人間、一年に一度は泣いておくもんだと思いました。
自分で言うのもなんですが、私…基本的には泣かない方のタイプでして。○○町の東野幸治とか言われるくらいに心無しキャラみたいな感じになった時期もあったんですね。
それが2年連続泣いた訳ですよ。ちょうど去年の今頃でした。サンガが昇格したあの日、フクダ電子アリーナで泣きました。
そして11月23日です。
……正確には2度泣きましたね。堂安が点取った時点で1回泣いて、試合が終わった後におかわり。浅野のところに関してはもはや感情が錯綜してこれが現実なのかどうかの判別がつかなくなっていました。
日本、大金星!!!!!!!
日本にとっては史上初のW杯での逆転勝利で、しかもその相手が優勝経験国からの初勝利であり、W杯で28年間、前半リードに限れば44年間逆転負けというものを知らなかったドイツから、それも日本サッカー史を紐解けば、日本にサッカーを教えてくれた国という側面も持つドイツからだなんて……やりすぎなほどドラマチックでした。それも得点者が、森保ジャパン初期の旗頭ながら近年は代表で不振が続いていた堂安、そして4年前の苦い思い出を背負いながら自分の恩師に送り出された浅野の2人というのもなんというか……出来過ぎなくらいドラマ性が強すぎますよね。
という訳で今回は、ドイツ戦の勝因と森保采配のポイントを振り返りつつ、コスタリカ戦をどう戦うべきなのかを考えていきます。
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ドイツ戦の日本のポイントを大きく分けるとこんな感じでしょうか。
①最初の理想のゲームプラン
②前半終了間際のフルボッコと、それを放置した理由
③後半のシステム変更と浅野&三笘の投入
④堂安&南野の投入
①最初の理想のゲームプラン
そもそも9月のアメリカ戦が日本にとっては完全にドイツ戦を想定した設定でした。実際、ドイツ戦のスタメン11人は負傷の影響があった3人(冨安健洋、中山雄太、守田英正)を替えた以外はアメリカ戦と同じメンバー、同じ配置だった訳で。
ドイツは手堅く、スペインはロマン的……ふんわりしたイメージとしてはこういうイメージが世界のサッカーファンには定着していると思います。しかし、敢えてこの2つのざっくりきたイメージで言えば、今やそのドイツとスペインのイメージは逆であり、むしろドイツの方がリスキーなやり方をしてくるし、スペインの方が遥かに手堅い。それを思えば、開始20分でどうにか点を取り切る為にハイライン・ハイプレスを仕掛けるやり方は理に適っていたと思いますし、実際に前田大然の幻のゴールはそういうアプローチの中で生まれました。
しかし、ドイツ相手にこのやり方で戦えるのは多く見積もっても20〜25分が限界。だから日本はそれまでに点を取るしかなかったし、一度特大の決定機が訪れればドイツも警戒を強めるでしょう。その点、前田のシーンが決まらなかった事は点が決まらなかった上にドイツの警戒を強めるという結果を生んでしまった。日本が理想のゲームプランのまま勝ち切るには、最初に訪れる決定機で取り切る必要があったのは間違い無いです。結果的に、20分どころかドイツは15分位でこれに対応してしまった事で、日本はそこからサンドバッグかのように攻められる形になってしまいました。要は前田のゴールが認められなかった時点で、日本はプランAからの軌道修正をする必要が出てきました。
②前半終了間際のフルボッコと、それを放置した理由
心臓が止まりそうになった時間ですね。後半に3バックに変更する訳ですけど、なぜその修正を前半にやらなかったのかというところは賛否両論を呼んだりもしています。
これに関しては基本的には意図的だと思います。日本としては後半にラッシュをかけたかった訳ですから、森保監督はこの時点で3バックを決意していたとしても、ハーフタイムに集合をかけられる時間を前に"奥の手"を繰り出せば、ハーフタイムで立て直された時にいよいよ手が無くなる。もう一つは、ドイツがあそこまで切間のない攻撃を仕掛けてきた以上、変に修正を施せば、その補修作業を施そうとする間に生じるエアポケットのようなタイミングでやられてしまう可能性があった…だからポジティブな理由でも、致し方なしの理由でも放置がベストな選択でした。これは森保監督の博打だったのは確かですけど、チームとして後半にラッシュをかけるプランと「0-1はOK」の2つは試合前からチームとして共有出来ていたようですし、1点を取られてもチームとして狙いは明確ではあったんでしょう(あのPKに繋がった場面は要反省ですけど…)。
