【当ブログは前回の続きですので、前編から読んでね!前編はこちら】
さて、今回も前回と同様に夏のサンガが如何にして持ち直し、巻き返し、危険水域を一旦脱したのか。サンガは何が良くなってこうなったのか……を考えていきたいと思います。分析というよりは考察くらいの感覚のブログですので、分析記事とか読むの難しい…というお方もぜひに。
【おしながき】
①極端すぎるBoS理論からの脱却と"攻"と"守"の局面への調整(前編)
②攻撃出力を最大化する2つの起点とエリアス効果
③なんやかんやで…
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②攻撃出力を最大化する2つの起点とエリアス効果
前編では「守備のペース配分の調整」「待つ意識の醸成」による守備の改善を話してきましたが、前編で述べたようなサンガの長所にして短所となっていた「極端すぎるBoS理論」からの脱却は攻撃面にも大きな影響を与えていました。
前編の繰り返しになりますので前編を先に読んでいただけると話が早いのですが、サンガの基本コンセプトは「極端すぎるBoS理論」…すなわち「極端なほど攻守を一体化させる」という部分で、相手からボールを奪う事をそのまま攻撃に繋げられるシステムにする、と。それ自体はサンガの強みだったと思いますし、武器にはなっていました。ただサンガの問題はその一本槍で戦っていた事であって、ボール奪取からのカウンターでの得点シーンが多かったサンガは「攻守の切り替えに長けたチーム」と呼ばれる事が多かったですが、厳密には「攻撃と守備をひとまとめにしているチーム」であって、そもそも攻撃と守備を切り替えるという概念が無いチームだった…と表現した方が正解だったんですね。
だからこそ、サンガは守備と攻撃を直結できるような高い位置でプレスを仕掛けられる状況を作れる試合ではチャンスも多く作れたけれど、そうじゃない試合展開…… 攻撃フェーズと守備フェーズに分かれた時…一体化した攻撃が切り離される、攻守を切り替えなければならないような試合展開になれば、オープンな展開に持ち込む以外に攻め手がなくなってしまっていた。要は守備と一体化していない攻撃、ある意味では「攻撃としての攻撃」が出来ないチームでした。今季は中盤でボールを持ってもその出し場に困るだとか、原や豊川にまでボールを回せない、それによって原や豊川はサイドによって無理矢理ボールを奪いに行き、そうすると今度は中に誰もいない……。豊川雄太のゴラッソ大放出に救われた場面は多々ありましたが、今季は特にそれが顕著でした。
ただ6月に入ると豊川を筆頭に複数名の負傷や川﨑颯太のパリ五輪出場に伴う離脱もあってスタメン再編を迫られる形になった訳ですが、この辺りのタイミングで先発に入るようになった平戸太貴、マルコ・トゥーリオ、福岡慎平の3人がその状況を打開するキーマンでした。特に平戸とトゥーリオはめちゃくちゃ大きかったです。
基本的に平戸は、例えば川﨑や松田天馬辺りと比べてアジリティに長けたタイプの選手ではありませんが、彼の場合は七色の軌道を描くようなキック精度とバリエーションを持っており、それと同時に平戸のところでスピード調整をできるんですよね。そこに関しては武田も似た資質を持っているんですが、やや低い位置でそういうプレーをする武田に対し、平戸は高めの位置でペース調整を行う事ができる。要は「カウンターが行けそうか、無理そうか」の計算がある程度ハッキリしたところで平戸がボールを持つので、平戸はそこで現状のベターな選択肢を選ぶ余地を持てて、本人も状況に応じてハイテンポとスローテンポを切り替えられる…と。
平戸がしっかりそういうプレーをしてくれるおかげで、ちょうど前編で書いたような意識にチームとして取り組み始めた事から、3トップの面々も平戸の動きを踏まえた上で自分の身の振り方を調整するような事が出来るようになってきたと思います。平戸がそういう動きをする事で、サンガは「攻撃のフェーズ」としての攻撃をしっかりと開始できるようになった…と。同時に最近では福岡がアンカーに定着した事も大きかった。福岡は元々技術をしっかり持っている上に、今の自分がやれる最大値と限界値をしっかりと把握した上でプレーできる選手なので、今やれる攻撃、今やれる守備のジャッジが最近は特に研ぎ澄まさせれていきている。そこで良い具合にスペースを埋める、平戸や米本に対してうまくパスを散らしていける……こかにクレバーさとファイター加減を併せ持つ経験豊かな米本が入った事で、まずサンガは中盤で劇的にゲームを作れるようになりましたし、中盤を攻撃フェーズのスタート地点として運用できるようになった。この構成力の向上は劇的な変化でした。
