RK-3はきだめスタジオブログ

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【0-5からの逆襲】京都サンガFCは何が良くなったのか?真夏のV字回復のポイントを考察する回〜前編・ようやく手を付けたプレスのバランス調整〜

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まずは京都サンガFCの2024年4月の成績をご覧ください。

 

京都サンガFC 2024年4月】

5試合:1勝1分3敗(勝点4/得点1/失点5)

 

では続きまして、京都サンガFCの2024年3月から5月までの成績をご覧ください。

 

京都サンガFC 2024年3〜5月】

15試合:2勝3分10敗(勝点9/得点11/失点29)

 

 

 

それでは続きまして、京都サンガFCの2024年8月の成績を4月、3〜5月の成績と並べてご覧ください。

 

京都サンガFC 2024年4月】

5試合:1勝1分3敗(勝点4/得点1)

京都サンガFC 2024年3〜5月】

15試合:2勝3分10敗(勝点9/得点11)

京都サンガFC 2024年8月】

4試合:3勝1敗(勝点9/得点11)

 

 

 

阪神タイガース監督、岡田彰布はかつてこのような迷言を残しました。

「おかしなことやっとる」と。

…どうしたサンガ。サンガファンの心臓はピザの生地ばりに縦に伸ばされ横に伸ばされしているぞ。今年のスローガン、確か「強く超える」やったな?おうおう超えたぞこっちの予想を。こちとら想定外のシーズンに良い脳汁も悪い脳汁も出過ぎてすっかり脳みそがメレンゲ状ですわ。

 

 

 

さて。

一時期はぶっちぎり最下位の勢いで沈み込んだところが残留争いのフェーズに返り咲き、28試合を終えて1試合未消化の今(9月の代表ウィーク時点)、サンガの順位は降格圏から3つ上の15位。無論、同じく1試合未消化の18位磐田とはまだ勝点6差で残り10試合ですから、これからもまだまだ有象無象のあれこれは起こるでしょうし、「今年のサンガ」という尺度では手放しの評価はできないにしても、雨が降り頻るサンガスタジアムで目の前が曇り空より白くなったあの景色からよくぞここまで盛り返したなと。

 

 

果たしてこのサンガの勢いは本当にもう一つのスローガンのような「進化」なのでしょうか。

それとも真夏の夜の夢に過ぎないのでしょうか。

骨まで溶けるようなテキーラみたいなフットボール。夜空もむせかえる激しいブログは書けませんが、今回は夏のサンガが如何にして持ち直し、巻き返し、危険水域を一旦脱したのか。サンガは何が良くなってこうなったのか……を考えていきたいと思います。分析というよりは考察くらいの感覚のブログですので、分析記事とか読むの難しい…というお方もぜひに。

 

 

 

【おしながき】

①極端すぎるBoS理論からの脱却と"攻"と"守"の局面への調整

②攻撃出力を最大化する2つの起点とエリアス効果(後編)

③なんやかんやで…(後編)

 

京都サンガFC 30周年企画ブログのまとめページはこちら!随時色々と更新しております。

 

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①極端すぎるBoS理論からの脱却と"攻"と"守"の局面への調整

 

まずそもそも曺体制でのサンガがどういうサッカーをしていたのか…から語る必要があります。

何を持ってして戦術が浸透していると言うのか…みたいなところは色々な側面がありますが、チームとしての意識の統一という意味ではサンガは徹底されていたチームだと思いますし、それ自体は決してネガティブに捉えるべき事ではないものだとも思います。それは曺貴裁監督就任後からずっとですし、そして今季序盤の絶望的な時期でさえも。

 

 

 

基本的に曺体制のサンガは良くも悪くもBoS理論に忠実なチームだと言えるでしょう。BoS理論とはすごーくざっくり言うと……サッカーは攻撃と守備の局面が分かれた競技ではなく、ボールを持っている時はゴールを奪う為の攻撃ができる、ボールを持っていない時はボールを奪う事そのものがゴールに繋がる攻撃になる=ボールを奪うという攻撃である…という考え方を根幹とした理論の話。

