フェルスタッペンキックインセレモニー来てくんねえかな
どーもこんばんは
さてさて8月6日、Jリーグに特大のニュースがもたらされました。
いやはや、びっくりしましたねぇ。
まぁ、厳密には最初の報道が出たのが2月15日で、そこから何度か段階的に報道が出ていましたから、2月の第一報ほどの驚きは今となってはありませんが。ここに来て正式発表となりましたので、雑感であったり、簡単な解説であったり、或いは今後の展望なんかを少し書いていけたらと思います。
【おしながき】
①そもそもレッドブル・グループとは?
②なぜレッドブルは大宮を選んだのか
③CFG×マリノスとの違いと買収が良いことばかりとは言えない側面…そしてクラブ名やクラブカラーの行方は?(後編)
④大宮とJリーグと外資…今後どうなるのかの妄想と簡単な展望(後編)
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①そもそもレッドブル・グループとは?
「レッドブル」に関しては今更説明するまでもないでしょう。オーストリアの企業ではありますが、日本でも「エナジードリンクと言えば?」と聞けば大体の人がレッドブルかモンスターのどちらかの名前を挙げるはず。世界で最も販売されているエナジードリンクであり、「翼を与える(授ける)」という世界共通のキャッチコピーの浸透ぶりも凄まじく、今やレッドブルを飲む事自体を「翼授かってくる」と言う人がいたり、今回の買収に際しても大宮に対して「翼授かっとるやんけ」と言う人がいたり、果てはかつてカナダで「レッドブルを飲んだのに翼が生えない」と集団訴訟を起こされたほど。
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そのレッドブルはエナジードリンクの知名度、そして売り上げに繋げる為に様々な方法を駆使しました。学生に無料でケースを配布するだとか、街中で見かけるようにブースや宣伝カーを駆使した無料配布、上記のキャッチコピーと独特な絵のタッチを押し出したコミカルなCM、各種イベントへのスポンサード……特にエクストリームスポーツの協賛なんかもうレッドブルだらけですし、後述するF1やサッカーはともかく、比較的競合相手が少ないマイナースポーツの大会を見ると大体どこかしらにレッドブルの広告が出ていたりしますね。
その中でもとりわけ大きな存在感を放っているのが、広告ではなく自ら買収し、運営する形でのスポーツ事業への参画です。
昨日買ったレッドブルもF1仕様でした#F1GP#F1日本GP pic.twitter.com/n0A2B6376k
— RK-3 (@blueblack_gblue) 2023年9月23日
最も代表的なものがF1のレッドブル・レーシングでしょう。元々F1は2004年まではF1に参加するチームのスポンサー、或いはネーミングライツの取得のみという関わりでしたが、2005年にジャガーランドローバーがF1を撤退する際にチームを買収。多額の資金を注ぎ込んで超一流のレーサーやエンジニアを獲得すると共に下部組織も充実させ、自動車メーカーでは無いにも関わらずF1レース2チーム(=4人のレーサー)を送り込み、マックス・フェルスタッペンが世界最高のドライバーに育った昨今はF1レースに於いて絶対的な存在になっています。
余談ですが日本のホンダは2025年シーズンまで技術支援の形でレッドブルと関わっており、日本人F1レーサーの角田裕毅はレッドブル・レーシングのBチームにあたるRB・フォーミュラワン・チームに所属しています。
(これ懸賞で当たった)
で、じゃあサッカーはどうなんだと言うと、その始まりはレッドブル・レーシングを始動させたのと同じ2005年。レッドブル社の本社があるザルツブルクを本拠地とするSVアウストリア・ザルツブルクが破産寸前に陥ったところを買収し、2005-2006シーズンよりクラブ名を「レッドブル・ザルツブルク」に改称。エンブレムをレッドブルを象徴する2頭の雄牛が向かい合うロゴに、ユニフォームカラーを従来の紫から白と赤に変更するなど大改革を実行しました。
当時はまだレッドブルとしてのサッカークラブ運営のノウハウを持ち合わせていなかった事から買収から2012年まで提携を結んだバイエルン・ミュンヘンを通じて現場からフロントまでリクルーティングを行い、その縁で監督にジョヴァンニ・トラパットーニ、ヘッドコーチにローター・マテウスというレッドブル参入以前には考えられなかった人事を敢行。オーストリアリーグでは他の追随を許さない圧倒的な資金力と人脈、そしてそれらを駆使して確立したフロント体制を武器に強化と育成を行い、参入した2005-2006シーズンから昨季の2023-2024シーズンまでの19シーズンで優勝14回。残る5シーズンも2位という異次元の成績を残しています。