森保監督からすれば、6月のブラジル戦のパフォーマンスで耐え切る事はある程度できるという確認は出来ていたからこそ、この博打に踏み切る上での担保はあったというスタンスなんじゃないでしょうか。実際、日本はフルボッコに攻められていながらも、ゴールエリア近辺は意外と守れていた。なんやかんやでドイツの進軍をバイタル、或いは角度のないペナルティエリアまでで留めていたのは大きなポイントで、そこは0-1でOKという共通意識の下、吉田麻也や板倉滉が「迂闊に飛び込まなくていい」というところを割り切って徹底して出来ていたからこそだと思いますし、それこそ堂安が点を取った時のような形をドイツに作らせる事は無かった訳で。さすがに最後の最後にオフサイドで救われたのはラッキーでしたが、そこはもう日本がその一瞬の運を味方につけたとしか。
ただ、ブラジル戦の手応えは敢えて修正を施さずに粘るという忍耐をやる上では大きな意味を持っていましたし、ブラジル戦しかり、鎌田のボランチや3バックは時間は長くなくても少し試していたり…こうやって振り返ると、森保監督とチームがこういう戦い方を選ぶ為の根拠は過去の試合に色々散りばめられていたと思います。
③後半のシステム変更
まぁ、これはもう言うまでもないですよね。永遠に語り継がれる交代策となった事でしょう。
久保建英を下げて冨安健洋を投入し、システムをかつて森保監督の代名詞でもあった3-4-2-1に変更。森保監督は示唆以上の事はしていなかったみたいなコメントをしていたので、ぶっつけ本番といえばぶっつけ本番ではありますけど、ガーナ戦やカナダ戦で一応この形はやっていましたから、選手達も「あるかもしれない」という心の準備は出来ていたはず。その意味でも、ほんの少しでもカナダ戦で試せていたのは意味があったと言えます。
そして57分には三笘と浅野を入れて三笘を左WBに配置。そしてここで大きかったのは浅野と伊東のプレーエリアでした。この時の日本は形式的には3-4-2-1でしたが、攻撃時は若干3-4-1-2的な形になっていた。要は鎌田をトップ下気味にして伊東と浅野を2トップ的にしていました。この時にはシステム変更が功を奏して、鎌田が前を向いてボールを運べる場面が増えていましたから、鎌田がコントロールしている間に伊東と浅野が上手く飛び出すことで、ドイツのDFは常に複数の選択肢をケアしなければならない状態になった。ましてや幸か不幸か、それでもドイツの方が基本的に力は上な分、彼らは前半の日本がそうしたようにただただ中を固めれば良いみたいな割り切り方には出来なかったし、幸か不幸かその段階にまでは到達していなかった。この段階で、いわゆる悩み事の増えたドイツは色々な意味で疲弊していったのではないでしょうか。加えて、浅野や伊東がガンガン裏を狙う事でドイツがDFの背後を警戒せざるを得なくなり、チームとしてのライン設定が中途半端になってDFラインと中盤が間延び状態に陥り、そうすると鎌田であったり、途中から出てきた三笘がミドルゾーンで割と悠々とボールを持てたりも出来るようになって。ハイラインにした日本はそれゆえにピンチも招きましたけど、これでリードしたドイツに固められたらもうどうしようもなかった訳で、ドイツの逃げ切り体制を許さずオープンな展開にドイツを引き摺り込んだという意味でも、堂安南野を投入するまでの展開には大きな意味がありました。
