RK-3はきだめスタジオブログ

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ハイスタンダード〜AFC U-23アジアカップ 2024 準決勝 U-23日本代表 vs U-23イラク代表 マッチレビューと試合考察〜

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MATCH DAY!!!!!!!!

 

どーもこんばんは

 

さてさて、本日のマッチレビューAFC U-23アジアカップ2024、U-23日本代表 vs U-23イラク代表の一戦です!

 

 

 

Jリーグをもっと楽しめる(かもしれない)、2024Jリーグ開幕ガイド作りました!是非お使いくださいませ。

 

オリジナルアルバム出してみました!聴いてみてくださいませ。

 

 

 

1993年10月28日、カタール、ドーハ。

Jリーグ開幕という未だ体験したことのない空前のバブルにも後押しされた日本代表は、その日、その場所で未だ見たことのない場所へのチケットを求めて走りました。セントラル開催の舞台はカタールのドーハ、対戦相手はイラク。勝てばワールドカップに日本は出場できる。そんな状況の中で彼らは走りました。

W杯など未知の世界。五輪は遠く昔のメキシコシティー五輪を懐かしく語るけれど、今の時代にオリンピック出場のリアリティはない……世界へのチケットは確かに掴んでいましたが、入場前に半券を破ってしまったかのように掴みかけたそれは無と化した。世界に拒まれたかのようなその現実は日本サッカーにとって、神様の悪戯と呼ぶにはあまりにも趣味の悪い結末でした。

 

 

あの日から30年以上の月日が流れ、目まぐるしく発展した通信技術に並走するかのように日本サッカーは大きく飛躍しました。

偉大なる先人達が努力と苦悩を重ねてもなお届かなかったその舞台は今や「出られない」という事の方がリアリティを失い、予選というフェーズはいつしか数ある通過点の中の一つのようになっていった。このチームを経て日本代表、W杯メンバーに入ることはマスト。人はドーハの悲劇を懐かしく語るけれど、W杯やオリンピックに出られないという瞬間へのリアリティは無い……五輪を挟んでW杯に挑む事はサッカー界にとってあまりにも自然なサイクルとなりました。出て当たり前という状況──それは日本サッカーの成長を如実に意味し、そして選手達にとっては新たなるハードルでもある。しかし、そういう当たり前のレベルが上がることはスタンダードを引き上がっている証左でもある。彼らには、この緩くも着実な右肩上がりを止めてはいけない責任を夢と共に背負ってこのピッチに立とうとしています。

 

ドーハのピッチでスペインと戦い、決勝トーナメントに行けるか落ちるかの瀬戸際に立たされたあの時の事を、監督としてそのピッチに立ち、選手としてあのピッチに崩れた森保一はこう語りました。

 

最後の1分くらいの時に、ドーハの(悲劇の)記憶は出てきた。ちょうどその時に選手が前向きにボールを奪いに行っていたところを見て、時代は変わったんだなと。新しい時代のプレーをしてくれているなと思った

 

2024年4月29日、カタール、ドーハ。

セントラル開催の舞台はカタールのドーハ、対戦相手はイラク。勝てばワールドカップに日本は出場できる。その状況を彼らは走ろうとしています。

スタメンです。

 

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日本は準々決勝のカタール戦からはスタメンを2人変更。カタール戦ではインサイドハーフ松木玖生と山本理仁で組んでいましたが、今日は山本ではなく荒木遼太郎を起用し、大岩ジャパンの6番・8番・10番を明確にしたシステムを復活させた形になりました。カタール戦からは左WGも佐藤恵允から平河悠に変更しており、2人とも韓国戦以来の先発となっています。また、初戦の中国戦で退場処分を受けて3試合出場停止となっていた西尾隆矢が今日からベンチに戻ってきました。

なお松木は日本時間では本日4月30日がお誕生日ですが、現地時間ではまだお誕生日になっていません。

 

 

 

本日の会場はカタール、ドーハのジャシム・ビン・ハマド・スタジアムです。

 

 

ドーハの都心に位置するスタジアムで、アル・ドゥハイルと並んでカタール屈指の強豪クラブとして知られるアル・サッドの本拠地として使用されています。近年のカタールカタールW杯開催に伴い多くの新スタジアムを建設しましたが、この建設ラッシュの前にはハリーファ国際スタジアムと共にカタール代表のホームスタジアム扱いを受けており、現に2008年に行われた南アフリカW杯最終予選のカタールvs日本の試合はこのスタジアムで行われました。施設に関してはこのスタジアムも冷房機能を完備しています。

なお、日本はグループステージ全3試合と準々決勝カタール戦をこのスタジアムで戦っており、このスタジアムでの試合はなんと5試合連続です。敗れた場合の3位決定戦は別のスタジアムですが、勝利すれば決勝もこのスタジアム。目指せジャシム・ビン・ハマド・スタジアムで6連戦!

