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刹那〜令和初のJリーグ閉幕を前に印象に残るシーズンを振り返ろう企画・第5回 2003年J1優勝争い〜【2003年J1・2ndステージ最終節特集】

2019年のJリーグも残すところあと1節となり、相変わらずの混戦模様となっている。

今年、2019年は言い換えると令和元年。となれば、平成に産声を上げたJリーグに於いて「令和初の王者」「令和初の昇格チーム」「令和初の降格チーム」が誕生するのだ。

そこで今回からは、過去のJリーグの歴史の中から印象に残った、大混戦のJリーグ優勝争い、昇格争い、残留争いを振り返る企画を進めていこうと思う。贔屓のチームを持っている方には良い思い出もあれば悪い思い出もあるだろう。ノスタルジーを楽しむものとして、暇な時にでも読んで頂きたい。

いよいよ残すところはあと1試合だ。最終節、首位の横浜F・マリノスは2位のFC東京をホーム日産スタジアムで迎え撃つ。今回は圧倒的にマリノスが優位な状況ではあるという違いはあるが、この状況になるとは思い出すのは2003年だろう。マリノスファンでもない私でもそうなのだから、マリノスファンであれば尚更それを感じるのかもしれない。最終節、日産スタジアム、優勝を賭けた直接対決……第5回では、2003年2ndステージの優勝争いを振り返っていきたい。

 

2003年のJ1チーム

ベガルタ仙台(前年13位)

鹿島アントラーズ(前年4位)

浦和レッドダイヤモンズ(前年11位)

ジェフユナイテッド市原(前年7位)

柏レイソル(前年12位)

FC東京(前年9位)

東京ヴェルディ1969(前年10位)

横浜F・マリノス(前年2位)

清水エスパルス(前年8位)

ジュビロ磐田(前年1位)

名古屋グランパスエイト(前年6位)

京都パープルサンガ(前年5位)

ガンバ大阪(前年3位)

セレッソ大阪(前年J2、2位)

ヴィッセル神戸(前年14位)

大分トリニータ(前年J2、1位)

 

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1stステージ

 

やはり注目されたのは昨季、史上初の1stステージ&2ndステージ完全優勝を達成した磐田だった。最終節的には優勝は逃したものの、2001年も年間勝点ではぶっちぎりの1位だった彼らに対し、そうなるとやはり争点は「どこが磐田を倒すのか?」になってくる。その対抗馬として名が挙げられていたのは長年磐田のライバルとして君臨していた鹿島、昨シーズンから就任した西野朗監督の下、磐田や鹿島とギリギリまで優勝争いを繰り広げるなど躍進したガンバ、そしてフランスW杯で日本代表を指揮した岡田武史監督が就任したマリノスだった。

1stステージが始まると、まずはやはり昨年はある種勢いで上位に進出して、まだチームとしての地力がついていた訳では無かったガンバが不振に陥った一方、イビチャ・オシムが就任した市原が躍進を遂げる。そう、この年は「オシム伝説」なるものの始まりの年でもあったのだ。また、この年からは延長戦が廃止され、90分で決着が付かない場合はそのまま引き分け扱いになった事はリーグの行方に大きな影響をもたらす。

1stステージの上位争いを引っ張ったのは前述の市原に加えて鹿島、マリノス、磐田、名古屋の5チームだった。しかし第5節で首位に立った鹿島はその後黒星先行になり、名古屋は開幕から13戦無敗を達成したものの、そのうち引き分けもなんと8試合と勝ち切れないうちに上位戦線から脱落。次第に1stステージ優勝争いは市原、マリノス、磐田の三つ巴になる。

しかし、第11節で首位に立った市原はやはり慣れない首位争いのプレッシャーに押されたか、第13節に3位磐田との大一番を2-2の引き分けで終えると、残り2試合で連敗を喫してしまった。それに対し、1stステージラスト5試合を5連勝で飾ったマリノスが鮮やかに逆転での優勝を達成する。マリノスにとっては2000年1stステージ以来のステージ優勝を手にした。

