京都サンガとは実に危険で、実に奇跡的なバランスの上に成り立っているチームだと思う。
Jリーグは今年、30周年を迎えた。
今年は初優勝チームが出た為、トータル31シーズンで生まれた優勝チームは11。チーム数はJ3に至るまで60クラブを数える。その中で各クラブが明日の事、来年の事、数年先の未来を想像しながら仕事をしている。
京都サンガには「最近J1に上がってきたクラブ」という印象を抱く人は多いだろう。そしてそれは実際に正しい。12年もの間J2に眠り続け、久しぶりにJ1に舞い戻ったチームへの印象としては何の間違いもない。
だが、来年30周年を迎えるこのクラブはJリーグの中でも15番目に加盟を果たしたクラブである。どう見てもこのクラブはJリーグに於ける古参なのだ。関西で初めてタイトルを獲得したクラブもガンバやセレッソ、神戸ではなくサンガであり、往年の名選手も所属した過去があるなど、「最近J1に上がってきたクラブ」にしては豊富な歴史を有している。
更には京セラという絶対的な親会社を筆頭に「日本一豪華なスポンサー陣」とも呼ばれる事があるが、実際問題、サンガはリーグでの力関係が似たところにいるチームと比べれば絶対的な主力が流出する事も比較的少ない。もちろんあくまで"比較的"なので、ちょいちょい引き抜かれたりはするが……それでも近い立ち位置のクラブと比べると、J2降格時を除けばかなり回避出来ていると思う。具体名を出して気分を害したら申し訳ないが、もしこのクラブが湘南や鳥栖であったならば川﨑颯太や麻田将吾はもうとっくにいなかっただろう。
つまるところ、サンガはハード面での体力は成績のイメージよりも遥かに有している。もちろん予算の増減は年毎に発生するが、基本的には強いバックがいる時点で一部クラブが陥ったような財政危機に至る可能性は極めて低く、それ一点でもある程度このクラブは恵まれ立場にいるのと思う。近年の鳥栖や仙台を見ると尚更そう感じる。あれだけのユース組織を構築した事も、それを実現出来るだけの体力があってこそだ。
だがしかし、…むしろ、この部分に関しては「だからこそ」なのかもしれない。このクラブの歴史にはいつも区切りが明確に打たれ、いつだって刹那的で、何より属人的で、明日の予想が立てやすい事にかまけて時の将に委ねたその日暮らしの言い方を繰り返していた。その中で唯一継承できる財産となったのはアカデミー組織ではあるが、それにしても当時の柱谷幸一監督が提唱したものであって、それを形にしたのは評価されるべき事だがクラブから生まれた発想ではない。
今季のサンガの戦いぶりにはサンガファンの中でも賛否を伴う様々な見解があるが、個人的には今年の軌跡をそこまで悲観視には捉えていない。だが一方で、今年の結果は属人的な成果である事も強く突きつけられたような感覚も間違いなくあった。チームとしては強くなったと思う。だがクラブとして強くなったとはまだ思えない。
それでもクラブは「J1のクラブ」になる為のスタートラインには立ったと思う。舞台に立ってこそ始めて考えられるものもあるだろう。少なくとも目線は一つ、台の上に乗れたものだと思いたい。
今回からは全4話に渡り、2023年京都サンガFCを振り返るブログを書いていく。最後までお付き合い願えたら幸いです。
翡翠の傾き〜京都サンガFC 2023シーズン振り返り総括ブログ〜
第1話 冒険の季節は過ぎ
第1話 冒険の季節は過ぎ(2023.1.8-2023.3.4)
第2話 イントロとスイミー(2023.3.4-2023.6.4)
第3話 安寧は成長か贋か(2023.5.27-2023.9.23)
第4話 チャンスとは分岐点であり(2023.9.30-2023.12.3)
【過去の京都サンガFC シーズン振り返り総括ブログ】
2023年のJリーグを振り返る記事も色々更新しています。それらの記事はこちらにまとめておりますので是非!
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Jリーグ30周年記念特集はこちらから!
