G・BLUE〜ブログとは名ばかりのものではありますが...ブログ。〜

気ままに白熱、気ままな憂鬱。執筆等のご依頼はTwitter(@blueblack_gblue)のDM、もしくは[gamba_kyoto@yahoo.co.jp]のメールアドレスまでご連絡お願いします。

【欧州スーパーリーグ構想正式発表】このような事態になった原因と引き金、そして欧州ビッグクラブとUEFA(及びFIFA)の対立の歴史。

いやー………激震が走りましたねぇ……。

 

 

 

欧州スーパーリーグ構想、発表。

 

 

 

 

 

まぁ……ざっくり概要を説明しますと、レアル・マドリードを中心とした欧州の12クラブはビッグクラブによる「欧州スーパーリーグ」の発足を発表しました。

 

f:id:gsfootball3tbase3gbmusic:20210419131047j:image

 

 

まず簡単にスーパーリーグについて説明すると、欧州のビッグクラブ12クラブが集まり、UEFAチャンピオンズリーグに代わるミッドウィークの大会としてこれから運営していくとの事。現段階でいつから開幕させるのかは未定ですが、現在は12クラブですけど開幕に向けて15クラブ、最終的には20クラブに増やす予定で、フォーマットとしては20クラブを10×2グループに分けて総当たり、上位3クラブと4、5位クラブのプレーオフを制した8チームが決勝トーナメントを戦う…というシステムが予定されていてます。

 

現段階で正式発表されているスーパーリーグ参加クラブは以下の通り。

 

ACミラン(イタリア)

アーセナル(イングランド)

アトレティコ・マドリード(スペイン)

チェルシー(イングランド)

FCバルセロナ(スペイン)

インテル・ミラノ(イタリア)

ユベントス(イタリア)

リバプール(イングランド)

マンチェスター・シティ(イングランド)

マンチェスター・ユナイテッド(イングランド)

レアル・マドリード(スペイン)

トッテナム・ホットスパー(イングランド)

 

 

 

この12クラブに3クラブ(噂ではバイエルン・ミュンヘンボルシア・ドルトムントパリ・サンジェルマン)を追加した15クラブを「核」としてスーパーリーグに固定参加、残る5チームは成績に応じて入れ替え制で行う…としています。

あと、勘違いされがちなので書いておくと、スーパーリーグはあくまでチャンピオンズリーグの枠であり、上記12クラブがリーグを移籍するのではなく、国内リーグ+チャンピオンズリーグだったのが国内リーグ+スーパーリーグに変わる…という形である事は頭に留めておいてください(場合によっては追放される可能性は否定できないけど…)

 

 

一方、FIFAUEFAがこれを認める訳もなく、スーパーリーグが正式発表される少し前、正式発表されるとの情報を掴んだ上で日本時間でいうところの18日の深夜ですかね…UEFAが一つの声明を発表。

 

 

かいつまんで言うと、「UEFA、及びイングランド、スペイン、イタリアの協会とリーグはスーパーリーグを認めない。もし断行するのであれば、スーパーリーグに参加する選手はFIFA等とも連携の上、代表活動に参加させない」…ということです。要するにUEFAが管轄するEUROはもちろん、FIFAワールドカップへの出場も禁じられる可能性が高まっています。

 

 

確かにこの構想自体はかねてから噂されていました。ただ、これまでは言ってしまえばかつての米ソ冷戦みたいなものであって、ビッグクラブにとってUEFAに対する脅し…ある種の「うち核持ってるよ?事と場合によってはぶっ放すよ?」的なものであって、UEFAチャンピオンズリーグなどUEFAに対して交渉事を優位に進める為のツール的な意義が強かったように思います。言ってしまえば匂わせですよね。そういう計画だって準備してるんだよ?と。

それが今回の場合は「正式発表してしまった」という事。一応スーパーリーグ側は「FIFA及びUEFAと協議しながら進めていく」としていますが、スーパーリーグ側が新設リーグを、UEFA側がその対抗措置を正式発表…言ってしまえば宣戦布告してしまった事で冷戦の状態は終わり、全面戦争に突入したという事です。

