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軌跡と邂逅の果てに〜京都サンガFC、2021年総括〜第4話 軌跡と邂逅の果てに

 

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【軌跡と邂逅の果てに〜京都サンガFC、2021年総括〜】

第1話:落ちぶれた者同士の邂逅

第2話:疑心と確信

第3話(前回):若原のPKと背番号10

 

オリジナルアルバムの配信も開始したのでそちらも観てね

 

 

 

 

2021年11月7日、静岡県磐田市ヤマハスタジアム

1位 ジュビロ磐田、勝点80。

2位 京都サンガFC、勝点78。

 

J2とはいえ、サンガにとってここまで"大一番"を感じさせる試合なんていつぶりだろうか。首位攻防戦という事も、他会場の結果次第では昇格が決まる可能性があった事も勿論重要だったが、長すぎるJ2生活に思いを馳せた時、この試合はこのシチュエーションと舞台にサンガが立っているというだけで感慨深いものがあったし、それだけでこの試合に至るまでの高揚感にはこれまで感じたことのない程の熱量があった。

磐田もサンガも、勝った方はこの試合で昇格を決められる可能性が浮上する。DAZNには入っているが特定のチームを応援していない人も、この日ばかりはJ1ではなくこの試合にチャンネルを合わせたのではないだろうか。磐田視点で見ても、リーグ再開以降一度も負けずに14戦無敗で辿り着いた首位攻防戦は、昇格を確定的なものにするにはこれ以上ないシチュエーションだった。

 

 

開始2分のルキアンの決定機にはじまり、前半は磐田が主導権を握る試合展開が続く。しかし前半終了間際の川﨑颯太の懸命のブロックもあって前半を0-0で折り返すと、後半はサンガも攻勢に転じていった。だが68分の自陣からのロングスルーパスに抜け出した白井康介が迎えた決定機も、今度は磐田DFの懸命な守りによって阻まれる。この首位攻防戦は贔屓目なしに今年のJ2で、J2の歴史の中で屈指の名勝負だった。第4節の壮絶なシーソーゲームも面白かったが、両者共にレベルアップし、首位攻防戦という題目がこれほどに似合う試合というのもそう多くはない。

一瞬を巡るような争いの決着は77分だった。磐田の連続攻撃の中、リターンを受けた遠藤保仁が右足アウトサイドで絶妙なフライスルーパスを送る。抜け出した鈴木雄斗の折り返しがゴール前での混戦を呼び込むと、最後は山田大記が押し込んだ。1点を追う形になったサンガは猛攻を仕掛けた追い縋る。だが終了間際、白井のクロスに飛び込んだイスマイラのヘッドは僅かに枠を逸れ……。

 

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この敗北で少なくともJ2優勝は遠のいた。まだ次節にも昇格が決められる立場だったから優位なのは変わらないものの、長崎や甲府の追撃を思うとうかうかはしていられない。数字としては痛い敗北だったのは確かである。シックスポイントゲームとはそういうものだ。

悔しい事には確かに悔しい。しかし、J2で過ごした11シーズンの中でこれほどまでに「負けて悔い無し」と言えるような敗北がかつてあっただろうか。J2で望まずとも長くなった歴史の中で、曺貴裁監督の就任が起承転結の「転」なのであれば、「結」はもうすぐそこである。

 

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その翌週、サンガスタジアム by Kyocera。磐田との激闘を終えた選手達をコレオグラファーで迎えた第39節秋田戦は、J2昇格1年目ながら躍動感のあるサッカーを見せていた秋田に対し、サンガが今年やってきた事の全てを見せつけたような試合だった。後半の戦いぶりを見るに、もう少し点を取れたような気もしないではないが、現地で体感したボルテージは最高潮であり、コロナ禍の到来とオープンが重なってしまったサンガスタジアムにようやく春が来たような感覚を抱いていた。

残り3試合というタイミングでサンガは遂に昇格に王手をかける。長過ぎた、一度は諦めた…そんなJ2での生活は終わりに近づいていた。後はもう、結末に向けて走るのみだった。

 

 

王手を迎えた状態でアウェイでの連戦に挑むサンガだが、ここから戦う岡山と千葉は共に無敗期間が続いており、後半戦で最も調子が良いと言われているチームとして数えられていた。11月20日第40節岡山戦はその通り、岡山に対して攻め込まれる時間も多く、若原智哉の負傷離脱で再びゴールマウスを守る清水圭介のスーパーセーブに救われる場面も多くあった。

だがサンガはこの時点で既に、一つの峠を越えていたように思う。岡山戦然り、そして千葉戦でもそうだが、サンガは「引き分けでもOK」というアドバンテージをポジティブに捉えられていたように見えた。もちろん曺監督始め、選手も勝利を大前提にした気持ちで戦っていたのは当然としても、2012年2013年裏目に出たアドバンテージを味方に付けられていたのだ。そもそもが引き分けでも昇格できる状況だった千葉戦はともかく、岡山戦の時点でその姿勢と余裕が見えていたのは本当に感心したし、2021年のサンガがシーズン全体で勝てるチームになった事を実感した瞬間に感慨深さを覚えたからこそ、千葉戦に不安はもう無かった。

 

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運命の刻は訪れる。

11月28日、千葉県千葉市フクダ電子アリーナ。対戦相手はジェフユナイテッド千葉だった。

 

 

