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翡翠の傾き〜京都サンガFC 2023シーズン振り返り総括ブログ〜第2話 イントロとスイミー

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前回までのあらすじ】

再びJ1での旅路を歩み始め、まずは「J1に踏み留まる」というファーストステップは乗り越えたサンガ。それゆえに2023年は「昇格組」ではなく「J1のチーム」として迎える一年目でもあったが、開幕戦の鹿島戦と第2節名古屋戦はいずれも完敗に終わる。それでも第3節FC東京戦は強みを出せるステージに持ち込んだ。ひとまず最悪のシナリオは防いだサンガだったが、ここからサンガは不安定な、そしてある意味では強みと弱みがいつも同じという安定感を見せながらシーズンを歩む事になる。

 

 

 

翡翠の傾き〜京都サンガFC 2023シーズン振り返り総括ブログ〜

第2話 イントロとスイミー

 

第1話 冒険の季節は過ぎ(2023.1.8-2023.3.4)

第2話 イントロとスイミー(2023.3.4-2023.6.4)

第3話 安寧は成長か贋か(2023.5.27-2023.9.23)

第4話 チャンスとは分岐点であり(2023.9.30-2023.12.3)

 

【過去の京都サンガFC シーズン振り返り総括ブログ】

2017年 -嗚呼、京都サンガの憂鬱-

2018年 -残酷な京都のテーゼ-

2019年 -光と闇の紫-

2020年 -誤算-

2021年 -軌跡と邂逅の果てに-

2022年 -S Adventureの後先-

 

 

 

2023年のJリーグを振り返る記事も色々更新しています。それらの記事はこちらにまとめておりますので是非!

 

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思うに、良くも悪くも今年のサンガは曺貴裁感の強いチームだった。

曺貴裁感だけで言えば当然ながら去年も一昨年もあっただろうが、2021年や2022年と比べてもその「感」は強かったと思う。それはもちろんシンプルに曺監督体制が3年目を迎え、この3年間ずっと主力としてプレーしている選手も少なくない訳で、そうなる事は自然だった…という部分もあるだろう。

 

 

 

だが2021年〜2022年と2023年のチームを比べると、サンガには「ピーター・ウタカがいない」という大きな違いがあった。逆に言えば、2021年と2022年はウタカの存在が少し曺貴裁感を薄めていたところもあり、曺監督自身もそれを肯定的に組み込んでいた。しかし「ウタカのトップフォームがいつまで続くかわからない」という問題点は誰もが常に自覚していただろうし、そしてそれは2022年の後半戦に現実の問題と化した。その辺りは2022年の総括ブログでも書いたが、ウタカの失速と共に目に黒星先行になっていくサンガを見れば、ウタカが仮にサンガに残っていたとしてもウタカを前提にしたチームビルディングは出来ない事は明白だった。そうなった時に、ウタカの存在で少し薄まっていた曺貴裁感をより押し出したチームになった事に関しては、それ自体は別に悪い事ではなく、むしろ監督が曺貴裁である以上は合理的な選択だったと言える。

だが「良くも悪くも」と書いたのは、まさしく極端に相手によってパフォーマンスの良し悪しが分かれるチームになっており、結果的にそれを地で行くようなシーズンを辿った…というところにある。

 

 

 

第3節FC東京戦を制したサンガは短すぎる快進撃を見せた。

第4節湘南戦第5節横浜FC戦では、タイトな守備とそこからのカウンターが面白いようにハマって快勝。少なくともこの2試合で見せたカウンター劇は「守って蹴って走って」だけではないものがピッチの上にはあったと思う。4-1……J1という舞台で、サンガが4得点を取れる日が来るとは。そこに刻まれたスコアを見た時には確かな感慨深さがあった。

しかし連勝が止まる瞬間は早くに訪れる。第6節神戸戦は3連勝中のサンガと開幕から4勝1敗で走っていた神戸の対決ともあって「好調チーム同士の対決」とも言われたりしたが、ゲーム内容としては悪いものではなかったものの、ランチェスター戦略とはよく言ったもので……似た戦術を用いただけに、チームと個々のクオリティがそのままスコアに反映される結果となった。一方、続く第7節福岡戦は比較的苦手なタイプ、第8節G大阪戦はわりかし得意なタイプの相手との試合という対照的なシチュエーションとなったが、福岡戦は相手の堅牢な守備を前に持ち味を一切出せず1-2で敗れ、逆にG大阪戦は相手のスタイル自体がまだまだ構築段階だった事もあって、そこにサンガの組織的なプレスが上手く嵌まる形になって2-1の勝利を挙げる。

 

 

 

