カオスに取り憑かれて〜Jリーグが急に中断期間に入っちゃったから印象に残るシーズンを振り返ろう企画・第7回(前編) 2018年残留争い〜【2018年J1最終節特集】

2020年2月25日、Jリーグは開幕戦とルヴァン カップを1試合ずつ終えたタイミングで新型コロナウィルスの影響により、3月15日までのJリーグ主催全公式戦を延期する決定を発表した。

 

 

事情が事情である為、こうなってしまった以上中止はやむを得ない。ただ、同時にJリーグファンにとってはやっとシーズンが始まったのに、またもオフシーズンのような状態に、退屈な日々に戻った事も確かである。そこで…昨年のリーグ閉幕前に5回連載していた過去のJリーグの印象的な優勝争い・残留争い・昇格争いを振り返る企画を一時的に再開しようと思う。中断期間の暇潰し程度に使ってもらえれば幸いである。

今回取り上げるのは2018年の残留争い。前々シーズンという事でまだ記憶に新しいだろうか。この年は所謂「オリジナル10」と呼ばれる強豪だったり、オリジナル10では無くともタイトル獲得経験豊富な強豪、資金力と戦力を豊富に持つチームなどが相次いで低迷…残留争いに巻き込まれていったどころか、予想外の刺客まで残留争いの鍵を握り始めた一年だった。各媒体などで多く見られた「史上最もハイレベルな残留争い」という矛盾したフレーズがしっくり来てしまう程だった2018年シーズンを振り返っていく。

 

2018年のJ1チーム

北海道コンサドーレ札幌(前年11位)

ベガルタ仙台(前年12位)

鹿島アントラーズ(前年2位)

浦和レッズ(前年7位)

柏レイソル(前年4位)

FC東京(前年13位)

川崎フロンターレ(前年優勝)

横浜F・マリノス(前年5位)

湘南ベルマーレ(前年J2、優勝)

清水エスパルス(前年14位)

ジュビロ磐田(前年6位)

名古屋グランパス(前年J2、3位)

ガンバ大阪(前年10位)

セレッソ大阪(前年3位)

ヴィッセル神戸(前年9位)

サンフレッチェ広島(前年15位)

サガン鳥栖(前年8位)

V・ファーレン長崎(前年J2、2位)

 

 

 

開幕前は2017年最終節まで優勝を争った川崎と鹿島がこの年も優勝を争うと予想されていた。川崎と鹿島の争いに、前年度のACLを制した浦和や若手が育っている中で大型補強も実現させた柏がどこまで絡んでいけるかが争点の一つと目されており、逆に札幌、マリノス、ガンバ、広島辺りは監督交代が吉と出るか、凶と出るか読みにくい状態との意見が多かった。

残留争いに目を向けると、この年から一部レギュレーションが変更されている。2017年までは下位3チームが自動降格というシステムだったが、2018年からは下位2チームが自動降格した上で16位チームはJ2の昇格プレーオフを制したチームと戦う「ラストチャンス」が与えられる事になっていた。昇格組の一つである名古屋はオーストラリア代表のミッチェル・ランゲラック、ブラジル代表経験豊富なジョーを補強した事もあって降格予想とはそこまで強く見なされておらず、戦力値で劣る残り2つの昇格組でストレートだろう…との見方が多かった。

 

前半戦

 

2018年は開幕直後からいきなり荒れに荒れるシーズンとなった。

序盤戦の優勝争いを引っ張ったのは長谷川健太監督が就任したFC東京ミハイロ・ペトロヴィッチ監督が就任した札幌、そしてその中でもロシアW杯中断までの15試合を12勝1分2敗で駆け抜けた城福浩監督1年目の広島が首位を独走していた。前年の広島はギリギリまで残留争いに巻き込まれて15位フィニッシュだった事から、この年も残留争いに巻き込まれる可能性すら予想されていたのに…だ。その一方で、ACLに出場した鹿島、川崎、柏、セレッソは勝ち切れない試合が続いて思うように上位に食い込まず、セレッソに至ってはこの事態に対してリーグ戦を優先するべくグループステージ突破のかかったACLの最終節で完全なる控えメンバーを起用したほどだった。その甲斐もあってか、セレッソと川崎が調子を取り戻していく中で鹿島は2桁順位から中々抜け出せない。そして柏は第4節ガンバ戦で2点リードを追いつかれた事を皮切りに第8節札幌戦、第13節磐田戦、第14節川崎戦も終盤の被弾により逆転負け。優勝予想に名前を挙げられながらも終了間際の失点で尽く勝点を落とした事も影響して(※1)、川崎戦終了後に下平隆宏監督の解任を発表。第15節名古屋戦からは加藤望監督が指揮を執った。そしてこれがネットスラングにもなりかけた「絶望」の引き金になったのだが…。

