
スポーツニュースは野球一色である。
それもそのはずだろう。今回のワールド・ベースボール・クラシック(以下:WBC)は過去の大会と比べてもニュースバリューが強い。大谷翔平はもはや"現役最強選手"とか"日本スポーツ界のトップスター"ではなく、俗に言うGOAT……世界の野球界に於いて、もはや野球の歴史というレイヤーで語られるべきところまで辿り着いてしまっている。
大谷に限らず、日本には山本由伸という直近のワールドシリーズでこれもまた球史に残る選手も擁しており、メジャーでの実績なら鈴木誠也や菊池雄星も高い評価を誇る。井端弘和監督率いる連覇を目指すチームにはその言葉に説得力を持たせるには十分な戦力が揃っており、2023年大会以上の歓喜を望み、大谷も開幕戦からグラスラ打ちやがった。ドキドキとワクワクは日増しに大きくなっている……と思っていたのだが、その冒険は唐突に終わりを迎えてしまった。阪神ファンとしては3回裏までは全身の毛穴が開くくらいの気持ちだったんだけど……。
とにもかくにも連覇を目指した井端ジャパンのWBCはベスト8で幕を閉じ、優勝は前回大会の決勝で対戦した日本とアメリカをいずれも下したベネズエラのものとなった。次回のWBC、或いは2028年ロサンゼルス五輪を目指す侍ジャパンの鍛錬がこれからまた始まり、野球界もそこに向けて新しい道を歩き始める。
さて、このブログやXを見てくれている方はご存知のように、私も軸足こそサッカーに置いている立場ではあるが野球も大好きであり…というかがっつり阪神タイガースファンである。
あまりにも甲子園のチケットが取れないので頻繁ではないが、ちょいちょい甲子園や京セラドーム大阪での現地観戦も楽しんでいるし、なんなら今回のWBCも開幕前の阪神との強化試合も行くつもりだった(そしてチケット争奪戦で無惨に散った)。WBCのチケットだった取ろうとしたよ?ねぇ?あんなのどうやったら取れんの?ねぇ?
まあ、なんにせよそういう立場なので毎回のWBCを楽しみ、熱狂して生きている。今大会はNetflixが日本国内での独占放映権を獲得した事が論争を呼んでいて、個人的にも地上波でやって欲しい気持ちは大いにあったが、今回はネトフリのおかげでいつも以上に他国の試合も見れている。韓国vsオーストラリアは本当にリアタイで見られたことを感謝したいような試合だったし。チケットが取れなかった憎しみを除けば、どっぷり野球を楽しめる最高の1ヶ月を過ごさせてもらった。
ただ、WBCの季節になる度に勃発する論争が「WBCという大会のステータス」についての云々である。
「WBCで盛り上がっているのは日本だけ」「欧州ではWBCなんて誰も知らない」……そんなフレーズを叫ぶ人は今回も多い。だが一方で、大会としてのWBCが、あるいは野球が国際的な地位と注目度を確立できているのか…と言えばそうとは言い切れない、大会の熱狂や盛り上がりが局地的なものになっているところは否定できない部分がある。それが「日本しか盛り上がっていない」という事は無いのは、例えば韓国や台湾の熱狂を見れば明らかであるのだが、実際に出場国の全てが日本ほどの熱量を持っているとも言えず、ましてやW杯とは異なり、出場していない国の関心を得られていない事は確かではある。一部サッカーファンの質の悪い煽りには腹立たしさすら覚えるし、彼らの言葉に耳を貸す必要など微塵もありはしないのだが、現実問題として少なくとも現段階では「WBCはW杯になれない」というところは間違いないし、WBCが今後野球と共に国際的なステータスを高める為には、今現在に存在する問題や現実と向き合わねばならない事は確かだ。しかし一方で、2017年大会以降のWBCは国際大会として確かな成長を遂げていると言えよう。
という訳で今回は「なぜWBCはW杯になれないのか」「それでも目に見えるWBCの成長と今後WBCがW杯のようになるには何が必要か」について書いていく。
【目次】
③WBCがW杯のようになるには
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【オリジナルアルバム出してみました!聴いてみてくださいませ!】
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【当サイト的2026年スポーツ応援テーマソングを勝手に作りました。】
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③WBCがW杯のようになるには
前回でも書いたように、WBCの成長は著しいと評価されるべきだろう。
先人達の戦いを見た子供達がWBCの舞台を目指す。国際大会が国際大会として育つにはその循環の中で、それぞれが集めた記憶を積み重ねていく事が結局は最も重要なのだ。日本代表のみならず、アメリカや韓国の代表選手にも過去のWBCに夢を見てこの舞台に立っている事を公言していた選手がいて、躍進を遂げたイタリア代表の選手は自分達がそういう存在になる為に…というところを事更に強調していたように思う。言うまでもなく、ベネズエラの野球少年の脳裏には永遠に2026年の栄光が刻まれる事だろう。サッカーのW杯にしたって、オリンピックにしたって、そういう夢と記憶の積み重ねでここまできた。WBCもその原則に則り、国際大会として健全に育まれつつある。2023年大会と2026年大会はその事をまさしく象徴する大会になったと思う。
ただ、WBCがサッカーのW杯のようになる為には考えなければならない事はいくつかある。
・MLBをどう動かす?