その意味で言うなら、やはりドイツのハンジ・フリック監督がミュラーとギュンドアンを下げたのは日本にとっては大きかったと思います。特にギュンドアンのところは、あそこが大きなボールの収まりどころだった訳で。ミュラーに関しては、おそらくですけど…怪我云々の話がずっとあったので、状況的に時間制限をしなければならない状態ではあったとは思うんですが、であれば尚更ミュラーとギュンドアンを同時に下げた事でドイツに生じたパニックは少なからずあったはずです。……ついでに言うなら、ちょっと余談にもなりますけど、ブラジルW杯までのドイツなら確実に1-0で締めにくるというか、少なくとも日本のペースに付き合ってしまう事はまず無かったと思うんですよね。それがブラジルW杯以降良くも悪くも変わってきて、それが冒頭で言った「今のドイツとスペインの印象と実際の乖離」みたいな話にも繋がってくるんですけど…。
④堂安&南野の投入
当たり前のことを言いますが、選手交代は選手を入れると同時に誰かを下げないといけないシステムです。つまり、監督は「○○を投入するとどうなるか」と同時に「○○を下げたらどうなるか」という事も考えなければならない。あの場面では誰もが堂安や南野、或いは上田辺りの投入を考えたでしょうが、重要なポイントは「誰を下げるのか」でした。
彼ら3人を投入する場合、純粋にポジションで考えれば下がるのは鎌田か伊東。しかし元々攻撃のキーマンで、しかも疲れが見えるどころかむしろキレが増している2人をここで下げる判断は出来る訳がない。となると選択肢は、鎌田をボランチに落として田中を下げる、或いは伊東を右WBに落として酒井を下げる事の2つしかありませんでした。
しかし、既に日本は左WBを長友から三笘に代えている訳で、いくらビハインドとは言え、ドイツ相手に両WBを伊東と三笘で戦う事はやっぱり相当なリスクが発生する。それは鎌田のボランチについても同様です。難しいのは、予選リーグは3試合でのトータルで勝敗が決まるシステムで、これが第3戦なら悩むこともないんですけど、これはあくまでまだ第1戦。得失点差というルールがある以上、ここでハイリスクが悪い方に向けば0-2、0-3、0-4、0-5…といった具合にどんどん悲惨な事になる可能性も否めない訳ですから、考え方として0-1をある程度許容する、0-2にさせないっていう考え方も一つある訳ですよ。先制点を取られてしまった以上、これ自体はトータル的な戦略として決して間違った考え方ではないですし、堂安南野投入前の時点でも既にいくつかのチャンスは作れていた訳ですから、もう少し様子を見るという選択肢も森保監督にはあったんです。
ただ、そこで森保監督はカードを切った。吉田や鎌田、堂安が語るようにある程度プラン通りだったとはいえ、ここで勝負に出た。元々保守的な監督として知られるだけに、しかも「そういう可能性」はきちんと選手に示唆もしていましたから、日本には「監督が腹を括った」という流れと一体感は確実に生まれた。一体感というと精神論臭く聞こえるかもしれませんが、W杯ってやっぱり狂気の空間なんですよ……バイオリズムの振れ方一つで、流れも展開も結果さえも一気に変わってしまう事が珍しくない。あの交代は優秀なアタッカーを送り込むと同時に、日本に追い風を、そしてドイツに圧を与える事が出来たと考えています。
自分で言うのもあれですけど……ブログでもTwitterでも、私ってどちらかと言えば森保監督に対しては擁護寄りでいられたと思っているんです。ただ、タイプとしては保守的というか、ベター路線の森保監督がこういう交代をするとは思ってもいなかった。だからこそ、森保監督がこのタイミングでこの腹の括り方をした事に感動しましたし、心が震えたところはあります。田中→堂安に続いて酒井→南野までぶっ込んだところは鳥肌立ちましたもん。あんた勝負師だったんだなって…。
南野入れた時点でツイートしようと思ったけど森保采配に今日は感動してる。
— RK-3 (@blueblack_gblue) 2022年11月23日
鎌田ボランチ伊東WBみたいな腹の括り方してくるとは思ってなかった
あんた勝負師だよ…… https://t.co/MzurndnTzI
個人的な感慨深さで言えば…堂安の得点シーンはすごくグッと来ました。…まあ、それは勿論、私がガンバファンだからと言えばそれはそうなんですけど。
