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ロシアW杯観戦記〜あれから1年…《海外ド音痴、ロシアに翔ぶ。〜英語もまともに話せない私のロシアW杯観戦記〜》2019年再編集版〜第8話 4年に一度ではなく…

【ロシアW杯観戦記再編集版、第1話、前話はこちら↓】

 

 

 

飛行機に乗って関空→深圳で約5時間、深圳→モスクワで約11時間、トランジットで中国に滞在していた時間を含めれば30時間近い時間をかけて、ようやく旅の目的地であるモスクワに到達した。

前々から言っているように、幼稚園入園より前に一度だけハワイに行っただけの私は、事実上海外経験がゼロである。そんな私の初海外がロシアというのは「お前やべぇな」みたいな感じで割とネタになった。初海外ロシア…我ながら結構恐ろしい響きだと改めて思う。

ロシアではポケットWi-Fiをレンタルしていた為、ロシアに着陸すればスマホは使えるようになった。そして、そこに飛び込んできたのはちょうどモスクワに辿り着いたタイミングで試合が終わった開幕戦の結果である。

 

 

 

ロシア5-0サウジアラビア

 

 

 

やっぱりこの飛行機に乗っている乗客にはW杯観戦者も多かったみたいで、このスコアに機内は若干ザワつき気味だった。ロシアとサウジアラビアならロシアの方が強いであろう事は容易に予想出来たものの、それでも開幕前からそこまでポジティブな展望を持たれていなかったロシアが5-0なんて芸当をワールドカップで出来るほどのチームだとは殆ど人間が思っていなかったからだ。

モスクワに着いたのはロシア時間で20:30くらい。今日のところはとりあえず真っ直ぐホテルに行って寝よう…という事になっていたが、どのみち地下鉄で通るしせっかくだから夜の広場に行く事になる。

 

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地下鉄の駅舎一つからロシアっぽさというか、異国情緒あふれる駅舎になっているロシアの地下鉄に揺られ、モスクワ…赤の広場へと辿り着く。大会前、ロシア代表の不振もあってか、ロシア国内であまりワールドカップが盛り上がっていない事が不安視されていたらしく、実際開幕まではあまりワールドカップが近づいている感も無かったらしい。

だが、開幕戦での5-0の勝利はロシア国内を一気にワールドカップムードに持っていくには十分すぎるインパクトを誇っていた。モスクワでの衝撃から1〜2時間…モスクワ最大の観光地は、日本でいう渋谷のスクランブル交差点や大阪の道頓堀のようにカオスというか、狂喜乱舞に近い状態が始まっていた。

赤の広場に入ると、まずはちょっとしたビアガーデン的なところがあり、そこにはロシア人というよりも我々みたいに様々な国から来たサポーターが酒を飲み交わしている。特に元気で、そして人数も多かったのはペルーだ。酒を飲み、事ある度に固まっては「ペェールゥ!!」と叫ぶ。面白かったのは、ちょこちょこ他のユニフォームを身に纏った人も巻き込んで「ペェールゥ!!」と叫ぶのだ。ちなみに、このペルー人の集団とはこの後カザンでも会う事になる。ペルーってカザンでの試合予定無いやろ…。

 

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そして更に奥に進み、いわゆるクレムリンが建っているところに近づくと、そこはロシア人による大祝勝会会場と化していた。人混みを掻き分けるように高く舞うロシアのタオルや国旗、ところどころから聴こえてくるのはロシアの国家のみならず、CSKAモスクワゼニト・サンクトペテルブルクのチャントなども歌われている。兎にも角にも、凄まじいボルテージが赤の広場を支配しており、この日この時この瞬間の赤の広場はある意味で赤の広場ではない、また別の空間と化していたのだ。

 

 

 

赤の広場というのはロシア観光に於いて外す事は出来ないスポットである。それと同時に、我々もクレムリンを初めとしたちゃんとした赤の広場見物は翌日に回したように、条件さえ揃えば赤の広場はいつでも来られる場所であるのも事実だし、それは世界各国、全ての観光地に於いて同じ事が言えるだろう。せいぜい景色が変わるとすれば、それは季節と天気の都合によるものくらいでしかない。

しかし、我々が見たのは「ロシアでのW杯開幕戦が終わった直後の赤の広場」であった。今年開催されるラグビーW杯にこんなキャッチコピーがある。

 

「4年に一度じゃない。一生に一度だ。 -ONCE IN A LIFETIME-」

 

日本に帰ってきてからこのキャッチコピーを見る機会はちょこちょこあったが、その度にこの言葉の意味の重さを実感させられている。ワールドカップは4年に一度、巡り来るように訪れる。だが自国開催のワールドカップは一生に一度しか訪れないもの…いや、一生に一度も訪れるかどうかわからないものなのだ。