サンガは積極的なプレスとそこからのカウンター攻撃が特徴的なチームであるがゆえにメディア等でサンガが褒められる時には「攻守の切り替えに優れたチーム」みたいな表現をされる事が多かったように思いますが、正確に言えばサンガにとっては「ボールを奪う守備はそのまま攻撃になる」のであって、常に守備と攻撃は一つのセット…という戦い方を地で行くチームでした。つまるところ、サンガにとっては攻撃と守備は常に一体であり、90分そのものが一つの局面である…或いはサッカーを2つの局面にわかるとしたら、それは攻撃と守備ではなくアクチュアルプレーイングタイムとアウトオブプレーの2つになる…というサッカーをしてきたと。

言うなればこれはBoS理論に忠実なチームというよりは極端なBoS理論と評した方が適切かもしれません。ただJ2で勝ち抜く為には、11シーズンもJ2にいたチームがJ1で残る為には「尖った戦術を徹底してやり抜く」という事は割と重要な部分ですから、そういう戦い方に振り切った事は悪い判断だとは思わないですし、そしてそういう意識をチームに浸透させ、統一させた事は監督の手腕として見事だったと思います。

 

 

ただ同時に、サンガは明確に「一つの戦い方しか出来ない」という状況にも明確に陥ってしまい、それが対戦相手との相性と試合開始10分の出来不出来が試合の全てを左右するようになっていきました。

前述した守備のスタンスもあるおかげで前線での守備には確かに強さがあったサンガなので、開始早々にハーフコートゲーム的な状況を作れてしまえば、そこから連続したプレスをかけやすくなって試合を優位に進める、そこで点を取り切り、1点を追う相手が前がかりになったところでオープンな展開に持ち込む…というのがサンガが勝つ時の大体のパターンでしたが、その序盤の陣取り合戦みたいな部分で敗れたり、プレス回避を得意とするような相手との試合だとその強みは一切無になってしまう……と。

自分で書いたブログを自分で引用するのもなんですが、去年のサンガを総括するブログで私はこういう事を書いたんですね。

 

サンガは得点の多くがカウンターだった事もあって「攻守の切り替えに優れたチーム」と目された事が多いが、これは湘南時代も含めた曺監督のチームの特色として、サンガは攻守の切り替えに優れているのではなく、いわば守備が攻撃に組み込まれているチームだ。それを最も簡単な言葉で表せば「攻守一体」という事になるのだが、サンガにとっての攻撃と守備はセットのようなもので、(中略) それを強みと捉える時、それを斜に構えて見ようとは思っていない。

ただサンガは極端なまでに攻守一体のチームだったからこそ、それが弱点になるケースも多かった。…ケースも多かった、ではない。極端な攻守一体はサンガの勝因と敗因を、そして長所と短所を一つに内包していた。

「攻守の切り替え」という言葉は…それが単に守備から攻撃への移行という意味であれば、攻守が一体化したサンガはそれをスムーズにやれていた訳で強みと言えるだろう。ただ、その言葉が攻守一体を意味するのではなく、あくまで"攻撃"と"守備"という異なるフェーズを行き来する時の切り替えを意味するのであれば、むしろそれはサンガができなかった部分であり、そして弱点ですらあった。詰まるところ、攻守一体を突き詰めた結果、サンガは攻撃の開始地点に何かしらの守備が無いと発車できないチームであり、守備とは全く別のフェースである"攻撃"を出来るチームではなかったように思う。前線でのアイデアやクオリティ不足を素人目でも感じる場面が多かったのはそれゆえだろう。

翡翠の傾き〜京都サンガFC 2023シーズン振り返り総括ブログ〜第2話 イントロとスイミー -RK-3

 

この時はあくまで攻撃面について書きましたが、これは守備の面でも同じ事でした。

つまるところ、サンガはハイプレスやボール奪取がそのまま攻撃に繋がるという意識一本勝負でやってしまうような状況になっていた事から、例えば相手チームにワイドに展開に展開されれば、リスキーな状況でもプレッシングが先行してしまう事で守備体形がぐちゃぐちゃになってしまい、エリア内でゾーンで守るのか人につくのかの判断や役割分担でさえ曖昧になってしまう。そこで取り切れれば形勢を戻せる事もあるんですけど、それはそう都合良く何度も起こるものではなく…。