ただそれとは別の側面で……あの時、もうFWの浅野どころか2列目とWBが全員突っ込んできたじゃないですか。思えばこのチームは、最初は南野と堂安のウルグアイ戦やアジアカップから始まった。すると今度は伊東という才能が台頭して、彼が最終予選を牽引し、予選が終わると鎌田や三笘が存在感を誇示してきた…紆余曲折を繰り返し、2列目のレギュラーを争ってきた面々が、全員であの密集地帯に飛び込んできた。そして最後に触ったのが、元々森保ジャパンの旗頭として期待されながら、伊東や鎌田にその座を揺るがされていた南野と堂安だった……あの光景が森保ジャパンの集大成に見えたというか、オールタイムベスト的な感動を覚えたんですよね。ああ、これが最終回なら美しいなあ…って正直思いました。
でもこれは最終回じゃないんです。というか最終回になんかさせてたまるか。スラムダンクみたいな終わり方する訳にはいかんのよ。
…という訳で、このドイツ戦をクライマックスにしない為にコスタリカ戦をどう戦うべきかを軽く考えてみます。
まず一番大事なのは、勝点どうこう以前にドイツ戦の前提とコスタリカ戦の前提は大きく異なる、という事です。
ドイツ戦、そしてこの後のスペイン戦は、日本は劣勢になる事を前提に試合の流れを考える必要がある。一方、コスタリカに関しては、日本が思っている以上に日本をリスペクトした戦い方になってくる可能性も否めません。スペイン戦が大敗だっただけにやぶれかぶれ気味に仕掛けてくる可能性も多少あるかもしれませんけど、そもそもコスタリカは守備をストロングポイントとして持つチームでもありますから、おそらく日本がボールを持てる試合展開になる可能性は高いです。要は、試合のアプローチをドイツ戦とは全く違う前提と考え方でしなければならない…と。
で、個人的にこんな感じなんじゃないか、と思うスタメンがこんな感じ。
今の日本って、ほんと選手層厚くなったと思うんですよ。すると何が起こるかと言うと、レギュラーと控えじゃなくて2パターンのレギュラーセットを設ける事が出来ると思うんです。
例えば…それこそドイツ戦のように、おそらく押し込まれると思われる展開や相手がガツガツ使ってくるようなら伊東を右に置いて前田や浅野を最前線に置いたカウンターとインテンシティーを強調した展開に持ち込むというやり方になってくるけど、引いてくる可能性が高いコスタリカ相手にそのやり方をやると詰まる可能性が高い。それなら東京五輪の時のイメージというか、直近なら6月のガーナ戦ですかね。あの辺りの試合のようなイメージで、テクニカルなパスワークとテンポで右を崩し、左は三笘で縦突破というやり方は、ドイツ戦とはやるべきアプローチが全く違う事を踏まえれば良いオプションなのかなと。
酒井はコスタリカ戦は厳しいという報道がありましたが、酒井が出場可能であったとしてもコスタリカ戦は山根を起用していたと思います。左SHな三笘じゃなくて相馬の可能性もありますが、伊東をベンチに置くなら普通に三笘はスタートで使ってくるかなと。逆にここで書いたやり方はチームとしてはかなり前傾的なやり方になるので、そうなると遠藤はやっぱりターンオーバーさせにくいので、コスタリカ戦で決め切ってスペイン戦で休ませる事が理想でしょうか。
これをやる上で大きいのは、リスクのあるターンオーバーじゃなくて、パターンBを用いる事で結果的にターンオーバーの効果を生めてしまうところですよね。伊東や三笘のようなジョーカー適正もとんでもない選手を、全ツッパせずに常にどちらかはベンチで待機させておける。以前のブログでも書きましたが、今の日本は複数のパターンを持てるようになった、要はチームの中で幅を作れるようになったんです。これは大きな進歩というべきポイントでしょう。
とにもかくにも、上でも書いたように、ドイツ戦は確かに美しかった。なんなら美しすぎた。だからこそこれを最終回にする訳にはいかないんです。
"新しい景色を2022"とのスローガン通り、あのドイツ戦で魅せられたものは未だかつて見た事のない景色でした。新しい景色の次にはまた新しい景色が待っている。そう信じてコスタリカ戦、必勝を期して、ドイツ戦と同様ではなくそれ以上のモチベーションで戦ってほしいところです。
いやぁ、泣いたなぁ…
ではでは(´∀`)