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【連載:UEFAvsビッグクラブ、欧州スーパーリーグ戦争の勝者を探る】①参加12クラブのスタンスと事情。そして勝者はもしかしてバルサ…?

「4.18」

 

それは欧州のみならず、世界のサッカー界にとって衝撃が走り、サッカーという概念が存在し続ける限り記憶されていく1日になったと思います。

 

 

 

…なんですけど!

 

欧州スーパーリーグ構想は想像以上に早い段階で頓挫しちゃいました。

一応スーパーリーグに関するブログは2回書かせて頂きまして。

 

第1回 【欧州スーパーリーグ構想正式発表】このような事態になった原因と引き金、そして欧州ビッグクラブとUEFA(及びFIFA)の対立の歴史。

第2回 【UEFAvsビッグクラブ全面戦争!】欧州スーパーリーグ構想に反対したい理由〜スーパーリーグ構想が呼び起こす懸念…FIFAワールドカップのWBC化と、ピラミッドが2つ出来る事の弊害〜

 

 

……ですが発表から2日も経たない間にマンチェスター・シティスーパーリーグ(以下SL)からの脱退を発表。続いてマンチェスター・ユナイテッドリバプールアーセナルトッテナムの4クラブ、最後に脱退報道は一番最初に出たチェルシーの脱退が正式発表され、気が付けばプレミアリーグからの参加予定6クラブが全て脱退する事になり(その後アトレティコインテルも脱退)、結局スーパーリーグ構想は正式発表から僅かな時間で計画の見直し、即ち「一旦取り下げ」という状況に追い込まれました。更にその後も脱退クラブは増えて、現在も名を連ねているのはレアル、ユベントスバルサの3クラブのみに。

 

 

発表以降、各国のリーグや協会、果てはSL参加クラブの選手や監督からも烈火の如く批判されたこの構想は、一応は2日で収束し、世界のサッカーファンの皆様も一息ついている頃でしょう。

ですが、これは果たして本当に「中止」なのでしょうか?事実、計画見直しを発表したスーパーリーグ側は「再構築」「再検討」という言葉を使っており、「中止」とは言っていない……これは留意しておく必要があります。

 

UEFAvsビッグクラブ……全世界を巻き込んだこの政治戦争は結局どちらが勝ったのか?そもそも終結したのか?これからどうなるのか?スーパーリーグ関連ブログ第3弾は、その事を考えつつ、その事を考える上で振り返っておくべき事について何回かに分けて書いていきます。

 

アジェンダはこんな感じ。

 

①そもそもSLに積極的、或いは消極的だったクラブはどこ?

②SL側の誤算→次回

③CL新フォーマットとこれからUEFAに待ち受ける逆風→次回

スーパーリーグは「中止」になったのか?→次回

⑤結局勝ったのはどっち?→次回

 

今回は①について書いていきます。

 

 

 

①そもそもSLに積極的、或いは消極的だったクラブはどこ?

 

スーパーリーグに参加予定だった12クラブを改めて確認しておくと以下の通り。

 

ACミラン(イタリア)

アーセナル(イングランド)

アトレティコ・マドリード(スペイン)

チェルシー(イングランド)

FCバルセロナ(スペイン)

インテル・ミラノ(イタリア)

ユベントス(イタリア)

リバプール(イングランド)

マンチェスター・シティ(イングランド)

マンチェスター・ユナイテッド(イングランド)

レアル・マドリード(スペイン)

トッテナム・ホットスパー(イングランド)

 

12クラブもいますので、当然ながら全チームの足並みが揃っているかと言えばそういう訳ではなく、それぞれにそれぞれの温度差があります。各チームの温度差は大きく分けて4段階あって、ざっくり分けてみるとこんな感じです。

 

【積極推進派】

アーセナル

ユベントス

リバプール

マンチェスター・ユナイテッド

レアル・マドリード

 

【追随派】

アトレティコ・マドリード

インテル・ミラノ

トッテナム・ホットスパー

 

【消極派】

チェルシー

マンチェスター・シティ

 