とはいえ、サンガとしてはやはり原や豊川、後に加入するエリアスにはフィニッシュワークやエリア内での仕事に専念させたい。そこでポイントになったのがトゥーリオの存在でした。
別にトゥーリオって急に化けたとかそういう訳じゃないんですよ。元々オーストラリアで結果を残してJリーグに来ましたし、試合の性質上当時は言及を避けていましたが、開幕前に行われた長野と練習試合での第一印象は「全体的に巧い選手」「器用な選手」というものでした。ファーストタッチのコントロールとか、あの試合では真ん中でのスタートでしたが原や豊川に合わせて左右にポジションを変えていく感じとか。ただ、そういう器用さはとにかく原のようにわかりやすいストロングや豊川のようにどこからでもゴラッソを叩き込めてしまう選手でもない限り、サンガの攻守一体スタイルの中では埋没してしまうというか、トゥーリオのプレーの幅の広さはどうしても器用貧乏的にになってしまう部分があったんです。
それが今は中盤で一度ボールを持てる状況をチームが作れるようになった事で「中盤と最前線の間にいるトゥーリオ」としての価値が高まったんですね。左WGに原を置いているだけに、なおさらトゥーリオの右WGながら1.5列目的な働きが輝くようになって…と。要は選択肢がグッと広がったんですよ。例えば平戸がボールを持った時に、原やエリアスがスルーパスを受けられる状況ならそこに行ってしまうのが一番良い。でもそうじゃなかった時にトゥーリオが彼らの間にいるのでそこにパスを託す事ができる。ファーストタッチに優れたトゥーリオは状況自体でそのまま抜ける、或いは原やエリアスへのパスコースを創出する事もできますし、キープ力とパスセンスもあるのでインサイドでボールをキープしながら右SBの福田心之助のオーバーラップを待つ…とか。平戸やトゥーリオがボールを持った時の選択肢が劇的に増し、そして彼らがその中からちゃんと選ぶ作業をできるようになった。不思議なものです、そういう循環が出来れば福田がサイドを抜け出すとか、福岡が空いたスペースに飛び出してミドルシュートを放つだとか、そういう事が連鎖的に出来るようになってくるんですね。
加えてサンガはエリアスを補強し、サンガ史上に残るほどの真夏の救世主っぷりを発揮している訳ですが、エリアスの加入で大きかった事はもちろん得点能力が第一なんですけど、エリアスは絶対にニアサイドを詰めてくれる…というところなんですよね。
エリアスは徹底してニアサイドに入っていってくれるんですよ。それをエリアスがやってくれる事で、より上背のある原をファーサイドに置く事ができる。そこは3トップとは言ってもトゥーリオを1.5列目的にした変則2トップみたいなところもあるので、2人が上手い具合にポジションを変えていける。エリアスがニアに突っ込み、原がファーに開く。そうする事で当然クロスを上げる側はどちらに入れてもよくなりますし、逆に相手DFはどちらにつくべきかの判断を迫られる。それと同時にエリアスと原が空けた中央のスペースやマイナス気味のエリアに中盤の選手が飛び込んだっていい訳です。前線の守備でもそうですが、エリアス効果は得点のみならずエリアスがそういう細かい動きを徹底してやってくれているというところが非常に大きい。今、まさしくサンガの攻撃陣は「全てのピースがハマった」と言えるだけの状況になってきたなと思います。豊川が離脱した時は本気で焦りましたが、まさか今となって豊川が出れるかどうかわからないほどの前線事情になっているとは…。
③なんやかんやで…
もし今の好調がシーズン終盤まで続いて、少なくとも勝点の上では可能性が無いことはない一桁順位でフィニッシュ…とまで行けば話は別ですが、現状の順位で終わった場合、少なくとも今季をトータルとして評価する事は難しいと思います。