 

2003Jリーグディビジョン1 1stステージ第15節

横浜F・マリノス3-0ヴィッセル神戸

2003年8月2日19:04@横浜国際総合競技場

横浜FM得点者:中澤佑二(67分、77分)、奥大介(83分)

 

2003Jリーグディビジョン1 1stステージ第15節

ジュビロ磐田1-0FC東京

2003年8月2日19:04@ジュビロ磐田スタジアム

磐田得点者:藤田俊哉(75分)

 

2003年1stステージ順位表

1位 横浜F・マリノス(32)

2位 ジュビロ磐田(31)

3位 ジェフユナイテッド市原(27)

4位 FC東京(25)

5位 セレッソ大阪(25)

6位 浦和レッドダイヤモンズ(24)

7位 名古屋グランパスエイト(23)

8位 鹿島アントラーズ(23)

9位 柏レイソル(21)

10位 東京ヴェルディ1969(19)

11位 清水エスパルス(18)

12位 ガンバ大阪(16)

13位 ヴィッセル神戸(16)

14位 大分トリニータ(15)

15位 ベガルタ仙台(12)

16位 京都パープルサンガ(10)

 

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2ndステージ

 

比較的早い段階で優勝戦線が固まった1stステージとは異なり、2ndステージは最後の最後まで多くのチームがもつれる事となる。これは2ステージ制というシステムが15試合という少ない試合数で順位を決する事も影響しているのだが、いかんせん首位が日替わりのような勢いで交代していく。この2ndステージで最も首位をキープしていた期間が長かったのは鹿島だったが、それも僅か3試合のみという事実が典型的で、鹿島は第4節で首位に立つも、第7節には名古屋、第8節からはマリノス、第10節からはヴェルディ、そして第12節には浦和…といった具合に、だ。

まず第4節に首位に立った鹿島は、第5節から4戦連続ドローを喫して勝ち切れない。代わって首位に立った名古屋も、そこからの4試合で2分2敗とブレーキがかかり、首位に立つチームが首位に立つ度に自分達で勝点を落としていく為、逆に優勝戦線から脱落するチームも殆ど出てこないままシーズンは進む。2ndステージはもはや、優勝争いと残留争いのみが展開されているような状態となったのだ。この年から90分で決着が付かなかったらドロー扱いというルールに変わった事も影響しており、前述の鹿島のように引き分けで勝点を積み上げ切れないという事例は鹿島の他にも、例えば大分は試合数の半分を超える8試合で引き分けている。

話を順位に戻すと、前半戦は鹿島、市原、ヴェルディ、名古屋、マリノス、浦和辺りが上位に位置付け、この辺りのチームが失速したところでFC東京や磐田が追い上げていく。さして好調という訳ではなく、上位戦線に殆ど絡んでいなかった清水とガンバにも終盤まで優勝の可能性が残されていた。そして第13節で5位の磐田が3位のヴェルディを下すと、首位の浦和、2位のFC東京、4位のマリノスの3チームも敗れるなど、上位4チーム全てが負けて5位の磐田が一気に首位に立ってしまう。2ndステージはラスト2節。この時点でなんと、半分以上となる10チームに優勝の可能性が残されていた。

 

2003Jリーグディビジョン1 2ndステージ第13節

横浜F・マリノス1-2鹿島アントラーズ

2003年11月15日14:02@横浜国際総合競技場

横浜FM得点者:久保竜彦(3分)

鹿島得点者:小笠原満男(64分)、平瀬智行(74分)

 

2003Jリーグディビジョン1 2ndステージ第13節

ガンバ大阪1-0FC東京

2003年11月15日14:03@万博記念競技場

G大阪得点者:大黒将志(34分)

 

