
【前回までのあらすじ】
「3年間残ったことでJ1は借りているマンションではなく、自宅になるという感覚。過去3年間はそこまで熟成された感じはなかった」 「明確に違うのは“タイトルや優勝が見える”“自分たちが近づいてきた”という実感があること」──曺貴裁監督がそう位置付けた2025年シーズン。確かな事は、もうサンガは目標の一丁目一番地に「絶対残留」を置けないというところだった。開幕戦こそ昂る期待感に冷水を浴びせるようなゲームとなったが、ホーム開幕戦となった浦和戦ではスコアこそ引き分けながら、今後に期待を抱けるゲームを披露。もっとも、その時期はまだ2025年に拡がる景色の一端さえも想像できていなかったが──。
【その壁は前日譚〜京都サンガFC 2025シーズン振り返り総括ブログ〜】
第1話 NEW STANDARD(2024.12.8〜2025.2.22)
第2話 見たことのない景色(2025.2.22〜2025.7.21)
第3話 歩いたことのない道(2025.7.21〜2025.9.23)
第4話 2025.10.25(2025.9.23〜2026.2.6)
【過去の京都サンガFC シーズン振り返り総括ブログ】
【2025年のJリーグを振り返る記事をまとめたページを開設しました。随時更新していくので是非!】
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シーズンを終えた時の印象とは異なり、京都サンガ2025の開幕ダッシュは芳しいものではなかった。
この試合がJ1デビュー戦となる岡山を相手にした開幕戦は0-2で敗れて不覚を取り、第2節浦和戦と第3節神戸戦はいずれて先制してから追いつかれての1-1でドローに終わる。特に神戸戦はサンガの初勝利目前のラストプレーでネットを揺らした大迫勇也のシュートがVARでノーゴール判定された次のプレーで追いつかれるショッキングな同点劇だった。第4節川崎F戦こそ奥川雅也の復帰後初ゴールで1-0で初勝利となったが、これはJ1復帰後では最も遅い初勝利である。そんな初勝利を連勝に繋げたいさんがだったが、続く第5節福岡戦は"対サンガ"というところの戦いぶりを強く意識していたように映った相手に0-1で敗れてしまった。
1勝2分2敗……開幕5試合を終えた時点でのこの数字は、最終的に入れ替え戦出場を余儀なくされた2022年、降格危機が現実味を帯びるほどの不振に陥った2024年の開幕5試合と同じ結果である。加えてキャンプで負傷した福田心之助がまだ復帰できていない中、神戸戦ではマルコ・トゥーリオが負傷退場。昨季後半戦のインパクトから「エリアス/原大智/トゥーリオの3トップを擁するサンガ」をダークホースとして挙げる解説者もいただけに、早々にその一角が崩れたサンガの行く末を不安視する声はサンガのファンからも出始めていた。
近そうでまだ遠い初勝利 https://t.co/ghRK3ObDqA pic.twitter.com/ee4S7lL6eu
— RK-3 (@RK3_gsgb) 2025年2月26日
とはいえ個人的には……敗れた2試合に関しては内容面でも物足りないものがあったが、勝点を取った3試合…特に初勝利となった川崎戦以上に、浦和戦と神戸戦の内容は、低く見積もっても"勝てない"という結果の印象ほど悲観するものではないとも思っていた。尤も浦和戦と神戸戦がサンガにとって"勝点3を獲れる試合展開"で、そのゲームを取りこぼして未勝利が続いた事へのダメージという点では不安だったが、少なくとも昨季後半戦の躍進を単なるブーストでは終わらせず、昨季後半戦のスタンスを踏まえた正しい成長、正しい強化ができている……できているかどうかを開幕数試合で判断するのは無理があるが、やろうとしている事は感じさせられた。