まず大前提として、どう小さく見積もったとしても戦力値で言えばサンガは少なくとも下3つに入るような戦力ではなく、こと残留争いに於いて「戦力不足」を嘆けるチームではない。ですので今シーズンが終わったとて、評価のテーブルには5月までの惨劇も等しく乗せる必要がある…と。回りくどい言い方をせずにストレートに言えば、残留や後半戦の浮上を額面通りに受け取る形で曺貴裁監督を続投させる事は危険な判断だと思いますし、クラブはそこは慎重に考えなければならない。機械的に続投させるのではなく、続投させるならそれに上乗せ出来る要素でもって判断する必要がありますから、別問題とまでは言わないですけど、クラブ側も進退については「それはそれ、これはこれ」として考えなければなりません。もちろん、しっかり精査して考えた上での続投ならクラブの判断として良いと思いますし……なんならそもそも、まだ全然降格の可能性もありますからね。2022年清水とか、残留はしたけど2023年G大阪のような事例もある訳で。
個人的にも……正直、問題の広島戦の後は「監督交代も考えるべきでは…」と思っていました。基本的に脊椎反射的に解任を叫ぶ事はしたくない立場ですし、3〜5月の時点でも選択肢としては常に持ちつつ、後任人事を含めた途中解任のリスクを無視して解任してほしくないと思っていたのが私の立場というか考えでしたが…広島戦の後、或いはその前の浦和戦や町田戦にしても、サンガの場合は「あれができない、これができない」ではなく「これまで出来ていたことさえも出来なくなっていた」…と。この症状が起こってしまうと、それはさすがに解任がリアルな選択肢になる水準だと思いますし、この時期のサンガは実際にそこに足を突っ込んでいたように見えたんですね。ここまで達すると…監督交代でもして詰まった栓を切る以外の選択肢もそんなに無い気もしますし。
監督や現体制を否定するつもりはない。
— RK-3 (@blueblack_gblue) 2024年5月19日
築いたもの、培ったものは磐田戦の前半までは表現できていた。そこを肯定的に捉える事が間違いだとは思わない。
ただ今は出来ていた事が出来なくなっている。それはある意味では一番深刻な状態だよ……明確に山の下りを走ってしまっている状況な訳で……。
ただ繰り返しますが、あの状況になった事が問題である事は大前提としても……あの状況からここまでチームを盛り返させた事、あの状況からギリギリで空中分解を防いだは素直に凄いと思いますし、あの状況からチームの精神面はしっかり繋ぎ止めていた、そこからのバランス調整をやらせるだけの求心力を持っていた曺監督の凄まじさを同時に見たような4ヶ月だったように思います。
これは現在の北海道コンサドーレ札幌、というかミハイロ・ペトロヴィッチ監督にも言える事でしょうけど、あの状況から、少なくとも練習場でのチームの和は決壊させなかった求心力とメンタル面へのマネジメントは彼らが異能たる部分なんだろうなと。時としてそれが盲目を生んでしまう要因になるところは考えものではあるのでしょうが、その求心力はやっぱり監督にとっての能力であり、武器である。それが最も危機的な状況になって強い意味を持ったのかなと。そこはやっぱり素直に評価されるべきポイントでしょう。
上でも書いたように、サンガにはまだまだ降格の可能性は全然ありますし、ここから連敗を喫して降格する…まるでこのブログを書いた事自体が盛大なフラグになる可能性だってあるでしょう。あの0-5に至るまでの要因を無視して物事を語る事はできない。しかしながら、あの0-5からここまで立ち直った、あそこでチームとして空中分解させなかった事は素直に素晴らしかった。7〜8月の試合の勝ち方によく見られるものでしたが、そこは京都サンガが30年間の歴史の中で見たことのないリバウンドメンタリティの発露だったと思います。これまでのサンガは序盤戦で一度降格圏に沈むと、そこから全く這い上がって来れないままJ2に沈んでいってしまった……そういう歴史を繰り返してきただけに、長くこのクラブを見た人ほど「ああ、2000年も2003年も2006年も2010年もこのパターンだったなぁ…」と思った人は多かった事でしょう。しかし、この先の結末がどうなるかはその時までわかりませんが、少なくとも2024年はそれらの轍とは違うところを走っている。福岡戦の勝ち方、名古屋戦の逆転勝利……このこれまでの歴史と少し違う軌跡が、このクラブにとってハッピーエンドに着地する事を祈って残りの3ヶ月を楽しんでいきたいです。
【前編「まえがき」「①極端すぎるBoS理論からの脱却と"攻"と"守"の局面への調整」はこちらから!】
ではでは(´∀`)