2003Jリーグディビジョン1 2ndステージ第13節

清水エスパルス1-0浦和レッドダイヤモンズ

2003年11月15日14:04@日本平スタジアム

清水得点者:安貞桓(88分)

 

2003Jリーグディビジョン1 2ndステージ第13節

東京ヴェルディ1969 1-2ジュビロ磐田

2003年11月16日15:03@味の素スタジアム

東京V得点者:平本一樹(17分)

磐田得点者:グラウ(80分)、オウンゴール(86分)

 

2ndステージ第13節終了時点

1位 ジュビロ磐田(23)

2位 浦和レッドダイヤモンズ(22)

3位 ジェフユナイテッド市原(22)

4位 鹿島アントラーズ(21)

5位 FC東京(20)

6位 東京ヴェルディ1969(20)

7位 横浜F・マリノス(20)

8位 ガンバ大阪(20)

9位 名古屋グランパスエイト(19)

10位 清水エスパルス(18)

 

2ndステージ第14節

 

優勝争いに絡むチームが多い分、直接対決となるカードは必然的に多くなる。この第14節も直接対決となるカードは3カード組まれていた。

その中でも最も大きな意味を持ったのが、ジュビロ磐田スタジアムで行われた磐田とガンバの一戦になる。ここでガンバが勝てばまたしても首位が入れ替わる可能性が高まり、更に優勝争いは混乱に陥る。だな逆に磐田が勝利すればガンバのみならず名古屋と清水を優勝争いから脱落させる事が可能になった。試合は14分、ガンバが吉原宏太のゴールで先制点を奪い、磐田は48分に西紀寛が退場処分を受けて一人少なくなる。この時、同時刻に行われていた9位名古屋と2位浦和の直接対決では名古屋がリードしており、このまま行けば更にとんでもない展開で最終節を迎える可能性すら提示していた。しかし磐田はここで意地を見せる。60分にグラウ、71分に河村崇大が立て続けにゴールを決め、なんと一人少ない磐田が逆転に成功。数的優位を活かしたいガンバだったが、73分には63分に途中出場で入ったばかりのアリソンが10分間で2枚のイエローを貰ってしまい万事休す。1人少ない逆境を跳ね返した磐田が底力を見せつける逆転勝利を収め、首位をキープした。しかし……この後自分達が、次の試合でまさか逆の立場に陥る事を磐田はまだ知らない…。

同時刻に残留を争う仙台にきっちり勝利したマリノスが優勝戦線に生き残ったの同時に、磐田が勝利を収めたその瞬間、ガンバ、名古屋、清水、そして同時刻に名古屋に敗北していた浦和の4チームの優勝の可能性が一気に消滅した。

 

2003Jリーグディビジョン1 2ndステージ第14節

ベガルタ仙台0-4横浜F・マリノス

2003年11月22日14:00@仙台スタジアム

横浜FM得点者:久保竜彦(11分、31分、67分)、大橋正博(65分)

 

2003Jリーグディビジョン1 2ndステージ第14節

ジュビロ磐田2-1ガンバ大阪

2003年11月22日14:04@ジュビロ磐田スタジアム

磐田得点者:グラウ(60分)、河村崇大(71分)

G大阪得点者:吉原宏太(14分)

 

2003Jリーグディビジョン1 2ndステージ第14節

名古屋グランパスエイト4-1浦和レッドダイヤモンズ

2003年11月22日14:04@名古屋市瑞穂陸上競技場

名古屋得点者:ウェズレイ(32分、81分、89分)、中村直志(52分)

浦和得点者:永井雄一郎(44分)

 

