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お世辞にも順調な滑り出しを見せたとは言えないシーズンは、ファンにとっては滑落の様な感覚を覚える岐路を迎えた。
週刊誌の報道を事実とそのまま受け止めたとして。ガンバファンとしての感情で言えば……意外とスッと受け入れていると言えば受け入れている。今持っている感情が怒りなのかどうかはわからない。どちらかと言えば、もう無意識的に自分の感情について考えることを放棄した状態かもしれない。「その行為に対する認識が甘かった」「その行為をした先を想像できなかった」のなら愚かな話であるし、或いは「認識も想像もできていたがチームの中にいる自分より優先順位が上回った」というのならば、逆にもう何も言うことはない。なので、ここから先の文章でこの期に及んで山田を批判するつもりもない。
とはいえ、週刊誌の報道の大まかな内容を疑おうとは思っていないが、書き方や文章としての演出の仕方には思うところもいくつかあった。
今回の件に関して、諸々に対する……というか、主にクラブの対応についての雑感を書いていこうと思う。
一つ確かに言えるのは、こうなった以上この問題の解答に"正解"を出す事はもう出来ない…という事である。
山田本人にしても、クラブとしても、この件に関する登場人物にしても、正解と呼ぶべき答えはもう存在しない。この問題をどう処理するかを考えるという事は、-1より上には絶対にならない選択肢の中から現時点でそれぞれの最善を選ぶ作業にしかならない。それぞれにとって、辿り着いた落としどころが今回の横浜FCへの移籍だった……結局のところは、それで話を落ち着かせるしかなかったのだろう。
法的に罰せられる事では無いと思われることを理解した上で山田のした事を「罪」と表現するならば、罪にも色々な角度や形があって、いわばランキング形式のように罪の重さに簡単に順位をつけられる訳ではない。おそらく山田の罪は心象的には最悪の部類に入る事案ではあるとはいえ、法的に取り扱う際には即時の契約解除やリーグとしての出場停止を科されるような重い事案とは言えず、クラブが権限を持って介入できない事案だったと考えられる。極端な話、クラブがOKを出した上で監督が起用に値すると判断すればガンバでの出場もルールや法的な問題はない。だからこれほどまでにスムーズに横浜FCへの移籍が進み、それも契約解除からの新規入団ではなく、ガンバ大阪からの完全移籍という形でオペレーションを進める事が出来たのだろう。
しかしながら、その罪の重さと、その罪を犯した人間の周囲に与える影響の大きさは決して比例するものでは無い。山田の罪は扱いとしてはガンバでの出場も可能なレベルの事案ではあった、しかしチームが和と規律を保って行動する上で、ポヤトス監督を頂点とする現場のチームに置いておく事ができない事案だった……山田の件はあくまで民事であり、明確に処分されるべき不祥事にカテゴライズする事はできない。となると、手触りや印象は不祥事と同じでも、扱いとしては信用問題に近い話で、クラブが発表した経緯や実際に公になっている物事の流れを見ればそう捉える事が自然ではある。クラブが自主裁定で出場停止ではなくチーム離脱を科すという事は往々にしてそういう事だ。
その段階まで来れば、クラブと山田はチームから離脱させつつ、ガンバ大阪ではない場所を探させる必要がある。しかし山田との契約が残っている以上は契約解除をしない限り移籍金が発生するし、ガンバが山田獲得に際して柏レイソルに払った1億円前後とされる移籍金以上の金額を横浜FCが提示できるとは考えにくいから、横浜FCに移籍する為には値下げが必要になると思われる。一方で、ガンバが反省期間を設けた上で復帰させる事を前提に考えていたとすれば、戦力的には山田は移籍金をディスカウントしてでも売却する対象の選手にはまずならないし、低額のオファーなら蹴っていたと思う。つまり今回の件はSNSで散見されるような「山田がチーム離脱の反省期間を嫌って横浜FCに移籍した」のではなく、そもそと「この状況になった以上、クラブとして置いておけないと判断したガンバが山田の移籍先を探していた」という前提の上で「横浜FCが手を挙げた」と考えるのがベターだろう。複数クラブからオファーが来ていたなら別だが、運良く横浜FCが手を挙げてくれた時点で選択肢が横浜FCしかなかったのは山田も同じだと思う。選択肢があるのならば、無所属期間を置く事やわざわざ条件の悪い、カテゴリーが下のチームを選ぶ事が反省を示す事になるとは思わないし、いくら反省すべき立場であったとしてもわざわざそれを選ぶ必要も無いとは思う。報道前の時点から、SNSを中心に山田が同カテゴリーのクラブに移籍した事がチーム離脱が発表されてからの期間の短さに反省の欠如や不誠実さを指摘する声が多かったが、複雑な気持ちが全く無いと言えば嘘になるとしても、移籍自体はお互いにとって合理的な結論ではあったと思うので、個人的にはそこまでおかしな事だとは思っていない。
某週刊誌には「隠蔽体質」と書かれ、挙げ句の果てには一選手の醜態にも関わらず「チームを崩壊させた経営陣の責任は重い」との書き方もされたが、そもそもこの件に関してクラブは実に気の毒な立場に立たされた事は強調しておきたい。
クラブとしての対応が完全だったとは言わないし、正解だったとも言わない。しかしこの件は発生した時点でクラブにとっては「負け」みたいなもので、0すら望めず、-1にどれだけ近づけるかの作業にしかならない。その中でやる事はやったと考えているし、少なくとも「隠蔽体質の球団」としてインパクトのあるニュースが拡散される現状は理不尽としか言いようがない。
