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光と闇の紫〜2019年の京都サンガFCを振り返る〜第2話 ノンフィクションに「突然変異」は無い。

2019年の京都サンガFC振り返りブログ「光と闇の紫」、第1話「監督・中田一三とV字回復のような躍進」はこちら↓

第2話の前にこちらから読み始めてもらえると幸いです。

 

 

 

「出る杭は打たれる」という言葉はシーズンが終わる頃にサンガにとって幾ばくかの意味深さを持つ事になった訳だが、別に深い意味も何もなく、この言葉はサッカーに於いて当てはまる。

今季のサンガのスタイルは、そのサッカーで結果を残していた事もあってメディアの注目も多く受けた。サンガより下の順位にいたチームは当然ながらサンガを倒さないと上には行けない。7月13日、もはやいつぶりかもわからないくらい久し振りの首位に立ったサンガが、後半戦に向かうにあたって突きつけられた課題は「これから進むであろうサンガ対策にどう立ち向かうか」という事であった。

明確な中断期間のないJ2リーグではキャンプを張ったりする事は出来ない。となれば、戦力を補強する事で戦い方に幅を持たせたり、今ある戦術をブラッシュアップする他にない。実際、2018年に何とかサンガがJ2に留まれたのは夏の大型補強の効果が大きかった。夏の補強の意味が如何に大きいか…理屈ではもちろん、フロントにとってもそれは「記憶」として残っていなければならないはずだった。

 

理想とする11人で戦えた時の今年のサンガの完成度は相当高かった。だが一方で、GKを除く選手層は余りにも貧弱と言えた。仙頭啓矢、小屋松知哉、一美和成の3トップの破壊力は凄まじかったが、次第にこの3人への依存度は高くなる。DFにしても、田中マルクス闘莉王は安定したパフォーマンスを見せていたが、今の闘莉王にシーズンを通してのフル稼働は期待出来ない以上、石櫃洋祐安藤淳本多勇喜、黒木恭平の4バックも、万が一誰かが長期離脱でもしたら…という恐怖と隣り合わせの中で生きなければならなくなっていた。

FWに関しては、まだ宮吉拓実という計算の出来る2番手がいたし、個人のクオリティでは疑う余地のないエスクデロ競飛王の復帰に賭ける事も出来た。仙頭や小屋松への依存が深くなっても、J2という自由に補強が出来る訳ではない立場上、FWの補強が後回しになった事は仕方ないと思う。だが、本気で昇格を狙うのなら、次にいつ訪れるのかわからない昇格のチャンス…いや、新スタジアム元年という一度しかないシーズンを本気でJ1で戦いたいと思っているのなら、守備で貢献できるタイプのMFとDFラインの拡張は誰の目から見ても必須と言えたのだ。

 

しかし、実際にサンガが補強してきたのはMFの藤本淳吾と中坂勇哉の2人だった。

大前提として、藤本と中坂に罪は無いし、J2のクラブとしてJ1で出場機会の少ない選手をレンタルで獲得するのは正しい補強術の一つだ。今年の主力であれば庄司悦大、金久保順、一美和成もそのような経緯でサンガに移籍してきた訳なので、彼らの試合勘などは問題ではない。

だが補強ポイントとして、今のスタイルのサンガが求めている人材としてこの2人は明らかにおかしかった。特に藤本は個人的に応援していた選手だったから、サンガに来てくれた事自体に嬉しさはあったものの、藤本にせよ中坂にせよ、じゃあ今のサンガのどこに組み込むべきか?となった時に適切なポジションが思い浮かばないのだ。シーズン前であれば、その辺りをキャンプなどで試行錯誤しながら落とし込む事も可能かもしれない。しかしフィットを待ってくれないJ2では「獲るべき場所に獲るべき人を獲る事」が必須である事を考えると、DFラインなどを放ったらかしにして補強ポイントじゃないタイプの選手を2人獲って来た事は、極端な言い方をすれば現場としては嫌がらせに近い感情すら覚えたかもしれない。今ここで、その2人を獲るならDF獲得してくれよ…と。

誤解の無いように言いたいが、藤本にしても中坂にしても、それぞれがそれぞれのやれる事を全力でやろうとしてくれていたと思うし、この2選手を責めるつもりは全くない。それどころか、むしろこの2選手もある種被害者だったように感じる。出場機会を求めて移籍して来たはずが、2人とも一桁の試合数しか出られなかったのだから…。

 

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夏の補強が失敗というよりも自滅に終わったサンガは8月に突入したが、ここから一気にサンガは失速する。理由はシンプル。「サンガ対策」が確立され始めたのだ。

