ロシアW杯観戦記〜あれから1年…《海外ド音痴、ロシアに翔ぶ。〜英語もまともに話せない私のロシアW杯観戦記〜》2019年再編集版〜第10話 人生の目標

【ロシアW杯観戦記再編集版、第1話、前話はこちら↓】

 

 

 

カザンは抜群の好天気に包まれていた。雲ひとつないというよりも、雲は空を飾る程度にしてか浮かんでおらず、そしてロシアらしくさほど暑くない…サッカーを観るのにこれ以上ないロケーションが広がっていた。ただ、カザンという場所の都合上、陽射しが強くてサングラスが必須だったのと、綿毛か何かわからないものが結構を宙を舞ってはいたが。

 

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この後に行く事になるサンクトペテルブルクのスタジアムが駅を出てすぐだった事を考えると、この日の目的地【カザン・アリーナ】は最寄駅からの距離はそこそこあった。とはいえ、街は何かとワールドカップ仕様に装飾されており、いわゆるいつものJリーグを観に行く時の移動のしんどさとは違う感情であった事も確かだ。夜行列車がカザンに着いた時には既に開場している時間でもあったので、既に周りは青色のフランス代表ユニフォームを身に纏った者、黄色のオーストラリア代表ユニフォームを身に纏った者など様々。そういえば私にとって、初めてのワールドカップや初めての海外のみならず、日本以外の国vs日本以外の国の試合を現地で観る事も初めてだった事に気付く。

 

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ここからはスタジアムの近くまで無料のシャトルバスに乗り込んで向かう。乗り込んだバスには主にオーストラリア人が乗り合わせており、ぎゅうぎゅうのバスを降りた先にも待っていたのはオーストラリアサポーターの大群だった。最終的にスタジアムに着いた時にも思ったが、比率としてはフランスサポーターよりもオーストラリアサポーターの方が多かったように感じる。たまたま自分の周りがそうだっただけかもしれないが…。

 

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最寄りのバス停を降りてもスタジアムまではそれなりの距離があった。だがいつものスポーツ観戦と圧倒的に違ったものはスタジアムに着くまでの道のりに漂う妙な緊張である。その緊張具合を調節するにあっては、この幾ばくかの徒歩区間というものはもしかすると丁度良い距離だったように思う。

 

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そして遂にスタジアムが姿を現す。この日、Cグループの初戦であるフランスvsオーストラリアが行われる会場はタタールスタン共和国内に位置するカザンのカザン・アリーナ。普段はロシアの強豪であるルビン・カザンがこのスタジアムを使用している。詳しくはカザン・アリーナはスタジアムガイドも書いたので其方も観て貰いたいが、外壁全体がビジョンで覆われた実に近代的な外装を持つスタジアムだ。

ちなみにこのロシアW杯でこのカザン・アリーナはこの後、前回王者ドイツが韓国に敗れてグループリーグ敗退に追い込まれた試合や大会No.1ゲームと言われているフランスvsアルゼンチン、ブラジルvsベルギーなど、大会のハイライトとなった名試合、名場面を多く生み出している。

 

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しかしこれはワールドカップ。そもそもロシアという、色んな意味で色んな意味の緊張状態にある国である。キックオフの時間は迫っていたが、ここからが結構時間がかかるのだ。

まずは手荷物をブースに預けに行く。これはサービスというよりは、スタジアム内には小さめのカバン程度しか持ち込めない事になっていたから、預けたい人は預けてね…じゃなくて持ってるヤツは絶対預けろというシステムなのだ。ただ、これに関して我々は時間もあまりなかったが為に、カザン到着後はホテルを経由せずにスタジアムに来ていたから、無料という事もあって非常にありがたい事ではあった。と言っても、荷物を預けるブースはそんなにいっぱいいる訳でも無いから当然結構並ぶ。並んでいる間にスマホで軽くYahoo!ニュースを見たりすると「AKB48選抜総選挙速報」なんて文字が踊っていた。別にAKBファンという訳でも無いが、「誰々が1位になりました!」なんてニュースは日も暮れて、そしてゴールデンタイムに行われている。そんなイベントの速報という文字が正午を過ぎたロシアのピーカンの空の下でデカデカと表示されていたから、ある意味でこれは初海外の私が「時差」を妙に感じた最初の瞬間だったのかもしれない。