 

 

序盤のリズムを掴んだのは日本でした。10分、藤田穣瑠チマの縦パスを荒木が最も得意な形でのターンからスルーパス。そこに細谷真大が反応するカタール戦の決勝点を彷彿とさせるようなシーンが訪れましたが、GKハサンのセーブに阻止されてゴールには至らず。

直後にはイラクにもミドルを放たれますがここをGK小久保玲央ブライアンのセーブで凌ぐと、19分には今度は荒木にもシュートチャンスが到来。ここもシュートは決まりませんでしたが、基本的に日本がしっかり自分達でボール保持を行いつつ、積極的に仕掛ける平河の左サイドと山田楓喜と関根大輝の連動からクロスやスルーパスに繋げる右サイドの左右非対称感も上手く攻撃のリズムを作り、試合は日本ペースで推移していきます。

 

 

 

日本は守備陣からボールを持ちつつ、アンカーの藤田に渡れば山田と関根が連動してそこに松木が絡む右サイド、平河が個人で仕掛けて大畑がフォローに入る左サイド、荒木→細谷のルートを常に狙う中央…そういった具合にアンカーである藤田がボールを持ち運ぶ時点で常に選択肢が3つあるような状態が作れていました。

左右対称な攻撃パターン、或いは明確に右→左、もしくはその逆であればまだしも、左右非対称な攻め方に中央というルートも見せられたイラクは守備陣が方向性を統一することができず、その状態でサイドのケアに頭が行ったのか4バックの選手間が間延びすることに。そこを見逃さなかった藤田の絶妙なフィードがDFとDFの間を抜けた細谷に渡り、細谷はお前はベルカンプかと言いたくなるような巧みなターンでかわしてシュート!!前半から仕掛けた攻撃パターンを伏線に、キャプテンの絶妙すぎるパスをスランプから抜け出したエースのスーパーゴールというあまりにも出来すぎた先制点!!

 

 

日本の攻勢は続きます。左サイドで粘った大畑歩夢が相手の激しいマークを振り切ってマイナス気味に鋭いパスを入れると藤田がワンタッチでスルーパス。抜け出した荒木が冷静にGKとの1対1を制して日本2点目!!

 

 

それは考え得る最高の前半。なんなら想像すら遥かに超える最高の前半!

5バックで日本対策を敷いてきたイラクを蹂躙するように前半は2点リードで終了!

 

 

後半最初のファーストプレーこそイラクが左サイドからの単独突破で日本の肝を冷やす場面を作ってきましたが、直後には松木の強烈なミドルが飛び出し、ここはGKハサンのファインセーブに阻まれましたがそこから波状攻撃。ゴールには至りませんでしたが、後半は前半よりもオープンなやり合いの様相を呈します。

後半のイラクは前半よりも明確に攻守の分業をはっきりさせたような形にシフトしてきて、前線は単独突破を用いながら日本のサイドをえぐる一方、守備ではぐちゃぐちゃにされた前半の反省を踏まえて日本が中盤でボールを持った時は割り切ってリトリートする形を選択。これによりイラクは前線の選手が攻撃時間を作れるようになり、それに伴いプレスを高い位置から仕掛けられるようになった反面、守備時は前半のような統率の乱れこそ解消されたものの、リトリートを真っ先に行った弊害でミドルゾーンが空白地帯となり、そこを松木や内に入ってきた両SBが使いたい放題になる状況が出来上がっていました。

 

 

 

イラクは後半開始時点では5バックを継続していましたが、ある程度攻撃と守備のスタンス、意識がしっかりと反映されるようになった事を機にDFを削って前線の選手を投入して4-4-2にシフト。サイドを個人で打開し、ボックス内でスクランブル状態を発生させる事でチャンスを作るようになっていきます。日本も65分に左サイドを突破した平河のクロスにファーサイドの細谷が頭で合わせますがポストに当たって決めきれず。

