What is "GAMBAISM"〜2019年のガンバ大阪を振り返る〜第2話 ひとり2ステージ制

2019年のガンバ大阪振り返りブログ「What is "GAMBAISM"」、第1話「崩れゆく幻想」はこちら↓

第2話の前にこちらから読み始めてもらえると幸いです。

 

 

 

2019年5月18日。

もしこれから数年後、ガンバが再び優勝争いに絡めるようになった時、この日の事は間違いなく一つのターニングポイントとして思い出される事だろう。セレッソ大阪との令和最初の大阪ダービーにはそれだけの意味が確かにあった。

第11節でガンバは、それまで1勝どころか得点が1点しか取れていなかった最下位の鳥栖相手に1-3の完敗を喫する。負傷がちになっていた今野泰幸を筆頭に、遠藤保仁オ・ジェソク三浦弦太、ファン・ウィジョといった選手のコンディションが中々上がってこない現状の中で第5節神戸戦のショッキングな逆転も尾を引き、第7節浦和戦では藤春廣輝も負傷離脱を余儀なくされた。そんな最悪のチーム状況の中で、ガンバよりももっと最悪の状態だったはずの鳥栖に完敗を喫した…これにはどう見ても、ただの1敗には収まりきらないだけの重みが残ったのだ。

 

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この日のメンバーを見ると、ある事に気付く。勿論、ファン・ウィジョや小野瀬康介キム・ヨングォンのような近年の新戦力も名を連ねているのだが、基本的に5年前…2014年の三冠達成時とメンバーが余り変わっていないのだ。

5年という歳月は言葉にするよりもも非常に大きい期間だ。15歳の人間は成人を迎えるし、25歳の人間ならアラサー、35歳の人間ならアラフォーに突入する。30歳を超えればベテランと呼ばれ始めるサッカー界に於いて、5年が持つ意味は計り知れなく大きいのだ。宇佐美貴史井手口陽介、堂安律といった若手は海外に挑戦の場を移し、市丸瑞希や初瀬亮も伸び悩み、気がつけばレギュラーの座を奪えるような若手の存在を見つけられないまま、似たようなメンバー構成で5年が経過していた。前任のレヴィー・クルピ監督は若手の登用には積極的だったが、宮本恒靖監督に代わって残留争いに巻き込まればそうも言っていられない。結局、世代交代を断行する機会を逃し続けながらここまでやってきてしまった事が2019年前半のガンバだったように思う。

今年、ガンバが掲げたスローガンは「GAMBAISM」。これはGAMBAISMとやらを継承し、発展させていきたいというメッセージなのだろうが、継承するも何もどこに継承すれば良いのかがわからないまま同じメンバーがスタメンに名を連ね、GAMBAISMはただただ時間と共に消費されていく。気がつけばGAMBAISMなんて自分達にも分からなくなっていた。

 

「ガンバユース出身の宮本監督が監督を務めている事?」

いや、OB監督なんてこの世にごまんといる。

 

西野朗監督時代の攻撃サッカー?」

いや、それがGAMBAISMならば…もう既にそのイズムは消えかかっているんじゃないか…。

 

この試合を終え、いよいよ崖っぷちに至ったガンバと宮本監督が下した判断は想像を遥かに上回る改革だった。

2019年5月18日、Panasonic Stadium Suitaに向かった私がガンバのスタメンを見て驚愕したのは確かEXPO CITYの中だったと思う。システムは長くメインシステムにしてきた4バックから3バックにシフト。中盤はアンカーに矢島慎也を配置し、両ウイングバックと両セントラルハーフを組み合わせた上でアデミウソンとファン・ウィジョを2トップに置いた。この大胆な布陣変更自体も驚きだったが、3バック自体は宮本監督は昨季も、今季なら第8節大分戦のように対戦相手に応じて採用していたからある程度の免疫なるものはあった。最大のサプライズはそのメンバー構成。鳥栖戦から何とスタメンを5人弄ったのだ。

キム・ヨングォンが累積警告で出場停止の為、そこに鳥栖戦を欠場した三浦弦太が入ったのは大方の予想通りと言える。アンカーに入った矢島に関してもここまで先発出場は第9節仙台戦のみだったとはいえ、ベンチには常に入っていたから衝撃という程では無かった。やっぱり驚いたのは髙江麗央、福田湧矢、髙尾瑠の抜擢で、この3人のこれまでの出場時間は髙江が第7節浦和戦で9分出場したのみで、大卒ルーキーの髙尾に至ってはJ1初出場。福田にしても、J1での出番は昨年の第3節以来というものだった。宮本監督の根拠は勿論あった上での起用なのは間違いないが、それでもギャンブル的な気持ちは否定できなかっただろう。今季から就任したミゲル・アンヘル・ロティーナ監督の下で調子を上げ始めたセレッソとの大阪ダービーが満員のパナスタでキックオフを迎える。