磐田の試合が終わった16:00からはもう一つの直接対決が組まれていた。FC東京vsヴェルディの優勝争い直接対決東京ダービーである。30000人を越す観衆が味の素スタジアムに詰めかけて迎えた一戦だったが、前述の通り14:00キックオフの試合で磐田が勝利した為、FC東京ヴェルディも優勝の為には勝利以外許されなかった。そんな中で試合は0-0の時間が長く続く中、遂に75分にケリーのクロスを頭で合わせた阿部吉朗のゴールでFC東京が先制点を奪う。しかし後半ロスタイム、三浦淳宏のクロスから生まれたゴール前での混乱を、最後は飯尾一慶に押し込まれて失点。東京ダービーでの激闘はまるで相討ちのように、両チームとも優勝の可能性が失われる結果となった。

そして翌日開催された試合では、鹿島が終了間際の小笠原満男の劇的ゴールで柏を下して2位に浮上。一方、市原は2ndステージ最下位の大分に不覚を取りドロー。最終節に優勝の可能性は残したが、最低でも6点差以上での勝利が求められる苦しい状況となった。

 

2003Jリーグディビジョン1 2ndステージ第14節

FC東京1-1東京ヴェルディ1969

2003年11月22日16:03@味の素スタジアム

FC東京得点者:阿部吉朗(75分)

東京V得点者:飯尾一慶(89分)

 

2003Jリーグディビジョン1 2ndステージ第14節

鹿島アントラーズ2-1柏レイソル

2003年11月23日15:03@県立カシマサッカースタジアム

鹿島得点者:平瀬智行(13分)、小笠原満男(89分)

柏得点者:田ノ上信也(55分)

 

2003Jリーグディビジョン1 2ndステージ第14節

ジェフユナイテッド市原1-1大分トリニータ

2003年11月23日15:05@市原臨海競技場

市原得点者:崔龍洙(63分)

大分得点者:吉田孝行(33分)

 

 

 

2ndステージ最終節

 

第14節終了時順位表

1位 ジュビロ磐田(26)

2位 鹿島アントラーズ(24)

3位 横浜F・マリノス(23)

4位 ジェフユナイテッド市原(23)

5位 浦和レッドダイヤモンズ(22)

6位 名古屋グランパスエイト(22)

7位 FC東京(21)

8位 東京ヴェルディ1969(21)

9位 ガンバ大阪(20)

10位 清水エスパルス(18)

 

優勝条件についてはWikipediaの「2003年J1・2ndステージ最終節」の項に詳しく書かれているので其方を参考にして頂きたいのだが、かいつまんで説明すると第14節の結果により、5位FC東京以下のチームの優勝の可能性が消滅していて、最終節に優勝の可能性を残すのは磐田、鹿島、マリノス、市原の4チームとなった。その4チームの対戦カードは以下の通り。

 

浦和レッドダイヤモンズvs鹿島アントラーズ@埼玉スタジアム2002

東京ヴェルディ1969vsジェフユナイテッド市原@味の素スタジアム

横浜F・マリノスvsジュビロ磐田@横浜国際総合競技場

 

ポイントはやはり、3位マリノスと1位磐田が直接対決になっているという点である。

磐田は勝利すればその時点で優勝が決定。引き分けた場合でも、鹿島が4点差以上で勝利しない限り(※1)磐田の優勝となるが、敗れた場合既にマリノスに得失点差で劣っている為、その時点でマリノスに抜かれる事となり優勝は消滅するのだ。

鹿島とマリノスは、どちらも優勝の為にはまず勝利が絶対条件である。その上で、鹿島は磐田が敗れれば優勝、マリノスは鹿島が引き分け以下なら優勝というクロスゲームのような構図となっていた。

市原に関しては状況はかなり厳しいと言わざるを得なかった。まずヴェルディに勝利する事が絶対条件なのは言うまでもないが、その上でマリノスが磐田に勝利し、尚且つマリノスが磐田に勝利した得点差+6点の差をつけて勝たなければならない(※2)。現実的にこれは最初から可能性としては厳しいので、本項では最初から市原の優勝の可能性は事実上消滅していたものとして、磐田、鹿島、マリノスの3チームを取り上げていく。

 

