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軌跡と邂逅の果てに〜京都サンガFC、2021年総括〜第3話 若原のPKと背番号10

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【軌跡と邂逅の果てに〜京都サンガFC、2021年総括〜】

第1話

第2話(前回)

 

オリジナルアルバムの配信も開始したのでそちらも観てね

 

 

 

 

事実として、第18節以降のJ1自動昇格枠となる2位以内はずっとサンガと磐田がキープしていた。要は第18節に1位サンガ、2位磐田という構図になって以来、1位と2位の立ち位置こそ頻繁に変わったが、両者とも3位から下に一度も落ちずにシーズンを終えた…逆を言えば第18節以降、この2チームを除く20チームは一度も昇格圏内に入らずにシーズンを終えた形になる。

 

この結果を数字だけで見れば、いささかサンガも磐田も順風満帆でシーズンを終えたようにも見える。だが、一つのチームを追えばそれぞれのストーリーは見えてくる。磐田は磐田でしんどい時期があったはずで、サンガにとってのそれはJ1昇格へのカウントダウンが始まったように見えた9月以降だった。

 

 

 

8月最後の試合となった第27節東京V戦を3-1で勝利したサンガは、リーグ戦再開から3戦全勝という見事な再スタートを切る。第25節松本戦は台風の影響で延期になっていたが、サンガは1試合少ないにも関わらず首位に立っていた。3位琉球、4位新潟との勝点差は安心できる数字ではなかったが彼らは明らかに調子としては下り坂。逆に上り調子だったのは5位山形と8位長崎だったが、こことは勝点差がそこそこ開いている状態。楽観視出来るだけの状況はこの時点である程度揃っていたとは思う。

 

だが、第28節甲府戦と台風で延期になった第25節松本戦が組み込まれた甲信越地方でのアウェイ2連戦は大きな落とし穴だった。

甲府戦は文字通りの完敗だった。0-3というスコアも然り、その試合内容もスコアに比例した内容だったと言える。無論、甲府といえば毎年のように安定した成績を残しており、2021年も試合前の時点では7位とはいえ、サンガと磐田以外の上位勢は浮き沈みの大きいシーズンを過ごしていた中で町田と共に安定して推移していたクラブだったし、伊藤彰監督の下での完成度も非常に高かった。だが負ける可能性は普通に考えられたが、今年のサンガであそこまでの完敗を喫したのは予想外だったし、内部でもそれなりのショックはあったと思う。

続く松本戦、松本は試合前の時点で21位と低迷しており、名波浩監督に交代してからも浮上のきっかけを掴めないでいた。今季のチーム力で言えば雲泥の差があるし、その差はホーム開幕戦で戦った時よりも遥かに大きな差がついている。だが結果は2-2のドローに終わる。「2度追いついた」と言えば聞こえはいいが、前節甲府戦からの流れとして踏まえると、確実に不穏な流れにはなっていた。

 

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閉塞感という程では無かったが、昇格を争う相手に完敗し、残留を争う相手から勝点2を逃す……「今年こそイケる!」と思ったらこうなる。J2で過ごす11シーズンの間で積み重なった嫌な記憶が嫌でも蘇る。

第29節、琉球戦。振り返りたくない過去がフラッシュバックする中で、4位琉球との直接対決を迎える。琉球にしてみればこれ以上サンガや磐田に差をつけられる訳には行かない。負ければ昇格は相当厳しくなるが、サンガのここ数試合を見れば勝てば形勢をひっくり返せるかもしれない期待感はあったと思う。そんな状況下でサンガは16分という早い時間に先制点を許す。そしてその5分後、荻原拓也のタックルがPKと判定されてしまった。

 

 

 

記憶と悪夢は蘇る。

長らく繰り返し続けたような流れを見た気がした。今年ですら、今年ですらこうなのか…と。

こうもJ2にいると、呪いでもかけられているようなオカルトめいた事まで頭に浮かんでくる。琉球に先制点を取られ、PKを与え……この11シーズンで、いつも最後に魅せられたサンガを見た気がした。

 

 

 

しかしこのPKを若原智哉がセーブしたその瞬間、大袈裟ではなくサンガの歴史は変わったと思う。

前半のうちに川﨑颯太が獲得したPKをピーター・ウタカが決めて同点に追い付くと後半はサンガの攻撃ターンが続いていく。攻めながらも得点を奪えないもどかしい時間が続いたが、その均衡はアディショナルタイム、白井康介のクロスに反応したイスマイラによって破られた。

 

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私としては、昇格のターニングポイントはこの琉球戦だったと思っている。非科学的だが流れはほんの少しで変わる事を実感した。それだけ若原のPKストップ以降、サンガは躍動感を取り戻していた。

日常生活に於いて精神論は好きじゃないし、非科学的な事にすがりたくはない。だがどこか特定のチームを追うようになると、時として「非科学的なものを信じるのも悪くない」なんて思うようになる。この試合は特にそれを強く感じた。あの若原のセーブが覆したのは甲府戦から続く流れのみならず、サンガがJ2というカテゴリーで11年間植え付けられきたマインドセットだった。少なくとも私はこの琉球戦で「行けそう」ではなく「行ける」と確信できるようになったのだ。そんな試合の決勝点がアディショナルタイムだなんて、余りにもストーリーとして出来過ぎている。