ましてやJ1も3シーズン目ともなれば「サンガ相手にはこうしておけばOK」みたいなものが相手にチームにも大体浸透する訳ですから、今季のサンガがそこから逃れる為にやった事は「それをより極端にやる」みたいな部分でしたので、前半で点を取りきれなければ空回りにも似た状況になり、徐々に崩れていく歪みは乗数的に大きくバランス崩壊に歯止めが効かなくなってしまう。4月ごろに「前半は良かったのに後半ギタギタにやられた」という試合が多発したのはこの部分が大きいと思います。そういうスタイル自体は悪くないとは思わないし、それを徹底してやれる事自体は強みだけど、あまりにも一本槍になり過ぎている…と。

 

 

 

ただ、現に何試合か「前半のうちに点が取れていれば…」という試合は確かにあっただけに、こういう書き方をすれば問題点はすごくシンプルにも感じるんですけど、サンガにとってそういう極論なBoS理論は実際にちゃんと武器にはなっていたという事で、問題はそれ自体ではなく勝ち筋がそこでしか求められない状況になっていたという部分でした。難しいのは、そういうチームの場合は単純に守備的に舵を切れば問題が解決する訳ではなく、むしろ今の強みを吐き出すだけになって、長所と短所の振れ幅が激しいスタイルから長所を削ぎ落としただけ…という結末を迎えるに可能性もある訳で。だからバランスの調整は簡単そうに見えてどの世界でも難しいものなんですけど。

 

 

 

で、やっぱりきっかけは町田と浦和に0-3でボコられてから迎えたあの問題の第15節広島戦だったと思います。あの広島戦から、やっぱり曺監督も上で書いたような「強みを失う恐怖」とかを考えていられる状況じゃなくなった。あそこからバランス調整に早急に取り組まなければならない逼迫感は生まれたのでしょう。

こうやって書くと「なんか普通のことしか書いてなくねえ?」みたいな感覚が出てきますが、 結局のところサンガの場合は「無闇にプレスに行かなくなった」という事が全てでした。正確にはプレスの強弱を切り替える基準線を作るようになった…というのが正しい表現でした。広島戦の翌週に行われた第16節名古屋戦以降、サンガは明確にプレス強度を3フェーズに分けるようになったんですね。組織図でいうところの20-60-20的な配分で。

最終ラインはなるべくボールを取り切らずに外に追い出していくような守備を心掛けて、コーナーエリアで相手が詰まった時に初めて潰しに行く。逆に中盤は、50/50なルーズボール以外は一度ステイして様子を見るようにする。その代わり、チームとしてコンパクトな陣形を保ちながらラインの上下はこまめに、そして全員が連動してやる事で、選手個人ではなくチームとボールが低い位置にいるのか高い位置にいるのかを全員が共通認識できるような隊列を維持する事で、逆に相手がGKを絡めたビルドアップを始めればこれまでサンガが強みとしていたようなハイプレスを敢行してチャンスに結びつけていく……。綱引きの真ん中の紐がどっち寄りなのか、みたいなところをチーム全体で共通認識できるような陣形を保ち、それを踏まえてプレスの強弱を使い分けられるような調整がここ1〜2ヶ月で急激にできるようになってきたんですね。これまでは「ハイプレスをかけ続けるチーム」だったサンガが「ハイプレスをカードとして切れる」というチームになったのかなと。

現に、サンガが久し振りの勝利を挙げた第18節札幌戦の後には川﨑颯太がこういうコメントを発していました。

 

自分1人で頑張って相手を追うのではなく、チーム全体で追うことができたので、キツくて走れないようなものではありませんでした。後半に体力的にキツくなったときに1人で頑張り過ぎちゃって、1人で追いかけて簡単にプレスを外されることがなかったです。今日は全員が良い距離感でボールを奪いにいって、もしプレスを外されたとしても全員で戻って、ボールを奪ったら全員で押し上げる。味方との距離が良かったからこそ、1人で無駄に走ることは少なかったです。いまはプレスに行くとき、いまは引いて耐えるとき、という意思疎通が今まで以上にとれていました。今日は後ろからの声が本当に出ていたし、前の選手も最後まで頑張って追いかけてくれました。