 

f:id:gsfootball3tbase3gbmusic:20210419173836j:image

 

予め言っておくと、私自身もこのスーパーリーグ構想に関しては反対です。国内外含め、ざっと見た感じは世論も反対の方が多い印象で、中立的な意見もありますが、積極的な賛成派はそこまで多くない印象を受けます。

 

【追記】これの翌日に更新したブログでは、なぜスーパーリーグに反対なのか…というところを「サッカーと野球の発展の歴史」「W杯のWBC化」の観点から書いておりますのでこちらも

 

ただ、個人的にはスーパーリーグ側が一方的に悪者にされているというか、微妙に「正義のUEFAvs悪のスーパーリーグ」みたいな構図になってしまっているのは少し違和感を抱いていて、なんか風潮的に「スーパーリーグ側が金儲けシステムを樹立して、UEFAが代表云々の対抗措置をとった」と思われがちですが、そもそもで言えばこのスーパーリーグ構想自体がUEFAに対する対抗措置みたいなところもあるんです。

見た感じ、結構脊椎反射で反対している人も多く映ります。賛成か反対かはともかく、問題はビッグクラブ側が金に目を眩んだ、私利私欲に溺れた…とかその程度ではなく根深いんです。今回のブログでは「そもそも何故このような事態になったのか?」について書いていきます。

 

ネタは違いますが、最近話題になったJリーグプレミア化構想についてYouTubeで語ったのでよろしければそちらも。

 

 

UEFAに対するビッグクラブ側の不信感

 

近年、サッカー市場はそれこそ天文学的な規模での拡大路線を辿ってきました。その過程の中で深刻化していったのはUEFA(及びFIFA)とビッグクラブ側の関係悪化。ざっくり言えば、ビッグクラブのUEFAに対する不信感ですよね。

 

まずは収益面。UEFAチャンピオンズリーグの市場規模は今や凄まじい数字になっています。もちろんそこにはUEFAブランディング、マーケット戦略の賜物でもあるのですが、一番はやはりビッグクラブ同士の削り合いによってもたらされている部分が大きく、その収益の取り分のUEFA回収割合、或いはその配分の割合がビッグクラブにとっての不満な訳です。

もちろん順位によって賞金の配分などは変わりますが、ビッグクラブ側からすればある種自分達がUEFAの金儲けの道具とされている感覚があった…という部分は不信感の柱みたいなところにもなっています。

 

加えて、近年はビッグクラブの過密日程問題も叫ばれるようになりました。

特にイングランド・プレミアリーグではクリスマス休暇もなくFAカップも未だに再試合ルールが設けられていて、年末年始は当たり前のように中1日での試合が組まれています。過密日程は収益は上がるでしょうが負傷リスクは当然高まり、それで怪我人が多発した場合、運営側は儲かってもクラブ側は損失を被る…という構図がより色濃くなってきたのです。

かねてからビッグクラブ側は後述するG-14というビッグクラブ連合を組んで、UEFAに対し収益分配や過密日程の再考を求めていました。一旦は和解してG-14は解散しましたが、火種を解消できたとは言い難い状態だったんです。そんな冷戦状態にある中でUEFAは2018年から代表ウィークにW杯予選、EURO予選に加えて「UEFAネーションズリーグ」という新たな公式戦をカレンダーに組み込んだ事で、試合中のトラブルならまだしも代表活動中に疲労がたたって負傷離脱する選手というのが増えてくるようになり、UEFAネーションズリーグはビッグクラブ側とUEFAの関係を決定的に裂いた…と考えることも出来ます。

UEFAも収益面に関しては配分を調節するなどビッグクラブ側に対して譲歩するようになってきましたが、それでも大部分が大きく変わったという程ではなく、過密日程の温床とされていたネーションズリーグはコロナ禍でただでさえタイトな日程が敷かれた今季も継続開催された……例えば今季のリバプールなんかからすれば、「自分達の身と成績を削って生み出された収益すらUEFAに吸い取られる」みたいな被害者意識が芽生えていても不思議ではないという事です。