 

 

この試合、ガンバはこれまでに見た事の無かった程の躍動感を見せた。出番を得た若手のプレーに牽引されるかのようにこれまでの主力も溌剌としたプレーを見せる。セレッソを圧倒出来た訳では無かったが、確かに自分達で流れを引き寄せていこうとしているような感覚はひしひしと感じていた。55分、歓喜の瞬間は訪れる。髙尾の縦パス、髙江のスルーパスとこの日抜擢された2人から、最後は倉田秋が思いっきり叩き込んでガンバが先制点を挙げる。湧き上がるパナスタ、あの日あの時あの瞬間の感覚があるから、きっと自分はサッカーを観る事を辞められないのだろう…。

終盤には今野、遠藤といったベテランの投入で試合を締め、ガンバはクラブ史という単位でも歴史に残る激闘を制した。以後、ガンバのメンバー構成はこの試合の布陣を軸とするようになり、一気に世代交代を図るようになった。

 

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大阪ダービーの後は、更に食野亮太郎、田中達也、中村敬斗など若手を更に組み込むようになる。一方で今野、オ・ジェソク米倉恒貴といった従来の主力はベンチにも入らなくなる事が多くなった。ガンバは第13節札幌戦第14節鹿島戦第15節磐田戦で3試合連続ドローとなったが、鹿島戦の出来は某スポーツ新聞に「下位のチームとは思えないクオリティ」と評されるなど内容は確実に改善されていく。そして第16節湘南戦、第17節松本戦を連勝で飾り、第18節では首位のFC東京に敗れたが第19節清水戦では終了間際の矢島のゴールで勝利を収め、3バックを軸にした新たなチームは完成しつつあると同時に成績が向上していった。

 

…しかし、ここで再びガンバにとってのターニングポイントが訪れる。…いや、どちらかと言えばガンバにとって「1stステージが終わった」とも形容出来た。今年のガンバは1シーズン制にも関わらず、結果としてひとり2ステージ制のようなシーズンを送っていたように感じている。それがここから後半戦に至るまでのガンバだった。

 

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夏場、ガンバは今野、オ・ジェソク、米倉、藤本といったベテランに加えて高木彰人、高宇洋といった若手が出場機会を求め、今野以外はレンタル移籍でこそあるがチームを去った。5月には市丸瑞希、野田裕喜もレンタルでチームを去っている。

ここに更にファン・ウィジョ、中村敬斗、田中達也、食野亮太郎までチームを去る事になったのだ。ガンバはその分、宇佐美貴史井手口陽介、パトリックを復帰させた上で高木大輔を獲得したが、この時点で完全に大阪ダービー以降に築いたサッカーに対してのスクラップ&ビルドを余儀なくされる。ファン・ウィジョのところは宇佐美で戦略的にはプラマイゼロかもしれないが、サイドプレーヤーとしては中村と田中を失い、藤春も第17節松本戦で再び長期離脱を余儀なくされている。宮本監督からすれば、出来上がりかけたチームを再び作り直す作業を迫られたのだ。ファン・ウィジョ、中村、食野の3人は海外移籍だから抗いようが無かったし、一定の移籍金を取れただけ良しとするべきかもしれないが…少なくとも、この時点で苦難の夏を過ごす事になるのは予想出来ていた。同時に、ここからの試合では宮本監督の監督としてのウィークポイントまで露呈する羽目になった。

この問題は宇佐美の復帰戦となった第20節名古屋戦ではまだ大きな問題とはならなかった。ガンバファンが今年一番精神を抉られた時期…それは第21節神戸戦からの3試合だと思う。あろう事か、私はこの3試合を全て現地で観てしまった。その時に書いた観戦日記はまるで病んでるのか?とすら言いたくなるような文体になっている。

 

 

第21節神戸戦、神戸相手という事で無理にプレスには行かず、神戸のラインが高くなりながらも崩れたところを突く。矢島の完璧なパスから倉田が抜け出して先制し、後半のパトリックのゴールも見事なカウンターから生まれた。まさしくゲームプラン通りだった。だが、パトリックを下げたところから状況は変わる。この時、神戸はまだトーマス・フェルマーレンがデビューしていなかったので神戸のDFで最も警戒すべきはダンクレーだったのだが、パトリックがその屈強なフィジカルでダンクレーと対峙し続けた事で、ガンバはダンクレーと比べると力の劣る藤谷壮、大崎玲央、初瀬亮に勝負を挑む事ができた。要するに、パトリックがダンクレーを逆マークしていたような状態だった。そこを下げた事でダンクレーが自由になると、ここからガンバはカウンターがさっぱり効かなくなる。結局、攻勢を強めた神戸の反撃を食い止められずに2点リードを吐き出し、ガンバは明らかに勝ちムードだった試合を引き分けに持ち込まれてしまったのだ。