浦和戦は「曺貴裁京都が得意とするパターンでの試合」としてわかりやすいゲームだったと思う。基本的には、イメージしやすい曺貴裁京都のサッカーが機能した試合として進んでいった。試合後にサッカー解説者の小澤一郎氏が自身のYouTubeで「3トップの2/3が助っ人外国人でどう手懐たらあそこまでハードワークを徹底させられるのか」と称賛のコメントを出していたが、その点も含めて長所を押し出せた試合だったと言えるだろう。同時に、岡山戦では出せなかった「昨季の良い時のサッカー」が出来ていた事はそうなのだが、昨年やそれ以前と比べても違いというか洗練された部分はいくつかあった。わかりやすいのはやはりボールを奪った後の質で、これまでは良くも悪くも極端なシームレス、カウンターでそのまま行き来る事を徹底していたが、中盤に平戸太貴と福岡慎平というボールを持てる選手を置いた事で、ショートカウンターを最優先にしながらあまり差し止めそうにない状況の時に戻す選択肢を持てるようになっていた。なにより3トップにはあの3人がいる訳で、ボールを奪った後の質で言えば、あの時点で十分にリーグ屈指のものを持っていたと言えるだろう。
浦和戦が攻撃面で昨季からの継続とブラッシュアップを見せた試合だとすれば、神戸戦は守備面での変化を見せてくれた試合だった。これまでのサンガはハイプレスを緩めない事を美徳とし、その尖ったスタイルは"J2クラブ"だったサンガをJ1に残留させたが、サンガが"J1クラブ"となった時に仇となった。それが最も如実に現れたのが2024年の前半戦だったのだろう。しかし昨季の後半戦でバランス調整を施したサンガは、今季はより「ハイプレスを仕掛けるエリア」「ミドルブロックを組んで構えるエリア」をチームとして共有できるようになっていった。その辺りは須貝英大のヒットが大きく、彼はサイドで1対1の状態から取り切る守備であったり、少々分が悪い局面でもサイドに追い込むとか味方が加勢する時間をつくるような対応ができる選手だった。次の川崎戦から復帰した宮本優太が広範囲をカバーし、鈴木義宜がコントロールタワーとして君臨する。その守備のバランス感覚は神戸戦の時点でそれなりの完成形を見せていたと思う。
要は今季のサンガにとっての大きな要素は昨季後半の形をベースにするという意識を強く持てた事で、昨季後半の良い部分をしっかりと引き継げたところでした。その最たる例が守備陣のハイプレスとミドルプレスを使い分けるようなディフェンスで、基本的には鈴木義宜を司令塔にDFラインを揃えながら、初手からチャレンジするのではなく一度しっかりとブロックを組むところからスタートする。そこからハイプレスではなくミドルプレス気味に相手をサイドに追い詰めながら、対峙したSBがデュエルの状況に持ち込んだタイミングで中盤の選手がカバーする。これで安易に翻されるような場面は今季は昨季後半以上に激減。今季のサンガは落ち着いた状況にしてからサイドに追い込み、デュエルの構図を作って1対1が噛み合ったタイミングから中盤が加勢してハイプレス気味の守備を展開する…という連動がすごくうまくできている。特に「サイドに追い込んでデュエルの状況に持ち込む」という点では、そういうプレーを強みとする須貝英大の守備は福田心之助や佐藤響にも良い影響を与えていると思いますし。
ここで大事なのは、サンガはあくまでハイプレス・ハイラインを捨てたとかそういう訳ではないんですよね。例えば相手守備陣がGKを含めたビルドアップを始めた時はこれまでのように3トップから果敢にハイプレスをかけにいきますし、中盤での激しい攻防からショートカウンターに持ち込むようなプレーも残っている。要はこれまでハイプレス一辺倒だったところを一度守備陣の状況を落ち着かたところからスタートする事で、これまでの特徴だったハイプレスを「カード」として使えるようになった。これはこれまでの尖っていた部分を継続的な強みとする為に必要なバランス調整だったと思いますし、チームとして「チャレンジするべき場面」と「ステイするべき場面」を使い分けるタイミングをチームとして共有できていて、そのチーム全体がそのタイミングに呼応した動き方ができる。これは元々ハイプレス・ハイラインの意識の徹底に見られるように「チームとして意思を統一すること」はこれまでのサンガが培ってきたものですから、新しい戦術ではなくこれまでやってきたことの応用、第2段階として取り組めたことが大きく、何よりミッションを司令塔として完璧にこなした鈴木義宜には頭が上がらないです。
