RK-3はきだめスタジオブログ

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光と闇の紫〜2019年の京都サンガFCを振り返る〜第1話 監督・中田一三とV字回復のような躍進

「終わりよければすべてよし」

 

この言葉で全てが片付くのだとすれば、京都サンガにとっての2019年は悲劇の年だったのかもしれない。

それは何も柏戦の結果だけじゃなくて、その後の端末を見ても心のどこかで感じている。

 

 

 

11月28日、サンガは中田一三監督の1シーズンでの退任を発表した。

 

www.sanga-fc.jp

 

一部では柏戦での13-1というJリーグ史に残る大敗が引き金に…という見方もあるみたいだが、少なくとも柏戦の大敗は中田監督の退任の理由には影響していないと思う(柏戦に負けてプレーオフを逃した、という部分は無い訳では無いだろうが…)。

今回の件で中田監督の肩を持つとしてもフロントの肩を持つとしても、確かなのは柏戦よりも前の段階で中田監督が今季限りというのは既定路線だったのであろう事である。西京極のラストゲームとしては余りにも出来過ぎた程に劇的だったホーム最終戦千葉戦後、ホーム最終戦セレモニーで中田監督の挨拶が無かった事はその事の決定的な表れだったように思うし、柏戦の後、サンガサポーター席に訪れた際の中田監督の発言からも、あの時点で来シーズンのサンガの監督は別の人物になる事は察する事が出来た。

 

正直なところ、開幕前の時点で遅かれ早かれ中田監督がどこかでフロントと衝突する事は安易に予想出来た。実際、開幕前にTwitterが話題になり過ぎていたあの時、私は中田監督を信用出来ていなかったし、批判寄りのブログも2本ほどアップしている。それと同時に、サンガを長く見れば見るほど「サンガフロント」という組織が全幅の信頼を置ける組織でない事も感じているのは私だけではないはず。このシーズンが始まる前の不安感は尋常ではなかった。

だが、その状況からファンやサポーターに掌を返させる事に成功したのは間違いなく中田監督の勝利とも言える結果であり、終わりこそ残念なものだったとはいえ、2019年のサンガは「成功」と呼べる一年だった事は間違いない。大体、柏戦の大敗はサンガがJ1昇格の可能性を最終盤まで残せていたからこその悲劇だった訳で、今回の一連の経緯には様々な意見があると思うが、誰にも否定出来ないのは「今年のサンガの健闘」という最も大事な部分である。

 

どこか歪んだドラマ性を帯びた一年を過ごしたサンガは今年で創立25周年。来年からは西京極陸上競技場を離れ、亀岡の京都スタジアムへと旅立つ。10年後、サンガファンはこの2019年をどう捉えているのだろうか。今年得たものでサッカーライフを謳歌しているのか、それとも今年失ったものを憂い、嘆いているのか…。

今回からは2019年の京都サンガFCについて振り返るブログを書いていこうと思う。何回かに分ける事になると思うが、お付き合い願えたら幸いである。

 

 

 

まず最初に、昨季のサンガが如何に酷かったかというところから今季の物語は始まる。

昨季は昨季で総括ブログを書いたのだが

 

 

2016年にサンガをプレーオフに導いた石丸清隆監督を解任し、布部陽功監督を招聘した2017年から2018年の2シーズンはサンガにとって「失われた2年間」と形容しても何の語弊もない。2017年の時点でそれまでの貯蓄のほとんどを食い潰し、2018年は一時しっかりと最下位にまで陥り、J3降格は危機ではなく現実味を帯びた話にまでなってしまっていた。内容には改善の余地があったとか、若手が育ったとか、そんな擁護できる要素さえも無かった状態だったからこそ、2019年に求められたのは昇格よりもスクラップ&ビルド的なシーズンであり、良い成績を残す事よりも数年後までにせめて昇格争いは出来るチームに戻す為の土台を作る事であり、もはや昇格争いですら「出来ればラッキー」くらいの認識にならざるを得なかったのが実情だった。だからこそ、このタイミングで中田監督を引っ張ってきた事自体、布部監督体制からの学習はしていないのか…という気になって、実際にそういうブログも更新した。

 

というのも、2018年のサンガは布部監督を謎に続投させた割には、名古屋などでの監督経験があるボスコ・ジュロヴスキー氏をヘッドコーチに据え、結構な権限を与えていた。そして5月に布部監督を解任すると、そのままボスコ氏を監督へとスライド。…いや、それなら最初からボスコで良かったやん。誰もがその疑問を抱いただけに、Jリーグでの指導経験の無い中田監督の就任と共にゲルト・エンゲルスコーチの就任が発表された時は、どこか同じ匂いを感じたのだ。いつでも中田監督を切って、いつでもエンゲルス体制に移行出来るように…と。

実際、中田監督の招聘は2019年の強化部ではなく、2018年の小島卓強化部長がサンガでの最後と仕事として果たしたものである。その小島部長は2018年をもってサンガを辞めたが、既に結んだ契約はクラブとして破棄する訳にはいかない。その上での決断が、實好礼忠コーチや佐藤一樹コーチを含めた優秀なS級ライセンス持ちスタッフを入閣させる事で、要するに「いつでも中田監督を切れる状況」をフロントとして組み立てていたように思う。