野球がグローバルスポーツとしての地位を築いているのかどうか、その立場をどう作っていくのかという議論を抜きにしても、他のスポーツ国際大会と比べてWBCの性質は歪であり、その事が国際大会として成長する上で障害になっている事は否めない。
結局、WBCが歪な大会方式になっているのは主催がMLBである事が全てと言っていい。それは前々回の記事でも書いた通りだ。MLBはあくまでメジャーリーグという一国のリーグ戦を運営する立場だ。その立場で言えば、MLBにとって「メジャーリーグ > WBC」の構図は崩したくない。それは自然の摂理と言えばそうなのである。つまりどうしても、FIFAワールドカップをピラミッドの頂点に置いて「ナンバーワンかつオンリーワン」な存在としたサッカーとは異なり、現状のWBCは構造上、メジャーリーグベースボールの上には行けない仕組みになっていないようになっている。
自力でMLBに追いつける可能性のある野球組織は残念ながら皆無。第1回で書いたことの繰り返しになるので先にそちらから読んでもらえると助かるのだが、野球にも一応、サッカーで言うところのFIFAに該当する中立組織として世界野球ソフトボール連盟(WBSC)という組織が存在はしている。しかし、彼らの前身組織はMLBの援助を受けて持ち堪えたという背景があり、結局は野球の世界で最も力を持った組織がMLBであるという構図が完成している以上は、MLBが単にWBSCにWBCの主催権を譲渡しても意味はないと思われる。それはWBSCが主催するプレミア12を見れば自然な見解だろう。
そもそも既に頂点に位置し、主導権を持っている立場のMLBが、WBCというコンテンツにピラミッドの頂点を捧げる為に現在の主導的な立場から降りる理由など彼らの立場に立てば何一つない。ある意味では皮肉な話で、WBCがコンテンツとして成長すればするほどMLBにとって"WBCというコンテンツ"を中立機関に手渡す理由が無くなるのだ。であれば、国際大会としてフェアな形ではない事を認識しながらもMLBにWBCを一任するしかない事は、世界最高峰の大会をつくる為に致し方ないところではある。
であればこそ、例えば前回書いたように、メジャーリーガーはWBCに意欲的になりつつあるし、特に過去の大会でイチローやモリーナといった名選手が示したように外国籍選手ならその思いは一層強い。今大会のイタリアの躍進のみならず、元々野球が盛んだったオランダ以外の欧州諸国も競技力を見せてくれた事は野球が拡がりつつある事をしっなり示していたし、他ならぬMLBが2019年と2023年に実施したイギリス・ロンドンでのメジャーリーグ公式戦が興行的な成功を収めた事は、野球というコンテンツのグローバルビジネスとしてのポテンシャルを少なからず示す結果になったはずだ。その辺りは世界最強の労働組合とも呼ばれるMLB選手会辺りに上手くMLB機構の譲歩や意欲を引き出して欲しい。普段はあまりスポーツビジネスに関しては綺麗事だけで物事を語りたくないが、ことWBCに関しては現状の力関係が成立している以上、如何にMLB側に国際大会の純粋なスタンスを持ってもらえるかどうかが全てになってくる。そこに訴えかけるしかないし、その意義を強調していかなければならない。
・大会日程の不平等性をどう考える?
今回はNetflixの参入により野球ファンにとっては日本代表以外の試合を見やすくなった事で可視化されやすくなったところもあるのか、WBCの日程に対する不平等感を疑問視する声は多かった。実際、試合時間の件に関しては台湾のソ・ゴクウ監督が改善を訴えるコメントを出しており、トーナメントの件に関しては韓国メディアでも取り上げられていたという。端的に言えば「アメリカと日本が優遇されたスケジュール/トーナメントになっている」というところで、この件に関しては以前から議論の対象になっていた。
ここに関しては「そこは仕方ないんじゃない?」と思う部分と「そこは変えたほうがいいよね」と思う点が両方ある。
まず1次ラウンド。「日本有利の日程」との意見もあったが、日本に限らず1次ラウンドの日程は基本的に開催国が有利になるように設定されており、それはA組のプエルトリコ、B組のアメリカも同様。平等が担保されていたグループは開催国のいなかったD組のみだろう。特に日本とアメリカは毎回1次ラウンドは自国開催なので、贔屓的な印象がより強くなるのは確かだ(というかそれに関しては実際そう)。
とはいえWBCに限らず、プロスポーツで一定以上の規模を誇る国際大会は、それ自体の賛否は別として、近年は特に商業的な部分で利益を如何に計上するか…という点が非常に大きい。結局のところ、大会としての次回以降の価値や平等性を担保する為に最も必要な事は「前回大会の利益」になってくる訳で。その点で言うと開催国の試合を平日の昼間に持ってくる事は、ナイトゲームなら得られたはずの利益をただただ手放すだけ…という事にもなる。例えばサッカーW杯にしても、少なくともグループステージの3試合はナイトゲームが充てられる事が多い(今回はアメリカとカナダはデイゲームも多いけど、アメリカは決勝もデイゲームで設定されるような国柄という側面も大きい)。基本的に開催国は一定のコストを払って大会を開催する訳で、ある程度の見返りを得る為のシステムという側面もあるので、開催国(今回の日本)がスケジュール的な恩恵を最も受けるのは問題とされるほどの話ではないと思っている。とはいえ台湾の監督が指摘したような他国の日程のハードさ、特に韓国が被ったような「22:30頃まで試合して次の日の12:00から試合」みたいなスケジュールはさすがに配慮や考慮が為されるべきだと思うが。