ここで千葉と対戦する事に、どことなくカタルシスを感じていたサンガファンは少なくないだろう。私自身がそうだった。

どことなくこの2チームはその境遇が重なる。J2ながら大きい規模と高い資金力を持ち、J1クラブですら苦しむ事のあるスポンサー問題に苦しんだ事もない。だが千葉は2010年から、サンガは2011年からJ2に沈み、何度も昇格を逃し、いつしか昇格候補とさえ呼ばれなくなった時期もあった。それはいつしか「ズッ友」というスラングで称されるようになったし、まるで昇格してはいけない呪いにでもかかっているのではないかとオカルトめいた思考にさえ辿り着きかけていたのだ。

本来ならば昇格も岡山戦で決まっていて欲しかった。もっと言えば磐田戦秋田戦の時点で決まっていて欲しかったし、当初のペースで言えば昇格決定を第41節まで引っ張ってしまった事は少し遅くなったのは否めない。だが結果的に、もちろん偶然以外の何物でも無いのだが……J2という望まぬ軌跡と訣別する最後の相手に千葉が充てがわれたこの巡り合わせは、どこかそこに運命的な邂逅を感じたくなってしまった。

 

 

時刻はちょうど16時だろうか。

この瞬間、サンガの歴史に読点が打たれ、そして11年に及ぶJ2での旅に句点が打たれたのだ。呪われたようなその日々は終わり、風はこれまでと違う向きに吹く。

 

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サンガがようやくJ1に辿り着いたその瞬間をフクダ電子アリーナで見届けた私は、そのまま幕張へと向かう。

向かった先の幕張の温泉は昼は一面のオーシャンビューらしい。ただ、17:00には陽の沈むこの季節では、なんとなく波打っているのはわかってもその青を目視するには至らなかった。代わりに東京を浮かばせるような海岸線を、露天風呂からぼーっと眺めていた。

 

メンヘラでもなければ、何かに酔っている訳でもない。それでも、一直線に伸びる海岸線を見続けていると色々と思い出す。

13歳だった私は、気付けば24歳になっていた。義務教育のみならず、教育という一連の流れを終えた。結婚する友人もいれば親になった友人もいる。この世を去った友人さえもいる。あの時「時代の顔」のような扱いだったAKB48も当時のメンバーなんて今は殆どいないし、政権だって変わった。13歳だったあの時、ガラケーだってまだ市民権を持っていたし、Twitterはまだ今ほどの影響力は持っておらず、LINEに至ってはサービスさえも始まっていない。コロナ禍はもちろん、東日本大震災が起こる事さえもまだ知らない。11年というのはそれだけの月日なのだ。

サッカーも同じで、あの時の若手といえばロンドン五輪世代だったけれど今やベテランであり、引退を選ぶ者さえ増え、今ではパリ五輪世代の台頭が始まっている。再びJ1という海岸線の向こうに辿り着くという事がこれほど遠く、そしてこれほどの時間がかかるとは想像さえもしていなかった。

 

 

サンガに残された時間は多くない。「J1にすぐ帰れる・帰らなければならない」という立場でJ2に来たサンガがJ2に長居したところで機など熟さない。ただ枯れていくばかりである。手段なんて選んでられない季節はとっくの昔に迎えている。「継続は力なり」という言葉をおざなりにしてきた部分の強いサンガに続く負の歴史は、このまま続けば出来ていた事さえ出来なくなる。2017年2018年がそれを痛感する年だった。サンガに求められていたのは面白いサッカーをする監督でもなければ育成の上手い監督でもない。この軌跡を止めてくれる監督だった。

曺監督にしてもそうである。湘南を3度J1に上げる事、湘南にルヴァン杯のトロフィーをもたらす事は並大抵の偉業ではないし、彼が湘南に遺した功績は計り知れない。だが同時に、彼が湘南で犯した事に擁護の余地はなければ、サンガのJ1昇格によってそれを有耶無耶にするべきでもないし、湘南での"愚行"もストーリーの一部として美談に組み込む訳にはいかない。輝かしかったはずの彼の軌跡の先は、彼自身が切断してしまっていたのだ。サンガも曺監督も自分自身で首を絞め、自らの手で自身を窮地に追い込んでいた。

その両者の軌跡が京都という地で邂逅することは、今思えば必然的な流れだったのかもしれない。どちらにとっても"最後の賭け"だった。オファーを出す側も、それを受ける側も、そこにはそれだけ背水の覚悟があったはずだ。

 

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2021年11月28日16:00、千葉で鳴り響いた笛の音色をサンガファンはずっと待ち続けていた。

二つの軌跡のそれぞれは決して美談と呼べるものではないだろう。だが、その邂逅が呪縛のような11年間を過ごしたチームの呪いを解き、かつて戦ったステージへと導いていくその姿は、選手達の躍動を含めてまさしくドラマであり、求める事すら諦めそうになった記憶と歓喜を呼び起こしてくれた。だからせめて……ファンにはこの一年を、この軌跡と邂逅を美談と呼ばせてほしい。

そしてまたすぐにJ1という新たな時代が始まる。これは"復帰"ではない。呪いから解き放たれたサンガにとっての"新章"である。

 

 

軌跡と邂逅の果てに〜京都サンガFC、2021年総括〜、完。

 

第1話:落ちぶれた者同士の邂逅

第2話:疑心と確信

第3話:若原のPKと背番号10

第4話:軌跡と邂逅の果てに