【様子見派】

ACミラン

FCバルセロナ

 

一番わかりやすい指標として、会長・副会長を出しているクラブは少なくとも消極派とは想像しにくいです。

SL構想と同時に発表されたSLの主要役員は以下の通り。

 

会長

フロンティーノ・ペレス(レアル・マドリード会長/スペイン)

 

副会長

アンドレア・アニェッリ(ユベントス会長/イタリア)

ジョエル・グレーザー(マンチェスター・ユナイテッドオーナー/アメリカ)

ジョン・W・ヘンリー(リバプールオーナー/アメリカ)

スタン・クロエンケ(アーセナル/アメリカ)

 

 

 

【CASE1:レアルの場合】

レアルのペレス会長という人物は、ハッキリ言って欧州サッカーのドンと言っても過言ではない存在です。現在74歳ですがバリバリ現役。日本人で例えるなら一番しっくりくるのは現役時代のナベツネです。現在サッカービジネスが異常なまでに肥大化しているのはネットワークの発展など世界的な流れも勿論大きいのですが、直接サッカーに関する部分できっかけとなったのは1992年のイングランドプレミアリーグの創設、1995年のボスマン判決、そして2000年のペレスのレアル会長就任だったと言っても過言ではありません。

 

ナベツネもそうですが、世間からどんな評価を受けようが彼らの豪腕は否定出来ません。第一次会長時代、第二次会長時代でそれぞれ「銀河系軍団」を築き上げたペレスが持つ影響力はもはや一クラブの会長に留まるものではありませんでした。SLに関しても会長の肩書が物語る通り、ずっと前から先頭に立ってこの案を計画しているのは他ならぬペレスです。

 

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【CASE2:ユナイテッドリバプールアーセナルの場合】

この3クラブには共通点は大きな共通点があります。この期に及んでユニフォームが赤とか言うつもりはありません。この3クラブの共通点はオーナーがアメリカ人で、かつアメリカのスポーツチームも所有している…という事です。

ユナイテッドを所有するグレーザー一族はNFL(アメフト)のタンパベイ・バッカニアーズを、リバプールのオーナーであるヘンリーの会社であるファンウェイスポーツグループ(FSG)はMLB(野球)のボストン・レッドソックス、そしてアーセナルを所有するクロエンケはNFLNBA(バスケ)、NHL(ホッケー)等にそれぞれチームを持っており、さらに言えば、アメリカでのスポーツビジネスに成功した上で欧州サッカーに進出してきたのです。

 

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スーパーリーグ参戦を表明していたチームの理由はそれぞれにあります。最終的には資金確保が最たる目的な訳ですが、その理由として「借金返済のアテにしたい」「乗り遅れるわけにいかない」…等、比較的消極派のチームは今ある課題を解消する為の資金確保案としてSLに参加したかったのに対し、この3クラブはSLというツールを使う事で「欧州サッカーをアメリカ式のフォーマットにする事で飛躍的に収益を伸ばしたい」というところでした。

これ自体は良いも悪いもありませんが、この3クラブのオーナーは欧州ではなくアメリカ的な思考な訳です。実際問題、彼らがチームを持つMLBNFLNBA、NHLには降格制度もなく、アメリカ国内で全て完結してしまうのでクローズドリーグといえばクローズドリーグです。それこそ、国を州に変えたSLみたいなもんですね。ですがこの4つのリーグは世界でもトップクラスの収益を叩き出している訳で、ここの成功にも関わっているオーナー陣が欧州でも同じ夢を見るのはそこまで不思議な話では無い訳です。このアメリカ人オーナー達が目指したのはチャンピオンズリーグNFL化、或いはNBA化であり、かねてから別軸でSLを実現させたかったペレスとの利害関係が一致した…という事でしょう。

 

ただ、アメリカと欧州の文化の違いは当然にしても、アメリカと欧州でのフットボール、ひいてはスポーツに対する捉え方も根本的に違った、そこを見誤ったのがこの3クラブのミスだったように思います。リバプールのヘンリーとFSGはその辺うまくやってたように見えただけど……。

 