※1 なお、磐田が引き分けた上で鹿島が4点差で勝った時、この試合での磐田の得点より鹿島が2点多かった場合(マリノス2-2磐田で浦和0-4鹿島、マリノス3-3磐田で浦和1-5鹿島など)、磐田と鹿島は勝点、得失点差、得点、失点、直接対決(第6節に1-1の引き分け)の全ての項目で並ぶ事になる。その場合は中立地開催で1試合の優勝決定戦が行われるレギュレーションとなっていた。

※2 例えば、マリノスが1-0で磐田に勝利した場合、市原はヴェルディに7-0で勝つ必要があった。また、仮にマリノスが3点以上獲得した1点差勝ちで、市原が6点差で勝利した場合(マリノス3-2磐田でヴェルディ0-6市原、マリノス4-3磐田でヴェルディ1-7市原など)の場合、勝点、得失点差、得点、失点の項目で並ぶ事になるが、この場合は第9節の直接対決で1-0で勝利しているマリノスが優勝というレギュレーションになっていた。

 

前半戦

 

試合は開始10分の段階で横浜でも埼玉でも動きが起こる。まず横浜では2分、スローインを受けた前田遼一ポストプレーからジウゴヴィッチが抜け出すとダイレクトで中に入れ、このボールを持ち出したグラウがゴール右隅に流し込んで優勝に王手をかけている立場の磐田が先制。

その直後、6分には埼玉スタジアムでも動きがあり、クロスボールを浦和のDFが処理したところ、そのこぼれ球を小笠原満男がボレーで叩き込んで鹿島も先制点を奪う。だが磐田がリードしている以上、このまま行くと磐田の優勝…という事になる。

 

後が無くなったマリノスだったが、ここで更なる事件がマリノスを絶望に突き落とす。15分の事だった。GK榎本哲也パントキックをしようとしたところをグラウがブロックし、あわやゴール…というシーンが生まれる。これはグラウのファウルとして笛が吹かれたものの、このプレーに激昂した榎本がグラウに詰め寄った挙句突き飛ばしてしまったのだ。文字通り、ただでさえ逆転しなければならない状態で1人少なくなったマリノスは絶体絶命に陥った。しかし、これがきっかけである意味で開き直れたマリノスに対し、むしろこの退場を引きずる事となったのは前節は1人少ない状態からの逆転勝利を成し遂げた磐田の方だった……その事に気付くのはもう少し後になってからだった。

一方その頃、埼玉では鹿島が追加点を挙げていた。右サイドで深井正樹がドリブルを仕掛けると、これがまた浦和DFのミスを生み、こぼれ球を石川竜也が繋いで青木剛が冷静に決めてみせる。青木のJリーグ初ゴールでリードを2点に広げ、その後も攻め込んだ鹿島は文字通り「人事を尽くして天命を待つ」のような前半を過ごす。

全国的に11月の冷たい雨が降り頻る中、マリノスは反撃を試みるも久保竜彦の決定的なシュートはポストに阻まれる。前半は磐田と鹿島がリードして終えた。

 

前半終了事点での順位表

1位 ジュビロ磐田(29)

2位 鹿島アントラーズ(27)

3位 ジェフユナイテッド市原(26)

4位 横浜F・マリノス(23)

 

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後半戦

 

後半も立ち上がりから試合は激しく動いた。まず、埼玉では素早いクイックリスタートからエリア内に侵入した浦和のエメルソンが池内友彦に倒されてPKを獲得。だが、あろう事かこれをエメルソンがゴール右へと枠外に蹴ってしまうのだ。

