かい‐しゃく【介▽錯】
読み方:かいしゃく[名](スル)
1 切腹する人のそばに付き添っていて、その人が刀を腹に突き刺すと同時に、その首を斬って死を助けてやること。また、その人。
笛「ピッ、ピッ、ピゥィーッ」
実況「試合終了!!○○!!J降格です!!」
誰かが喜びの咆哮を轟かせる時、その足下には誰かの悲しみが横たわる……それは往々にしてこの世の常とでも言うべきものでしょう。
サッカーというスポーツにはいつだって「対戦相手」なるものが存在します。
歓喜の笛が鳴った瞬間、その歓喜の反対側にいるチームはその咆哮をただただ遠巻きに浴びることしか出来ません。それと同様に、悲劇の中に突き落されて打ちひしがれる姿もただ見つめることしかないできない…自分達が最後にトドメを刺したことを自覚しながら。そんな業を背負いながら降格チームのJ1での最後の姿を見届けるその姿はまさしくプロであり、それを何度も経験したチームはもう超一流の介錯人と言える事でしょう。
不必要に誰かの悲しみは見たくない。本当は人なんて斬りたくない。でもこの仕事は誰かがやらなければならない…しかも介錯人にもテクニックは要るんですよ。そこの技術がおざなりだと「試合が終わって4時間後に降格決定」みたいなすごく中途半端な殺し方しちゃう訳ですから。殺すなら殺してくれで殺す為にはテクニックが要る。だからこそ今回は、J2リーグが誕生して降格という概念が出来上がった1999年から今日に至るまで、じゃあどのチームが最もプロの降格見届け人なのか。どのチームが最も降格送り人なのか。どのチーム斬りすぎてしまったのか。如何に、如何に一流の介錯人なのかをこの機会に調べてみました。もちろん降格はJ2→J3もありますので、それを含めて絶対的、匠の介錯人、必殺介錯人を決めていこうやんけと。
という訳で今回は最多降格ではなく、最も多く降格が決まった試合の対戦相手になってしまったチームをランキング形式で発表していきます!
B’zの名曲「もう一度キスしたかった」を残留争いに置き換えた替え歌「もう一度キス残留りたかった」にしてみました。今回のブログのテーマソングでございます。是非併せてお聴きください。
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【★ルール】
・対象はJ1及びJ2リーグ公式戦に限りますので、最初から昇降格決定戦として行われる入れ替え戦やJ1参入決定戦は含みません。
・試合終了時ではなく、他会場や下位カテゴリーの状況により試合終了から数時間後や数日後に昇格が決まったケースは含みません(例:2015年の清水、2018年の長崎など)。
→例えば2023年金沢は降格圏となる21位以下が確定したのは第39節山形戦ですが、J3との兼ね合いで21位が降格対象となるかどうかが確定していない為、降格確定となる最下位が決定した第41節の対戦相手となる大分を介錯人としています。
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まずは1回だけ介錯したことのある方達からご紹介していきましょう。
【18位】
《1回》
清水エスパルス(2010年湘南)
アルビレックス新潟(2011年福岡)
サガン鳥栖(2013年磐田)
栃木SC(2014年富山)
SC相模原(2021年松本)
1回だけ請け負った皆さんです。富山降格時の栃木は初めてJ3に降格させたチームですね。仙台はなかなか介錯人の葛藤が見える介錯でしたね。甲府を介錯出来る立場にいた仙台は最後の最後まで甲府を斬れずに終了間際の失点で敗北。しかし他会場の結果で甲府は斬られるという。よくドラマなんかでもありますよね。介錯に葛藤してたら横から役所の人間出てきてサッと斬って帰っていったみたいな。
介錯を請け負ったのは1回だけですが、上述の仙台を含めて1回だけ組はなかなか芸術点の高い介錯を致した人達が多いんですよ。大分、磐田、鳥栖の介錯の仕方はなかなか例を見ない、芸術点のあまりにも高い介錯だったと言えるでしょう。
磐田は言うまでもなく前田デスゴールが最も叫ばられた年に優勝候補だったはずのチームを前田のゴールで倒したというカタルシス(2012年の端末はこちらのブログで)、2013年の鳥栖は「林彰洋コピペ」が有名ですからあれは傑作でしたわ。あれはあまりにも出来過ぎ。
【13位】
《2回》
浦和レッズ(1999年平塚,2010年京都)
名古屋グランパス(2000年川崎,2019年名古屋)
大分トリニータ(2003年仙台,2023年金沢)
モンテディオ山形(2016年北九州,2021年北九州)
1999年の浦和といえばよく語られるのが「世界一悲しいVゴール」による降格ですが、実は浦和ってその2試合前に自分達が平塚(現:湘南)の介錯をしてらっしゃったんですね。介錯した人間が今度は介錯されるのは時代劇モノによくある展開とも言えるでしょうか。
芸術点というかもうド畜生な介錯を致したのが山形ですね。J2歴が長かったクラブだけになかなか介錯を務めた経験は少ないものの、介錯経歴がまさかの2/2で北九州。しかも当時の北九州の監督はどっちも元山形の監督(柱谷幸一&小林伸二)。恩師の介錯をする元教え子とか大河ドラマか。なぜかいま薄っすら武田鉄矢で脳内再生されています。しかも山形のド畜生っぷりはこれだけに留まらず、前述のように降格確定ではないのでランキングにはカウントしていませんが、来季から新スタジアム開場前の金沢の21位以下を確定させたのも山形。そういえば2016年の北九州も来年新スタ開場という時に斬りましたね。山形は多分笑顔で介錯してくるタイプですわこれ。
一方、むしろ介錯というよりも決闘に近かったのが2003年の大分。残留を争う仙台と文字通り直接対決の立場でしたので、こうなるともう介錯ではなく決闘。やってる事は巌流島ビッグアイと言いますか、ビッグアイがコロッセオになった昼というか。そういえばビッグアイってもう死語なん…?
