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京都サンガFC、クソ長かったJ2生活を振り返る〜第4回 2019年・2020年 蘇る希望、砕かれた幻想〜

京都サンガFC、クソ長かったJ2生活を振り返る】

 

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第1回→2011年〜2013年

第2回→2014年〜2016年

第3回→2017年、2018年

第4回→2019年、2020年

 

 

オリジナルアルバムの配信も開始したのでそちらも観てね

 

 

【2019年】

 

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監督:中田一三(1年目)

J2リーグ順位:8位

J2リーグ成績:勝点68(19勝11分12敗59得点56失点)

チーム得点王:一美和成(17得点)

 

【主な選手の入退団】

入団

GK 加藤順大←大宮

DF 安藤淳←愛媛

FW 宮吉拓実←札幌

FW 一美和成←G大阪(レンタル)

FW エスクデロ競飛王←蔚山現代(復帰)

 

退団

GK 山田元気→山口

DF 染谷悠太→柏

MF 沼大希→SVホルン

FW 岩崎悠人→札幌

FW カイオ→エミレーツ・クラブ

 

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一本の映画でも観ているかのようだった。激動の一年のことを「ジェットコースターのような…」と評する事があるが、この年のサンガファンの感情の起伏はその次元さえも超えていたように思う。前年までの惨状、開幕前の不安、そこから展開された試合内容と躍進、そしてあまりにも衝撃的なラスト……これまでもサンガファンだったし、これからもサンガファンだろう。しかし良い面も悪い面も含めた「濃さ」で言えば、この年を超えるシーズンはそうそう無いと思う。惜しむらくは、その衝撃的なラストが想像もしなかった悲劇だった事だったのだが─。

中田一三という人物が監督に就任すると発表された時、サンガファンは悪い既視感を覚えたと思う。ギャンブル人事をする理由は前任者の時よりは確かにあった。一方、なんやかんやでユース監督やヘッドコーチ経験はあった前任者に対し、中田監督は地域リーグでの監督経験しかなく、更にその不安を乗数で増やして行ったのがTwitterでのハードワークっぷりであった。2019年に向け、不安だけが大きくなっていく。「このクラブは果たして何をやりたいのか…」前々からわかんなかった事だが、この年はいよいよマジでわかんなくなった。実際、この時にはブログも始めていたけど…開幕前の時点で不安視するようなブログを2本ほどアップしていた。染谷が柏に、岩崎が札幌に引き抜かれたように、J1に主力を獲られる事にも慣れてきていたが、その一方で安藤や宮吉が復帰し、レンタルだった庄司悦大や金久保順も残留。G大阪から一美をレンタルで獲得するなど、補強人事はそれなりにしっかり動いていたが…それでも不安が拭えた訳ではない中で迎えた開幕戦、新潟との試合……確かに課題は多かったし、最終的に勝利は出来なかった。しかしサンガが見せたサッカーは完成には程遠かったものの、狙いや方向性が確かにピッチ上に反映されていた。開幕前の過去最大級の不安とカオスの中で、開幕戦に限れば過去2年の開幕戦よりも遥かに期待には値する仕上がりだったのを覚えている。

この年のサンガが見せたポゼッションスタイルは一躍J2の中でも話題を攫った。4-1-2-3のアンカーに配置した庄司が司令塔としてパスサッカーの起点となり、仙頭、小屋松、一美の3トップが絶妙なテンポとリズムでシュートチャンスに結びつける。インサイドハーフとして起用された運動量のある福岡慎平、元はFWの宮吉、スルーの達人でもある金久保らが絡んで生まれる流動性は、それこそ大木武体制以来久しく見られなかった代物だった。中田監督のマネジメントも独特で、ゲルト・エンゲルスコーチを筆頭に、實好礼忠コーチや佐藤一樹コーチ、佐藤尽コーチなど「豪華コーチ陣」とも呼ばれたスタッフのそれぞれに権限を与える分業制を採用したやり方も興味深かった。今振り返っても、中田監督は「監督」というより「マネージャー」という感じの人だった。序盤こそ勝点に繋がらない試合も多かったが、第11節徳島戦でシステムとメンバーの「最適解」を遂に見つけたサンガはここから一気に躍進する。第11節徳島戦からの17試合の成績は11勝5分1敗。そして第22節で山形との首位攻防戦を制すると遂に首位に躍り出た。昨年の今頃を思い返せば、夢も希望も見応えもないサッカーで最下位にいたのに、僅か一年でここまで……若手も躍動し、間違いなくこの時のサンガファンは夢の中にいた。J2に落ちてすぐの頃、大木体制で掴みかけた夢とロマンに再び手をかけようとしていた。