その上で曺監督にとっても、本人が元々どこかでフェーズ転換をしないといけないと思っていたのか広島戦でやらざるを得なくなったのかはわかりませんが、湘南時代のように毎年主軸が抜かれる状況ではそう簡単に移行できなかったでしょうし、曺監督としてもチーム作りに於ける初めてのフェーズに突入したんじゃないでしょうか。
神戸戦は精神的ダメージも生じそうな同点劇だっただけにそうポジティブに切り替える事は試合直後は難しかったが、振り返れば去年と比較した2025年のサンガの継続性と変化は浦和戦と神戸戦の2試合の時点である程度示されていたのだ。となると、後は今季のスローガンでもあった"ブレイクスルー"の時を待つ……というよりも、内容の手応えと裏腹に勝てない時期が続く事は、考えようによっては純粋なスランプよりも苦しかったりする訳で、なんとしてもその瞬間を早急に掴まねばならなかった。
号砲を告げたのは、芳しくない内容で敗れた福岡戦の重い空気を燻らせながらアウェイに挑んだ第6節清水戦だった。昇格組ながら昇格組感があまりない清水のホームスタジアムはサンガにとって、歴史の中でリーグ戦で一度も勝利した事がない。その場所で挑んだ一戦を2-1で取ったところからサンガは歯車が一気に噛み合い出していく。この試合では59分のタイミングで米本と平戸のインサイドハーフを川﨑とペドロに入れ替える采配を見せたが、これもまた今季の選手運用として確立されていく契機になったように思う。
清水戦で上げた号砲は第7節広島戦でブレイクスルーの瞬間を迎える。今季は優勝候補本命とも目された広島はリーグでも無敗を維持していたが、ラファエル・エリアスのゴールとGK太田岳志の相次ぐファインセーブによりサンガが1-0で勝利。監督自身が折に触れて述懐するように、このチームの流れを語る上で昨季のホームでの大敗は避ける事ができない。今季の有力候補かつ、サンガにとってターニングポイントを与えた相手に収めた勝利はブレイクスルーの瞬間としてこれほど相応しいものは無かったのだろう。続く第8節柏戦は勝利こそ逃すも90+8分に追い付く粘りを見せる。それはこれまで終了間際にすこぶる弱い印象しかなかったクラブが手にしたことのない胆力に触れたような気分だった。
そしてなんといっても決定的だった試合は第9節鹿島戦である。この試合を見てサンガファンも、サンガファン以外も「今年のサンガは様子が異なる」という自信と恐怖を持ったのではないだろうか。前述のアウェイ清水戦はカップ戦では勝利経験があったが、カシマスタジアムはそれさえもない。このスタジアムはサンガがJ1で初めて得点を奪った場所だが、その試合も1-5……Jリーグに入って30シーズン目の2025年を迎えたその瞬間まで、サンガにとってカシマスタジアムは勝ちを想像できない場所だったのである。その上で鹿島は2023年10月からホームでの無敗記録をJリーグレコードとなる27試合まで伸ばしている。そんな難攻不落という言葉がこれほどまでに際立つシチュエーションもないほどの試合は、サンガにとってこの勢いが一時の好調か、文字通り今年のチームが行けるのかどうかを測る場でもあったのだが、サンガは前半を完膚なきまでに攻められて2点ビハインドで終えてしまい………こればっかりは文で表現するには限界があるのでハイライトで見てほしい。