ザルツブルクがスポーツ的にもビジネス的にも成功したことにより、クラブはザルツブルク同様にクラブの買収と改革を次々に実行。2006年にはアメリカのメトロスターズを買収してニューヨーク・レッドブルズとし、2007年にはブラジルでレッドブル・ブラジルを発足。2009年には当時ドイツ5部相当だったSSVマルクランシュタットを買収してRBライプツィヒとして活動させました。ライプツィヒは今やブンデスリーガの中でもバイエルンを追う第二集団の一角を担っており、UEFAチャンピオンズリーグでもベスト16の常連チームになってきましたね。
特にRBライプツィヒの始動は大きな局面となり、ザルツブルクが成功した時点でレッドブルのサッカー参入は注目されていましたが、サッカーに於ける「レッドブル・グループ」が注目されるようになったのはライプツィヒが躍進して以降と言えるでしょう。バイエルンの提携が終了した2012年からはレッドブル・グループとして独自かつ統一の育成システム、サッカースタイルの構築を目指し、監督として名声を得ていたラルフ・ラングニックをライプツィヒとザルツブルクの統括スポーツディレクターとして招聘。今となっては彼らのサッカースタイルが「RB系」と呼ばれたり、特に育成面では「世界各地から若い選手を集めて育成しビッグクラブに売却する」という循環を確立しています。代表的な例で言えばライプツィヒからバイエルンに移籍したジョシュア・キミッヒ、ザルツブルクからドルトムントを経由してマンチェスター・シティに移籍したアーリング・ハーランドが挙げられ、日本人ならザルツブルクからリバプールにステップアップした南野拓実も具体例となる一人です。
②なぜレッドブルは大宮を選んだのか
レッドブルにとって、大宮アルディージャはJリーグはもちろんアジアで最初にグループに迎え入れたクラブという事になりました。
まず大前提として、人によって基準はそれぞれあるでしょうが…Jリーグの市場価値は、少なくとも低いものではないという認識が海外クラブにも持たれていると思います。
競技レベルに関しては、現在はやはりJリーグで台頭した選手が欧州各国のリーグで結果を残しており、成績が非常に安定している日本代表の主力にはライプツィヒと同じリーグのブンデスリーガで主力としてプレーする選手が多数在籍していますし、そもそもレッドブルはセレッソ大阪から獲得した南野をザルツブルクからリバプールに売れたという成功体験を有しています。じゃあもうちょっと移籍金くれよと思う気持ちもありますが「Jリーグは高いクオリティを持つ選手が安定的に供給されている」という事は特にドイツではある程度共通認識になっているでしょうし、特にドイツのクラブは今やプロ入り前の高校生すら引き抜く時代です。大宮で育てた選手をザルツブルクやライプツィヒで羽ばたかせる、或いは大宮を拠点としたJリーグのスカウト網を日本まで拡げ、そしてそれをレッドブルグループのネットワークに持ち込む事のメリットはすごく大きいんですね。
ましてや、なんやかんや言えどもやっぱり日本は経済大国で、その時点で大きな市場規模を持っている訳ですよ。そもそも彼らにはザルツブルクを買収した時点から「レッドブルのスポーツ事業=自社のエナジードリンクの宣伝活動」という大前提があって、今となってはモータースポーツやエクストリームスポーツを含めたレッドブルグループのPRも拡げていきたいはず。レッドブルブランドを拡大しながらレッドブルグループのネットワークを構築する2つの目的を達成する為に、日本はすごく魅力的な市場ではあるはずなんですよね。どのタイミングで大宮に絞ったのかは分かりませんが、実際にJクラブの買収自体は降って湧いた話では無く数年前から模索していたみたいですし。
ではなぜその対象が大宮アルディージャだったのか。2024年時点でJクラブは60クラブもあるのに、なぜ大宮を選んだのか…というところ。
2月15日時点での報道では「複数クラブと交渉しており、現在(2月15日)の最有力候補が大宮」という表現でしたから、大宮以外のクラブも候補に挙がっていた事も確かでしょう。これは完全に推測ですが…レッドブルは大宮を買収するつもりでJリーグ参入を目論んだ訳ではないでしょうが、調べれば調べるほど方向性は大宮一択になったんじゃないかなと。それだけ大宮にはクラブを買う立場になると魅力的な物件と言えるものだと考えられます。
まず第一に、サッカークラブを買収するなら現在クラブを所有している企業・オーナーに売却の意思がある事が必須です。
例えば……レッドブルとJリーグクラブの繋がりは今回が初めてではなく、実はレッドブルは2015年から2023年までセレッソ大阪のスポンサーを務めていました。レッドブルが将来的な買収も目指していたのか、或いはちょうど南野拓実がザルツブルク に移籍するタイミングだったのでその縁でスポンサーになっただけなのかはわかりませんが、いずれにしてもセレッソの親会社であるヤンマー及び日本ハムに売却の意思があったとは考えにくい。そうなるとレッドブルにはいちスポンサー扱いになるので、レッドブルがコントロールするクラブにする事は出来ない訳です。なのでセレッソではその目的を達成できないので、レッドブルでクラブを動かすのであればそれを認めてくれるクラブを探さなければならない…と。
