「For 30 years we’ve been looking for little things little things…」
今年、デビュー30周年を迎えたとあるロックバンドの新曲の冒頭に差し込まれた一節である。
バンドにしてもグループにしても、メンバーの歴史がそのままグループの歴史となり、逆に言えば全てのメンバーが去った時、グループとしての歴史は幕を閉じる。だから彼らは常に小さなものをかき集めて、探し求めて、一つずつ前に進んでいく必要がある。
京都サンガは今年、クラブ創立30周年を迎えた。
今のクラブで、30年前に選手としてプレーしていた者は誰一人選手として残ってはいない。選手が歴史をつくることでクラブは歩みを進めていくが、クラブの歴史は今いる人間が誰もいなくなったとしても、新しい人間が入って歴史は続いていく。そこがメンバーがあって歴史になるグループと、歴史の中の一部にメンバーが入り込むクラブとの違いになる。
新しい人間が入ってきた時、このクラブがどういう場所であるのか。それを考えた時に、京都サンガというクラブはあまりにも小さいものばかりを追い続けてしまったようにも思う。「二兎を追うものは一兎をも得ず」とは使い古された言葉だが、プロスポーツクラブとは最低でも二兎は追い続けなければならない。
本来、京都サンガは2024年にこの位置にいるべきクラブではなかったように思う時がある。
それは2024年の順位…という意味ではない。予想よりやれた、やれなかったの感覚は人によって異なるだろうが、大枠で見ればある程度想定に近い順位だ。そうではなく、このクラブの立ち位置という意味で。
任天堂、KDDI、ワコール、堀場製作所、村田製作所、ニデック、オムロン、大和証券……パッと思いつくだけでも名ただる企業がスポンサーとして長年名を連ね、そのトップとして親会社の京セラが束ねている。「スポンサーのイメージほどサンガに金はない」とする意見はわかるし、スポンサー個々の温度感確かにあるだろう。各企業が会社規模のイメージほどスポンサーフィーを投じてくれている訳でもないだろうし。だが、実際にどれだけ力を入れた予算が投じられているかはともかくとして、彼らが財政基盤をつくっている状況は「クラブの存続は保証してくれているもの」という表現はできる。この基盤を持っているクラブはそう多くなく、持っていない殆どのクラブはクラブとしての利益や移籍金収入をクラブ存続のための予算として考えていかなければならない。だがサンガの場合、そういう大前提のところは保証してもらえるだけの基盤がある。即ち、それが戦力強化であれ施策であれ、クラブで得た収益はクラブの向上の為に使う事ができる。自分達の収入で存続の為の何かを補填する必要がない。その基盤の有無は、クラブの成長を考える上で大きな差となる。わかりやすい言い方をすれば、リーグの中での立ち位置が近いところにいる湘南や新潟辺りと比べて「なぜ川﨑颯太をここまで残せているのか」という話だ。サンガにそういう基盤が無ければ、川﨑は遅くとも2023年の開幕は別のJクラブで迎えていたと思う。
加えて、もちろん風土として少し根付きにくい部分がある事を否定はしないが……それでも京都という市場はマーケット的には大いに恵まれた場所である。街の知名度で言えば日本では東京とタメを張れる唯一の場所だろうし、都市の規模もそれなりに大きい。何より京都に本社を置く世界的な企業も複数存在する。そしてそんな街のスポーツ市場で、例えばバスケの京都ハンナリーズなんかと比較した時にサンガは先行者利益を得られる立場だった。そもそもJリーグという区分の中でも、今となってはサンガは先行した立場にいたはずなのだ。
そういう事を考えた時に、それこそ近年の神戸や町田を見ていると……サンガにはもう少し、クラブとして違う現在があったんじゃないかと考えてしまう瞬間がある。
小さな事ばかりを追い求め、いつしかもっと大枠のところから逃げ続けてきた。誤解のないように言うが、今のサンガが残留を目指して戦う事、残留を目指した人事を行う事は決して小さな目標だとは思わないし、ここでいうサンガの間違えた目標として指すものではない。むしろ、サンガにはクラブとしてどうなりたいのか、クラブとしてのビジョンを描く事、スポーツビジネスとしてどう発展させていくのかを考える事からずっと逃げ続けてきたように思う。その生き様はどこかその日暮らし。毎日訪れる"その日"を乗りこなして、同じ歴史を繰り返しながら、いつしか地盤低下を招くように同じ歴史の標高だけが下がっていった。やりようによっては違う2024年が待っていたんじゃないかと思ったところで、その日暮らしを繰り返して辿り着いた2024年のサンガはもう先行者ではない。
ただそれでも少しずつ、クラブの時代は、クラブの風向きは変わっているように感じる。