ただ、日本とアメリカが決勝戦でしか当たらないトーナメントになる形は是正した方がいいとは思う。決勝ラウンドは日本から移動するしてくる訳で、試合日程や会場だけ固定する…というならば理解できるが、これは国際大会として褒められたものではない手立てだろう。ドミニカ共和国やベネズエラを見てもわかる通り別に日本vsアメリカが決勝にならなくてもスターは出てくる。主催者として、少なくともマーケットの規模が大きいアメリカか日本のどちらかが決勝に出てくるかどうかの収益に及ぼす影響の大きさは理解できるが、そこの配慮は撤廃するべきだとは思う。
・1次ラウンド組み合わせの人為的な決定
大会日程の不平等感と併せて語られるのが1次ラウンドの組み合わせについてだ。例えばサッカーやラグビーであればW杯の組み合わせには抽選会があり、その模様が世界に配信される事でそれ自体がエンターテイメントコンテンツとして成立しているが、WBCの組み合わせ抽選会は基本的に非公開で人為的に行われる。その結果、例えば日本からすれば1次ラウンドから「また韓国?」「前もオーストラリアとやらなかった?」という状態になっており、実際に今回の1次ラウンドで対戦した4ヶ国は台湾以外は前回大会と同じ顔触れだった。1次ラウンドの事を「予選」と呼ぶ人が多い事への抵抗感を示す人が多い一方で、日本にとっての1次ラウンドがアジア予選に近い状態になっているところは否めない。
とはいえ人為的とは言っても、組み合わせ決定のプロセスが正式公開されているわけでは無いが、ここに関しては「アメリカや日本有利のスケジュールを意図的に汲んでいる」という訳ではない。例えば2017年大会のアメリカはスター集団のドミニカ共和国とMLBに参加しているカナダと同居しているおり、上記のような意図があるなら少なくともアメリカをドミニカと同組になど絶対にしないだろう。1次ラウンドの組み合わせは「移動負担の軽減」と「利益の最大化」をベースに、ある意味ではドライな程にこの2点に絞って決定されていると推察できる。
「移動負担の軽減」と「利益の最大化」は割りかし密接した話である。もしオープンな抽選会を設定して、例えばメジャーリーガーやMLB傘下に所属する選手が大半を占めるドミニカやカナダが東京ラウンドのクジを引いたとすれば、アメリカを拠点にしている彼らがわざわざ一度日本に来てもう一度アメリカに戻らなければならないという二度手間的なスケジュールを強いられる事になる。後者に関しては、テレビ中継で見やすい時差の下で試合を観れるかどうかというところが一つ。もう一つは、わかりやすく言えば今大会は台湾の野球ファンが大挙して日本に訪れていたが、もし台湾の試合会場が東京じゃなくてアメリカやプエルトリコだった場合も同じように大挙して訪れただろうか?というところである。だから韓国、中国、台湾辺りは自国で開催しない限りは基本的に東京ラウンドに組み込まれるし、逆にドミニカやベネズエラは実力的には本来同じブロックに入れられる事が相応しいとは言えないが、観客動員の増加を見込んで移民が多く住むマイアミラウンドに組み込まれている。この人為的な決め方は無作為ではないというアンフェアな決め方でありながら、移動負担と利益の最大化だけを根拠に決めるという観点ではある意味でフェアな決め方でもある。開催国をどうするべきか?という論点は後述に記載していくが、少なくとも現行方式で大会を行う以上、無作為の抽選を行うと余計な負担が増えて得られるはずの利益も得られないという結果になる可能性があるので、一定の人為的な作業は避けられず、致し方ないだろう。
とはいえ競技としては抽選を行う方がフェアではあるし面白い。完全抽選にしようと思うと開催国をどこか1ヶ国に集中させる必要があるので現行制度では難しいが、一部だけ抽選する方法は2パターン考えられる。一つは前述した韓国や台湾、ドミニカにベネズエラのような開催会場で利害関係が大きく変わる国のみ先に人為的に決めておき、今回ならチェコやイギリス、イタリアのように日本開催でもアメリカ開催でもそこまで変わらない立場の国やWBC予選組のみ抽選を行う形にするか、もしくは2017年と2023年大会のように開催会場をアメリカ2会場とアジア2会場で二分するような形にした上で、その国がアメリカ開催かアジア開催かだけ人為的に振り分けて決めておき、2つのグループのどちらに入るかだけ抽選で決定する…みたいな形が現在の開催方式では現実的だろうか。
ではでは(´∀`)