例えば2020年のアデミウソンの一件のように、明確にこの国の刑事事件として取り扱うべき事柄なのであれば、ガンバには速やかにJリーグに事案を報告し、その過程まで含めて事の経緯を詳細まで公表する義務がある。例えば2023年にユースの森下仁志監督のパワーハラスメントが認定された時は管理者側の権利行使にまつわる事案だった訳で、これもJリーグクラブとして経緯を公表し、然るべき処分を科す必要がある。
しかし山田の件に関しては、選手である以上は少なくとも後者では無いし、悪質ではある話だが前者に該当する事案でもない。大前提として、トラブルには刑事の事案と民事の事案があり、本来この手の個人トラブルはクラブにも公表義務は無い。ガンバが概要を公表したのは山田のチーム離脱、その後の退団というクラブとしての処置が必要になったが為に、その理由を必要最低限に公表する必要があった…という事である。例えば有名人の不倫なんかでもそうで、あれはあくまで週刊誌等で事の顛末が世間に知られたから声明を出すのであり、本来は個人間トラブルとして家庭や当事者で粛々と解決する問題である訳で、わざわざ自分から不倫の顛末を公表する義務は無い。それと同じようなもので、同時にこれが有名人同士の婚姻関係であればその有無が仕事の依頼に影響する部分もあるので、離婚理由を明言せずに離婚の理由だけは公表しておく…みたいな話である。
また、これは山田との契約に於いても同じ事だ。
前述のアデミウソンの件に関しては、当該事案が刑事に係る事案だった為、クラブは世間に対して事実と経緯を公表する義務を負うと共に、契約解除のようなアクションを起こせる権利を持つ。一方、山田の場合はこれはあくまで民事に係る事案である為、契約に於ける管理はまだ労働者側…今回で言えば山田がまだ持っている事になる。つまり、この段階でガンバは山田をチームから放出する為には双方合意での契約解除か移籍先を確保するかの2つしかない。かつてコロナ禍にチーム規約を破ってまで複数の不倫騒動を起こして解雇された清田育宏というプロ野球選手がいたが、千葉ロッテマリーンズによる一方的な解雇として彼は裁判へと話を持ち込んだ(最終的に和解)。そういう事例が実際にあったように、アクションを起こすと訴訟問題に発展する可能性もある。山田をチーム離脱させた際のリリースが「チームを離脱させる処分を科す」ではなく「双方合意によりチーム離脱」というリリースになっていたのはそういうところに起因する。だからこそクラブはそれが移籍成立なり、事案に対して一定の結果が出るまで物事を内々に進めなければならなかった。
山田の行為は、言うなれば引き金を引くような行為だったんだと思う。それは全員を不幸な立場に立たせ、全員が不幸な役回りを背負う事になる引き金を。
この事をチーム全体が共通して認識している事柄にはしたくなかったのは当該選手やその妻にとっても同じだったと思う。こういう事案に対して、クラブが最も優先すべき事はプライバシーの保護である。昨今では「詳細な説明、経緯を公表する誠意」の名の下に、正義面をして叩く素材探しやゴシップ的な知的好奇心を満たそうとするような動きがSNSを見ても盛んに感じる瞬間があるが、被害に遭った人は詳細が公になった瞬間に「センセーショナルなスキャンダルの被害者」というポジションに祭り上げられる。その時の被害者側にかかるダメージの大きさはもっと配慮されるべき事だろう。もちろん、本件に関係ない選手に余計な心配、疑心暗鬼をさせたくないという気持ちもあったはず。だから当該選手も最初は内密にしたい意向を見せていたのだろうし、少なくとも「山田とのトラブルが世間に対して晒されたくない」という考えは山田ではなく被害者、クラブともに共通した認識だったと思う。前述したように、民事に係るこの件はそもそも世間に対する公表義務も基本的にはない。
だがこれも繰り返しになるが、公表する義務がない代わりに、クラブには表だったアクションを起こせる権利はないし、クラブはその前提で事実関係を整理しながら山田の処遇、いわゆる退団オペレーションを進める必要があった。この段階でクラブはキャンプ不参加みたいな内外に伝わるような明確なアクションを起こせない。それはサッカークラブとて一つの企業だから。これはユニフォームの件にしても然りで、例えばユニフォーム販売から山田康太の項目を削除したとして、これだけSNSが力を持った今の世の中で「(事案を把握する前に撮影していた) ユニフォームのプロモーションにも参加していた山田のユニフォームだけ買えない状態」という状況はすぐに拡散するはずで、ある程度の情報が出揃った今になっては明らかに山田が悪い事がわかっているのでなんとでも言えるが、事実関係が整理できていない段階で、或いはクラブとして対応の結論が出ていない段階でそういう状況を一つでも生じさせる事は、そういう一つ一つの全てのアクションが大きなリスクとなる。
一方で、その状況が続いた時に当該選手が「あの件、どうなってるの…?」という不信感を持ち始める事もまた、一人の人間として自然な話である。そういう反応をさせてしまったのであればクラブの対応も完全なケアを出来たとは言えないのだが、それでも少なくとも隠蔽体質として断罪されるようなものではなく、プライバシー管理という最も大事な部分は護持していた。当該選手側の不満も自然であり、それを相談されたチームメイトの拒否反応も自然。クラブの対応も不自然ではない。 それぞれにはそれぞれの事情があり、立場があり、感情があるのだ。
クラブに不信感を抱いた選手の感覚は間違ったものではない。一方で、クラブの立場は実に気の毒なもので、やるべき事をやってもどこかに歪みが生じる中で奔走したフロントを責めることもできない。それぞれの立場と事情に歪みを入れる結果になってしまった。それが山田がガンバに対して犯した罪という事になる。