 

f:id:gsfootball3tbase3gbmusic:20210419174129j:image

 

UEFAが24-25シーズンから導入予定のチャンピオンズリーグの新フォーマットはビッグクラブ優位なフォーマットになっていました。ただビッグクラブに圧倒的に優位なシステムである反面、試合数は更に増加していましたし、そもそも新フォーマットも結局ビッグクラブありきのシステムというか、スーパーリーグ化だけは阻止したい意思がミエミエで、かつその割には日程問題は解消できないシステムだったのです。

元々ビッグクラブ側はFIFAクラブワールドカップにも否定的で、FIFAもクラブW杯に欧州クラブを参加させる為にトーナメント上の優遇措置を執り続けていましたし、UEFAFIFAもビッグクラブありきで物事を考えていた割には……という部分がビッグクラブ側のUEFAに対する不信感に繋がっていました。

 

結局、UEFAとビッグクラブ側の関係悪化は止められませんでしたし、止められる気配もありませんでした。今回、報道によればバイエルンやPSGはスーパーリーグ参加を断ったとも報じられていますが、その2チームもあくまでメリットとデメリットを天秤にかけただけであって、彼等もまたUEFAに対して不満を抱えている…というか4大リーグのCL・ELの常連クラブはほとんどがUEFAとの金銭問題に不満を持っていると思います。

上で今の状況を冷戦に例えましたが、コロナ禍があろうが無かろうが、遅かれ早かれどこかで両者の戦争は勃発していた……いつかこうなる事は既定路線ですらありました。それが、ただ今日だった…と。UEFA側がスーパーリーグ参加チームの代表参加を禁止を検討していると発表し、これはUEFAスーパーリーグに対する対抗措置とも言われていますが、そもそもスーパーリーグ自体がUEFAに対する抗議の意味を有している事は理解すべきです。

 

 

 

UEFAとビッグクラブの力関係と対立の歴史

 

とはいえ、いくら不満を持っていたところで、実際に強硬手段が可能なのかどうかは別問題です。言わずもがな、UEFAFIFAは巨大組織かつ中立組織な訳で、だからこそこのような不満が具体的なカウンターとして表面化する事はありませんでした。ですが戦争を起こす為に一番大事なのは「その戦争に勝算があるかどうか」な訳で、正式発表に至ったという事は勝算があるという事です。つまるところ、なぜ今回のような事態に至ったかと言えばUEFAとビッグクラブの力関係が逆転するようになったから」…と。

 

サッカーの勢力分布図はかつてはかなり細かく分かれていました。20世紀の時代、ブラジルやアルゼンチン国籍の当時のワールドクラス的な選手で一度も欧州の地を踏まずに現役を終えた選手はザラにいますし、欧州移籍をしても移籍先がビッグクラブじゃない事も普通にあり、具体例を挙げると…当時世界最高の選手の一人に数えられていて、未だにブラジル史上トップクラスの選手として知られるジーコが欧州でプレーしたのはわずか2シーズンのみ。それもミラノ勢やユベントスではなく、小クラブに過ぎなかったウディネーゼ。これは南米等に限らず欧州諸国にも同じ事が言えて、CLの前身…チャンピオンズカップ時代(1955〜1992)は互角とまでは言いませんが、ルーマニアセルビアのクラブが優勝する事も実際にありました。サッカーの中心地が世界に散らばっている状態だったので、それをまとめる中立組織…という意味でFIFAUEFAは発展してきたのです。

 

サッカーのみならず世界的なグローバル化の影響もありますが、1995年のボスマン判決やネットワークの拡大に伴う放映権料の増加、そして外国資本の積極的な介入により、サッカーそのものの市場価値が急激に高まり、マネーゲームがわかりやすく結果に直結するようになった…ビジネス要素が強くなった事でビッグクラブという概念が固定化されるようになっていきました。