しかし夢はここまでだった。第28節水戸戦で0-3の完敗を喫すると、そこからの5試合で1勝1分3敗。「出る杭は打たれる」を象徴するように進むサンガ対策、他チームの反撃、進まない補強、現場とフロントの関係悪化、露呈した選手層の薄さ……サンガはみるみるうちに勝点を失い、気がつけばJ2優勝はおろか、プレーオフ圏内争いを強いられる事になる。中田監督も看板3トップを解体したり、果てには戦術の最重要人物でもあった庄司さえも外すなど試行錯誤を試みたが、結局「庄司システム+3トップ」以上の答えに辿り着く事は出来なかった。それでも第41節千葉戦、慣れ親しんだ西京極でのラストゲームをこれ以上ないほどエモーショナルな試合展開で勝利したサンガは最終節に逆転でのプレーオフ出場の可能性を繋ぎ止める。だが最終節の舞台、三協フロンテア柏スタジアムで待っていたのは悪夢そのものだった───。

感情の起伏という意味では、この年は常にずっと「普通」がなかった。5〜7月頃の高揚感と、8〜10月頃の閉塞感、そして11月の激動感……全てがあまり濃すぎる一年だった。2017〜2018年のようにずっと悲惨だったり、2021年のように比較的通年で順調に進んだシーズンでは味わえないような感覚に常に苛まれていたように思う。クラブ創立25周年のこの年、感動的なホーム最終戦と衝撃のラストを最後に、サンガは西京極から新たなる本拠地へと旅立った。

 

 

 

【2020年】

 

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監督:實好礼忠(1年目)

J2リーグ順位:8位

J2リーグ成績:勝点59(16勝11分15敗47得点45失点)

チーム得点王:ピーター・ウタカ(22得点)※J2得点王

 

【主な選手の入退団】

入団

DF 飯田貴敬←清水

DF ヨルディ・バイス←徳島

DF 森脇良太←浦和

FW ピーター・ウタカ甲府

FW 李忠成横浜FM

 

退団

DF 田中マルクス闘莉王→引退

MF 重廣卓也→福岡

MF 仙頭啓矢→横浜FM

MF 小屋松知哉鳥栖

FW 一美和成→G大阪(復帰)

 

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例えば2021年の北九州のように、J2で躍進し、かつチームがJ1昇格を逃した場合は大抵多くの主力が引き抜かれる。「一度躍進したら絶対に昇格まで漕ぎ着けなければならない」のはそれが理由だ。それはこの時のサンガも同じで、チームの躍進を支えた3トップは3枚そっくりそのままJ1に引っ張られてしまった(一美に関してはレンタルなので少し意味が違うけど…)

ただ、その一方でこの年はサンガスタジアム by Kyoceraの記念すべき一年目。これからサンガスタジアムがどれだけのグレードになれど、一年目は2020年だけなのだ。看板3トップをまとめて引き抜かれたのは痛手だったが、新たに山道守彦強化部長が就任し、新スタジアムを華々しく飾るべく大型補強を敢行。攻守の軸になる外国籍選手としてウタカとバイス、実績抜群な森脇と李に加え、飯田貴敬、荒木大吾、曽根田穣、中川風希、野田隆之介といった選手の補強で戦力値は前年より増していた。千葉戦や柏戦後の空気から中田監督の退任は既定路線だった監督人事も、後任は中田体制でコーチとして戦術構築にも携わっていた實好コーチが昇格。中田監督も就任時はサンガファンの間で「?」が広がった事を踏まえると、近年のサンガの中では最も妥当性のある人選だったと思う。スタイルとしてはやや堅実な方向にシフトしつつも、基本的に前体制までのポゼッションを下敷きにしていた。サンガスタジアムのこけら落としとなったプレシーズンマッチのC大阪戦では敗れこそしたものの内容面ではそれなりにポジティブな展望を抱ける展開だったし、開幕戦の山口戦も敗れはしたが、試合としてはほぼサンガが優勢に運んでいた。