時間経過と共にイラクはサイドを深く抉ってからマイナスに折り返す事で日本に守備のストレスを与えるような攻撃をするようになっていき、74分には右サイドから攻め込まれて決定的な場面を迎えますが高井幸大の好ブロックの末にクロスバーにヒット。そういう危険な場面も後半は増えていましたが、日本もボックス内の守備対応はGK小久保、CBの木村と高井で集中した守備を見せ続けて対応していきます。

 

 

 

73分のタイミングで日本は右サイドを山田から藤尾翔太に交代。79分には松木と荒木のインサイドハーフ2枚を下げて川﨑颯太と佐藤恵允を投入し、川﨑と藤田をWボランチ、佐藤を右に出して藤尾と細谷を2トップにした4-4-2のシステムにしてイラクへの対応を試みます。

サイドを同数にした事で日本は後半に結構突かれる形になっていたサイドのギャップが生じる前に対応できるようになり、中盤の底を藤田を1枚から川﨑を置いて2枚にした事で中継ポイントが増えて、試合の流れは後半途中までのバタバタ感から次第に落ち着いていきました。

 

 

 

アディショナルタイムには細谷と大畑を下げて内野航太郎と出場停止明けの西尾を投入。西尾はCBではなくそのまま左SBに入って相手のサイド攻撃に明確に対応する形を採ります。

その後はイラクの攻撃に対してもうまく対応してシャットアウト。そして……

 

 

 

 

試合終了!Go To Paris 2024 !!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!

 

 

 

 

まずは冷静に試合を振り返るとしましょうか…。

素晴らしかった。疲労も募る中、負けたら終わりの準々決勝を苦しい内容ながらも乗り切って、リーチをかけた準決勝で今大会ベストのパフォーマンスを見せてきたのは圧巻でしたし、この2試合の経過というものはアジアの強者であることを示してくれたのでは。腐すわけではないですが、韓国やサウジアラビア、オーストラリアの事例があっただけに尚更。

今日の試合では日本の多彩な攻撃パターンが光りました。上でも書いたように、藤田がボールを持った時に山田と関根が連動で崩してくる右サイド、平河が突破を仕掛けてくる左サイド、荒木→細谷ラインの中央…藤田がボールを持った時点で、この左右非対称じゃない3つのパターンがあり、そしてこの全てのパターンでのチャンスを早い時間に一通りイラクに見せる事ができた。元々イラクの5バックは本来のシステムではなく日本対策のところがあるのでいわば即席。その状態で日本の3パターンの攻撃を受けた事で、イラク守備陣は守備陣の間でどういうスタンスで守るのかの統率がぐちゃぐちゃになっていたんですね。実際あれ、敵からしたら相当嫌でしょうし……日本が全てのパターンを早い段階で見せた事で、藤田がボールを持った時点でイラク守備陣が感じていたストレスは相当なものだったと思います。

その結果、自分のサイドをケアしたいSBと、そのフォローと荒木及び細谷への対応の優先順位がチームではなく個人の判断に完全になってしまい、守備者の距離感がかなり空いてしまった。そこを見逃さなかった先制点は出し手の藤田も受け手の細谷も圧巻でしたし、2点目のように荒木にとってそういうスペースはまさしく大好物でしょうから、そういう状況にした上でそういう瞬間をちゃんと突き通す、そして決め切る…この3つをちゃんとコンプリートしてきた。これはもう脱帽。お見事という他ないです。

 

 

後半に関しては、まずイラクが攻守を分業制にする事で前半の崩壊状態の是正を図ったというところが一つのポイントでした。上で書いたように守備時は割り切った撤退を行う事で守備陣を統一した事で前半のような展開にはなりませんでしたが、一方でミドルゾーンを松木が自由に使えるようになった。この試合をパーフェクトゲームとするならあの時間帯で3点目を決めて試合を〆る事でしたが…。

ただ、関根と大畑は全体的なパフォーマンスは素晴らしかったんですけど、あれだけ攻撃がハマった後に突破力の相手と対峙するのは結構しんどいんですよね。そして後半のイラクはわかりやすくそういう攻撃に振りきってきましたし、中盤もほこをカバーしきれなかった。それが後半まあまあサイドを崩された要因だったんでしょうが、その中でも守るべきエリアから離れなかった木村と高井の集中力、そしてCBとしてのブレなさは、ある意味で今日の日本のイラクの最大の違いだったように思います。