この事は後述するが、結果的には中田監督がこの状況を利用して「日本一豪華なコーチ陣を活かすシステム」を組み立てた事が今季の躍進に繋がった訳だが、昨今のサンガフロントがそれを見越してこのコーチ陣を選定したとは考えにくく、前述の通り中田監督解任を前提とした人事だった事は想像がつく。中田監督とフロントの信頼関係に歪が入っていたとしたら、中田監督からすれば既にこの時点では何らかの不信感があったのかもしれない。

 

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サンガファンにとっては大きな不安が募った開幕前…だが、その不安は杞憂に終わるとまではいかずとも、開幕戦を終える頃にはある種の希望を見出せるようになっていた。2月24日のJ2開幕戦、アルビレックス新潟との試合でサンガが見せたのは、昨年までサンガがやっていたサッカーそのものの初期のようなキック&ラッシュではなく、徹底したポゼッションサッカーだった。この時は不思議な配置の都合もあって不完全な要素も多く、課題も多く見受けられたとはいえ、少なくとも中田サンガが目指そうとしている方向性がポジティブに見えただけで、布部体制の開幕戦より何倍も充実したものと言えた。

 

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実際、今年のサンガの基本的な戦い方は、マイナーチェンジは挟みながらも開幕戦で提示したスタイルを最後まで維持し続けている。第2節の鹿児島戦でシーズン初勝利を挙げると、第5節までを2勝2分1敗。スタートダッシュとしてはまずまずの成績を収め、各種メディアなんかでもサンガの変化が取り上げられ始めたのだ。その後、3バックシステムを導入するなど、選手のベストな配置を模索しながら辿り着いたのが第8節、ガンバ大阪からレンタル移籍で獲得した一美和成をFWとしてスタメン起用した栃木戦であり、第10節徳島戦からは仙頭啓矢、小屋松知哉をウイングに配置した4-1-2-3を採用すると、今季のサンガのサッカーはこのタイミングで確立されて一気に躍進を遂げる。

 

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上のリンクにある6月時点のサンガの戦術について書いたブログでも述べたが、今季のサンガの戦術のキーマンはアンカーの位置にいた庄司悦大だった。庄司がコントロールタワー、パスの出し手としてフリーマンのようなポジションを取り続ける事で、まずサンガのポゼッションは庄司から始まっている。それに合わせて攻撃力を持つ石櫃洋祐、黒木恭平の両サイドバックが高い位置を取り、福岡慎平、金久保順、重廣卓也といったセントラルMFがパス回しに参加しつつそれをサポート。最終的には一美和成、仙頭啓矢、小屋松知哉の3トップが近めの距離感でテンポとリズムの良いコンビネーションでDFを切り裂いて決め切る…というのが好調時のサンガの主な得点パターンと言えた。

それと同時に、このサンガのポゼッションサッカーは失点数を大きく減らす効果もあった。それはこのサッカーの効果を1番発揮していたのは、ある意味では「常にポゼッションしていればそもそも守備をする必要がなくなる」という部分だったようにも見えた。事実、今季のサンガの勝利は先行逃げ切りタイプの試合が多い。ポゼッションサッカーをする事によって攻守の両輪が理に敵ったハマり方をし、適切な位置に整理された選手の配置も相まってサンガは一気に昇格戦線へと食い込んでいくのだ。

 

今年のサンガのコーチング体制は、なんでも分業型と言える形態だったと聞く。中田監督を含めて、S級ライセンス持ちがベンチに4人もいたサンガだったが、中田監督をトップに置いた上で、中田監督が「共創者」と呼ぶ優秀なコーチ陣にそれぞれの権限を与え、無理に一人で全てを解決するよりも任せるべきところは得意な人に任せ、役割を分担しながらチーム作りを進めていた。

前述の通り、恐らくサンガフロントはこれを目論んでS級持ちコーチを多く招聘した訳ではないだろう。だがこれは実績と経験を持つ優秀なコーチを揃えたからこそ出来た手法であり、それも中田監督が確かな方向性をきっちりと示した上で初めてこのシステムは成り立つ。ある種、フロントの目論見を逆手に取ったのだ。一見すると「じゃあコーチ陣が凄いんじゃないの?」という意見も出てきそうだし、実際にコーチ陣が果たした役割は大きい。だが、この方式を用いて機能させた事は間違いなく中田監督の功績であり、今季の躍進の大きな要素と言えた。

中田監督はサンガの監督に就任する前、FC.ISE-SHIMAで総監督というポジションに就いていた。その経歴の事だったり、サンガで中田監督が分業体制の方式を持ち込んで結果に繋げた事を考えると、やはり中田一三という人物は良くも悪くも監督よりGMの方が向いている人物だったように思う。そう、それは様々な意味で…。

 

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何にせよ、サンガの躍進はフロントにとってもある意味で計算外だったんじゃないか、というのがシーズンが終わった今に感じている事だ。7月末辺りまでは全ての物事が順調に進んでいるように見えた。それはまるで「失われた2年」を猛烈なスピードで取り戻そうとしているかのように。しかしこの時から既に、何らかの亀裂に似た歪な何かは走り始めていたのかもしれない。燻る火種のような伏線は確実にその糸を伸ばしていたのではないだろうか。

 

 

 

つづく。