その直後、横浜ではマリノスが1人多いはずの磐田を攻め込む。前節のガンバ戦では1人少ない状態から果敢に攻め込んだ事が逆転勝利を呼び込んだ彼らだったが、余りにも有利な状況になった事がかえって磐田にとってプレッシャーになり、迂闊に前に飛び出せない…追加点を狙いに行くか、1点を守るかで選手間のズレも生じたのか、磐田は前半途中から明らかにリズムがおかしくなっていた。50分、ドゥトラコーナーキックから久保がヘディングシュートを放つ。これはGK山本浩正に阻まれたが、田中誠のクリアが中途半端になったボールをマルキーニョスが押し込んでマリノスが同点に追い付いた。順位そのものは1位磐田、2位鹿島のままだったが、流れは確実にマリノスの勝利、そして鹿島の優勝に向かって進んでいた。磐田にとっては、ここからは余りに地獄とも言えるカウントダウンが始まっていく。

 

76分、埼玉では浦和の田中達也が左サイドを突破すると、中央のエメルソンに折り返す。エメルソンが放ったシュートはGK曽ヶ端準に防がれたが、こぼれ球を永井雄一郎が押し込んで浦和が1点差に追い上げる。この瞬間、優勝への光が少し明るくなったマリノスは1人多い磐田に対して更に攻撃を仕掛けていった。マリノスの攻勢と磐田の劣勢ぶりはもはや、人数の差を感じないどころか磐田の方が1人少ないのでは?とすら思わせるほどで、鮮やかな攻撃サッカーでJリーグを魅了し、圧倒的な存在で在り続けた磐田はマリノスの攻撃にただただ耐える事しか出来ない。そんな中81分、ゴール前でドフリーのグラウの下にボールが転がる。引き分けでも優勝がほぼほぼ決まる磐田にとって千載一遇のチャンスだったが……先制点を生んだグラウの左足から放たれたシュートは、無情にもポストに直撃してしまう。そしてここから「Jリーグ史上最大の奇跡」とも言われる壮絶なドラマが幕を開けた。

 

試合は後半ロスタイムに突入する。

勝つしかないマリノスと引き分けでもいい磐田の決戦が先に決着を見た。榎本の退場に伴い緊急出場したGK下川健一のロングボールに上野良治が競り合うと、そのボールを松田直樹が浮き球のボールでゴール前へと送る。このバウンドが実に不規則で高いバウンドだった事で磐田のDF山西尊裕が対応に躊躇してしまっていたが、その山西を頭一つ越えるようなジャンプ力で制し、GK山本の頭をも超してしまうようなヘディングシュートを強引に決めたのはドラゴンと称された怪物、久保竜彦だった。あまり感情表に出さない久保が豪雨の横浜国際総合競技場で喜びを爆発させる。そしてこの瞬間、埼玉スタジアムで浦和の猛攻に耐え続けていた鹿島に首位の座が渡った。

磐田は慌てて中山雅史を投入するが、圧倒的有利な状況が引き金となった逆境を跳ね返すだけの力は残っていなかった。横浜国際での試合はそのままタイムアップ。この瞬間、マリノスが磐田の順位を上回り、磐田の優勝が消滅…このまま行けば鹿島が優勝というシチュエーションに至った。

 

このまま行けば優勝…そのシチュエーションに於いて、鹿島の右に出るチームはいない。そう断言出来る。しかしこの時の鹿島はちょうど世代交代の最中であった。それは鹿島に若さという勢いをもたらしたと同時に、元々持ち合わせていた勝負強さがいつもより欠けていた事も示していたのだ。そんな鹿島に突然訪れた首位の立場は、その言葉が持つ意味以上の重さがあったのかもしれない。マリノスと磐田の試合がちょうど終わった頃、右サイドでボールを持った永井がDF大岩剛を抜き去ると中へクロスを送る。そこにダイビングヘッドで飛び込んだのはエメルソン。秋田豊がなんとか突っ込むも間に合わず、エメルソンの頭から放たれたシュートにGK曽ヶ端は反応する事が出来ないままゴールネットに吸い込まれる…。

