RK-3はきだめスタジオブログ

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その壁は前日譚〜京都サンガFC 2025シーズン振り返り総括ブログ〜 第3話 歩いたことのない道(2025.7.21〜2025.9.23)

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前回までのあらすじ

2025年のサンガはこれまでの歴史で知らないシーズンを邁進していった。スタートダッシュこそ上手く行った訳ではなかったが、第6節清水戦で今季2勝目を収めると流れが一変。いくつかのアイコニックな消費を経て、遂に第11節新潟戦を終えるとクラブ史上初の首位に立つ。川﨑颯太が海外移籍を果たして迎えた夏、首位からは陥落しても上位には踏み止まり続けていたサンガはいよいよクラブが歴史に知らない"優勝争い"へと踏み出していく…。

 

 

 

【その壁は前日譚〜京都サンガFC 2025シーズン振り返り総括ブログ〜】

第1話 NEW STANDARD(2024.12.8〜2025.2.22)

第2話 見たことのない景色(2025.2.22〜2025.7.21)

第3話 歩いたことのない道(2025.7.21〜2025.9.23)

第4話 2025.10.25(2025.9.23〜2026.2.6)

 

【過去の京都サンガFC シーズン振り返り総括ブログ】

2017年 -嗚呼、京都サンガの憂鬱-

2018年 -残酷な京都のテーゼ-

2019年 -光と闇の紫-

2020年 -誤算-

2021年 -軌跡と邂逅の果てに-

2022年 -S Adventureの後先-

2023年 -翡翠の傾き-

2024年 -P・PURPLE-

 

2025年のJリーグを振り返る記事をまとめたページを開設しました。随時更新していくので是非!

 

オリジナルアルバム出してみました!聴いてみてくださいませ!

 

 

 

ガンバさん、セレッソさん、神戸さんら関西のクラブと対戦した時にはより多くのお客さんが来てくれましたが、関東のチームとの対戦で、夏休みでもあり、ちょうど送り火の日とも重なっていた。そういうイベントではなくスタジアムに来てくれた。そして決勝戦のような雰囲気を作ってくれた。今までは考えられないような光景でした。

(中略)

京都で育った身としては、考えられないんですよ。地元にこんな素晴らしいスタジアム、そしてJ1のプロクラブがあるなんて。想像もしてなかった。

曺貴裁監督インタビュー-サッカーダイジェスト10月号『京都サンガ F.C. 大躍進の秘密を徹底解剖‼』-

 

京都は特殊なマーケットである。

持っている観光資源の強さは日本のみならず世界で屈指。世界的な企業の本社も顔を並べている。「スポーツで町おこし」とはよく聞く言葉にしてJリーグの目標として掲げている事ではあるのだが、それで言うならば京都は「わざわざスポーツで町おこしをする必要性の薄い土地」だと言えた。高い観光需要を誇りつつある京都にとってスポーツツーリズムは観光客としての数字に大きな影響をもたらすとは考えにくいし、京都の人間からすれば、別に京都にスポーツチームがなくても…電車で30分〜1時間ほどかければJ1リーグが見れる吹田や長居、そして甲子園にも行けてしまう。今もまだ、京都で最も人気のスポーツチームを聞けば阪神タイガースが勝つだろう。

40〜50年ほど前、今以上にサッカーの地位がこの国の中で高くはなかった時代の京都でサッカー選手を目指していた曺貴裁少年は「京都にスポーツは根付きにくいと言われてきた」という言葉を肌感覚で感じながら育った。他ならぬ本人がサッカーを志すにはどこかで京都を出る必要がある事を認識し、東京の早稲田大学へと進路を定めたというキャリアを持っている。だからこそ彼はインタビューで「京都にプロクラブができるなんて今でも信じらないような気持ちがある」と度々語っている。そんな彼にとって、アウェイサポーターの集客が見込める関西クラブではない相手との試合で、しかも五山送り火という伝統的なビッグイベントと同じ日にしながら、わざわざ亀岡のスタンドを紫に染め上げる観客がこれほどまでにいた………まさしく「今までは考えられないような光景」に特別な感情を抱いたのだろう。

それは京都サンガというクラブにとって、間違いなく今までに見たことのない景色の一つだった。そして見たことのない景色を見るという事は、また見たことのない景色が増えるという事であり、その景色は今まで歩いたことのない道の先にある。前半戦のサンガが今まで見たことのない景色を見た季節なのだとしたら、後半戦のサンガは今まで歩いたことのない道を進む季節だった。その事をサンガは、身を以って知る事となる。