 

※1 柏はACLでも6試合中3試合が終了間際の失点により勝点を失ってグループステージ敗退を余儀なくされていた。これも下平監督解任の要因とされている。

 

では下位争いはどうなっていたのか。ここまで所謂「名門」「強豪」と呼ばれていたチームがあれよあれよのうちにスパイラルのドツボに嵌っていく。

まず前年にACLを制覇した浦和は開幕からの5試合で2分3敗を喫した事で堀孝史監督を解任。暫定監督に大槻毅監督を就任させて3勝1分と持ち直したが、正式な監督としてオズワルド・オリヴェイラ監督を就任させてからも勝ち切れない試合が嵩む。上位はキープし続けていたエリク・モンバエルツ監督が退任してオーストラリア代表も指揮したアンジェ・ポステコグルー監督を就任させたマリノスは、4-4で引き分けた第9節湘南戦に代表されるように攻撃陣の爆発力を見せながらもハイライン戦術の弊害に伴うギャグみたいな失点を連発しズルズルと順位を落としていった。鳥栖はGK権田修一を軸とした堅守の光る試合は多かった反面、恐ろしく得点を奪えず第6節〜第12節までに7連敗。鳥栖は上位を予想する声こそ少なかったが、マッシモ・フィッカデンティ監督就任後2シーズン連続で一桁順位に入るなど安定したチーム力は身に付きつつあった時期だけにここまでのスランプも少し予想外と言えた。

その一方、降格最有力候補ツートップだった湘南と長崎は健闘を見せる。曹貴裁監督体制7年目に突入していた湘南は上位争いまでは至らずともコンスタントに勝点を積み上げて中位を維持。そしてJ1初挑戦となった長崎は開幕6戦未勝利ながらも第7節で清水から初勝利をもぎ取ると、ガンバ、柏、磐田にも勝利して4連勝を飾る。順位こそ第15節終了時で15位だったが、チームの規模などを踏まえれば十分な数字を収めていた。

 

そして…予想外のチームが多かった中、特に酷かったのが名古屋とガンバの2チームである。

風間八宏監督体制2年目を迎えた名古屋は新加入のジョーやランゲラックがすぐに存在感を放ち、同じく新加入のホーシャや前年途中から所属していたガブリエル・シャビエルも機能して開幕3試合を2勝1分で飾る。しかし「リアル・名古屋グランパレス(※2)」と呼ばれて持て囃されたのも束の間、第4節川崎戦で初黒星を喫するとそこから一気に守備が崩壊し8連敗を喫し、第12節セレッソ戦に引き分けて連敗は止めたが、結局中断前までに勝利さえ挙げられず単独最下位にまで陥る事になるのだ。

 

 

5シーズンに及ぶ長谷川健太監督体制に別れを告げたガンバも想像以上の不振を強いられた。ガンバは2018年から世代交代と攻撃サッカーへの回帰を目指したガンバは上記2点をセレッソ時代に示していたレヴィー・クルピ監督を招聘する。しかしクルピ体制に戦術と呼べるものは無い上に追い討ちをかけるように唯一守備の出来るボランチで頼みの綱だった今野泰幸は負傷で長期離脱。慌てて補強したマテウス・ジェズスは外れでは無かったが弱点をカバー出来る補強でも無く、4バックノーボランチのような状況でズルズルと下位に沈んだ。開幕から6試合で1分5敗…第7節磐田戦の勝利で前年から続くリーグ戦未勝利を16試合でストップしてから第15節までホームでは4勝1分と好成績を残したが、逆にアウェイでは1分6敗。なんとか最下位を脱出できたのが第9節で、降格圏から抜け出せないまま中断期間を迎えた。

 

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この年はロシアW杯の開催に伴い、J1は第15節終了のタイミングで約2ヶ月の中断期間に入る。厳密な意味での前半戦終了は主に第17節までを指すが、前述の理由やこのシーズンは自然災害による試合延期が多く、各チームの試合数がなかなか揃わなかった事で2018年は一般的にこの第15節までを前半戦とする事が多いので当ページもそれに倣うとする。

前半戦終了時の順位が以下の通りだ。

 

前半戦(第15節)終了時点順位表

1位 サンフレッチェ広島(37)