その流れと歪みが上述したビッグクラブとUEFAの対立に繋がっていくのですが、そんな中で2000年に誕生したのが「G-14(ヨーロッパビッグクラブ連合体)」と呼ばれる団体。あくまでこの団体は圧力団体に過ぎないので権力を持っている訳ではないのですが、そのメンバーが当時「銀河系軍団」と呼ばれていたレアルや三冠を達成したばかりのマンチェスター・U…即ち、欧州サッカーのコアに位置するチームの皆さんだった訳です。公式な権力を持つ団体でこそないものの、彼らがUEFAFIFAが成功する為には必要不可欠な面子だったので影響力は抜群。前述の通り、UEFAとの和解でG-14自体は解散しましたが、要するにこの頃からUEFAFIFAに対してビッグクラブ連合が力で上回り始めるようになってきたのです。その結果がチャンピオンズリーグやクラブW杯に於いてビッグクラブに対して機嫌伺いみたいな感じになったりしていた事に繋がっていきます。

 

 

 

加えて昨年2月、マンチェスター・シティFFP違反で摘発され、UEFAから「CL2年間出場停止」という処分を下される事態が発生しました。

 

 

これはその当時に書いたブログなんですが、「UEFAが正式処分に踏み切った時点で何らかの証拠があるはずなので、いくらシティがスポーツ仲裁裁判所(CAS)に提訴したところで出場停止期間を短縮はできても撤回は難しそう」的な事を予想として書いたんです。

ですが昨年6月、CASはシティの出場停止処分を撤回する判決を出しました。一応UEFAの調査に協力しなかった事で罰金は科せられているので完全な無罪ではないですが、金額も別に高額じゃなかったのでシティからすればほぼ完全勝訴という結果を得たのです。この件に関してはスーパーリーグに加盟するクラブの中でも賛否両論があったとは思いますが、一方でUEFAの法廷闘争に於ける貧弱性が露呈した瞬間でもありました。スーパーリーグ構想自体はレアルのフロンティーノ・ペレスを中心に長い年月をかけて計画されたプロジェクトですが、構想にある種のGOサインが出たのはこの瞬間だったような気もします。仮にUEFAに裁判に持ち込まれても勝てる、逆にUEFAが科した制裁も裁判にかければ勝てる…スーパーリーグ側が計画を成功させるだけの力を持ってしまった……だからUEFAは今回のスーパーリーグ構想に対して、スーパーリーグ側を「サッカーの敵」として、情とFIFAを巻き込んだ制裁で戦うしかなくなったのです。

 

 

 

私はスーパーリーグ構想自体は間違いなく反対の立場です。その理由は次回のブログで書きたいと思います。

ですが、スーパーリーグは反対ですが、あまりにも脊椎反射で否定している人が多すぎるというか、UEFAにも相当な問題がある事を割とスルーして語っている人が多いような気もするんです。もしこの問題を「正義」と「悪」に分けるならばハッキリ言ってどっちも悪。アウトレイジサッカー戦争状態ですよ。だから私の場合、反対は反対だけど気持ちはわかる…と。ビッグクラブの下位クラブや地方クラブのことを考えてないという意見に関しても、気持ちはわかるけど……実際問題、レアルやバルサ規模まで行けばそういうことを考えてもいいとは思いますが、今のアーセナルトッテナムクラスが自分達を追い落としかねないチームに対して身を削ってまで救済する勇気は自分の立場なら絶対に持てないとも思うし…。

とりあえずあまり背景を知らずに反対している人には、一旦そのUEFAとビッグクラブの対立の歴史も踏まえて考えてみてほしい、とは言いたかったので今回のブログを書きました。

 

今回はどちらかと言えばビッグクラブ側を擁護するような形のブログにもなりましたが、次回はなぜ反対なのか…について書いていくので、そちらも見ていただければと思います。

ではまた後日、それを公開した際に。

 

【追記】後編更新しました。今回はサッカーと野球の歴史から見るスーパーリーグ。なぜスーパーリーグに反対なのか…を2つの理由から書いています。