日韓W杯の時は5歳で、サッカーにも目覚めておらず見逃す形となった私にとって、この空気を味わえた事はもしかしたらこの度で最も貴重というか、意味のある瞬間だったのかもしれない。赤の広場は行こうと思えばいつでも行けるのだろうが、ワールドカップの開幕戦の結果に踊る、2018年6月の赤の広場はこの瞬間にしか存在しない。一生に一度という言葉が自分以外に当てはまる…あれはそれだけの瞬間だった。至るところで大合唱していた「カチューシャ」の歌声というよりも叫び声に近い旋律が鳴り響くモスクワの夜空は、ロシアに何度も訪れている友人にとってもただのロシア旅行ではない事を感じさせていたはずだ。昔からサッカーを観ていた、やっていた人間なら尚更…。我々はロシアに行ったのではなく、特別な瞬間のロシアに行ったのだ。そう堂々と言い切れる空間がそこにはあった。

 

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ロシアの大祝勝会が行われていた影響もあって、クレムリンまでは辿り着けなかったからクレムリンなど本格的なモスクワ観光は明日するとして、この日はとりあえずホテルに帰る事になった。このホテルがまあ結構入り組んだ道の中にあったりして、若干道探しに手間取ったりもしたが、大混乱に至るまでに何とかホテルに辿り着き、明日から始まる本格的なロシアの日々に向けて眠りにつく。

 

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翌朝、モスクワ観光の前にまず最初にしなければならなかったのはW杯チケットの引き換えである。

第3話でも書いたように、我々はチケットの最終販売でチケットを購入している。第2次販売の時点で友人が購入していたロシアvsエジプトのチケットは郵送されていて、既に友人の手元にあったのだが、最終販売で購入したチケットはロシア国内のチケットセンターでチケットと引き換えなければならない。だから最終販売で手に入れたフランスvsオーストラリアのチケットは現地発券しなければならなかったのだが、このチケットの購入に成功したのは友人ではなく私だった。これが何を意味するかというと、英語が堪能な友人ではなく英語がさっぱり喋れない私がロシア人相手にチケットの手続きをしなければならないのだ。

 

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友人に「大丈夫か?」と聞かれれば「大丈夫じゃないと思う」と答えるしかないほど英語に自信はない私。とはいえ、チケット購入時はそれこそ一刻を争う状況だったから、私にも友人にもそこまで考える余裕も無かった。一応チケットセンターのロシア人スタッフは英語には対応していたが、さすがに日本語のような特殊な言語に対応している訳などない。京都に住む私は外国人に道を聞かれた事くらいなら何度もあるが、生まれて初めて自分の問題でガチで英語が必要になった瞬間は、友人のチケットも背負うという責任ある状況で訪れてしまった。

制度上、友人に通訳を願う事も出来ない。スタッフと私の1対1である。正直なところ、一番困るのは無理に英語を喋ろうとした結果、スタッフに「こいつは英語OKだ」と思われて流暢すぎる英語を話される事である。私だって、学校のテスト的に最低限の英語力はある。だがそういう人間にとっては、英語がペラペラな人間よりも英語レベルが大して高くない英語圏外の人間の方がはっきり言って話しやすかったりする。ワールドカップのスタッフになるのは簡単な事ではない。様々な試験などがあり、その中には英語力も含まれているだろう。多分彼らは間違いなく流暢な英語を喋ってくる可能性が高いのだ。

だからこそ私はまず、今自分が置かれている状況をスタッフに理解して貰う必要があった。独りで日本語が通じるはずもないロシア人スタッフを前にし、私は意を決してこの言葉を発した。

 

 

 

 

「I can not speak English.I can easy English word only.(私は英語を喋れません。喋れるのは簡単な英単語のみです)

 

 

 

こんなのブログで堂々と自慢気に語れる話ではない。しかし語学力に自信はないけど海外に行く方には伝えたい。この言葉は結構使えるぞと。前述のようにワールドカップのスタッフを務めるには結構な能力が必要で、スタッフの彼もその狭き門をくぐり抜けたエリートと言える人物である。だから彼は私のこの言葉を聞くと「OKOK♪」なんて微笑み、そこからは簡単な英単語とジェスチャーや指差しでの確認などをメインに話を進めてくれた。これは非常にありがたかった。恥を忍んで「英語出来ません宣言」をして良かったと思った。

しかし…これは彼の優しさ、親切心が溢れていたが故の悲劇ではあるのだが、最後に何とも言えない……いや、さすがにそれはわかるよ…と言いたくなるやりとりが発生する。

ワールドカップのチケットにはICチップが埋め込められている。チケットを折り曲げたりして、チップにダメージが与えられたりすれば、いくらそのチケットが本物でも入場出来ない可能性があるのだ。普通に英語を喋れる人に対しては、その旨を英語で伝えるのだろう。「This ticket has an embedded chip. Therefore,Don't damage it.」みたいな感じに。

チケットを持ったスタッフは、私の元に近づくとチケットを指でペシペシと叩きながら、さっきまでの穏やかな口調とは異なり、圧のある口調でどシンプルに言い放つ。

 

 

 

「In chip!! …No damage…!!(チップ入ってる。ダメ、ダメージ。)

 

 

 

「………Thank you…」そう言ってなんとかチケットを受け取った。

 

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つづく。

 

番外編の未公開写真↓