 

 

 

後半戦に突入したJリーグは第24節を終えた時点で3週間の中断期間に入る。

まず、川﨑颯太がドイツへの移籍を発表した。

 

 

語弊のある言い方になるかもしれないが、川﨑のキャリアがどう積み上がっていったかを踏まえた時、クラブとしては「川﨑颯太を海外に送り出せなければ失敗」という側面は少なからずあったように思う。それがブンデスリーガで躍進を遂げていたクラブにサンガから直接送り出せた事はクラブとしては成功であり、ブンデスマニアとしても知られる曺監督としても感慨深い事だったであろう。とはいえ、川﨑颯太という曺貴裁体制のキーマンを失った事は確かで、同時にサンガは川﨑同じポジションのジョアン・ペドロと米本拓司も負傷離脱していた。その中でサンガは6月にレオ・ゴメス、8月にグスタボ・バヘットと齊藤未月を新たに迎え入れている。

とはいえバヘットと齊藤の加入が発表される前…中断期間前の最後の試合となった第24節福岡戦はエリアスの復帰というポジティブな要素こそあったが、2点リードを得ながらも後半アディショナルタイムに2点を奪われて追いつかれるというショッキングな展開で引き分けに持ち込まれてしまう。この試合が川﨑の退団後最初の試合だった為、サンガは「川﨑がいなくなっても優勝争いに踏みとどまれるのかどうか」という不安感を抱いた状態で中断期間に入る事となった。

だがその不安は杞憂に終わる。それどころか、2025年8月は1994年から始まるこのクラブの歴史の中で"史上最強の1ヶ月"だった。

 

 

 

川﨑の退団に伴い、新たに福岡慎平を新主将として据えての初陣となった第25節名古屋戦。怪我の影響もあって今季はなかなか揃わなかったラファエル・エリアス、マルコ・トゥーリオ原大智の3トップを掲げて迎えた再開初戦はスリリングな展開となった。サンガは立ち上がりに良い入りをしながらも得点を取りきれず、少しずつ試合は名古屋に傾いて先制点を許す。しかし途中出場の中野瑠馬が躍動すると70分にはショートカウンターからエリアス、82分は相手のミスを誘発したところからの攻撃を最後は福田心之助がミドルで叩き込んで逆転勝利を収めてみせる。今季はアウェイ清水戦アウェイ鹿島戦でクラブ史上初勝利を挙げたサンガだったが、豊田スタジアムでの勝利も初めてだった。

ホームに帰り、黄金色のリミテッドユニフォームを身に纏って冒頭で触れた第26節東京V戦に挑むと、トゥーリオの負傷退場というアクシデントを背負いながらもGK太田岳志の攻守が光り、最後はまたしてもエリアスの得点で1-0で勝利。第27節FC東京戦ではまさしく曺貴裁京都の面目躍如とも言えるようなゲーム展開をエリアスのハットトリックが派手に彩り4-0の圧勝。4月は暫定順位でしか首位を知らなかったが、遂にサンガは正真正銘の首位に躍り出る事となる。昨季の優勝を争った神戸・広島・町田、躍進を遂げていた柏、10シーズンぶりのリーグ制覇を目指す鹿島……混戦の優勝争いを彩る錚々たる顔触れ、その上にサンガが立ってしまったのだ。これを特別な瞬間と呼ばずしてなんと呼ぶべきだろうか。

 

 

 

未来は僕らの手の中───妄想以外で優勝を語れなかったチームは今、その権利を手の中に収めている。

第28節岡山戦、2万人が埋め尽くしたスタジアムで対峙した岡山は、サンガや柏と共に2025年の主役とも呼ぶべき輝きを放ったチームだ。岡山のモチベーションはすこぶる高かったと思う。中断期間明け3連勝。しかもそのうちの1試合は上位につける柏を下しての勝利だった。中断期間明け3連勝同士の対戦で、柏に次いで京都も喰ってやる…まさしくその意味でぶつかってきたのはクラブもファンも同じだっただろう。