【6位】
《3回》
サンフレッチェ広島(1999年浦和,2012年神戸,2021年徳島)
鹿島アントラーズ(2002年札幌,2014年C大阪,2021年大分)
北海道コンサドーレ札幌(2002年広島,2015年栃木,2022年清水)
柏レイソル(2005年東京V,2007年甲府,2008年札幌)
京都サンガFC(2009年大分,2010年FC東京,2018年讃岐)
湘南ベルマーレ(2012年町田,2016年名古屋,2021年仙台)
ヴァンフォーレ甲府(2017年新潟,2017年大宮,2019年岐阜)
やっぱり一流の介錯人は違いますね。回数を重ねたクラブは芸術性にもこだわっていらっしゃる。「世界一悲しいVゴール」に絡んだという事でこの中では広島が一番有名でしょうが、その広島も霞むほどにテクニカルかつ演出力が神懸かり的な介錯人の宝庫です。
ド畜生型は湘南でしょうか。2012年、自分達の逆転での昇格決定を決めつつ町田をJFLに突き落とすという離れ業を披露。2016年には名古屋の道連れにも成功しました。道連れといえば2010年の京都も鮮やかでしたね。あの試合は私も現地(西京極)にいましたけど、確かに道連れにしてやろうやみたいな空気が充満しておりました。
芸術点が高いのは柏と甲府でしょうか。柏は第33節でヴェルディを5-1で完膚なきまでに斬ったかと思えば、自分達は入れ替え戦で甲府に6-2で斬られ、怨念を握りしめて帰ってきたJ1の舞台で今度は自分達が甲府を斬り倒すという。まさしく切腹がカジュアルだった時代さながらの立場逆転劇。俺はこの日を待っていたんだヨォ!的な。甲府の場合はまた別種の芸術性ですね。第32節で新潟、第33節で大宮を斬った末に、最終節で自分達が降格するという。しかも2試合とも負けずに他会場の結果で斬ったら結果、最終節は勝ったのに他会場の結果で斬られたという。日程の巡り合わせも活かしたなかなか真似できない圧巻の介錯技術を見せてくれました。
そしてなんといっても狂気的なのが札幌。もう2002年の広島に対する介錯は未だに伝説として知られていますね。曽田雄志とかいうやべー介錯人のVゴールハットトリックとかいうやべー斬り方で5-4。しかも札幌降格決まってたから道連れって。しかもその20年後、今度は清水を気が狂いそうになるシーソーゲームでまたAT弾で4-3で斬るという。こいつあれやん、絶対介錯する時に寸止めとかやたらしてくるやつやん。頼むから一発で斬ってくれよ。フェイントとかしないでよ。寸止めされてこっちが震えてる時に「怖かった?w」とか聞いてくるタイプのやつやん。コンサよ、どれだけ俺たちの心を弄べば気が済むんだ。
さぁ、いよいよトップ5です。
3チームが並んだ3位、そして2チームが並んだ1位が登場します!
