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WBCがW杯のようになるには〜WBCの飛躍的な成長は歪な大会構造の蓋をどう破るか〜

 

 

 

前回は「なぜWBCはW杯になれないのか?」という記事を書いた。

今回はその続きで、じゃあWBCがサッカーW杯のようになる為には、さすがにあれだけの規模になったサッカーW杯に追いつく事はほぼ不可能だろうが、近付く為には、大会の地位・権威・人気を浸透させるにはどうすればいいのか…を考えていく。

今回は前回の記事の続きである。WBCMLBの関係など、前回で書いた事は前提として書いていくので、今回の記事を読む前に前回の記事から先に読んでおいてほしい。

 

 

①なぜWBCはW杯になれないのか

WBCがW杯のようになるには

③"WBCがW杯になれない理由"をサッカーファンが笑えなくなってきた理由(後日更新)

 

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WBC観戦ガイド

 

オリジナルアルバム出してみました!聴いてみてくださいませ。

 

 

 

WBCの大会としての成長と、そしてWBCがW杯のようになるにはどうすればいいのか

 

今回のWBCの日本国内の盛り上がりは過去の大会と比べても異常なレベルだと思う。東京ドームで行われた日本戦のチケットは即完売し、グッズの売れ行きも記録的な数字を残した。連日連夜のテレビ視聴率も全試合40%超え。コンテンツとしての強さを存分に見せつけている。

これまでも盛り上がっていたと言えば盛り上がっていたが、例えば第3回(2013年)は代表編成のゴタゴタで若干盛り下がっていた部分もあったし、第4回(2017年)はいざ開幕すれば盛り上がったとはいえ、大会前は代表の不振もあってそれこそカタールW杯前の森保ジャパンのような雰囲気だった。実際に私も、前回大会では開幕直前の阪神タイガースとの強化試合のチケットは2017年の時は割とスッと買えたりした。ところがどうした。今回の同じ阪神との強化試合は取れる気すらしなかったもんだ。

日本の場合、まずWBC自体が本来は3〜4年周期の開催だったところが6年ぶりという事、東京オリンピック金メダルの流れでこの大会に入れた事、カタールW杯のお祭り的な熱狂の流れをそのまま引き継げた事、そして大谷翔平という稀代のスーパースターやダルビッシュ有というレジェンドの出場であったり、村上宗隆やヌートバーなど出場選手の人気とキャラクターが過去の大会と比べても際立っているところは大きいだろう。「歴代最強」も単なる煽り文句ではない。何より、ここ2年で世界の野球史に残る活躍を見せた大谷がその流れのまま大会に参加してくれた事はこのフィーバーを語る上で欠かせなかった。

 

ただ、それは日本代表に限った話でもなく、過去の大会を超える熱狂は単なる肌感覚だけの話でもない。

1次ラウンド最終日となる3月13日の試合(チェコvsオーストラリア、中国vs韓国)で14442人、キューバvsオーストラリアの組み合わせとなった3月15日の準々決勝で35061人…日本代表が関わらない平日開催の試合でこれだけの観衆を集めたのはWBCという大会のこれまでを思うとなかなか偉業と呼ぶべき数字である。チェコ代表が日本戦で見せた奮闘や彼らのキャラクター性が一躍日本に轟いた事、オーストラリア代表がベースキャンプ地となる府中で地元交流を盛んに行っていた影響もあるだろうし、連日連夜の熱狂から、特に日本戦のチケットを取り逃がした関東在住の人は「せっかくだし1試合行っておくか」と雰囲気を味わいに行った人もいるだろう。単に日本のプロ野球人気だけに留まらない循環は出来ていたと思う。

また、アジアでの大会の盛り上がりはもともとあったものだが、アメリカでも前回に書いたような「MLB > WBC」の絶対的な構図を揺るがすまでには至っていないものの、大会の人気は右肩上がりに浸透しつつある。前回大会終了時にも「アメリカ側のスタンスの変化」は語られていたが今大会ではそれがより顕著で、トータルでの来場者やグッズの売り上げといった諸々の興行成績は準々決勝を終えた時点で既に大会最高記録を更新していたとの数字も出た。不足しているところや至らぬ点を挙げたりすればキリはないが、WBCという大会のステータスは確実に高まっている。それが第1回から順を追う毎に様々な数字が上昇している事は傾向として非常に良い流れだろう。感覚としては、WBCは前回大会(2017年)から飛躍的に伸びたというか、大会として次のフェーズに突入したような感覚がある。