携帯は普及していたとはいえ、今ほどネットに万能性は無かった時代だ。試合を終えた横浜国際総合競技場では集まったマリノスサポーターが鹿島の結果を気にする。その瞬間、オーロラビジョンに映し出されたのは浦和vs鹿島の中継映像、そして同点ゴールを喰らって項垂れる鹿島の選手達だった。その瞬間、大歓声が豪雨の中に木霊し、中継映像から試合終了のホイッスルが鳴り響く。後半ロスタイムの僅か3分間で首位が2度入れ替わる壮絶な最終決戦を制したのはマリノスだった。この瞬間、1stステージも制覇したマリノス完全優勝と年間優勝が決まり、それは1996年の鹿島優勝から実に7シーズン続いた鹿島と磐田の2強時代(※3)が幕を閉じた瞬間でもあった。

 

2003Jリーグディビジョン1 2ndステージ第15節

横浜F・マリノス2-1ジュビロ磐田

2003年11月29日14:02@横浜国際総合競技場

横浜FM得点者:マルキーニョス(50分)、久保竜彦(89分)

磐田得点者:グラウ(2分)

 

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2003Jリーグディビジョン1 2ndステージ第15節

浦和レッドダイヤモンズ2-2鹿島アントラーズ

2003年11月29日14:04@埼玉スタジアム2002

浦和得点者:永井雄一郎(76分)、エメルソン(89分)

鹿島得点者:小笠原満男(6分)、青木剛(32分)

 

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2003年2ndステージ順位表

1位 横浜F・マリノス(26)

2位 ジェフユナイテッド市原(26)

3位 ジュビロ磐田(26)

4位 鹿島アントラーズ(25)

5位 FC東京(24)

6位 浦和レッドダイヤモンズ(23)

7位 ガンバ大阪(23)

8位 名古屋グランパスエイト(22)

9位 東京ヴェルディ1969(21)

10位 清水エスパルス(21)

11位 柏レイソル(16)

12位 セレッソ大阪(15)

13位 ヴィッセル神戸(14)

14位 京都パープルサンガ(13)

15位 ベガルタ仙台(12)

16位 大分トリニータ(11)

 

※3 1996年に鹿島が優勝して以来、鹿島は1998年、2000年、2001年、磐田は1997年、1999年、2002年とリーグ年間優勝を鹿島と磐田の2チームで独占していた。この7シーズンの中で開催された5回のチャンピオンシップに於いても、半分以上の3回(1997、1998、2001)が鹿島vs磐田のカードとなる程、2強時代の印象は色濃い物だったと言える。

 

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2003年のJ1リーグ

 

1位 横浜F・マリノス(58)

2位 ジュビロ磐田(57)

3位 ジェフユナイテッド市原(53)

4位 FC東京(49)

5位 鹿島アントラーズ(48)

6位 浦和レッドダイヤモンズ(47)

7位 名古屋グランパスエイト(45)

8位 東京ヴェルディ1969(40)

9位 セレッソ大阪(40)

10位 ガンバ大阪(39)

11位 清水エスパルス(39)

12位 柏レイソル(37)

13位 ヴィッセル神戸(30)

14位 大分トリニータ(26)

15位 ベガルタ仙台(24)

16位 京都パープルサンガ(23)

 

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最終的に2ndステージはマリノス、市原、磐田の3チームが同じ勝点26で並び、得失点差によって順位が決まった。ワールドカップのグループステージでもそうだが、2ステージ制のように少ない試合数で優勝チームを決める時には得失点差がモノを言う。その点、マリノスは4点差での勝利が2ndステージだけで2試合あった事が優勝に大きく寄与したと言える(※4)。

残留争いに目を向けると、2002年シーズンで若手が躍動し、元旦には天皇杯も優勝してシーズン前にはゼロックス杯にも出場していた京都の低迷はやや予想外だったかもしれない。京都自体はJ1とJ2を行き来しがちなチームであるが、開幕前に朴智星が欧州移籍で退団したとはいえ、2003年の日本代表に選手が3人招集されたにも関わらず(※5)、1stステージでは最下位だった。2ndステージでは優勝争いに最後まで絡んだ磐田、市原に勝利し、鹿島、マリノスとも引き分けるなど追い上げを見せたが、第11節に2ndステージ最下位の大分にステージ唯一の白星を献上した事が致命傷となり、残留が絶望的となった最終節でガンバ大阪に大敗(※6)して最下位での降格が決まっている。