「 一言で表すと今日は強かったです」と曺監督に言わしめた第10節湘南戦を制すると、クラブW杯の関係で前倒し開催となった浦和戦こそ敗れたが、敵地での新潟戦は前半に先制を許しながらも、積極的な交代策も功を奏して73分にエリアス、86分に奥川のゴールで逆転勝利。この試合を終えた時、サンガが見たものは今までに「見たことのない景色」だった。
そりゃ暫定やけどもや
— RK-3 (@RK3_gsgb) 2025年4月19日
なんなら2試合多い立場やけどもや
20年応援してきて、ゲームとJ2以外で上に誰もいない順位表を見ることなんてなかったから… pic.twitter.com/IJF7pCqywc
尤も、前述のようにサンガには前倒し分の試合があったので他クラブよりも1試合多く、これは暫定順位であって正式な首位ではない。だがそれでも、京都サンガというクラブは過去に一度もこの領域に辿り着いたことなどなかった。それは松井大輔、パク・チソン、黒部光昭を擁した、このクラブにとってアンタッチャブルレコードとさえ思われていた2002年でさえも。クラブ名の左に掲げられた①の数字、サンガの上に誰もいないその場所、ニュースサイトに踊る"首位京都"の文字…その全てがサンガにとって知らない歴史、初めて見る光景、長年妄想でしか描けなかった場所だった。
今年のサンガは違う──広島に土を付けただけなら一過性の好調と見做されたかもしれない。だが広島戦の後に鹿島戦を見せられた時、それは確信めいた感覚に包まれて、そしてその感情に至らしめた試合が鹿島戦だった事が、この軌跡がどこか運命めいたものだった事を思い知るのはまだ少し先の話になる…。
2025年の前半戦はずいぶんカオスな展開となった。
最初に開幕ダッシュを決めたのは開幕3連勝かつ開幕5戦無敗を達成したの湘南ベルマーレだったが、彼らは第6節での初黒星以降は黒星先行となり、徐々に下位へと沈んでいく。逆に4月に躍進したのはアビスパ福岡。湘南とは対照的に開幕3連敗を喫したが、そこから2度の3連勝で7戦無敗。第10節横浜FM戦の勝利でクラブ史上初の首位に立ち、一時は「1位と2位が京都と福岡」という状況がリーグのカオスっぷりを如実に示す結果として話題を呼んだが、7戦無敗の福岡は今度は9戦未勝利という状況に陥る。序盤戦の主役とも呼ぶべきこの2チームだったが、湘南は最終的にJ2降格の憂き目を見て、福岡は残留争いには巻き込まれなかったものの、上位争いに戻ってくることはなくシーズンを終えた。
流れとしては、湘南の失速と入れ替わるように福岡が台頭し、福岡に少し遅れてサンガが上位に上がり、福岡が失速し始める…という推移を辿っていただけに、サンガが湘南や福岡の轍を辿ってしまう予想はしやすいと言えばしやすかったと思う。特に第15節町田戦からエリアスが欠場し、その試合では原も負傷退場となった事で、昨季から強いインパクトを放っていた看板3トップが全員離脱という自体に陥ってからは尚更だろう。実際に第13節G大阪戦では"対サンガ"的なところをG大阪に突かれて敗れた事もその予感に説得力を与えていたし、C大阪戦は序盤に2点を先行しながら逆転負けを喫する展開となっていた。
しかしサンガの進撃はむしろここからが本番だった。湘南と福岡の流れがあった中で、サンガは最後まで……9〜10月は失速と言えばそうなのだが、最後まで上位争いを走り続けた事は高く評価されるべきポイントだと思う。チームが連敗中かつ、エリアスが欠場し、原も前半に負傷退場となった町田戦は、昨季はシーズンダブルを喰らった相手に前半をビハインドで折り返しながらも、途中出場の平賀のゴールで追い付けば、ラストワンプレーで福田が復活弾とも言えるミドルを叩き込んで逆転勝利を収めた。6月に入るとトゥーリオや原が戦列に復帰するようになり、ここから7月最終戦となる第24節福岡戦までの間の連勝こそ第22節G大阪戦と第23節新潟戦の2連勝が1回だけだったが、逆にこの期間の間で敗れた試合も退場者を出した第18節東京V戦のみで、町田戦から福岡戦まで2試合連続で勝利を逃す事もなかった。