2024年のサンガは苦しいシーズンであり、前半戦は散々たる日々だった。いくら後半戦の事があったとしてもそこを無視して物事は判断できない。しかしながら、今季のサンガはこれまで何度も繰り返された「共通する降格パターン」に入り込みながら、クラブが何度も這い上がれなかったところからどうにか生き返った。こういうシーズンになってしまった事はクラブとして反省するべき部分でありながら、思い返せば2000年も、2003年も、2006年も、2010年にも抗えなかったシチュエーションに抗い、こういうシチュエーションになったからこそ過去のパターンを打ち破る瞬間を見せた。何より、J2という概念が生まれた日から「4年目のJ1」を手にしたこと自体がクラブにとっては初めてなのである。
終わってみれば想定と比較して悪い数字では無かった。ただ、開幕前に掲げた「史上最高で最強」とは程遠いシーズンではあった。どんなチームのどんなシーズンにも波は少なからず起こりますが、サンガは特にそれが激しかった。このクラブが今後も"J1クラブ"という印象を持たせたいならば、今季前半の体た… pic.twitter.com/DwYDN9p9M7
— RK-3 (@blueblack_gblue) 2024年12月8日
サンガスタジアム by KYOCERAという箱を手にした今、少しずつクラブの悪癖のような歴史の習性は軋む音を立てている。
次にサンガが周年を迎える時、サンガの立ち位置は世間にどう捉えられているのかはまだわからない。だがサンガは「J2からJ1に来たクラブ」ではなく、これからは「J1のクラブ」にならなければならない。2024年はシーズン当初に掲げたような「最高で最強のシーズン」ではなかったが、このクラブの負の歴史を打ち破った年ではあったと思う。であれば、これまでこのクラブが何度も逃してきた機を今度こそ血肉に変え、30周年という区点を分岐点と呼べる日を迎えなければならない。
前置きが長くなったが、今回からは2024年の京都サンガFCを総括して振り返るブログを4回に渡って更新していこうと思う。
最後まで是非、お付き合い願いたい。
【P・PURPLE〜京都サンガFC 2024シーズン振り返り総括ブログ〜】
第1話 Process (2024.1.13〜2024.2.25)
第2話 Problem (2024.3.2〜2024.5.19)
第3話 Progress
第4話 Pursue
【過去の京都サンガFC シーズン振り返り総括ブログ】
【京都サンガFC 30周年企画ブログのまとめページはこちら!随時色々と更新しております。】
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【オリジナルアルバム出してみました!聴いてみてくださいませ。】
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2023年のサンガは13位という順位で終了。
途中に6連敗という苦しい時期はあり、降格枠がそもそも一つしかない影響はあったのはいえ、終わってみれば残留争いの危険なゾーンには入らずにシーズンを終えることはできていた。
30周年を迎えたサンガ。クラブ史上初めて4年目の指揮を担う曺貴裁監督は「史上最高で最強のサンガ」という言葉を発する。正確なチームスローガンは「強く越える」だったのだが、曺監督が語った「史上最高」「史上最強」のフレーズの方がスローガンとして定着していくことになる。
「史上最強」という言葉を額面通りに捉えるならば、それは2002年を越えることという事になる。2002年のサンガは天皇杯を優勝し、そしてJ1でも5位に入った。ただ現実的に今のJリーグでいきなり5位に入る事が現実的だとは言いにくい。この目標には具体的な数字目標が添えられていた訳ではなかったが、噛み砕いていくと「一桁順位」かつ「カップ戦の優勝を狙える位置まで行く」といった辺りが目標だったのだろうと想像する。言っても2002年はある意味、瞬間最大風速で走り切ったような側面もあった訳で、2年残留して果たす一桁順位とカップ戦の躍進こそ史上最強のサンガ…という解釈もあるかもしれない。
順序としては正しい目標だったと思う。2022年はとにかく残留がマストだった。結果的にはプレーオフまで強いられる16位での残留になったが、序盤戦は台風の目扱いされる事もあるなどインパクトを残した。2023年は前述の通り、特例措置の影響はあっても残留争いの最もハードな領域を避けながらプレーする事ができた。「獲得した」のではなく「育てた」選手がA代表選出を果たした……サイクルとは往々にして3年目に頂点を迎えるという。曺貴裁体制としては4年目だが、J1生活はこれで3年目。この年をクラブのターニングポイントとするにあたって、このフレーズをこの年に向けて持ってきた事には一定の納得感はある。
補強も精力的に動いた。