しかし、サンガスタジアムでの初の公式戦を目前としたタイミングで思わぬ状況に陥る。新型コロナウィルスである。なんとかJリーグ再開を迎える事は出来たが、8月以降のJ2は5連戦を何回も繰り返すという超過密日程を強いられる事となったのだ。

 

 

 

完全に推測だが、おそらく實好監督は別にやりたいサッカーがあったと思う。実際、前述のC大阪戦や山口戦はポジティブな手応えを掴めてはいた。中田監督のやり方に、様々なバランスの配分調節を加えるやり方で考えていたんだと思う。

詳しくは下記の2020年シーズン後に更新したブログを読んでもらいたい。

 

 

そもそもこの年のサンガはウタカ、バイス、森脇、李、野田といったベテラン勢…言い方を変えれば確実性のある補強をしていた。新スタ1年目を華々しくJ1昇格で飾り、かつ新スタ2年目に合わせてJ1に上がる事…あの大量補強はそれを確実にする為の動きだった訳で、要するに「昇格」は昨年のように目標ではなく至上命題だったのだ。

だが、前述の通り超過密日程になってしまった。例えばこの年にJ2を制した徳島は、リカルド・ロドリゲス監督の下で既に確固たるベースが出来ていた。サンガも基本的には継続路線を選んでいたにしても、そのメンバーは実は大きく変わっている。過密日程というのは選手の疲労は勿論、戦術トレーニングや前の試合のフィードバックをなかなか出来ないという側面も持っているから、組織的なサッカーを築く為には過密日程の中だとある程度成績を犠牲にするしかなくなってくるのだ。一方で、サンガには圧倒的な「個」を有する選手は複数いる。確実に昇格しなければならないシーズン、疲労も蓄積し、かつ練習もままならない過密日程……實好監督の選択はウタカ・庄司・バイスをセンターラインの軸として固定したシンプルなサッカーだった。

再開初戦となる第2節磐田戦は昇格候補本命と目されていた相手に2-0で快勝。再開後の5試合で3勝2分という好スタートを切った。しかし、攻撃の全てがウタカありきで進んでしまう以上、やはりその限界は遅かれ早かれ迎えてしまう事になる。第2節磐田戦以降の9試合が5勝3分1敗だったのに対し第11節水戸戦以降は6戦未勝利。「手詰まり感」は日に日に大きくなっていった。實好監督の判断自体が間違っていたとは思わない。ただ、想像以上にウタカ依存が閉塞感働くに至るまでのスピードが早かった事、そして何より、昨年のサッカーと前監督の退任プロセスもあってサンガはまたしても向かい風に立たされる事になる。10月には横浜FMからのレンタルという形で仙頭が復帰したが成績を劇的に向上させるには至らなかった。8位──前年と同じ順位ではありながら、その手応えには大きな差があったと言わざるを得なかった。

退任が決まった後、實好監督は「攻守で全てを追い求めたが、下書き程度で終わってしまった」と語ったが、色々な事を踏まえれば…やはりこれがサンガにとっても、そして實好監督にとっても全てだったのだろう。それぞれにとってそれぞれの、小さな「惜しい」が重なり合ったか結果、上位チームと比較しての大きな差になってしまったのがこの一年だったのだろう。その一方で、實好監督は元々G大阪U-23やユースの監督を務めていた事もあって若手起用への積極性は高かった。前年からレギュラーになりつつあった福岡慎平に加え、若原智哉や川﨑颯太、谷内田哲平に上夷克典といった面々が出場機会を増やす。成功か失敗で言えば2020年は失敗だった。だが、11シーズンの中で失敗と目される他のシーズンと比較すれば、前のシーズンから繋いだもの、次のシーズンに遺したものは確かにあったと、今となってはそうも思う。

   

 

次回、「軌跡と邂逅の果てに〜京都サンガFC、2021年総括〜」につづく。