11時間の夜行列車との戦いを終え、お酒や自作のおつまみをご馳走してくれたロシア人二人に「スパシィーバ」となんとか言い、遂にカザンの街に降り立った。
どうやらカザンは、前日まで結構冷え込んでいたらしい。
だがこの日はモスクワ同様雲ひとつないほどの晴天で、気温も高いように感じた。
そもそもロシアという国は、夏という事もありイメージ寒くはない。だが昼と夜の温度差は結構ある。まぁ、夜は大概ホテルに居たから、あまり関係はないのだけれど。
街の至る所に、W杯仕様の看板やポスターが貼ってある。緊張感、高揚感…全てが足を一つ進める度に一気に上がっていく。
バスの乗降場は既にオーストラリアのサポーターでいっぱいだった。既にチャントを歌い始めている。
ここから試合会場となるカザン・アリーナまではそこそこの徒歩を必要とするが、むしろテンションを上げていくにはちょうどいい距離だったかもしれない。
スタジアムが見えてきた。
このスタジアムは、スタジアム自体はオーソドックスな形なのだがスタジアムの外壁全体がビジョンとなっている珍しい形状で、その分綺麗な演出を映し出す事を可能としていた。
だがさすがW杯、一筋縄では入場できない。
まず飲み物の持ち込みは一切出来ない。無論、工夫すれば出来なくはないが、基本はコカ・コーラやマクドナルドなどスポンサー商品を買えという事である。見つかったらそれらを処分しなければ先に進ませてくれない。
また、大きい荷物の持ち込みも出来ない。専用のブースに預けてからでないと入場は出来ないし、そのブースが当然だがそこそこ並ぶ。
だが我々の場合はカザンの電車を降り、ホテルに寄らずそのままスタジアムに行って荷物をどうにかしたい側面もあったので、無料で預かってくれるという意味では好都合だった。
ここまでのチェックを行えば、後は手荷物検査、チケット、FAN IDのチェックを終え、ようやく入場である。
この日、スタジアムに入ったこの瞬間の景色と感情を忘れる事は一生ないだろう。
幼い頃から憧れてきた舞台。
一度は立ってみたいと願った舞台。
その夢が破れてからも、観戦には訪れたいと夢見ていた舞台…
しかもフランスである。言わずと知れた、ポール・ポグバ、アントワーヌ・グリーズマン、キリアン・ムバッペといったスーパースターを数多く揃える、優勝候補だ。
スタジアムのビジョンに数字が表示され、カウントダウンを全員で行なってキックオフ。
全身の鳥肌が一気に立った。私の夢が叶った瞬間だった。
試合はというと、フランス優勢の予想通りフランスペースで試合は進むものの、フランスにとっては決定的なチャンスになかなか至らないもどかしい展開。
逆にオーストラリアは、フランスの攻撃をきっちり抑えながら、押されてはいるものの自らもチャンスを作るなどほぼほぼプラン通りと言える前半だった。
後半、W杯史上初めてVARによるPK判定。結果的に歴史の証人になる。
その後オーストラリアにもPKが与えられ、グリーズマン、ジェディナクがPKを1本ずつ決める展開で試合は1-1のまま熱戦が繰り広げられる。
そして80分、フランスらしい美しい崩しから最後はポグバのシュート。
少し微妙ではあったが、ゴールラインテクノロジーによりゴール判定が下され(公式結果ではその後、ポグバのゴールからオウンゴールに変更。)、フランスが2-1で勝利した。
フランスの強さをしっかりと見ることが出来たし、オーストラリアの頑張りも称賛に値すべき素晴らしい試合だった。
私の夢は最高の形で実現したと言える。
感動的な体験をした我々は、興奮冷めやらぬままカザンの宿へと戻る。
旅の折り返し地点だ。
つづく