特に印象的だったのはアウェイに挑んだ第21節柏戦だろう。2位柏を勝点差3で追う3位サンガの構図で迎えた優勝争いの直接対決。サンガと柏は2年続けて共に残留争いを強いられた2チームながらこの年は両者ともに躍進したという共通の背景を持ちながらそのスタイルは真逆で、そのプロセスも新監督にリカルド・ロドリゲスを迎えてスタイルを刷新させて躍進した柏と、曺貴裁体制を貫き継続と発展で躍進したサンガという異なるルートで上位に殴り込んだという共通点と対比に興味深さを覚える構図だった。
前半は柏のポゼッションサッカーにサンガは振り回される格好となり先制を許す。一度は米本の同点弾で振り出しに戻したが、直後に勝ち越されて1点ビハインドで前半を終えた。しかし後半から長沢と奥川を投入すると後半開始早々に原のクロスに合わせた長沢のゴールで同点に追いつき、試合自体も前半の振り回される展開から一定以上の改善を見せてイーブンな展開に持ち込む。しかし柏も柏で強烈な攻撃力を見せ、上位対決は壮絶な展開へ。74分には原田亘のゴールで柏が3度目のリードを奪えば、サンガも84分には奥川のクロスボールにファーサイドを走った川﨑が決めて3度目の同点弾。柏にとってもサンガにとっても…激闘を終えたピッチには去年知らなかった強烈な余韻が残り、それは追い付いた立場かつ、そんな景色をクラブの歴史全体で知らなかったサンガの方がより顕著だった。

柏戦は3度追い付いたという粘りもそうだが、ほぼ完敗ムードだった前半から後半に内容を好転させた事も評価に値する。何より曺貴裁京都はこれまでわかりやすい"前半勝負型"のようなチームだったのが、昨季後半からは後半も戦えるチームへと成長し、そして今季は前半も勝負しながら後半にもギアを上げられるチームへと変貌した。そういう今季のサンガが「後半にやたら点を取るチーム」という印象はデータにも表れている。その辺りの変化は現在の日本代表のマネジメントにも通ずる話だったし、同時にエリアス、トゥーリオ、原を欠く状況でも勝点をコンスタントに積み上げる要因となっていた。
昨年まで…厳密に言えば昨季前半までのサンガは前半勝負型のチームでした。
というのも、前述したようにこれまでのサンガは相手との噛み合わせが試合の勝ち筋をそのまんま左右するので、前半が良い試合は勝てる、前半が悪い試合は勝てない…と言った具合に前半の内容がそのまま勝点に直結していましたし、逆に前半から出力を全開にするがゆえに勝ち筋の試合の前半で取りきれなくてバテて散る…というのがよくあるパターンでした。しかし今季は前半はハイプレスを連続するのではなく、一度鈴木を中心にブロックを組んだところからカードとしてハイプレスを繰り出すやり方にシフトした事で大幅に省エネ化できたんですよね。まずここは一つ要因として大きいです。
一方、攻撃に際しては原大智へのロングボールへの対応、エリアスや長沢のアクションに対する調整、攻撃を仕切り直したタイミングでのプレスの修正で相手にアップダウンを強いるような攻撃ができている。今季のサンガはこれまでのような前半勝負スタイルというよりも、前半は当社比で消費エネルギーを大幅に削減しながら「如何に相手にストレスを与えるか」「如何に相手に負荷をかけるか」という戦い方をし、前半にその伏線を張るようになった…と。
(中略)
だからこそ昨年までの対戦相手は「なるべくサンガを走らせて、バテさせて崩れさせる」というアプローチをするようになってきたんですが、今季のサンガはちょっとこっちのバッテリーが50%付近になってきたぐらいのタイミングで、例えば3トップそのまま交代みたいなやり方が成立するチームになっちゃったんですよ。すると相手はサンガのバッテリーが49%になったタイミングで仕掛けようとしていたのに、その作業で相手のバッテリーも60%くらいになっていたのに、一気にバッテリー残量100%の人間がフルスロットルで強度を出してくる。「選手交代で100%の選手を出せるのは相手も同じだろ」と言われればそうなんですけど、サンガのようなスタイルのチームはスタイルの強みとトレードオフのように「それを持続させられるかどうか」という問題に直面する中で、今季のサンガは強度を担保しながら殴り続ける事ができるという戦法を編み出してしまった。これは非常に大きなポイントです。