2021年と2022年のチームはベースには曺監督らしいイズムがあったのだが、あのチームのキーマンはやはり最前線にいたウタカだった。ウタカはフィニッシャーとしての仕事のみならずペースメーカー的な役割も担っており、サンガの攻撃に於けるウタカの存在は圧倒的なクオリティを担保するのみならず、サンガの攻撃の緩急を使い分ける、或いは切り替えるにあたって不可欠な存在だったと言える。2022年の後半、ウタカのコンディションがガクッと落ちてからのサンガは攻撃のコントロールが効きにくくなった……それが後半戦の失速の要因にもなったと思う。

その結果、今季のチーム戦術としてはおそらく緩急をどう使い分けるのかではなく攻撃は基本的に「急」が前提。その上でその「急」が効果を出せるフィールドに試合を持ち込む事だったように感じた。立ち上がりからリスクを覚悟してハイラインを維持すると共に、スタートラインを高くした位置から連続的にプレスをかけていく。ピッチ全体を使うのではなく、とにかく早く相手陣内でのハーフコートゲームになるような陣形に持ち込んでいく。雑な表現をすればある種のドタバタ劇なるものを意図的に引き起こす事で、攻撃の切れ目がルーズボールになるように誘導し、相手陣内でそれを回収する事で二次攻撃・三次攻撃に繋げていく。サンガとしては意図的にエラーが起こりやすい状況に持ち込んでいる分、そこに対する反応も速くなる。これは一部で「偶然頼みのサッカー」と揶揄される事もあったが、これは正確に言えば「偶然を意図的に起こすサッカー」であり、ウタカという"必然"を失ったサンガは偶然を必然的に発生させようとしていたように思う。

 

その為にはサンガは序盤の時点でハーフコートゲームのような陣形を固めてしまう必要があり、ピッチ上の陣取り合戦のようなものに早々に勝利する必要があった。

ここで戦術的な相性が大きな意味を持ってくる。相手が自陣からボールを持ってイニシアチブを持ちたい相手に対しては、サンガもプレスの行きどころが明確になり、不思議なもので、相手がそれを掻い潜ろうとしているうちに自然とサンガが望むゲームの陣形は出来上がっていく。この時、曺監督体制のサンガが素晴らしかったところはこの時にボールの受け手をどう殺すかもしっかり意思疎通がとれていたところであった。この連動が抜群にハマったのが第8節G大阪戦だったように思うし、第19節に再戦した試合でガンバがそこをかなり意識したような戦い方をしてきたのはガンバ側もその自覚があったのだと思う。

 

 

しかし引いて守る事、ラインが下がる事に居心地の悪さを感じる必要のない設計になっているクラブとの対戦時にはそのやり方が通じないのは予想しやすい事でもあった。一見、サンガの狙い通りに押し込めたとしても、相手にとっては別にそれも自分達の範疇の話であるが故に落ち着いて対応していられる。その象徴的な事例が開幕からの2試合であり、後の連敗中の第15節浦和戦だったのだろう。

戦術を敷く以上、そこに戦術的な相性は多かれ少なかれ発生する。それはサンガに限らず、どこのチームでもあるものだ。だがサンガはそこの部分に極端に強く、同時に極端に弱かった。相手がどういうスタンスで挑んでくるのか…実にそれに左右されやすいチームだった。戦術的な噛み合わせが合うのかどうか、それが全てをあまりにも極端なくらい分けていた。

 

 

 

仮にも長くサンガを見ている立場としては、少なくとも戦術的な相性の良い相手にはしっかり勝点3を取れるようになったというところには一つの感慨深さを覚えてはいた。曺監督は今季、度々「成長」という言葉を繰り返し試合後の会見で使用しており、それは時として「この試合にそれを言うのは無理がある…」と感じた事もあったが、少なくとも戦術的な部分が噛み合う相手にはしっかりと数字を取れるようになったという点に於いては、いわばこのクラブの最低ラインは何段か上がったように思うし、その土台の向上は確かに成長と表現して然るべきものだと思う。

サンガは得点の多くがカウンターだった事もあって「攻守の切り替えに優れたチーム」と目された事が多いが、これは湘南時代も含めた曺監督のチームの特色として、サンガは攻守の切り替えに優れているのではなく、いわば守備が攻撃に組み込まれているチームだ。それを最も簡単な言葉で表せば「攻守一体」という事になるのだが、サンガにとっての攻撃と守備はセットのようなもので、言ってしまえば上で書いたようなサンガの望む陣形のハーフコートゲームになった時に、ルーズボールをカットする事はトラップのようなものになる。攻守を一体化させたような戦い方を徹底させ、それを自然とやれるようになった事は曺監督の手腕であり、選手達がそれを実行できるだけの能力を持っていたがゆえであろう。それを強みと捉える時、それを斜に構えて見ようとは思っていない。