ちなみに、持ち込んではいけないものは他にも多い。例えば私は入場前に日本から持ってきた綾鷹を飲んでいたのだが、例え選ばれたのが綾鷹だろうが爽健美茶だろうが飲食物の一切も持ち込んではいけない事になっていて、ペットボトルなんかは入場ガードで飲み切るか捨てるか、或いは大きな荷物と一緒に預ける必要があった。要するに食べ物と飲み物は中でスポンサーの商品を買え…という事である。もちろん防犯上の理由もあるだろうけど。だから「綾鷹は一応コカコーラ社だよ!!」って言ったとしても間違いなく通じはしない。

持ち物検査を終えると、次は金属探知機を通り抜ける。金属探知機についてはロシアの各地下鉄のみならず、なんなら中国の地下鉄でも課せられていたからここまで来ればもう慣れたものだ。むしろなぜか友人が何かにいつも金属探知機で引っかかっていた。

そしてチケットをコンピューターに通し、スタッフの言いつけを守って丁寧に扱ったチケットを通すといよいよ後はスタジアムに入るだけ。ワールドカップという舞台はすぐそこまで来ている。はしゃいでちょっと写真なんかも撮ったりしてみる。

 

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お気付きだろうか。私の服装である。

このワールドカップ観戦に於いて私は何を着るべきか、そこそこ悩んでいた。ロシアvsエジプトはロシアなり、ワールドカップ仕様のものを現地で買って着ようとは思っていたのだが、フランスvsオーストラリアでは何を着るべきなのだろうかと。

ただ、私にとって夢にまで見た初のワールドカップである。どうせなら自分にとって最も自分を示す服を着て行こう。その結果辿り着いたのが「買った次の年に背番号が10になった倉田秋の背番号11ユニフォーム(2016ver)」である。間違いなくあのスタジアムにいた4万人を超える観客の中でガンバ大阪のユニフォーム着ていたのは私一人だろう。とはいえ、ガンバでは無くとも「…それどこのユニフォーム?」というようなユニフォームを着ている人間は結構いたので、自分と似たような考えで服を決めた人間は多分他にもいたんだと思う。

さぁ、トイレを済ませてコーラを買えばいよいよスタジアムの中に入る。ロシアW杯再編集版も準備編、中国編を経て第10話。お待たせしました、ようやく本来のテーマに辿り着きました。

 

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実はこの日、我々は結構キックオフぎりぎりにスタジアムの中に入っている。思っていたより夜行列車がギリギリに到着し、思っていたより駅からスタジアムまでの距離があった事も影響しているだろう。スタジアムに入った時にはちょうど選手入場が始まった頃だったから、スタメン発表を含む諸々のイベントは残念だからカザンでは観る事は出来ていないし、普段割と早い段階でスタジアムに入っている私としては少し誤算だった。

 

しかし、その誤算は結果的に何よりもエモーショナルな瞬間をもたらした。

生まれて初めてのワールドカップ、昔からずっと憧れていたワールドカップ、絶対無理なんて百も承知でも一度は踏んでみたいと思ったワールドカップ、それが叶わなくても、一度生で観てみたいと思ったワールドカップ…。今大会の選手入場曲である「Seven Nation Army」が鳴り響くと同時にスタジアムの中に入った私の目の前に、夢にまで見た光景が一気に広がった。

 

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想像してみてほしい。生まれて初めてのワールドカップ。少し遅刻した事は予定外だったが、その結果「Seven Nation Army」と共にスタジアムに入った瞬間、屋内の陰から屋外の光に出ると共に目の前にこの景色が飛び込んでくるのである。この時21歳だった私の人生は、恐らくまだまだ先まで長く続くだろうし、半分はおろか3分の1も過ぎていないかもしれない。だがこの時、もう一度この瞬間のような感情を味わう事が出来るシチュエーションが全く想像できない。ロシアW杯観戦記を書く事自体は出国前の時点から決めていたし、この瞬間の感情を文字にする時に相応しい言葉を探そうともしたが、結局そんな事は不可能だと思うのにそう時間はかからなかった。