(中略)

競り合ったあとのカバーリングも声をかけ合ってやれました。今日は守備の曖昧さがなかったし、この集中力ならそう簡単にはやられないなという感触はありました。

京都vs札幌の選手コメント-Jリーグ公式サイト

 

6月頃まではまだ意識しようとしながらも浸透できていない、これまでの感覚が抜けていないところがありましたが、意識だけは持とうとした中で取り組み始めた名古屋戦でどうにか勝点1を取れた事、6月から白星先行に転じた事でチームとしてもやり続ける根拠になっていたように思います。

これに関してはやっぱり、ちょうどチームとしてそういう意識を明確に持ち始めた段階で鈴木義宜の状態が上がってきた事が大きかったです。サンガのCB…麻田将吾にしてもアピアタウィア久にしても、そして本職でないにも関わらず出色の働きを見せる宮本優太にしても、チャレンジorカバーで言えばチャレンジのタイプであり、自分が動く、人に当たっていくタイプのCBです。それに対して鈴木は自分が行くのでは人を動かせるタイプのCB。要はチームがそういう意識を持ってプレスを考える中で、それが少し崩れてきた時に鈴木は声で修正を入れる事ができるんですよね。「今はプレスに行く時じゃない」「いや、今はむしろチャレンジしろ」…鈴木も負傷離脱が続いていたので復帰直後は苦しい時期もありましたが、6月頃からは素晴らしいパフォーマンスを見せていますし、最終ラインの司令塔を得た宮本やアピアタウィアもこれまで以上のパフォーマンスを見せていますし。…一応、クラブもそこは開幕前の時点で多少自覚はあったと思うんですよね。だからスズキを獲得したんでしょうし、6月に行われたサポーターカンファレンスで安藤淳強化部長が「開幕前に鈴木が負傷離脱した事で出鼻を挫かれた」と漏らしたのは偽らざる本心ではあるんだろうなと。

同時にこれは、一旦待つ事で個々の選手の役割、或いはやるべき事の整理ができる時間にもなるんですね。例えば相手に強力なFWがいた時に、そこにはアピアタウィアをマンマーク気味に付ける。じゃあアピアタウィアがCBの位置から離れた時に誰がそこを埋めるのか?競り合いのこぼれ球を誰が拾いに行くのか?と。ましてや第23節浦和戦からは米本拓司も加わった事でプレスの強弱の調整だけでなく、より「俺が俺が」の守備から誰が誰を潰すか、誰がそれをフォローするかをクリアにできるようになった。本来であればそれこそ麻田あたりにそういう仕事ができるようになって欲しいんだけどという気持ちもあるんですが…。

 

 

 

ただこればっかりはまだサンガにとっても「守備が良くなったよ!」でめでたしめでたしと締めれるほど薔薇色の話ではなく、まだまだ守備の全てが改善したとは言えないのが実情です。

サンガの守備のバランスが解決したのは、あくまで両陣営のアタッキングサードとミドルゾーンのピッチを縦幅に捉えた時のエリアでの状況判断であって、これが横幅になった時……つまるところ、ワイドにボールを動かしてくるチームへの対応はまだ甘いと言わざるを得ません。8月唯一の黒星となった第26節新潟戦は非常にわかりやすい例で、ピッチを広く取られた時の行く・行かないの判断、そこを剥がされた時のリカバーの仕方はチームとしてまだ共有しきれておらず、新潟戦だけでなく、勝ったとはいえ第27節C大阪戦の終盤であったり、WBを高い位置でプレーさせてきた第18節札幌戦第25節名古屋戦でもその部分に苦しんだ(名古屋戦はどちらかと言えばビルドアップの拙さを名古屋に上手く露呈させられた感はあるけれど)。特に新潟戦は一見すると「出来るようになった事がまた出来なくなった」みたいな感覚を覚える守備ではありましたが、あれはどちらかと言えば「守備は良くはなっているけど新潟みたいなタイプのボールの動かし方への対応はまだ出来ていない」という方が正しい。この部分はどうにか修正して欲しいところです。

 

【後編「②攻撃出力を最大化する2つの起点とエリアス効果」「③なんやかんやで…」はこちら

 

ではでは(´∀`)