 

 

 

理由はいくつかある。一つはアメリカ、MLB側のスタンスの変化だ。

今現在、アメリカでは野球、メジャーリーグの人気が低迷傾向にある。それはこれまでのようなNBANFL、大学スポーツとの競争もそうであり、これまでアメリカでは人気を得ていなかったサッカー人気の高まりもある。FIFAワールドカップに挑むアメリカ代表と、アメリカ代表の戦いぶりに熱狂する国民の姿を見て、これまでアメリカのスポーツ界があまり考慮してこなかった「国際試合での熱狂」にビジネス的な可能性を見出したのか、これまでは二の次だったWBCを育てる事で新たな顧客を増やし、一度離れた野球ファンを取り戻したい…みたいな商業的な意図は確実にあると思う。その傾向は前回大会から確かに表れ始めていたし、その前回大会でアメリカが優勝を達成した事は一つのキーポイントだったのかもしれない。

事実、各球団の本音はともかくとしても今大会に於けるMLB選手の招集は過去の大会と比べても遥かに寛容だった。代表に出したくないのが本音であったとしても強制力のあるサッカーとは異なり、そもそもMLB主催とMLB優先の前提の上に成り立つWBCの代表招集に強制力がない事を思えば、今大会はWBC出場を希望したメジャーリーガーは保険の問題さえクリア出来れば概ね望みが叶っていたように思う(保険の問題という辺りが如何にもアメリカって感じもするが)。例えばこれまでは「2軍」と揶揄される事が多かったアメリカ代表にしても、消耗が激しい投手こそ辞退選手が少なくなかったが、野手はほぼ本気に近いメンバーが集まった。

日本にしても4人のメジャー組の招集に成功したように、過去の大会と比べれば各国も理想に近いメンバーを揃えられた印象はある。大谷翔平然り、普段は味方の各国代表選手が敵としてアメリカの前に現れる…というストーリー性を上手く盛り上がりに繋げたい思惑が、過去の大会よりもそのハードルを下げたところは多分にあるはずだ。実際、メジャーリーグの公式ゲームである「MLB The Show 23」に於いて、WBCモードが今作から初めて搭載された事も一つの表れと言えるだろう。

 

 

 

もう一つは大会のステータスが着実に積み上がっているという事だ。

サッカーと比べれば、やはりまだ野球は全然グローバルなスポーツとは言えない。だが国民に対する浸透度の差はあれど、欧州の多くの国がWBC出場を目指すようになり、第3回大会(2013年)からはWBC予選も開催されるようになった。要は、欧州でもじわじわと野球が盛り上がつつあるのだ。今大会ではイタリアが台湾やオランダを退けて準々決勝に進む躍進を見せ、チェコとイギリスは初の本戦出場と初勝利を成し遂げている。ドイツを舞台に行われた欧州予選ではスペインやフランスも奮闘した。かつて日本サッカーが遠い国のそこまで話題になっていないサッカーW杯を目指したように、彼らにとってWBCは目指すべき場所になり始めている。日本がチェコと対戦した時の雰囲気を見ると、まるで日本サッカーが辿ってきた道のりを、それを逆の立場…待ち受ける立場で見ているような気分にもなった。