スタジアムのビジョンに「10」の数字が表示される。「9」「8」「7」「6」「5」「4」「3」「2」「1」…。試合の始まりを告げるカウントダウンはどこか、サッカーに出会った13年前のあの日から始まった自分のカウントダウンに一つのピリオドが打たれるカウントダウンにも思えた。

 

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さて、話は試合本編に移る。

この日の対戦カードはフランスvsオーストラリア。大会前、優勝チームはブラジル、アルゼンチンの南米2強か前回王者のドイツ、もしくはスペインかフランスの5チームのうちのどこかであろう…という見方が優勢だった。

フランスは当然そのうちの一角だったからこそチケットをとった訳だし、アントワーヌ・グリーズマンポール・ポグバといったスタープレイヤーであったり、キリアン・ムバッペというネクストスターのW杯デビュー戦でもあるなど、間違いなくW杯関係なしに「観に行った事を人に自慢できるチーム」と言えた。対するオーストラリアは日本代表とも幾多の激闘を繰り広げただけでなく、アンドリュー・ナバウトやミロシュ・デゲネクマーク・ミリガンなどJリーグでも聞き覚えのある名前が名を連ねる。フランスに勝つ事は厳しいだろうが、前日にはイランがモロッコに勝利していた為、オーストラリアが健闘を見せれば日本などのアジア勢にとってそれは良い流れを感じる事が出来る。

 

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オーストラリアは結構積極的に攻め込んで行った。W杯の初戦でフランス相手という事で、勝点1でもOK的な戦いかと思ったが、結構ガンガン前に出てフランスゴールを脅かす。一方のフランスもペースを取り戻せば、さすがと言えるような攻めを展開していた。目の前を走るムバッペを見て友人と「あいつ年下やで…」なんて言葉を交わしたりして。

 

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前半は0-0で折り返した試合は後半、一気に動く。というか、歴史的なシーンが一挙に立て続けに訪れる。

58分、グリーズマンが倒され、一度はノーファウルとして試合が進んだが、ここで今大会で初めて導入されたビデオ・アシスタント・レフェリー=VARが発動される。要するにはワールドカップで初めてVARが発動した瞬間だ。そのPKをグリーズマンが決めてフランスが先制すると、今度はオーストラリアがVARでサムエル・ウンティティのハンドを認められてPKを獲得し、62分にミル・ジェディナクのゴールで同点とした。ウンティティのハンドは思っていたよりもモロだった事もあり、この後その瞬間の画像が大喜利のように使われる事となる。

 

 

 

1-1のまま試合終盤戦に突入。すると81分、ポグバのシュートが最後はアジズ・ベヒッチの足に当たってゴールへ。ゴールラインを割ったかどうかわかりにくいシーンだったが、ゴールラインテクノロジー=GLTの結果ゴールが認められてフランスが勝ち越しに成功。なんだかテクノロジー満載の試合で、近代ワールドカップを振り返る時のサンプルにも取り上げられそうな試合にもなった。

 

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試合は2-1でフランスが制した。フランスのスター選手も多く見れたし、フランスはちょっとスロースタートな印象を受けたとは言え、基本的には安定した戦いぶりで勝利にこぎつける…この後、優勝へと続く道としてわかりやすい試合を見せた。一方のオーストラリアも敗れた事は痛かったが、フランス相手という事を考えれば十分よくやっただろう。こうして夢にまで見た舞台は十分に見応えのある展開で幕を閉じた。

 

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自分の年表とやらをいつの日か作るとしたら、たとえこの後どんな濃い人生を歩んだとしても日付まで記録する事になるだろう。サッカーというものに出会ってから実に13年、ずっと何かしらの形で、テレビでは無くその場所に立ちたいと思っていたその夢が叶った瞬間、いや、夢というよりも人生の目標と言った方が適切だったかもしれない。ワールドカップだからか、試合が終わってからも中々静寂が訪れないスタジアムの中で、試合の感想以上に言葉にはし難い感情を抱きながら、選手の去ったワールドカップのピッチを眺めていた。

 

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つづく。

 

番外編の未公開写真↓