象徴的なゲームは第11節新潟戦、そして第15節町田戦でしょうか。共通点としてはどちらの試合も前半の出来はよくなく、事実としてビハインドで折り返した。しかし前者はハーフタイムの時点で福田と米本を下げて須貝と川﨑、そこから10分置きに松田→奥川、福岡→ペドロという校対策を敢行し、前半の内容は明らかに新潟でもロングボールや局地戦の激しさで消耗しつつあった新潟は途中から放り込まれた須貝、川﨑、奥川、ペドロの強度とクオリティに全くついていけなくなって、最後は自滅にも近い形で崩壊した。後者は前半に原を負傷退場で失う痛手こそ負ったものの、後半開始から米本と佐藤を下げて川﨑と長沢、そこからペドロ→武田、ムリロ→平賀を投入して同点弾に漕ぎ着け、フレッシュな選手への対応で更に消耗した町田に終盤のオープンな攻防を強いて決勝点に繋げた……町田戦の最後の得点なんかもう痺れましたもんね、なんでこの時間にカウンターであの人数上がれるんだよって。特にあのゴールシーンの平賀のスプリントは途中出場の選手にしか出来ない動きだったと思いますし。
(中略)
ここで大事なのは今季のサンガの場合、交代はある程度最初から計画されたものだろういう事。もちろん試合や相手の状況によって変更する事もあるでしょうが、基本的に交代パターンは決まってるんですよ。SBは福田・須貝・佐藤のうち1人を余らせて、須貝が左右OKなので先発した2人や相手との状況に合わせてハーフタイムを目処に交代、中盤にしてもフル出場の確率が高いのは川﨑のみで、基本は福岡・平戸・米本・武田・ペドロを途中で入れ替える。前線も原とエリアスのどちらかを残して後は前述したメンバーを随時入れ替えていく…みたいな具合に。そういうシステムを今季は明確に築いているんですよね。もっともハーフタイム交代自体は曺監督は多いタイプでしたけど、今季はより「計画された交代」のニュアンスが強くなっているので、選手もモチベーションを失わずに身体をつくりやすくなっていると。
なので例えばスタートから出る選手には予めその旨を伝えておく事で力をセーブせずに出し切れる選手もいるでしょうし、一般的に選手が良くなかったイメージがつきがちなハーフタイムの選手交代にもネガティブなイメージを持たせないような前提をつくる。逆にベンチスタートの選手には「こいつをスタメンではなくあえてベンチに置く作戦だ」みたいな空気と流れを作ることでモチベーションを失わせない。
似たようなチームを挙げるなら、わかりやすい例がカタールW杯の森保ジャパンなんですよ。
(中略)
当時、スペイン戦を終えた時に書いた試合考察ブログも読んで欲しいんですけど、ずっとチームが出せるトップクオリティで戦うというよりも、試合の時間帯に応じて出力セーブする、或いは一気にフルスロットルにする事で、試合のテンションを均一にするのではなく段差をつけていく。ずっと80%のサッカーをするだとか、無理に100%を出そうとして終盤に50%に落ちたりするのではなく、60%くらいの出力をベースに持ちながら100%を勝負所で出せる状況を作っていく…と。
もちろんその中でも細かい戦い方や相対的なサンガの立ち位置は異なりますが、W杯当時の森保監督は「先発で出るのか、中継ぎで出るのか、クローザー、ストッパー、リリーフで出るのか。役割の違いがあるだけで、チームが勝つために選手個々が機能していると思います」と明確なレギュラーの概念がない野球の継投に例えて交代策を説明していましたが、選手起用のスタンス、精神性は今季の曺貴裁監督にも同じことが言えると思います。実際にそのカードを切るタイミング然り、相手に与えるダメージ然り、こればっかりはもう「悪魔的采配」と呼びたい。なんなら畜生采配とすら呼びたい。その上で純粋に戦力値自体も上がりましたから、そのプランに食い込むための基準値も上がりましたし。
