した際は横浜DeNAベイスターズ福岡ダイエーホークスソフトバンクが買収した際には福岡ソフトバンクホークスという名前に変わり、「ベイスターズ」「ホークス」といった名前は企業が変わっても残されました。プロ野球界でも近年は愛称とされる部分が変わった事例はほんの一握りです。

そのほんの握りの例と言えるのがオリックス・ブルーウェーブでしょう。オリックス・ブルーウェーブは2004年、経営難に陥っていた近鉄バファローズを吸収合併しました(Jリーグ的に言うとマリノスオリックスフリューゲルスバファローズみたいな感じ)。その際、バファローズという名は残して欲しい」という要望を受け、合併後のチーム名は「オリックス・バファローズ」として2005年から活動しています。しかし、オリックス…に続くチーム名を「バファローズ」とした事で「ブルーウェーブ」という名前が無くなり、ブルーウェーブという名前が無くなった事はオリックスの近年の人気低迷と無関係では無いとされていて、オリックスが不人気球団と呼ばれてしまっている遠因の一つでは無いかと真面目に言われているほどです。

 

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プロスポーツの世界に於いて愛称を変更する事はそれだけの重みがあるという事で、いくら遠くの顧客を見据えたところで近くの客を失えば来る客も来なくなるのです。藤田社長は「東京」を冠する事でブランドを高めようとしていますが、プロスポーツという商売に於いては「東京」よりも、ひいては「町田」という言葉よりも「ゼルビア」という名前の方がブランドとしての意味は重いのです。プロ野球の例に当てはめれば、DeNAソフトバンクは「ベイスターズ」「ホークス」というブランドを維持し、その後の繁栄に繋げ、親会社の新規参入の恩恵をより大きなものにした。一方でブルーウェーブ」というブランドを放棄したオリックスはその後凋落の一途を辿った…。サッカーにしたって、他のチームにしたって、クラブとしての固有のブランドは「大阪」「京都」「浦和」「鹿島」「川崎」では無く、「ガンバ」「セレッソ」「サンガ」「レッズ」アントラーズ」「フロンターレ」なんです。

東京というブランドのある名前を入れる事自体には反対ではありませんが、それが「ゼルビア」という名前のブランドを失う事になるのなら、今の町田にとってメリットよりもマイナスの方が大きいでしょう。それなら「FC町田トウキョウ」ではなく、例えば「東京町田ゼルビア」とかでは駄目だったのでしょうか?極端な話、それならばいっそ「東京ゼルビア」とか「ゼルビア東京」の方が「ゼルビア」を外すよりはプロスポーツとして正解だと思います(ガンバ大阪は厳密に言えば吹田市だし)。結局のところ東京には既に2チームある以上、人々は区別する意味も込めて「町田」か「ゼルビア」で覚えるでしょう?繰り返しになりますが、東京という地名のブランドを強調するのであれば、「ゼルビア」という名前こそが当事者的に最も重いブランドであり、チームカラーよりもエンブレムよりも変えられたくない部分になるのです。

 

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長くなりましたが、まとめると藤田社長始め、サイバーエージェントが町田の強化、発展を真剣に考えている事はここまでの投資でも十分理解出来るので、100%の悪者にされるのは不憫にも思います。ですが…というよりだからこそ、ビジネス的にも「ゼルビア」という名は残した方がいいという事、プロスポーツという特殊な事業で「愛称」が持つブランドの重さは、例え小さな規模のチームでも大きいんだよ、という事が、この件を冷静に見た時の感想です。

 

最後に…2000年までオリックスで大活躍したイチローは、久米宏氏との対談で「オリックス・バファローズ」への復帰も含めた日本球界復帰の可能性を問われた際、こんな返答をしたそうです。

 

 

 

「僕がいたブルーウェーブはないわけだから…」

 

 

 

 

 

ゼルビアを作ろうって番組始めた年じゃないの…

ではでは(´∀`)