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レクイエム〜明治安田生命J1リーグ第28節 京都サンガFCvsヴィッセル神戸 スポーツ観戦日記〜

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京都サンガにとって、感謝してもしきれない功労者は数え切れないほどいる。

ピッチで輝いた者はもちろん、その指導にあたった者、クラブを支えたスタッフだってそう。名前を挙げ出せばキリは無いが、その一人一人は皆、名前を挙げられるに相応しいだけの功績をこのクラブに残した。表に出てこない者も含めて、そこへの優劣は付け難い。

 

 

 

ただ、京都という街にプロチームが、Jリーグクラブが誕生するにあたって、ただ一つ"オンリーワン"と称すべき存在がいる。世間では「経営の神様」と呼ばれているが、どこかのメディアが「サンガの父」と称したように、サンガファンにとってのその人は親のような存在だった。

 

 

 

本日のスポーツ観戦日記は2022年9月3日、サンガスタジアム by Kyoceraで行われた京都サンガFCvsヴィッセル神戸の試合の観戦日記である。

 

 

オリジナルアルバム出してみました!聴いてみてくださいませ。


 

 

 

選手にとっても、ファンにとっても、一世一代の大一番と呼べるような試合は極々僅かだ。だからこそ"一世一代"という言葉があるのだろう。そして、立場の異なるそれぞれのクラブで戦った経験を持つ選手と異なり、サンガファンとしては12年間の生暖かいJ2での暮らしの中で、なかなかそういうヒリヒリするシチュエーションにありつく事は無かった。例えば去年の磐田戦なんかは、試合前の時点で、仮に負けたとしてもこの緊張感の時点で至高だと思っていたが、いってもJ2である。それが仮に残留争いだったとしても、J1で味わうヒリヒリするシチュエーションは全く別物の感覚がある。

 

対戦相手の神戸は言うまでもなくスター集団。結果として、このクラブで最大のスターであるアンドレス・イニエスタ、そして大迫勇也は欠場となったが、それでも彼らが、J2生活では見られないようなスター集団である事に変わりはない。そういう対戦相手との勝点差は僅かに2点。サンガが15位、神戸が17位……勝てば大混戦の残留争いの中で一息もつける。だが負ければ、今季まだ一度も降格圏に転落していないサンガは降格圏に落ちる。他会場次第では自動降格圏だ。少なくとも神戸には順位を抜かれてしまう。欲望を言い出せばキリはなく、叶うのなら優勝争いでこういうシチュエーションを見る日が来てほしいものだが、少なくとも2006年や2010年は呆気なく散っていった訳で、J1でこの状況に、それも自分達よりも遥かに予算規模で上まわる神戸を前にこの試合を迎える昂りは、この先もそうそう多く経験できるようなものではないだろう。

そこに、稲盛和夫氏の訃報が飛び込んできた。

 

 

マジのマジに「絶対に負けられない試合」が、果たして一年の中で何試合あるだろうか。極論を言えば、結局のところ全てがそうな訳で、相対的に1試合単位でのそれの意味は薄れていく。だがこの試合は間違いなくそうだった。この試合こそが「絶対に負けられない試合」だった。

 

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セレッソ大阪の試合がない時は関西の他スタジアムでも出店してくれる鶴心の唐揚げと、個人的にこのスタジアムで一番推しているココロパークの小籠包を食す。

一緒に行った相手が大迫勇也の大ファンだったので、場所はメインの神戸側となった。同じ辺りに陣取った4月のガンバ大阪戦の時はこの辺り一体はほぼガンバファンがいたので、今回少しそんな気はしていたし、実際に神戸ファンの方が多くはあったが、思っていたよりサンガユニも多かった。槙野智章と初瀬亮に加えて藤本憲明まで戻ってきたら中々に騒がしい神戸のウォーミングアップ…。

 

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さて、スタメン発表である。

映像が流れる際、スタジアムの照明を消し、公式が販売している紫のペンライトや紫のシールをスマホの照明部分に貼る事で「光の演出」を行っている。

 

……しかし、私の記憶が正しければ…この企画、今のところサンガで上手く行った記憶が無い。理由は大きく2つである。

 

・サンガのホームゲームのキックオフ時間は18:30が多く、夏は当たり前のように明るいというか普通に昼。なんなら、18時半前なら4月から既に明るいし10月くらいまで明るい。要は証明消してもあまり明るくならない。

・空席が多くて、紫の光が散発的に見える。

 

だが、神戸戦は2つともこの問題点を解消していた。

チケットに関しては、そういう人達にとっては残念な結果に終わる事となったがイニエスタ目当ての人は多かっただろうし(というか結局、なんやかんやでみんなイニエスタ見たいし)、サンガに限らず神戸戦の客入りはどのスタジアムでも良い。そして前者の明るさ問題に関しても、いつも18:30キックオフなのになぜか今節からは19:00キックオフだったのだ。真夏ならともかく、9月に入れば19時前は暗い。

 

さぁ、状況は揃った!いでよ!!サンガスタジアム by Kyoceraの本気!!!