そして木村と高井、GK小久保で耐えている間に大岩監督は川﨑と佐藤の投入でオーソドックスな4-4-2に変更しましたが、これも効果的でした。サイドの縦関係の距離感を縮める事で、サイドのスペースがギャップになる前に対応できるようになった事、そしてWボランチに変更した事で右は川﨑、左は藤田が適切なフォローの守備位置を取れるようになり、かつあの展開で中盤の底を2枚にした事でビルドアップ時の中継点が藤田から藤田と川﨑の2枚に増やせたのは大きかったなと。重心はやや後ろに下がったとはいえ、2点リードしているのは日本ですから、ターゲットとサイドアタッカーがはっきりしている分カウンターも仕掛けやすい。個人的に今大会に於ける大岩監督の交代策はなかなか素晴らしいものがあったと思っていて、それは中国戦でもそうですし、賛否はありますが私としてはカタール戦も引っ張ったからこその効果があるものだと考えています。今日に関しても、言ってしまえば2点リードは1点なら取られていいという事でもある訳で、ゲームをクローズする上で最適な采配だったのではないでしょうか。

 

 

 

さて、五輪出場決定は8大会連続ですか。

31年前、ドーハの地でW杯を懸けてイラクと戦った時、日本はW杯も五輪も出場そのものにリアリティを持てるようなチームじゃなく、みんなが語るメキシコシティー五輪なんて自分達の世代には関係ない遠い昔のリアリティのない話でした。それが今となってはW杯も五輪も当たり前どころか、誰もがW杯が終わり、2年後に五輪に出て、その2年後のW杯に繋がるという流れを当たり前としたようなサイクルとスケジュール感覚の中で生きている。みんなが語るドーハの悲劇はいつの間にか自分たちの世代には関係ない遠い昔のリアリティのない話になっている…そういう時代です。言ってしまえば、準々決勝で散ったカタールがかつての日本の立場だったわけです(一応W杯は出たとは言え)。

誰も見たことがない世界に、誰も行き方を知らない世界に辿り着く方法を必死で探したあの時から、今では「行くことが当たり前」「行くことが大前提」という新しいハードルを日本は課せられていて……ましてやW杯予選ですら取り返すのつくシチュエーションはあるのに、今大会の韓国やサウジアラビアを見ても分かる通り五輪予選は本当に1敗が死に直結していました。時代は常に移り変わり、常にその時々の課題やハードルに直面する。世界各国にはアップダウンの激しい光芒を辿った国も多い中で、Jリーグが生まれてからの日本サッカーはなんやかんや言いながらも、緩やかながらもずっと右肩上がりの曲線でここまでやってきた。31年でずいぶん高くなったハードルはスタンダードが高くなっていったことの証明でしょう。31年前の彼らがJリーグバブルを生み出した者として開拓者にならなければならない責任を負っていたとするならば、今の選手達はこの右肩上がりの線を折ってはならない責任がある。口で言うほど簡単ではないそのミッションを当たり前に求められる状況に選手達は打ち勝ってくれました。

 

大事なのはこれからです。

上がったスタンダードは次のことを求める…選手達ももちろんそのつもりでしょう。思い返せばかつて、浅野拓磨はW杯2次予選の際に「これは僕たち個人にとっての予選でもある」というコメントを残しました。チームとして五輪出場は決まったけれど、ここからは個人個人にとってのパリ五輪出場を懸けた争いが、すなわち個人戦としてのパリ五輪予選が始まることになります。

選手達は常に目の前のハードルを越えながら人生を歩んでいく。パリのピッチに向かう為に、これから彼らにはもう一つの予選を…五輪に限らず広義的なところで言えば、サッカー選手に限らず人間は常に何かの予選の中にいるのでしょう。 ここからの選手達はそれが最も可視化されていく瞬間です。競い合って高まるスタンダードがハードルを上げ、そしてそれを超えるために今日もサッカーは走り続ける。チームの研鑽、個人の切磋琢磨。色々なことを追いながらこれからもサッカーを見ていきたいところです。

とにもかくにも、パリ五輪出場おめでとうございます!そしてありがとうございます!!!!

 

 

ハイスタ。

ではでは(´∀`)