例えば一番わかりやすいのがエリアスと長沢駿の動きのタイプの違いなんですが、エリアスの場合はクロスやカウンター以外ではそこまで裏に抜ける…という感じではないんですよね。むしろ少し引いて待つ事により自分の前のスペースを作り、ファーストタッチでそこに持ち出す事でシュートの余裕と選択肢を作る。第7節広島戦や第9節鹿島戦辺りのゴールはそれがよく表れていたと思います。横への小さなスライドを挟む事でパスを受けた時の推進力を出せるようなイメージでしょうか。
一方、エリアスの負傷後に先発機会が増えて存在感を増す長沢は、少々展開が詰まった状況でも縦の動き、相手DFラインの背後へのアクションを何度も起こすんですね。それにより相手DFが長沢を無視できない、ケアできないような状況を作り相手DFを押し下げていく。もちろんそれで長沢に決定機が訪れるようなボールが入れば一番いいですし、長沢にボールが入らなくても長沢が縦の深みを作った事でシャドーのポジションで他の選手が使えるスペースが増える。ここにWGが入り込む、インサイドハーフの選手が入り込む事でチャンスに繋がる…と。CFの動きのタイプがこうも違うと、相手DFもそこの交代だけで対応を練り直さないといけない。そこにギャップを作りだす事もできる。エリアスと長沢の動き方の違いはそういうストライカーのタイプとしての面白さがよく表れていると思います。
(中略)
エリアスと長沢の対比は一例ですが、今期のサンガは多彩な顔触れのアタッカー陣がボールの貰い方にそれぞれ個性を持っていて、その上で全員が労を惜しまずそれをやる、体力の続く限りはそれを繰り返すという共通項を持てているんですよね。
同時に、福岡や武田は交通整理をしながら彼らがそういうアクションを起こせる時間を作り、平戸は彼らのムーブに応えるようなスルーパスを出せる。一方で川﨑颯太のようなタイプだと、例えば前述の長沢が空けたスペースに必ず走り込む事で努力を努力のまま終わらせない。中盤より後ろの選手もそういうアタッカー陣のそれぞれの個性を認識し、それに合わせた振る舞いをしてくれる。その連動が今季のサンガの強みと魅力であり、そして原-エリアス-トゥーリオの看板3トップが揃って離脱してもちゃんと勝ちを重ねられる土台となった。昨年後半の形を正しく引き継ぎ、ブラッシュアップしていく……その狙いは想像よりも上手くいっていると考えられます。
3週間の中断期間に突入する福岡戦を終えた時点での順位は首位神戸と勝点差4の4位。エリアスも福岡戦から戦列に復帰した。川﨑颯太が海外移籍により退団するという痛手も負ったが、あれはあれで、京都サンガから送り出せたというところでクラブとしては一つの成功だったと評するべきだろう。
優勝争い……それはクラブの歴史が知らないフェーズ。首位から見た景色もそう、ここまでやってきた道のりもそう、その全てが見たことのない景色だった。
新潟戦で初めて首位に立った時点ではまだ、呑気に「今年は残留の心配しなくていいな!」みたいな事を言ったりもしていた。あの時点ではまだ、現実的な目標は一桁順位、理想的な目標はクラブレコード更新(5位)だったと思う。でもサンガは後半戦を抜けても優勝争いの舞台を踏み続けている。であればもう、目標は上方修正するしかない。
見たことのない景色を見るという事。それは見たことのない景色が増えるという事である。
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第1話 NEW STANDARD
第2話 見たことのない景色
第3話 歩いたことのない道
第4話 2025.10.25
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