京都ともう一つの降格チームは最終節で大分と仙台の直接対決という事となり、残留の為には勝利しかなかった仙台相手に大分が引き分けに持ち込んだ事で残留を果たした。尚、大分は2ndステージ最下位にも関わらず、2ndステージ最少失点という珍しい記録を生んでいる(※7)。

 

※4 第6節清水戦(5-1)、第14節仙台戦(4-0)の2試合

※5 手島和希松井大輔黒部光昭の3人。手島に関しては、複数回招集はされたが試合には出場していない。

※6 万博記念競技場にて1-5で敗れている。尚、京都は2006年に再びJ1に復帰したが、この時も第33節に同じ万博記念競技場でガンバ相手の敗戦で降格が決まった。両日とも雨が降っていた為、京都サポの間では「雨の万博」と呼ばれている。

※7 その代わり、2ndステージで挙げた得点は僅かに7点だった。年間成績で見ても大分は14位であるにも関わらず失点は4番目の少なさであったが、堅い守備力と得点力不足が引き分けを多く生んだ事で勝利数は仙台と並んで5勝と最下位の京都よりも少ない。尚、この年から延長戦が廃止された事で引き分けが急増したが、引き分けの多さで勝点を中々積み上げられなかったのは名古屋、柏にも同じ事が言える。

 

その後…

 

完全優勝を成し遂げたマリノスは翌年の1stステージも制覇し、Jリーグ史上初のステージ3連覇を飾った。2ndステージと年間勝点では浦和に1位を譲ったが、チャンピオンシップでは浦和をPK戦の末に下して史上3チーム目となる連覇(※8)を達成している。

あと一歩のところで優勝を逃した鹿島と磐田だったが、マリノスの優勝により2強時代が終焉を迎えると翌シーズンは不振に陥る。2004年は鹿島は優勝争いに加われずに6位に終わり、磐田は1stステージは最後までマリノスと優勝を争ったが、2ndステージでは13位に低迷して年間5位。2005年以降は鹿島は持ち直して2007年からリーグ3連覇も達成したが、磐田は主力の高齢化と世代交代の失敗により順位が下降していった事から、この年のマリノス戦の敗北は「磐田暗黒時代の始まり」と見る声もある。

尚、Jリーグ史上屈指の名勝負として2013年発表されたJリーグクロニクルベスト・ベストマッチ部門で6位に輝いたマリノスvs磐田の試合に出場した選手のうち、2019年12月4日時点で現役選手なのはマリノス榎本哲也那須大亮、磐田のグラウ、前田遼一の4選手である。

 

※8 1993〜1994年のヴェルディ川崎、2000〜2001年の鹿島アントラーズに続く3チーム目。マリノスの連覇以降は2007〜2009年に鹿島が3連覇を果たし、2012〜2013年にはサンフレッチェ広島、2017〜2018年には川崎フロンターレが連覇を達成している為、2019年時点で連覇の経験があるのは5チームである。

 

 

 

翌年のチャンピオンシップも制してリーグ連覇こそ達成したものの、その後は苦しいシーズン、悔しいシーズンが続いたマリノス。いよいよ週末にはあの時と同じ直接対決、あの時と同じ日産スタジアム歓喜に沸く権利を自分達で掴めるチャンスが訪れた。満員が予想される国内最大級のスタジアムに待つものはあの時のあのスタジアムと同じ歓喜なのか、それとも磐田が味わった悲劇なのか…。運命の一戦は12月7日、14:00にキックオフが笛が鳴り響く。