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あくまで私の個人の感想ではあるが、今年こそがサンガにとっての「J1での一年目」だと考えていた。
言うまでもなく、正しくはサンガにとっての2023年はJ1に復帰して2年目のシーズンとなる。だがサンガは11シーズンもJ2という暗夜行路を彷徨い続けていた訳で、個人的には2022年は11シーズン+1年目のJ2という感覚だった。要するに2022年は私の中で、長く彷徨い続けたJ2を抜けて与えられたボーナスステージのような一年であり、最終試験の場だと捉えていた。
その意味では、サンガはその最終試験を「残留」という結果でクリアできた事になる。参入プレーオフの結果で残留できたという事実が物語るようにギリギリもギリギリで、広義的に見れば16位は降格圏とも目せてしまう訳だが、前半戦で貯金を稼いだ事でシーズンを通して自動降格圏となる17位以下には落ちずにフィニッシュ出来た事は、このクラブが12年ぶりのJ1を戦っているという前提で言えばミッションは達成したと評価されるべき結果だろう。
サンガに限らず、例えば2023年の新潟や2024年のヴェルディのような久々に昇格したチーム、ないしは初めてのJ1になるようなチームにとって、1年目で無残に散れば「前の年が上手くハマっただけ」と言われてしまうだろうし、そう思われても仕方がない。それが上で書いた「J2生活の+1的なシーズン」という感覚に繋がってくる。
そしてそのフェーズを超えた2023年こそが、サンガにとっての「"J1"としての1年目」だった。「昇格組」「久々のJ1」……そういう枕詞は振り払われ、今年から日常がJ1に近付く。同時に、もうもし万が一降格したらば「仕方ない」と割り切る事もエクスキューズも効かなくなるのだ。思い起こせば2022年のサンガのスローガンは「S Adventure」だったが、今年からこの旅は"冒険"ではなくなった、という事である。
曺監督体制4年目を迎える2023年シーズン。昨季のサンガは少なからず若手の台頭がインパクトを与えた事もあって開幕前は主力流出に一抹の不安を抱いたりもしたが、サンガから契約満了とした選手やそもそもがレンタルだった荻原拓也を除けばレギュラークラスの退団は上福元直人に留める事が出来た。言わずもがな上福元と言えば昨季のMVP級の存在だった訳で、その流出は当然痛かったといえば痛いのだが、上福元に関しては2023年で34歳になる選手で移籍金を取れた事はネガティブに捉える話ではなく、サンガにしても若原智哉がそれなりにやれる事を2022年中に実証していた事から、インパクトほど悲観すべき取引ではなかった。
補強に関しては……今シーズンは「ウタカ依存症からの脱却」という裏テーマはサンガには存在していたはずで、補強はそれに準じたものになっていたように思う。パトリック、木下康介、一美和成とセンターフォワードを3枚も獲得した事実はそれ以外に説明がつかない。実際、去年はウタカの調子がバロメーターのようなシーズン推移にサンガは生きていた。曺監督もウタカのいない中での攻撃構築の難易度は自覚していただろうから、キャンプや開幕からの数試合を経て、自分の手元に置いてしっくりくる組み合わせを探りたかったのだろう。中盤の編成が渋滞する事を覚悟で平戸太貴の獲得と谷内田哲平の復帰を両方敢行したところにもその一端が見える。
守備陣には三竿雄斗やイヨハ理ヘンリー、GKにヴァルネル・ハーンも獲得し、金子大毅と佐藤響もレンタルから完全移籍に切り替えている。編成を完了してみれば……若原に加えて他国の代表経験者を2人も加えたGKを筆頭に、明らかに人数が多いポジションと明らかに人数が少ないポジションの差異が目に見えて生じており、そういう意味では歪な編成になっていた部分も否めないし、そのツケは終盤戦にじわじわと効いてくる事になる。ただ、全体としては精力的に動き、平戸や三竿、イヨハのような人気銘柄になりそうな選手の獲得にも成功した。前述したように、バランスが良いか…と言われれば微妙な部分こそあれ、そしてその部分がある種、このクラブが慢性的に抱えている悩ましさではあるが──それでも、穴埋めや補充ではなく補強をする気概はあったと思う。
幸運にも開幕戦と最終節を両方ホームで開催できる事になったサンガの開幕戦は2月18日。対戦相手は鹿島アントラーズ。Jリーグ30周年のアニバーサリーイヤーの開幕戦で鹿島と当たるシチュエーション、というのもなかなか味わい深いものである。
だが、試合は考え得る最悪の展開へと陥った。