2位 FC東京(28)

3位 川崎フロンターレ(27)

4位 セレッソ大阪(26)(※3)

5位 北海道コンサドーレ札幌(26)

6位 ヴィッセル神戸(22)

7位 ベガルタ仙台(22)

8位 ジュビロ磐田(21)

9位 柏レイソル(20)

10位 清水エスパルス(18)

11位 鹿島アントラーズ(18)(※3)

12位 湘南ベルマーレ(18)

13位 横浜F・マリノス(17)

14位 浦和レッズ(17)

15位 V・ファーレン長崎(17)

16位 ガンバ大阪(15)

17位 サガン鳥栖(13)

18位 名古屋グランパス(9)

 

降格圏内の入口である16位ガンバからは10位清水までが勝点3差。10位清水以下を残留争いゾーンとすると、なんと10位以下にオリジナル10と呼ばれるチームが6チームも密集していた事になる。逆に9位以上でオリジナル10チームなのは首位の広島のみであった(※4)

そして熱狂のロシアW杯明け、J1は更に予期せぬ展開を迎えていく…。

 

※2 サッカー漫画「GIANT KILLING」に登場する名古屋グランパスをモデルにした架空チーム。同作でも強力なブラジル人トリオが破壊的な力を見せつけている事でネタとしてそのような呼ばれ方をした。尚、2014年の清水vs名古屋戦に来場した上川陽子法務大臣(当時)は試合前のスピーチで実際に「名古屋グランパス」を「名古屋グランパレス」と言い間違えた事がある。

※3 ACLで鹿島が決勝トーナメントに進んだ為、鹿島とC大阪はロシアW杯による中断期間前の時点で消化試合が1試合少ない。

※4 残る3チームのうち現存しているのはジェフユナイテッド千葉東京ヴェルディだがいずれもJ2である。

 

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W杯中断明け

 

W杯による中断が明けてリーグ戦は7月18日の第16節から再開。第17節からは新たに獲得した選手の登録が開始されたが、主役は何と言っても神戸と鳥栖だった。鳥栖は得点力不足解消の為に元スペイン代表のフェルナンド・トーレスを獲得。更に鹿島で10番を背負っていた金崎夢生を獲得。神戸はロシアW杯にもスペイン代表として出場していたアンドレス・イニエスタFCバルセロナから獲得し、前年7月から入団していたルーカス・ポドルスキとの共演は日本のみならず世界の注目も集める。イニエスタトーレスも、移籍解禁となった第17節から揃って途中出場でデビューを果たした。

 

 

そんな華やかなニュースと裏腹に、Jリーグはここから史上稀に見るカオスへと突入していく。そのメインキャストは5チームだ。まずは前半戦で大失態を喫した名古屋とガンバである。

名古屋は中断明けの2試合では1分1敗となったが、第19節の仙台戦(※5)に2-1で勝利して第2節以来となる勝点3を獲得。ガンバは中断明けの2試合で6失点を喫して連敗した後でクルピ監督の解任に踏み切り、当時U-23チームで監督をしていたクラブのレジェンド、宮本恒靖監督に運命を託した。就任直後の鹿島戦、翌節の磐田戦は共に1-1のドロー。内容は守備面を中心に改善されたのだが、磐田戦はラストワンプレーで追い付かれたという背景があって負の流れは立ちきれずにいた。そんな状況で8月5日、豊田スタジアム。最下位名古屋と17位ガンバによる「オリジナル10逆天王山」という悲壮な直接対決が幕を開ける。

ガンバは前半、藤本淳吾が獲得したPKをアデミウソンが決めて先制すると、37分には遠藤保仁のスルーパスに抜け出したオ・ジェソクの折り返しを藤本淳吾が流し込んで2点をリード。完璧な試合展開で2-0として前半を終える。しかし後半、今度は逆にPKを献上してこれをジョーに決められると、79分には前田直輝の折り返しにジョー、84分にはエリア内の混戦からジョー……真夏の逆天王山をモノにしたのは最下位の名古屋で、ガンバは2試合連続でショッキングな敗戦を喫する事になってしまうのだ。