 

しかしこれはまだ悪魔の序章に過ぎない。第22節広島戦では契約上パトリックが出られない代わりに井手口の復帰戦となった。

堅い守備を持つ広島はこの時点で結構な期間負けておらず、上位争いにもしっかり食い込んでいたチームだったので苦戦は強いられるだろうという予想だったが、第6節では乾杯も完敗だったのに対し、この試合はむしろガンバが優勢に試合を進める。そしてアディショナルタイム寸前、小野瀬のシュートのこぼれ球に詰めた倉田のゴールでパナスタは歓喜に湧き上がる。誰もが、スタジアムを埋め尽くした誰もが勝利を確信した。しかし試合が終わった時、スコアボードに表示されたスコアは「1-1」。帰り道、スタジアムに続く道「Panasonic Road」は言葉を失ったガンバファンが列を成す。2試合続けて勝つべき試合を土壇場で失った。

 

トドメは第23節だった。対戦相手は最下位の磐田。鈴木秀人監督が解任された磐田はこの試合で小林稔コーチが代行監督を務めていたのだが、残留争いという意味でこの試合を落とす訳にはいかない。逆に言えば、ここで磐田を突き放す事が出来れば一足先に安全圏内に入れるという表現も出来た。とんねるず木梨憲武氏がデザインした「GAMBAEXPO」限定ユニフォームを身に纏い、スタジアムには2016年の開場以来最多人数となる37334人が詰め掛けていた中、磐田FWのルキアンが15分に退場処分を受け、ガンバは75分以上の時間を数的有利で過ごせる事になる。前半終了間際には小野瀬のラッキーゴールで先制点を奪った。

しかし、最下位の上に1人少ない磐田相手に、押し気味ではあってもガンバはどこかパッとしない。宇佐美とパトリックに訪れた決定的なチャンスもゴールには結びつかない。実はこの磐田戦の前、ガンバは天皇杯で法政大学に0-2で敗れるという「事件」が起こっていた。ラスト5分になる頃にはガンバファンは勝利まで後少しという希望よりも8月に入ってから見せられ続けた絶望の景色ばかりが頭を過ぎる。ボランチの井手口、DFの菅沼駿哉を投入して守備を固めるが、ここまでの流れは既にガンバファンの表情を形容し難い険しさに持っていくのに十分過ぎた。アディショナルタイム5分、キム・ヨングォンが相手選手を倒して笛の音が鳴り響いた瞬間、GAMBAEXPO限定ユニフォームに描かれた無数の「手」のイラストは今の自分達の心を蝕む触手のようにすら感じ、試合の終わったパナスタにはブーイングと静寂以外の万物は一つとして存在しなかった。

 

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Twitterなどではこの頃、一番宮本監督へのバッシングが強かった。シーズン序盤の不振や、この後にも一度宮本監督への解任を求める声がTwitterやネットなどでも上がっていたが、私はそこで言われていた程、宮本監督がいわゆる「無能」の烙印を押されるべき監督だとは思っていない。

昨年8月の就任早々、レノファ山口で活躍していた小野瀬の獲得を真っ先にリクエストした話があるように宮本監督は選手抜擢のセンスは悪く無い。加えて、昨季の第25節川崎戦、第30節横浜FM戦、今季なら第4節川崎戦、第5節神戸戦、そして第12節の大阪ダービーや、この3試合の中の神戸戦や広島戦にも言えるが、宮本監督はゲームプランを立てる事は凄く上手い監督だと思う。それは宮本監督が現役時代からDFとしては欠けているフィジカルなどをその頭脳で補っていた事にも由来するだろうし、試合前の時点での作戦構築に於いては宮本監督はなかなか優秀な監督ですらあるように感じる。

一方で、選手交代やシステム変更など、試合中の修正力には欠けてしまっていた事も事実だ。今季の神戸戦はホームでもアウェイでもそれが顕著で、一時期は遠藤を途中から投入する事でボールを落ち着かせる勝ちパターンの交代策も見出したかのように思えたが、それも成功する場面は限定的である。宮本監督のゲームプランが功を奏して勝利に繋げた試合もあれば、宮本監督のゲーム中の采配ミスで勝点を落とした事もあった。

ただでさえ無条件スクラップ&ビルドを迫られたこの季節に宮本のガンバの悪癖が露呈した悪魔の3試合…天を仰いでGAMBAISMの問いを求めたとて、星すら見えない空に何を投げても返ってくるものは無いような夏…ある意味で開き直りようはあった昨年よりもチームとしての危機は否が応でも頭について回っていた。

 

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つづく。