福田心之助や木村勇大といった大卒ルーキーをいきなり先発に抜擢するなどチャレンジングなスタメンを選んだサンガは、一応ボールは鹿島相手に保持する事は出来ていた。
しかし、それに対して鹿島はプレスの強弱を使い分ける事でサンガの選手が自然とサイドを単独突破するしかないような形に持ち込んでいく。デュエルの局面になると、やはり鹿島の守備陣はアスリートとしてのパワーに秀でた選手が多く、ペナルティエリアの外側でものの見事にタッチラインに倒れ込むように潰されてしまう。ウタカのいないサンガは、いわばスイミーのように集団として攻めようとしていた。しかし鹿島のプレスと誘導を前に巨大な魚影は一匹の小魚に変えられ、そこをことごとく喰われていく。鹿島は別にマンツーマンを敷いていた訳でもないのに、あの日の植田直通や関川郁万からは一人一殺のような恐怖心を感じさせられた。
スコアやスタッツ以上に感じられた鹿島の圧を前にサンガは自我を失うようにリズムを崩し、ミスも絡んで前半だけで2失点。後半は鹿島のプレスをかわす為の策は持ち出し、それは一応の効果は見せたが…今度はシンプルに引いた鹿島を崩せるだけのアイデアはなく、ぐうの音も出ない完敗を喫する事となる。
続く名古屋戦、スタメンを半数近く入れ替えたサンガはシステムも3バックに変更する。基本的に3バックは後半のオプションとして用いるサンガにとってスタートからの3バックは稀でこそあったが、昨季も3バックの相手には3バックでスタートする事はあったので「鹿島戦が良くなかったから変えた」という訳でもなかったと思う。
しかし結果は完敗。スコアこそ0-1の僅差ではあったが、試合としては引いた名古屋相手に効果的な攻めを繰り出せないままカウンターを浴び放題の状況になってしまっていた。こうなった時、事実としては「システムを変えても完敗した」という感覚だけが残ってしまう。結局のところ、鹿島も名古屋もサンガに対してはブロックを固めつつ、サンガがボールを持つような展開に仕向けた上で潰しに来るやり方を徹底していた。特に名古屋戦では前がかりになったサンガを名古屋のカウンターが蹂躙していくような形にすらなってしまい……。
この2試合はサンガのやろうとしているサッカーに対して、相手との戦術の噛み合わせがサンガにとって絶望的に悪かった事は確かだ。しかし上位に行くようなチームは、J1でもある程度回り続けていく事の出来るチームは、そういう噛み合わせが悪い試合でもどうにかして内容を好転させようするし、それが出来るからこそ日本のトップカテゴリーでの戦いを許されているのだ。産後にしても、去年の良い時期であればウタカでDFを釣り出しながらという事もあったのだろうが……そこからの脱却を図る時、その噛み合わせの悪さはサンガにとって「詰み感」すら醸し出していた。その雰囲気が滲み出ていたからこそ、鹿島戦と名古屋戦を終えた後の悲観ムードはファン・サポーターの間で強いものに感じられたのだろう。
だがサンガにとって「戦術的な部分での噛み合わせが良い場合はちゃんと勝てる」という状況になっていた事は救いだった。
文字にすれば当たり前のことを何言ってんだくらいに感じるかもしれないが、以前J1にいた時はそれさえ出来なかったどころか、そもそも戦術が噛み合うシチュエーションすらなかったこのチームが、少なくともそのレベルには達していた…これまでのJ1時代と比べると、物事を見る視点は少しだけ高くなっていたのかもしれない。
第3節FC東京戦、開幕からの2試合を1勝1分で3戦目を迎えた対戦相手は、今季は優勝候補としても名前を挙げられていたチームでもあった。FC東京のこの試合に対する入りがサンガ対策なのか、チームの中で何か事情があったのかはわからない。しかしこの日の彼らのスタンスは、戦術的な噛み合わせで言えば間違いなくサンガにとって好都合だった。0-0の時間こそ長かったが、試合は今季から7番キャプテンとなった川﨑颯太と補強の目玉であるパトリックが1点ずつを決めて2-0。取って欲しい2人のゴールにより、とりあえずサンガは最悪の状態に一つのケリをつけた。
ただ……確かにサンガのこれまでを思えば、噛み合わせの良い相手には勝てるようになった時点で大きな進歩である事は間違いない。しかしここから12月まで、サンガはその噛み合わせの出来不出来に一喜一憂するようなシーズンを過ごしていくことになる。
翡翠の傾き〜京都サンガFC 2023シーズン振り返り総括ブログ〜
第1話 冒険の季節は過ぎ(2023.1.8-2023.3.4)
第2話 イントロとスイミー(2023.3.4-2023.6.4)
第3話 安寧は成長か贋か(2023.5.27-2023.9.23)
第4話 チャンスとは分岐点であり(2023.9.30-2023.12.3)