その背景があったからこそ、8月最後にサンガスタジアム by KYOCERAで見た光景は、視界に飛び込んだものの全てが……仮にも自分は今年でサッカーを見始めて、このクラブを応援して20年となった人生で、全てが見た事のない景色であり、光景だった。意気揚々と挑んできた相手をまるで蹂躙するかのように叩き潰す5-0の圧勝。最新鋭のスタジアムを隙間なく埋め尽くしたファンの絶叫と歓喜……それはこれまでの試合で感じていた「今年のサンガは強いぞ!!」というシンプルな喜びの爆発とは少し違った感覚……あの震えが身体に走ったのは、この20年で間違いなく初めてだった。

 

 

今年のサンガが上位にいる事や優勝争いに絡んでいる事が偶然やラッキーだなんてこれっぽっちも思っちゃいない。曺貴裁監督率いるチームの努力、それに合う選手を確かなプランで獲得したフロント、このスタジアムの満員を作り出した営業部…その全ての努力の結果であり、優勝争いというフィールドに身を投じていることは決して偶然でもたまたまでもない。この躍進が来年も続くかどうかは確かに別問題だ。だが今年の結果に関しては、ラッキーなどではなく実力だったと断言できる。

「優勝してほしい」……願うだけならずっと願っていた。J2で最下位になった時すら思っていた。それはどれだけ叶わぬ夢であったとしても、妄想くらい自由に描くのは当然だろう。しかし願いとは別に、他人から「優勝できるか?」と聞かれれば……それは正直、ずっと半信半疑だったかもしれない。実際にそういう質問をされても「どうやろー」「ここまで来たんやから、ACL圏内は行ってほしいなぁ…」と返していた。「なぜ勝っているのか?」「なぜ躍進しているのか?」という質問なら自信を持って断言できる。でも「優勝できるか?」という質問だと、自分もそこに確証が持てていなかったんだと思う。

岡山戦が終わり、目の前の光景に震えを覚え、スタジアムを去り、喧騒が止む。スタジアムという異空間の酔いが醒めて帰路につく時、その心に残った感情はこのクラブに対して始めて抱いたものだった。

 

「本当に優勝するかもしれない…」

 

優勝してほしい───ずっと願い続けてきたその妄想は今、叶わぬことを知っている空虚な願いではなく、今そこにある現実として君臨し始めた。

首位…未来をその手の中に握りしめながら8月の戦いを終え、サンガはラスト10試合へと挑む。

 

 

 

 

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だが、物事はそう都合よく進むものではない。

代表ウィークを挟んで迎えた第29節広島戦、この試合は優勝争いの直接対決というよりは「広島が優勝戦線に生き残れるかどうか」という構図での6ポイントゲームだった為、劣勢の中で先制を許すも、終盤の得点で追い付いた同点劇はポジティブに捉えられるものだった。その勝点1は広島に勝点3を取らせなかった、勝点差を維持した事と同義だったからである。

雲行きが怪しくなったのは第30節清水戦だった。いわゆる「相手にリスペクトされる立場」に置かれるようになった事を痛感するゲームでもあったこの試合では、清水の対サンガという前提を強く押さえた戦い方を前にリズムを掴みきれず、逆に交代策も功を奏した清水に75分に先制点を奪う。サンガも終盤には何度も猛攻を仕掛けるがいずれも決められない……その敗北はサンガにとって、実に4ヶ月ぶりとなる黒星だった。

首位からも転落したサンガは中3日でのホーム連戦に、前々節の広島同様に優勝争いに生き残れるかどうかの瀬戸際に立たされていた町田との試合を迎える。前半の早い時間に3戦連続となる先制点を許したサンガは何度も、何度も、何度も……何度もゴールを脅かした。どうにも1点が遠い中で、74分に獲得した千載一遇のPKのチャンス…エースの一撃はGK谷晃生によって阻まれたが、それでも不屈の魂を見せたサンガはアディショナルタイム、右サイドからのクロスに文字通り頭ごと突っ込んだ佐藤響は再びPKを獲得すると、今度は原大智が沈めて同点に追い付いた。だがラストワンプレーの山田楓喜のFKは無情にもクロスバーに阻まれる。広島戦とは異なり、サンガも首位を追わなければならない立場に戻っていた。アディショナルタイムで追い付いた……それはこれまでよサンガなら、それだけで手放しで喜べる事だったのかもしれない。だが勝点2を落としたという事実はこの日の夜空を漂うように覆い、3戦未勝利という事実だけが連なっていく。

 