その点で言うと、大宮を所有していたのはNTT(厳密にはNTT東日本の子会社であるエヌ・ティ・ティ・スポーツコミュニティ株式会社)ですが「NTTはアルディージャを売りたがっているのでは?」みたいなところはまことしやかに言われている話ではありました。これまで運営会社のエヌ・ティ・ティ・スポーツコミュニティ株式会社は複数のNTT関連企業がそれぞれ株を保有している企業だったんですけど、これらの株は全て2023年までにNTT東日本に一本化されているんですよね。これは個人的な推測なのでソースもないんですが、将来的な売却に向けて組織を簡潔にしようとしたところもあったのかなぁ…とも思ったり。
加えて、大宮ってやっぱり基本的には「NTTのクラブ」な訳であり、「NTTがほぼ一社で運営しているクラブ」であり、「NTT単独で意思決定を行えるクラブ」なんですよ。つまり、NTTが売却にゴーサインを出せば話はスムーズにまとまる。これが例えば多数の少数株主がお金を出し合っているようなクラブだと、最終的に売却の結論に辿り着いたとしてもそこに至るまでに内部での合意形成ができないだとか、そういう軋轢や対立が生じる可能性があるんですよね。ましてや大宮は近年は極度の不振陥っており、サポーターのNTTに対する不満もピークに達している訳で、ドラスティックな変化を伴うクラブの抜本的な改革が他のクラブよりも受け入れられやすいとも言える。買収額がどれくらいだったのかはわかりませんが、金額以外の「買いやすい背景」みたいなところはあったのかなと思います。
ましてや、冷静に考えると…Jクラブを買う立場からすれば、大宮アルディージャ以上の物件ってそうそう無いんですよ。ただでさえ上で書いたような「所有者が売却の意思を持っている」「買収が受け入れられやすい状況になっている」の2点だけでも強力なのに、それ以外にも大宮アルディージャという物件は非常に魅力的なんですよね。
まず大宮はクラブとしてのハード面が完全に完成されているんですよね。2013年に「オレンジキューブ」と称した練習場とクラブハウスを完成させている大宮の施設面はJリーグ全体で上位クラス、なんならJ1に絞っても中位以上と言ってもいいでしょう。良い練習場、良いクラブハウスを所有している事は近代的なクラブの必須条件ですので、例えば三木谷浩史氏が買収した直後の神戸やサイバーエージェントが買収した直後の町田は真っ先に設備投資に取り組んだ。でも大宮の場合はそれが既にあるので、そういうハード面に割くべきリソースをカットできちゃうんですよね。浮いたお金は戦力強化やスタッフのリクルーティング、或いは広告戦略や将来的な設備投資への積立にも回せるでしょうし。一つ気になるのは現在ホームスタジアムのNACK5スタジアムの指定管理契約をNTTの関連会社(NTTファシリティーズ)が2024年に入ってから、なんならレッドブルとの報道が出た後から結んだ2029年まで締結している事なんですけど、このスタジアムを権利者の関連企業のような立場で利用できるならサッカークラブに必要な全ての施設の権利を既に有しているとすら表現できてしまう訳です。スタジアムについてはどういう取り扱いになるのかわからない部分がありますが。
その上で大宮は女子チームの大宮アルディージャVENTUSも保有しており、保有しているのみならず日本の女子サッカーのトップリーグにちゃんと参加しているんですね。女子日本代表はやはりW杯優勝経験がある国だけあり、現在も競技力と選手輩出力を持っている訳ですから、そういう国のトップリーグに所属している女子チームも獲得できる…と。
そしてなんと言っても大宮という街ですよ。
旧大宮市は複数の市を合併して現在はさいたま市となりましたが、やはり大宮エリアは首都圏エリアでも屈指の大都市であり、人口の多さと街の規模はやっぱり「ポテンシャルが高い」と表現できるものなんですよね。大宮駅なんて日本屈指のターミナル駅で新幹線も含めて全部停まるし。ましてや東京もすぐそこで、言い方次第では「首都圏」「東京近郊」とも言えて、例えば一部の海外クラブに至っては日本ツアーの際に「Saitama Stadium 2002 @Tokyo」とか言い出したりしているところを見ると、日本国外に対しては「東京(に近い)クラブ」という戦略まで打とうと思えば打てる。
そう考えれば「なんやかんやで経済大国のクラブ」「街単体でも大都市な上に東京近郊」「経済破綻していないけど所有者が売却に乗り気」「設備の整った練習場&クラブハウスを既に有している」「国内トップリーグに参加している女子チーム保有」「クラブの状況的にハレーションが比較的抑えられそう」というここまで条件が揃っているクラブって、日本じゃなくてもなかなかお目にかかれない物件だと思うんですよね。レッドブルにとっては大宮アルディージャという物件を見つけた瞬間は結構「見つけちゃった!!」的なアドレナリンと脳汁を出した担当者もいたんじゃなかろうかと。
【③CFG×マリノスとの違いと、買収が良いことばかりとは言いにくいレッドブルのリスクの側面】【④大宮とJリーグと外資…今後どうなるのかの妄想と簡単な展望】はこちらから。
ではでは(´∀`)