この試合を最後に、アジア競技大会へ参加する為にエースのファン・ウィジョが1ヶ月欠場する事になったガンバは次の第21節、昨季までガンバを率いた長谷川監督の率いる2位FC東京相手にアデミウソンの劇的ゴールで宮本監督体制初勝利を掴むが、第22節では札幌相手にまたしてもアディショナルタイムの失点で勝点3を取りこぼして最下位に転落。得失点差の関係で最下位こそ脱出出来たが、第24節で勝点差1で16位鳥栖との再び大一番を迎えたガンバはここで再び窮地に陥る事になる。トーレスと金崎を獲得しても得点力不足を解消出来ていなかった鳥栖に対し、あろう事かこの2人の移籍後初ゴールというオマケまで添えて0-3で散ったのだ。

磐田戦、名古屋戦、札幌戦のショッキングな試合に加えて直接対決での惨敗……ガンバファンの精神が崩壊しかけて、降格まで頭にチラついたのはこの頃だろう。ガンバファンである私は、鳥栖戦は私用で試合の時間スマホを見れない状況下にいた。試合後、鳥栖3-0G大阪の文字を見た時の絶望感は今でも覚えている。

……だが、ガンバファンには後一つだけ、後一つだけ希望が残されていた。「今野が帰ってくれば何かが変わる」と…。

 

2018明治安田生命J1リーグ第20節

名古屋グランパス3-2ガンバ大阪

2018年8月5日18:03@豊田スタジアム

名古屋得点者:ジョー(61分、79分、84分)

G大阪得点者:アデミウソン(22分)、藤本淳吾(37分)

 

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2018明治安田生命J1リーグ第24節

サガン鳥栖3-0ガンバ大阪

2018年8月26日19:03@ベストアメニティスタジアム

鳥栖得点者:小野裕二(48分)、金崎夢生(59分)、フェルナンド・トーレス(86分)

 

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そんなガンバとは真逆に、ここから一気にブーストをかけたのが名古屋だった。夏の移籍期間ではFC東京から丸山祐市、柏から中谷進之介マリノスから金井貢史、川崎からエドゥアルド・ネット…弱点だったDF陣を中心に施した大型補強が功を奏し、翌21節で鹿島も4-2で蹴散らすと一気に6連勝を飾る。

そして第25節、最下位から13位にまで順位を上げた名古屋と対戦する10位磐田の名波浩監督は「もう一回名古屋を残留争いにぶち込む」と豪語したが、この時マリオで言うところのスターというよりキラー状態だった名古屋は磐田を6-1で蹴散らして7連勝。7試合12得点のジョーを筆頭とした名古屋のこの7連勝でこの年の残留争いは一気に意味の分からない方向へと進み、そして【磐田1-6名古屋】というスコアは後の伏線となっていたのだった。

 

2018明治安田生命J1リーグ第25節

ジュビロ磐田1-6名古屋グランパス

2018年9月1日19:03@ヤマハスタジアム

磐田得点者:大井健太郎(90+4分)

名古屋得点者:金井貢史(12分)、前田直輝(55分)、和泉竜司(68分)、ジョー(70分、90分)、ガブリエル・シャビエル(86分)

 

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第24節終了時順位表

1位 サンフレッチェ広島(52)

2位 川崎フロンターレ(46)(※5)

3位 FC東京(41)

4位 北海道コンサドーレ札幌(38)(※5)

5位 ヴィッセル神戸(36)

6位 セレッソ大阪(36)

7位 鹿島アントラーズ(36)

8位 ベガルタ仙台(35)

9位 浦和レッズ(32)

10位 ジュビロ磐田(32)

11位 清水エスパルス(31)

12位 柏レイソル(29)

13位 名古屋グランパス(28)(※5)

14位 湘南ベルマーレ(27)(※5)

15位 横浜F・マリノス(26)

16位 サガン鳥栖(25)

17位 ガンバ大阪(21)

18位 V・ファーレン長崎(21)

 

※5 台風の影響により湘南vs川崎、名古屋vs札幌が延期された為、上記4チームは消化試合が1試合少ない。

 

話は戻って、第24節が終わった時の順位表が上に書いた通りだ。上位陣に目を向けると、イニエスタの先発出場試合は3勝1分1敗とした神戸がACL出場圏は狙える位置につけていた。

残留争いでは鳥栖との直接対決を落としたガンバが16位鳥栖との勝点差を4にまで広げられてしまったどころか、ここからの5試合の相手が2位川崎、5位神戸、1位広島と3チームがトップ5との対戦だった事から、ガンバの降格を最下位の長崎以上に有力視する声すら聞こえてくる始末であった。

 


 

同時にこの頃、残留争いを更に混迷へと導く存在が現れる。しかしそれはJ1のチームでは無い。

 

J2のFC町田ゼルビアである。

 

 

後編に続く。