この町田戦は現地で見ていたが、あの試合のスタジアムの雰囲気は今まで見てきたサンガの記憶の中に存在しなかった光景だった事を覚えている。

それは前述した岡山戦の圧勝劇ともまた違う意味合いだった。この試合、そしてこの日のスタジアムの雰囲気……泥濘のような時代を超えてクラブが見た事のない世界へと踏み入れたサンガと、優勝しても昇格さえできないという時代から成り上がってここまで辿り着いた町田がJ1の優勝争い直接対決を戦っているという事実……それら諸々を含めて、この試合が「魂を震わせる90分」だった事だけは何物にも代え難い、偽らざる確かな感情として残っていた。
もちろんFWにとってPK失敗が最大の屈辱である事は今日に限った話ではなくとも、それでも異国の地であれだけの落ち込みを見せるほどあの一本に賭けた男の肖像、肩を落とした男に猛然と走ってきた男は稀有なほどの苦労と軌跡を重ねた男で、励ますような笑顔で寄り添った主将とブラジルの同胞の姿もそこにあり、それを包み込むようなラファエルコール。ドイツに旅立った同期と入れ替わるように海外での夢破れて帰国し、チームプレーに徹しながら最後の一瞬だけ「俺がケリをつける」とサンガを背負うかのような美しき我を見せた若武者の姿。サンガの戦うステージとは全く違う場所で戦っていたはずのプレーヤーである昌子源に「苦しいときに頭を出す京都と、足を出した俺たちの差」とまで言わせた佐藤響の執念……目立ったものだけを書き並べたが、そういう熱量はこの日のスタジアムの全ての局面で燃え盛っていた。今年のサンガは"共有"というスローガンを掲げていたが、あの日のあの空間はチームが放つパッションを観客も受け止め、伝搬するかのように、文字通り熱を共有したような空間になっていた。それもまたクラブにとっては見た事のない景色であり、これが優勝争い中のスタジアムなのかと身が震えた事をよく覚えている。

 

しかし……この試合で勝点2を落としたサンガの順位は、試合前の2位から3位へとポジションを落としてしまう。

サンガが今まで戦ってきた残留争いという舞台は如何に勝点1を拾い集めて下3つを回避するかが焦点だった。去年までならこの同点劇は貴重な1ポイントとして噛み締めていたはずである。だが優勝争いは違う。引き分けは勝点1を積み上げる結果ではなく勝点2を落とした結果に他ならないのだ。去年までなら引き分けで上がっていた順位が、今は一つの引き分けでちゃんと順位が落ちてしまう。負けてはいけないのではない。勝ち続けなければならない。勝ち続けた者だけが生き残れる戦い、勝ち続けなければ走る事を許されないレース……現にサンガと引き分けた広島と町田はレースから振り落とされ、優勝争いという舞台から姿を消した。それが優勝争いの狂気とプレッシャーだと、京都サンガというクラブはその歴史の中で初めて体感として知ることになる。

上位争いという希望、首位という夢……それらがサンガにとって見た事のない景色だとすれば、優勝争いとはサンガにとって歩いたことのない道を歩くことだった。もちろん鹿島は、神戸は、柏は、ビギナーの歩調に合わせてくれる事などありはしない。

 

 

 

チームはそのプレッシャーは徐々に蝕まれていき、今季の強みだった「先手を取られても1〜2点くらい取り返せる」というマインドは「1点では順位が落ちてしまう」という焦燥感がまとわりつくようになり、8月末に手の中に掴んでいた未来はいつしか鹿島が握るようになっていた。

それでも、なんとか、なんとか…勝点1だけは重ねながら、サンガは必死に優勝争いに喰らい付き、不屈の魂で追い縋ろうとして、狂気のレースから振り落とされないように、しがみつくかのように優勝戦線に踏みとどまった。そしてクラブは歩いたことのない道の上に聳え立った、クラブ史上最大の大一番にその身を投げる瞬間が訪れる。

 

第4話「2025.10.25」につづく

第1話「NEW STANDARD」から読む

 

 

【その壁は前日譚〜京都サンガFC 2025シーズン振り返り総括ブログ〜】

 

第1話 NEW STANDARD

第2話 見たことのない景色

第3話 歩いたことのない道

第4話 2025.10.25

 

【過去の京都サンガFC シーズン振り返り総括ブログ】

2017年 -嗚呼、京都サンガの憂鬱-

2018年 -残酷な京都のテーゼ-

2019年 -光と闇の紫-

2020年 -誤算-

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