新たなるDFリーダーとして清水で主将を務めていた鈴木義宜を獲得すれば、有望株の松田佳大、堅実な実績のある塚川考輝、曺監督の教え子でもある鈴木冬一と宮本優太、オーストラリアで活躍していますマルコ・トゥーリオを獲得。前年はレンタルの身だったク・ソンユンも完全移籍に切り替えた。往々にしてJ1から上がってきて程ないクラブは主力の草刈り場の対象となる事もあるが、サンガとして契約満了を選択したパトリックを除けば引き抜かれたと言える選手は井上黎生人のみ。基本的に補強ポイントと考えられていたところにはしっかりと選手を加え、戦力は補充ではなく補強、しっかりと戦力アップをした状態でシーズンを迎えた事は間違いない。
沖縄キャンプを経たクラブは2月10日、サンガスタジアムで長野とのトレーニングマッチを経てリーグ開幕へと向かっていく。
曺監督体制のサンガは「チームとしてやること」というものはいつだって明確だった。それは間違いなくチームとして強みではある。やり方そのものへの是非、好き嫌いの感情を持つ人はそれぞれにいるだろうが、そもそも「正しいサッカー」なんて主観でしかない。そこでチームとしてどういう事をやりたいのか…そこが定まっているというところ、それを徹底できているところはチームとして有しているアドバンテージだ。
だがしかし、サンガの場合は「それはできる」と同時に「それしかできない」という強みとトレードオフにしたような欠点を持ち合わせていた。
2023年はそれが実に顕著に出た一年だったと思う。サンガにとって良い相性かどうか、スタイルが噛み合う相手かどうかで試合内容も結果も天と地ほど違っていた。ある程度スタイルの噛み合わせが良い相手なら優勢に試合を運び、それを結果に繋げられるようになった事はチームの進歩と呼ぶべき部分だとは思う。だが、そうではない相手となると詰まるような感覚が前半から生じる。良いリズムで進む試合で必ず勝てる訳ではない割に、悪いリズムの試合はほぼほぼ勝てない。今持ち合わせている強みはベースとしては価値がある。だがそれだけだといずれ行き詰まる。2023年に露呈した2つの局面は価値と危機を同時に如実に映し出していた。
サンガが昨年以上を求めるなら……いや、去年よりもちゃんと対サンガの対応が成される事を考えれば、サンガは「それ以外の戦い方」もできるようになる必要がある。サンガの得意なパターンが出しにくい試合展開になりそうなら、いつもの直線的な攻撃ルートだけではなく迂回した道筋も準備できるようにするだとか、場面に応じた出力の度合いだとか、一本の強さは残しつつ、一本槍のチームから脱却しなければならない。ある意味でこれは、曺監督が就任からすぐにサッカーが浸透し、そしてそのサッカーで結果が出た=産みの苦しみのジレンマにあまりぶつからなかった事で後回しにされた部分でもあるのだろう。結局、後にこれはこのブログでも「2025年にやるべきこと」として書くことになったのがだが───サンガは「幅」をクラブとして持たなければ次の段階に行けずに沈みゆく…そういうフェーズに入ってきたのである。
その進化は発揮されるのかどうか。2024年2月25日、5年前のトラウマがいつしか薄れつつあった三協フロンテア柏スタジアムからアニバーサリーイヤーのシーズンが始まる。
柏との開幕戦。個人的な印象としては、昨季までとは違う事…とまでは言わずとも、中盤に金子や武田がいて、そこに鈴木やトゥーリオが絡んでいく事でボールを回す、時間を作ろうとする意識は少なからず見えたように感じた。
しかし意識が見えていた事とそれが有効なものとしてピッチに反映されていたどうかは同じ話ではない。開幕戦で「理想のサッカー」ができるチームはそもそも少ないのは当然として、だからこそある程度のことが示ればそれを手応えに感じることができる。だがサンガが見せてはいた意識はその手応えの領域に辿り着いている訳ではなかった。そうなれば、意識よりも既に持ち合わせている実利に頼る方向に話が傾くのは自然の摂理。それはサンガが「いつものパターン」を持てている強みでもあり、いつものパターンが逃げ道になってしまう弱さでもある。
開幕戦は実にドラマチックな最後を迎えた。1点ビハインドのラストワンプレー、福岡のフリーキックを合わせた原のシュートこそ相手GKに弾かれたが、こぼれ球を押し込んだのは少し前まで選手権に出ていた高卒ルーキー、安齋悠人。開幕戦で高卒ルーキーがゴールを決めたのは26年ぶりの出来事だという。
Jリーグにとってもメモリアルなゴールで幕を開けたサンガの2024年。沈み込む試合展開が派手なエンディングを迎えたこの開幕戦の推移は、今振り返るとシーズンそのものの示唆だったのだろうか。30周年は毀誉褒貶を地でいくような、天と地にそれぞれ触れていくようなハードな一年として刻まれていく事になる。
https://www.rrr3k.com/entry/2050/01/01/095700
【P・PURPLE〜京都サンガFC 2024シーズン振り返り総括ブログ〜】
第1話 Process (2024.1.13〜2024.2.25)
第2話 Problem (2024.3.2〜2024.5.19)
第3話 Progress
第4話 Pursue
【過去の京都サンガFC シーズン振り返り総括ブログ】