大会ステータスというか、大会の意味の醸成はアメリカ人メジャーリーガーの個々人の意識にも影響している。メジャーリーガーにとっては国別対抗戦自体がこれまでは馴染みのないものであり、トップオブトップの選手がWBCやオリンピックに出場する事は極々一部だった。そんな中でアメリカのスーパースターであるマイク・トラウトはこれまでにWBCに出場した選手から「国を背負って優勝を争う大会」の楽しさを聞かされており、出場しない選択をした前回大会のアメリカ代表の楽しそうな姿には嫉妬や後悔に似た気持ちすら覚えたという(参照記事)。今回のアメリカ代表はトラウトが率先して参加を呼びかけた事がメンバー編成の大きな助けになった事はよく報じられているが、トラウトと似た感情を持っていた選手は他にもいるはずで、保険の問題で出場が叶わなかったクレイトン・カーショウは出られなかった悔しさと共に「出場を希望する選手は100%出場出来るようにしてほしい」と切実に訴えていた。これまでMLBのトップスターは辞退者の方が遥かに多かった中で、辞退したトップスターからこういう発言が出てきた事自体、メジャーリーガーの中での潮流が変わりつつある事を示している。MLBのレジェンドであるイチローモリーナ(プエルトリコ)が、普段のリーグ戦で見せる顔とは違う顔をかつてのWBCで見せていた意味を実感として理解するようになってきたのかもしれない。

 

 

 

それは日本代表にしても同じである。

それこそ、第1回大会(2006年)の頃はWBC自体が得体の知れない大会でもあったので、メジャーリーガーはイチローのようなごく一部を除いて大会参加の選択はしなかったし、それは日本国内のプロ野球球団に所属する選手でもそうだった。なんなら、利益配分の観点から出場そのものの辞退を検討していた時期もある。

だが、何事も続ければ歴史になるものである。当時の選手達にとっては得体の知れない大会だったWBCだが、今の代表選手の多くにとってのWBCは「子供の頃に見た大会」なのだ。

 

筆者は現在25歳で今回の代表メンバーは多くが同世代となる。…まぁ、同世代と言うと烏滸がましいが、共通の世代感覚は有している。小学校6年生になる直前、あれは当時所属していたサッカークラブの練習試合の帰りだった。WBCの結果が気になりそそくさと帰り支度を済ませ、父兄の方の車のモニターで見たイチローの優勝決定タイムリーの光景は恐らく一生忘れない。これからのプロ野球選手の脳裏には、誰もが何かしらの「WBCの原体験」を有する事だろう。今大会でもWBCを「子供の頃からの夢」「子供の頃からの憧れ」と語る選手も多い。サッカーW杯にしてもそう、オリンピックにしてもそう、大会の歴史とステータスはその繰り返しで積み上げられていくものだ。その点で言えばWBCもまた、大会として健全な夢と共に育ち始めていると言っていい。

 

 

 

ただ、WBCがサッカーのW杯のようになる為には考えなければならない事はいくつかある。

結局、WBCが歪な大会方式になっているのは主催がMLBである事が全てと言っていい。その立場で言えば、MLBが「メジャーリーグ > WBC」の構図を崩したくないのは自然の摂理にしかならなくなってしまう。

一応、中立組織として世界野球ソフトボール連盟(WBSC)という組織は存在しているが、野球の世界で最も力を持った組織がMLBである構図が完成している以上、MLBが単にWBSCに主催権を譲渡しても意味はないようにも思うのはプレミア12を見れば自然な感想だろう。何よりMLBが自ら力関係の構図から降りる事は現実的ではないだろうし、自力でMLBに追いつける可能性のある野球組織は残念ながら皆無。であれば、現状としてはMLBWBCを一任するしかないのは現実だろう。

であればこそ、例えば前述のように、メジャーリーガーはWBCに意欲的になりつつあるし、外国籍選手ならその思いは一層強い。今大会のチェコやイタリアの躍進は野球が拡がりつつある事を示していたし、他ならぬMLBが2019年に実施したイギリス・ロンドンでのメジャーリーグ公式戦が興行的な大成功を収めた事は野球というコンテンツのグローバルビジネスとしてのポテンシャルを少なからず示していたはずだ。その辺りはMLB選手会辺りに上手くMLB機構の譲歩や意欲を引き出して欲しい。普段はあまりスポーツビジネスに関しては綺麗事だけで物事を語りたくないが、ことWBCに関しては現状の力関係が成立している以上、如何にMLB側に国際大会の純粋なスタンスを持たせられるかどうかが全てになってくる。そこに訴えかけるしかないし、その意義を強調していかなければならない。

 

 

 