前回も述べたが、今季のサンガは高いポゼッション率でボールを支配し、隙が出来たタイミングで最後のスイッチを押し、仙頭、小屋松、一美の3トップが絶妙な距離感とリズム、テンポでのコンビネーションで相手DFを切り崩す事で得点の多くを産み出していた。そのスイッチを入れた瞬間こそが、サンガにチャンスが生まれる瞬間だった。

じゃあ相手チームの立場になった時にどうすればいいか……そう、無理にプレスに行かなければいいのだ。それだけ…とまでは言わないが、原則はそれで良い。そうすれば、サンガの3トップは自分達がスイッチを押せるタイミングとコンビネーションで崩せるスペースが無くなり、そうする事が攻撃はペナルティエリアに入る前に停滞し、手詰まりに追い込める。手詰まりになった状態で、11人全員がパス回しに貢献するサンガは全員がじわじわと前がかりになる。後は焦れたサンガが無理なパスを出してボールが自分達のターンなったその瞬間に一気にカウンターを仕掛ければいい。今年のサンガは最終戦をノーカウントとすれば守備も安定していたように見えるが、それはポゼッションサッカーをする事で守備をする必要を無くしていたが為であり、守備力そのものが高くなっていた訳ではない。だから、前がかりになったサンガからボールを奪えれば大体シュートにまでは持ち込めるのだ。

先制さえしてしまえばこの傾向は更に強くなるから、追加点も容易に狙える。これは今季のサンガに逆転勝利が極端に少ない理由の一つであると共に、最終節以外にも順位の割には完敗が多かった大きな理由と言えるし、今年のサンガが「明らかに研究された」と言われる部分だろう。第31節岡山戦第38節新潟戦はまさしくこの典型とも言える負け方だったように思うし、開始2分で先制点を奪えた第37節横浜FC戦を除いては、9月以降で勝利出来た試合は15位以下のチームだけだった事実にも表れている。結局、サンガは8月を1勝2分2敗、9月は2勝3敗と共に負け越した事で自動昇格戦線から遠のいてしまった。

中田監督やコーチ陣も、サンガのパターンが読まれている事は理解していたと思う。だからこそ前半戦で機能したとは言い難かった3バックに戻してみたり、一美をスタメンから外してみたり、仙頭のポジションをいじってみたり、そして終盤戦では戦術の肝であった庄司をスタメンから外す事で前提さえも覆してみるなど確立された感のあったサンガ対策をかい潜ろうと試みたのだろうが、結局今年のサンガにとって庄司をアンカー、仙頭、小屋松、一美の3トップ以上の正解はなく、そして夏の補強で唯一の正解を底上げする事さえも出来ずに…。終盤戦のサンガはもはや、サンガ対策が確立される前に積み上げた貯金が尽きるまでの耐久戦のような状態にすらなっていたように見えた。

あの13-1で敗れた柏戦…あれはサンガが弱いチームだったから起こったという訳では無いが、同時に突然変異的に起きた偶然の大敗でも無い。DFが居なくなった事も含めて、あの柏戦に繋がる伏線は夏…いや、もっとずっと前から引かれていた。世の摂理として、全ての物事には理由が存在し、そこに偶然というものは存在しない。それは今年のサンガにぴったりなフレーズだったんじゃないかと思う。

 

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それでもサンガには「数字」が示す可能性があった。J1へ昇格出来る可能性は現実的に残されているという数字だ。選手にとっても、コーチングスタッフにとっても、それが最後の希望と呼べる光であり、去年とは違う立ち位置と現実がチームを奮い立たせる最後の灯だった。西京極でのラストゲームというシチュエーションも影響しているのだろうが、千葉を下したホーム最終戦での勝利が胸に訴えかけるものがあったのは、最後の希望への執着心というどこか悲壮な覚悟をファンやサポーターも無意識に感じ取っていたからのような気もする。

サンガファンとして、今年のサンガは純粋に面白かったし、他のチームのファンからも今年のサンガは面白いという声は多く聞かれた。それは勿論、今季のサンガのサッカースタイルに拠る部分が多いのだが、サンガファンというよりも第三者的な視点でサンガを見た時、今季のサンガが歩んだストーリーは研究材料として実に興味深いものであるような気がした。この先、この一年を我々がどう定義しているのかは分からないが、考えれば考えるほど中田一三という監督と歩んだ2019年の濃度は過去とも未来とも比較できないなのかもしれない。そう、良い意味でも悪い意味でも…。

 

つづく。