 

 

👏👏👏

 

これね、最初……すごく良いタイミングで散水やってたおかげで、紫の光に照らされた噴水みたいな感じでまた良い味出してたんですよね。だからパフォーマンスを終えたキッズチアの皆さんに放水浴びせて神戸サポどよめかせたのはご愛嬌。

 

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で、試合開始。そしたらまさかの開始9分で2点!!

 

 

 

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ベンチスタートとなったピーター・ウタカが、点を決めた豊川雄太を先頭で両手広げて待ち構えていたのがなんか良かった。

言っても、こういう序盤からのアグレッシブな姿勢は昨日今日やり始めたスタイルではない。ただ、それがなかなかゴールに結びつかないまま時間が過ぎる試合がある一方で、この日はそれがすぐさま結果に結びついた。時間が経てば経つほど、この試合に向けた高いモチベーションが空回りするような事態になってしまう可能性もあっただけに、一発どころか二発もぶち込んだのは見事という他ない。

 

…あ、試合のスポーツ的な話はマッチレビューの方をご覧ください。

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完璧な前半だった。

早くに2点を取れた分、3バックへの変更が物語るように相手の攻撃への対応を優先的に考えるだけの余裕もできたし、これ以上ないほどの前半だったと思う。

 

 

 

ただ、後半のド頭にピンチは訪れる。GK上福元直人のロングボールは交代で入ったファーストプレーとなった佐々木大樹がブロックし、転々とペナルティエリアの中へ。相手攻撃者をGKが後ろから追うのは、言うまでもなく絶体絶命だった。しかし、佐々木のシュートはファーのポストへ…。

理由はいくつかある。フリーではあったが、佐々木の体勢は必ずしも良かった訳ではないという事、上福元もしっかりと追いすがって佐々木にプレッシャーを与えられていた事……。ただ、もしこれが決まっていたとすれば試合の流れは大きく神戸に傾いていた。試合を終わった今の感想としては、この試合は完勝だったと思う。だが、この佐々木のシュートが決まっていたら……多分違う結末があった可能性は否めない。

それを思うと、このシーンだけは無性に、非科学的なことを信じたい気持ちがある。かつて氏は「神が手を差し伸べたくなるぐらいにまでがんばれ。」という言葉を遺した。前半のサンガの躍動感は、神となった氏に手を差し伸べたいと思わせるような試合だったのかもしれない。実には科学的なことを言っているし、本気で信じているかと言えばどうかはわからない。ただ、そうだったら素敵だなと思う。

 

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間違いなく完勝、ほぼ完璧な試合だった。

確かに神戸が途中から一人少なくなった事で随分戦いやすくはなったが、そういうシチュエーションに持ち込んだのは他でもなくサンガである。あわよくば3点目を取れたら尚良しだったが、このセリフが自然と出てくるのがこの試合の内容の充実っぷりを端的に表していた。

 

 

 

レクイエムとして、これ以上ない90分だった。

試合前、曺貴裁監督はこのクラブに最も長く在籍している岡本剛人通訳にスピーチを託したという。これまでの人生の中で、サンガどころか京都・関西に縁のなかったサンガ歴の浅い選手だっている。そんな中で、このクラブの歴史を現場で見続けてきた岡本通訳にその役割を求めたのは、曺監督の隠れた名采配だったし、やっぱり彼のそういうセンスは指導者として類い稀なるものなのだろう。曺監督の采配と岡本通訳のスピーチは、重要な試合だったこのゲームを特別な一戦たらしめた。対戦相手にしても、順位が近いとかスター集団というだけでなく、背景や意味合いは異なれど、どこか重なる部分も持つクラブが相手だったのは偶然にしてはよく出来た舞台だったと思う。

 

稲盛氏の情熱が切り拓いたこのクラブの歴史は紆余曲折の連続だった。稲盛氏がちょこちょこ現場に口を挟んでしまった事もあったらしく、そこに関しては賛否両論な部分もある。だが確かな事は、このクラブに多額の投資を惜しまなかった稲盛氏がサンガに注ぎ込んだ情熱はプライスレスだった。

 

 

西京極のスタジアムでは、ゴール裏に混じってサポーターと交流をかわす事もあった。京都市の自宅からお世辞にも行きやすいとは言えない城陽市の練習場まで足繁く通い、屋根のないグラウンドのすぐそばで傘を差しながら練習を見守った事もあった。そんな稲盛氏が、いわばサンガに遺した最後の情熱がこのスタジアムだった。

【サンガスタジアム by Kyocera】………日本で唯一、クラブとスポンサーの名前を冠した夢の舞台である。健康上の理由から、稲盛氏がこのスタジアムに足を運べたのかどうかはわからない。ただ、このスタジアムの完成と、サンガの12年ぶりの昇格が間に合った事が、この悲しみに対する唯一の救いだったように感じている。この試合はまさに、この舞台で彩る経営の神様への、サンガの父の、そして、一人の偉大なるサンガファンへのレクイエムだった。

 

 

感謝永遠に。R.I.P.