 

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琉球戦での劇的勝利の後、琉球同様に逆転昇格に向けてサンガに挑んできた山形を敵地で撃破する。第32節長崎戦は長崎の術中にハマられたような完敗だったし、第33節相模原戦から始まった残留を争うチームとの5連戦では第34節群馬戦と第35節山口戦で勝ち切れなかった。

安心感や慢心は誰も抱いてなかっただろう。特に山口戦は誤審というアンラッキー要素があったとはいえ、一人少ない下位チームに勝ち切れなかったのは事実だし、甲府や長崎がグングン勝点を伸ばしてきたから危機感もあった。ただ、ちょっと窮地に立つと不安しかなくなっていたこれまでとは異なり、この先を信じられた。もちろん勝点的にそれなりにリード出来ていた部分はあるにしても、風向きが少し悪くなっても終盤戦をここまで前向きな気持ちで過ごせたのは…それこそ長いJ2生活の1年目だった2011年以来だったと思う。むしろ風向きが悪くなってもそれを保てていたことが私の中でのこれまでの10年との違いであり、驚きであり、感慨深さだった。そう感じさせた決定打が琉球戦であり、その極致がこの後の第37節大宮戦だったのだろう。

 

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とはいえ、山口戦を終えて残り7試合となったタイミングで3位の甲府に勝点差6にまで迫られている以上、さすがに多少のペースダウンは少し気がかりではあった。確かにサンガは10年近く「追われる立場」としてのプレッシャーを知らない。そこは昇格経験の豊富な曺貴裁監督や松田天馬らの存在は心強かったとはいえ、若い選手も多いだけに焦りが生まれ始めるのは仕方なく避けられない事ではあった。だが今年のサンガが凄かったのは、意図的か偶発的かはともかくとして流れが変わりそうな時に「ポイント」が常に用意されていたところである。そしてこの時のそれは「No.10の復帰」であった。

 

 

 

ここ数年のサンガに対する庄司悦大の貢献の大きさは計り知れない。背番号10という称号しかり、2021年シーズンの告知ポスターでもセンターを務めていた事しかりがその表れとも言える。

だが今季は怪我もあって出遅れ、川﨑颯太の台頭もあり、リーグ戦では出場はおろかベンチ入りすら開幕戦のみという状況だったのだ。そもそもアンカーシステムを採用するチームのアンカーの人選は大きく分けて「ピッチの中央で司令塔としてゲームメイクを担えるタイプ」を置く監督と「広範囲にスペースを埋めるようなポジショニングでプレッシングに貢献するタイプ」を置く監督に結構くっきりと分かれる。庄司が戦術の肝として起用した中田一三監督、實好礼忠監督は前者だったのに対し、曺貴裁監督は恐らく後者。そう考えれば、怪我がなくとも川﨑が庄司のポジションを奪うのは自然な流れだったかもしれない。庄司自身、怪我や昨年までとのギャップの中で非常に苦しいシーズンだったはずであり、それは恐らくいち部外者が「気持ちはわかる」なんて言っていいレベルではないのは想像に難くない。しかしサンガのペースが落ちて甲府と長崎の影がチラついてきた第36節愛媛戦、庄司はスーパーサブとしてチームに帰ってきたのだ。

単にコンディションが戻ったのが愛媛戦のタイミングだったのか、それとも曺監督が"こういうタイミング"を待っていたのかはわからない。だが「このタイミングで庄司が戻ってきた」事が与えた影響は大きかったし、言ってしまえば起爆剤としてのこの効果は開幕からスタメンで出ていたり、或いは4〜8月の絶好調期であっても発揮されなかったであろう。愛媛を1-0で下した4日後、庄司が今年初めてサンガスタジアム by Kyoceraのピッチに立った第37節大宮戦、現地には行っていないが、庄司の名前がコールされた時の空気感はDAZNの画面越しでもヒシヒシと伝わってきた。ブラジルW杯の日本vsコートジボワール戦……ディディエ・ドログバがピッチに立ったあの瞬間の、コートジボワール側の気持ちが少しわかった気がしたのは、私にとってはさほど大袈裟な表現ではない。

 

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攻めても攻めても1点が遠かった大宮戦の90+6分、庄司悦大のパスを受けた福岡慎平のクロスに川﨑颯太が飛び込んだあのゴール……今年のサンガの出来を見れば、昇格は決して「出来過ぎな結果」では無いだろう。だがそこに繋がる一連の軌跡は「出来過ぎ」と言えるほど美しかった。

長く幽閉されたようなJ2での軌跡と、苦しみを背負った者との様々な邂逅…その果てが結実する瞬間は刻一刻と近付いていた。第38節、昇格決定の可能性を持ちながら、いよいよ磐田とのJ2史上最大のビッグマッチが始まる。

 

 

つづく。