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【CASE3:シティチェルシーの場合】

プレミアリーグからは最多の6チームが参加予定でしたが、前述の3クラブが乗り気どころか推進していた立場なのに対して、乗り気ではなかった…と報じられていたのがこの2クラブ。実際にシティはSLを一番最初に脱退した、いわばファーストペンギン的になったのはシティでしたし、プレミアの中では一番最後に脱退表明したチェルシーも脱退報道は一番最初に報じられていました。

 

 

この2クラブの収入源は典型的なオーナーのポケットマネーです。俗に言うオイルマネーですね。この2クラブにはSLを推進したい理由もなければ、借金問題等をSLで解決する必要もない。言ってしまえば「別の今のままでもいい」という立場です。

では、なぜバイエルン・ミュンヘンボルシア・ドルトムントパリ・サンジェルマンが参加を断った中でシティとチェルシーは参加せざるを得なかったか、その違いといえば、バイエルン&ドルトムントは国内リーグ(ブンデスリーガ)として拒否出来るような状況だった事、パリはそもそもフランスにビッグクラブがパリしかいなかったのに対し、プレミアは有力クラブが丸ごとSLに行ってしまったので「SLに参戦しないデメリット」以上に「プレミアに残るデメリット」が上回ってしまった事でしょう。逆に言えば、元々それぐらいのモチベーションだったので「SLに参戦するデメリット」が上回った時に執着する理由は無かったのです。

 

【CASE4:ユベントスの場合】

ご存知の通り、イタリア経済は長年危機的な状態が続いています。国の経済で言えばスペインにも同じことが言えますが、国内リーグに及ぼした影響でいえばセリエAのそれは甚大でした。5〜6年ほど前、当時ミランに所属していた本田圭佑が「今ユベントスが弱くなったらセリエAそのものが危なくなる」とコメントして話題になりましたが、セリエの置かれた立場が当時と比べて改善されたとは言えない状態が続いています。

ある意味、イタリア勢の命綱的な存在になりつつあるユーベですが、そんなユーベのアンドレア・アニェッリ会長は元々積極的に改革を進めようとするタイプの人物でした。その最大の功績といえばユベントス・スタジアム(アリアンツ・スタジアム)の建設ですが、これをイタリアで初となるクラブ所有のスタジアムとしてみせた事。他にも彼はユーベのブランディングマーケティング戦略にも積極的に取り組んでいました。

 

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副会長4人のうち唯一アメリカ系でないのがこのアニェッリな訳ですが、おそらくアニェッリの目的はどちらかといえばイタリアサッカーの現状打破。元々改革には積極的に踏み切るタイプの人物だったので、セリエの現状維持よりもこちらに踏み切ろうと考えたのでしょう。

イタリアのファンからも否定的な意見が大多数を占めてはいますが、イングランドほど大きく否定的に取り上げられていないのはセリエA、そしてイタリアの国そのものに対する自覚は多少あったように思います。

 

【CASE5:ミランアトレティコインテルトッテナム

アトレティコトッテナムの参加理由は比較的似ていると思います。前者はスペインでレアルとバルサに唯一対抗できるチームの地位を築き、後者はプレミアビッグ6の一角と数えられるようになりました。彼らはビッグクラブとはまだ言えませんが、今まさにビッグクラブになれるかどうかの帰路な訳で、その立ち位置をビッグクラブに傾ける為にSLへの招待は願ってもないチャンスだったので、SLそのものへの賛成というよりは、ある意味で悪魔の契約を受け入れたようなものだったんだと思います。特にトッテナムはそれを目指す動きが最近は目立っていますからね。

 

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逆にイタリアの2クラブは上で述べたイタリアの現状の部分がポイントになります。ミランインテルではミランの方が積極的ではあったという温度差はありましたが、アトレティコトッテナムも含めて、この4クラブはSLをやりたいというよりも「乗るメリット」「乗らないデメリット」を考えた上での賛成だったと言えます。

 

 

 

【CASE6:バルセロナ

先日の夜中、脱退の流れに逆らうニュースが飛び込んできました。

 