個人的に期待したいのはWBCの開催地について。

第1回から現在に至るまで、WBCは常にアメリカ・日本にプラスどこかしらの国の3ヶ国で開催されており、準決勝・決勝はアメリカ開催で固定されている。日本人としては常に日本開催がある事はありがたい。だが、将来的にはそれこそ各種W杯のようにどこかの国で出来たら…と思う気持ちはある。

今大会は準々決勝が大入りを達成したが、基本的に日本が関係ない試合の客入りが必ずしも良くはないのは「前も日本開催だった」「次も多分日本開催」というようにWBC自体にそれなりに慣れている部分もあるのでは、と思う。ましてやその試合のカードが日本より強い国ではない場合尚更だ。サッカーW杯はそのブランド力が強大すぎる部分もあるが、2019年のラグビーW杯が日本に関係のない試合でもあれだけ観客を集めたのは「4年に一度じゃない。一生に一度だ。」のキャッチコピーに代表されるように大会の稀有性を強調出来たところが大きい。もちろん野球の世界的な人気がもう少し醸成される事が大前提だが、そうなった暁にWBC自体を持ち回り制にしてしまえばその稀有性は訴求力になってくるだろう。

特に今大会のチェコやイタリアの躍進を踏まえれば、いつか欧州のどこか1ヶ国でWBCを開催してみて欲しい。サッカーW杯にしても、元々サッカー強豪国として知られる国で開催するW杯もよりも、自国がそこまでサッカー強国ではない国で開催したW杯の方が"W杯として"盛り上がると思っている。日韓・南アフリカ・ロシア・カタールでのW杯にはドイツ・ブラジルでのW杯には無かったものがあった。それはラグビーW杯でも同じだ。チェコ代表の選手があれだけ「オオタニ、オオタニ」と言ってくれていたように、欧州の野球ファンからすれば「滅多に見れない大谷のいる日本の試合」みたいな感覚になる。それが既にそのスポーツが行くところまで行った国以外で大会を開催するメリットだ。日韓W杯やラグビーW杯を思い返してもらえればわかりやすいが、強豪国の自国開催はどうしても「自国が優勝できるか否か」にフォーカスされてしまうが、そうでない国はそれ以外のフォーカスポイントを作る事ができる。

もちろん次回大会からそれを実現する事は現実的ではないし、確実な収益の確保という意味で次回大会もフォーマットは似たようなものになるだろう。だが、前述したようにMLBはロンドン興行を成功させた実績もあるだけにポテンシャルは感じたはず。そういうWBCが実現した時に、WBCは新たなステージに進めるように思う。それこそ、サッカーでアジア勢が辿ってきた道を野球で欧州諸国が辿ると思うと少しワクワクするところでもある。

 

 

もしくは逆に、完全に会場を固定してしまうことも一つかもしれない。

現在、アメリカ会場は各大会で違う会場が使用されている一方、日本会場は2013年の1次ラウンドのみ福岡ドームでの開催となったが、それ以外は全て東京ドーム開催で固定されている。チェコ代表のハジム監督は大会前、会見の場で「2006年の大会を見たが、死ぬまでに東京ドームでチェコの試合ができればと思っていた。夢のようだ。」と語っていたが、例えば仮に今回の会場が京セラドーム大阪だったとしたら、それは「2006年に夢見た東京ドーム」では無い。そう考えると、ハジム監督の感慨は東京ドーム開催で固定したからこそ与えられた感慨だとも言える。

つまるところ、アメリカ開催の決勝戦会場も固定してしまう事は一つのブランディングにはなるんじゃないか、とも思う。日本で言う高校野球阪神甲子園球場じゃないが、どこか一つWBCの聖地を作り、そのスタジアムを目指す事を大会のテーマにする事は、グローバル化の弊害にもなってきたアメリカを頂点に確立されたシステムを逆に活かす方法の一つかもしれない。

 

 

 

とにもかくにも、今回のWBCはなんやかんやで大会自体が成長している事、そして欧州も意欲的になり始めている事を感じさせる大会になった。

次回大会は2026年。3年後だ。WBCという大会のポテンシャルは今回はかなり濃く発揮できただけに、次の大会に対してどうアプローチするのかは重要になってくる。

野球ファンの一人としてこの大会には切に成長して欲しい。