【3位】
《4回》
2005年神戸,2009年柏,2011年甲府,2016年湘南
2006年C大阪,2008年東京V,2009年千葉,2012年札幌
2013年大分,2014年徳島,2014年大宮,2018年柏
一時は「落ちない大宮」として名を馳せた大宮はそれを売りにする傍ら、きっちり介錯も担える存在としてJ1クラブとして活躍していました。やっぱり落ちない方法を知っている人間は落とし方も知っている。J1初参加の2005年から介錯人を買って出た彼らのプライドを感じさせます。近年はそれを忘れてしまったようで…。
芸術点ならセレッソも負けていません。降格枠3つをセレッソが斬った2チームとセレッソ自身で固めた2014年もさることながら、圧巻の芸術性を誇ったのは2018年でした。この年は第32節で川崎の優勝が、第33節で柏の降格が懸かる状況となっており、川崎には劇的ゴールで勝ったのに他会場の結果で川崎が優勝。柏にはボロ負けしたのに他会場の結果で柏が降格。しかもどっちもセレッソホーム。先日の優勝見届け選手権との合わせ技で素晴らしい芸術性を見せてくれました。
そして一時期「J2おくりびと」としてのイメージが強かった川崎は惜しくも3位止まり。悔しい結果に終わってしまいました。それでも2012年には札幌の最速降格というレコードを完成させるなどしっかりと矜持は見せつけていますし、2008年に東京Vを斬る事で奇跡の生還を果たさせた千葉を次の年に斬り直す2年がかりの手捌きはもはや匠の所業。プレーオフなのでカウントはしませんでしたが、2018年に磐田をプレーオフに突き落とした時の手際は大名になって隠していたはずの疼きが垣間見えた一瞬でしたね。
さぁ、お待たせしました…いよいよ第1位です!
J2おくりびとのイメージが強いチームと言えば多分川崎を挙げる人が多いと思うので、昇格見届け選手権と比べると少し意外な結果かもしれません。5回の実績を誇る2チームが同率1位となっておりますので、ここは1チームずつ発表していきます!
【1位】
《5回》
2007年横浜FC,2011年山形,2015年山形,2015年松本,2021年横浜FC
おめでとうございます、同率優勝1チーム目は神戸さんです!ペースとしては4〜6年周期でお仕事をするなど、初介錯の2007年からコンスタントに斬っていらっしゃるところは特徴と言えるでしょうか。
神戸の場合、特筆すべきポイントは特定のクラブへの怨念にも近いような介錯です。横浜FCと山形を2回ずつ斬っているだけでなく、横浜FCも山形も2回の降格経験が全部神戸。要は降格の瞬間の映像を見るとどうやっても神戸しか出てこない。飛び立る血の色はいつもクリムゾンレッド。横浜FCファンにとっては、今季の最終節の相手が神戸じゃない事は残留争いのポジティブ要素だったりするのでしょうか…。
さぁ、そんな神戸と同率1位は近隣地域のこのチーム!
2001年福岡,2003年京都,2006年京都,2019年松本,2022年磐田
来ました!我らがガンバ大阪でございます!ガンバも神戸同様に5回の介錯を記録。先ほどの大宮の項でも言いましたが、やはり落ちない方法を知る者は落とす方法も知っていると言いますが、一時は斬り方を忘れてしまったガンバも降格危機に何度か瀕した昨今はまた介錯も再開させてしまったご様子で。
ガンバの名介錯といえばやはり2006年京都と2022年磐田でしょう。2022年の場合はガンバも負ければ降格決定の可能性があったという斬り合い巌流島状態。佐々木小次郎は明日は我が身……遠藤保仁擁する磐田を介錯しなければならない立場になってしまった事は辛くとも運命だったのでしょうか。
2006年の京都もまたそれに近いものがあり、こちらは「勝たねば優勝消滅のガンバ」と「勝たねば降格決定のサンガ」というあまりにも悲壮な一戦でした。しかも試合はサンガの順位(最下位)を忘れる激闘で豪雨の中2-2…このままだとどちらも泣きを見るラストワンプレー……両者にとって伝説の一戦でしたね(その試合の詳細はこちらのブログで)。ハッピーエンドか悲劇かの違いだけで。ちなみにガンバは京都を2回介錯しましたが、どちらも万博競技場で土砂降りの中での試合だった事から京都サポ時点では「雨の万博」と呼ばれて雨の御堂筋より重い意味を持っています。2001年の福岡もなかなか壮絶な介錯でしたがあれに関してはガンバが9人になったのに負けた福岡が悪い。
ちなみにガンバの場合、1999年市原や2021年湘南のように最終節で残留させてあげた(?)事も割とちょいちょいあるんですよね。そこはやはり、介錯するにしても最後にチャンスを与える武士の姿勢を感じます。
以上が降格介錯人選手権でございました。
今季は果たしてどこが最後の介錯を担うことになるのでしょうか。やりたくない仕事でも誰かがやらなければならない。ひいては同情があっても自分の為に斬らねばならない。その刹那との戦いはもう引き金に手がかかっています。一文で急に近代化すな。
明日は我が身…?
ではでは(´∀`)