 

ただサンガは極端なまでに攻守一体のチームだったからこそ、それが弱点になるケースも多かった。…ケースも多かった、ではない。極端な攻守一体はサンガの勝因と敗因を、そして長所と短所を一つに内包していた。

「攻守の切り替え」という言葉は…それが単に守備から攻撃への移行という意味であれば、攻守が一体化したサンガはそれをスムーズにやれていた訳で強みと言えるだろう。ただ、その言葉が攻守一体を意味するのではなく、あくまで"攻撃"と"守備"という異なるフェーズを行き来する時の切り替えを意味するのであれば、むしろそれはサンガができなかった部分であり、そして弱点ですらあった。詰まるところ、攻守一体を突き詰めた結果、サンガは攻撃の開始地点に何かしらの守備が無いと発車できないチームであり、守備とは全く別のフェースである"攻撃"を出来るチームではなかったように思う。前線でのアイデアやクオリティ不足を素人目でも感じる場面が多かったのはそれゆえだろう。これまではウタカという大きすぎるポイントを設けていた事でかろうじてそこを担保できていたが、それを担保する存在はもういない。現チームで数少ない別フェーズとしての攻撃の一手目を担えるような武田将平は第6節神戸戦の負傷で長期離脱を強いられてしまう。武田の長期離脱が与えた影響は甚大だったし、武田の復帰後に内容に改善の兆しが見られた事も自然な話であった。パトリックは唯一無二のクオリティを有する選手であり、彼無しで今年の残留はあり得なかったが、ここでいうウタカや武田が担保していたものとパトリックで得られるクオリティは別軸のところに存在する。

守備というイントロがあればサンガは強く、攻撃というサビを歌う事が出来る。だがサンガはサビから始まる歌を歌えない。今の時代、イントロのある歌は好みが大きく分かれる。それと同じようなサンガは、対戦相手との戦術的な相性に極端に左右されるチームとなっていた。

 

 

 

サンガはまだJ1に定着する事を目指す立場のチームであり、かつての鳥栖であったり、それこそ曺監督が率いた湘南がそうしてJ1に定着していたように、極端なチームになる事で戦術的な噛み合わせの良いチームから勝点を計算していくやり方は決して間違いではない。繰り返しになるが、噛み合わせの良いチームにはちゃんと勝てるチームになったところには間違いなくチームとしての成長を感じた。相性以前の問題としか言えないようなシーズンだった過去にはあったわけだから…。

だが、裏返せば勝点を取れない相手にはわかりやすく勝点を取れない。そして第6節神戸戦第16節広島戦で突きつけられたように、大枠では近いところにいるようなスタイルの相手と対峙すれば、明確に絶対的なクオリティの差で必然性の欠如を突きつけられる。そう考えてみれば苦手な噛み合わせの中で挑んだ第15節浦和戦はよくやった部類に入るゲームだったとは思うのだが、それだけにあの試合は局面の差を見せつけられるような結果にもなった。

 

スイミーという絵本があるように、サンガは群れとして戦うのは得意だったし、群れが演出した大魚の虚像に動揺してくれる相手は喰らえたが、いざそれに反応を示してくれず、小さな一匹の魚として戦わざるを得なくなった時の脆さ……それは浦和戦で残酷なほど突きつけられた現実であった。6連敗──第11節川崎戦から始まった暗い道のりは、その現実を嫌でも直視させてくる。強がっても順位と勝点という数字に抗う術はない。

一方で、現状のサンガの方向性としてそれが間違った選択肢ではないという事実もある。戻る事がメリットになる季節はもう過ぎていた。サンガは生き残る為には、今ある長所にベットするしかない。まだそういう長所が残っているという意味では好意的に捉えられる事でもあったが、戻れない場所に立っているという捉え方をすれば悲観的に見るしかない。なんとも悩ましい立場が、前半戦を終えた時にサンガが踏んでいた現実という地面だった。

 

 

 

 

 

 

 

第3話安寧は成長か贋か」に続く。

 

 

翡翠の傾き〜京都サンガFC 2023シーズン振り返り総括ブログ〜

第1話 冒険の季節は過ぎ(2023.1.8-2023.3.4)

第2話 イントロとスイミー(2023.3.4-2023.6.4)

第3話 安寧は成長か贋か(2023.5.27-2023.9.23)

第4話 チャンスとは分岐点であり(2023.9.30-2023.12.3)