 

簡単に言えば、バルサは公式声明としてSLからまだ撤退はしない…と。ただし、バルサがSL残留というよりは「もう少し様子を見る」という意味合いが強く、残留とはいってもレアルと同じスタンスとは言えない…という部分は留意しておく必要があります。

 

……すごく個人的な感想を言えば、今回の一連のSL騒ぎの中で、もし得をしたクラブがあるとすれば……それはバルサなんじゃなかろうか、と。厳密に言えばバルサというより、今年からバルサの会長職に復帰したばかりのジョアン・ラポルタだけは今回の件で得すらしたのではないかと。

 

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そもそも、バルサのSL参戦は不祥事が露呈して退陣に追い込まれたジョゼップ・マリア・バルトメウ前会長が合意したとされています。そのバルトメウが退陣した際に行われた選挙で勝利し、2010年以来の復帰を果たしたのがこのラポルタでした。

…この「選挙」というのがバルサにとって大きなポイントで、バルサが他のビッグクラブと大きく異なる部分です。元々バルサのクラブ運営はスポンサー収入よりも一般市民から会費を募り、その会費を基に運営していました。その会員組織は「ソシオ」と呼ばれています。過去のバルサの試合を見ると05-06シーズン以前のバルサには胸スポンサーが入っておらず、ざっくり言えばアンチ商業主義みたいな感じで発展していたのがバルサでした。とはいえ近年の流れだとその方針では立場を護れないですし、現在は楽天が胸スポンサーを勤めているように商業路線は完全解禁になっていて、以前のようにソシオが占める割合は大きい訳ではありませんが、会長選ともなるとソシオは投票権を持つので、クラブで影響力を持つ為にはソシオを無視は出来ないのです。

 

 

現在、バルサの借金は壮絶な金額に膨れ上がり、破産及び倒産は非現実的な話ではなくなっている状態なので、実現すれば確実かつ即座に多額のキャッシュを得られるSLは救世主的な存在でした。前会長のバルトメウがSLの契約に同意したのは、SLによってバルトメウ自身が中心となって膨れ上がらせた借金を一気に帳消しにしたい狙いがあったのでしょう。少なくとも、バルサのSL参加を主導したのはラポルタではなくバルトメウ、近年のFCバルセロナ史上最も嫌われている人物と言っても過言ではないバルトメウ…という前提があるのです。加えて、報道によればラポルタは会長就任後にペレスとの間に「ソシオの投票で否決された場合はSL脱退する」という確約も取り付けたらしく、実際にバルサとして「バルサはSLに対して慎重な立場であり、最終的にはソシオの判断に委ねる」というようなコメントも発しています。

 

要するに、ラポルタにとっては他の11クラブと異なり、バルサのSL参加で自身の評価がバルサファンから下がる事は最初からなかったのです。SL参加が決まったところで「決めたのはバルトメウだから」と言えるし、ファンも多くがそれを知っているから。更に、バルサは前述したようにソシオの意向に沿う…というスタンスをとっています。これで仮にソシオの投票によって否決され、その通りにバルサがSLから撤退した場合……ラポルタは「最低最悪の前会長が勝手に決めたSL参加を、新会長がソシオの言葉に耳を傾けて撤退してくれた」という図式を得ることが出来るのです。

この構図を作り上げられたならば、前会長が前会長だっただけにソシオのラポルタ支持率は凄まじく上がる事でしょうし、そうなれば自身の会長職も当面安泰でしょう。加えて、SL構想が頓挫すればそれはペレスの敗北という印象を植え付ける事もできる。これはバルサファンにとっては相当重要なポイントで、「このタイミングで就任しちゃったラポルタが気の毒」と見る向きもありますが、むしろラポルタにとってSL構想はどっちに転んだって勝ちみたいなものなんです。SLが実現したらしたで借金を返せる訳ですからね。

 

 

 

今回はそれぞれのスタンスについて書いていきました。

次回以降はなぜ頓挫したか、頓挫してからどうなるか…を書いていこうと思っております。よろしければ読者登録なんかも是非…。