G・BLUE〜ブログとは名ばかりのものではありますが...ブログ。〜

気ままに白熱、気ままな憂鬱。執筆等のご依頼はTwitter(@blueblack_gblue)のDM、もしくは[gamba_kyoto@yahoo.co.jp]のメールアドレスまでご連絡お願いします。

翡翠の傾き〜京都サンガFC 2023シーズン振り返り総括ブログ〜第3話 安寧は成長か贋か


f:id:gsfootball3tbase3gbmusic:20240130135039j:image

 

 

 

前回までのあらすじ】

再びJ1での旅路を歩み始め、まずは「J1に踏み留まる」というファーストステップは乗り越えたサンガ。開幕から低調な試合内容で2連敗を喫する苦しいスタートとなったが、打って変わって第3節FC東京戦からは3連勝を飾る。しかし第8節G大阪戦での勝利を最後に今度は6連敗…。進めど進めど光の見えない日々は、順位表の上では一見差し迫った恐怖に達してはいなかったものの、感覚としてその可能性を突きつけ始めてきていた。

 

 

 

翡翠の傾き〜京都サンガFC 2023シーズン振り返り総括ブログ〜

第3話 安寧は成長か贋か

 

第1話 冒険の季節は過ぎ(2023.1.8-2023.3.4)

第2話 イントロとスイミー(2023.3.4-2023.6.4)

第3話 安寧は成長か贋か(2023.5.27-2023.9.23)

第4話 チャンスとは分岐点であり(2023.9.30-2023.12.3)

 

【過去の京都サンガFC シーズン振り返り総括ブログ】

2017年 -嗚呼、京都サンガの憂鬱-

2018年 -残酷な京都のテーゼ-

2019年 -光と闇の紫-

2020年 -誤算-

2021年 -軌跡と邂逅の果てに-

2022年 -S Adventureの後先-

 

 

 

2023年のJリーグを振り返る記事も色々更新しています。それらの記事はこちらにまとめておりますので是非!

 

Jリーグ30周年記念特集こちらから!

 

オリジナルアルバム出してみました!聴いてみてくださいませ。

 

 

 

曺貴裁監督が一年を通して繰り返した「成長」という言葉は嘘だとは思っていない。少なくともサンガはJ1で返り討ちを喰らうクラブではなく、たとえ順位としては下位に沈んだとしても、J1というカテゴリーの中で一定の競技力を持てるチームになった。曺監督の言う「成長」を怪訝に捉える人もいたが、個人的にはその競技力を担保させた時点で成長という言葉は一定の説得力を持っていると思う。ただ第2話でも述べたように、ことごとく相性の出来不出来を見せつけられた時、ある種の絶対的な部分はまだ育てていない…というか、現実と表現するしかないほどの差が存在する事を突きつけられることも多々あった。

4連敗で迎えた第15節浦和戦はその象徴のような試合だったと思う。川﨑颯太の代表選出…ユースから育った選手が、京都サンガFC所属として代表チームに加わる。このクラブにとってこれは本当に大きなニュースで、川﨑は勿論、クラブとしての努力も報われた瞬間である。この浦和戦はその吉報の直後に行われたのだが、試合は成長と現実の両面を如実に突きつけてきた。

 

 

 

リーグは連敗中とはいえ直近のルヴァン杯G大阪戦に勝利したサンガは、従来のリーグ戦の先発よりG大阪戦のメンバーを主体にしたスタメン構成で挑んだ。選手層や絶対的なベースは言うまでもないが、浦和は相性的にもサンガにとって不味いところがあったと思うが、その割にはサンガは第2話で書いたような「サンガペースにする為の条件」を満たした試合展開に持ち込む。実際、内容は悪くなかった。浦和のスコルジャ監督は勝利した試合後はリップサービスを含んだ相手への称賛のコメントをよく出すが、彼の言った「ここまでハードな試合になるとは思っていなかった」「サンガのプレスに対し、用意してきたものをあまり実行できなかった」と語っていたのは単なる大人としての気遣いではなく少なからず本音でもあったようには思う。

だが、それを無力化させた堅牢なスタイルは焦れずに耐えるというよりも、絶対的な自信と理論に裏付けされたような…完成度を超えた威圧感を纏わせていた。そして確実に仕留めてきた2発のセットプレー。なまじ内容としては「サンガが望む展開」になっていた分、刺した剣が浦和の壁の半分にも到達しなかった現実をまざまざと突きつけられたような気にさせられる。表面的にはエキサイティングだった90分は、それゆえにこれ以上ないほどに残酷だったのだ。

 

続く第16節広島戦でも現実は容赦なく襲いかかる。

戦術の傾向を4つほどに大雑把に分ければ近い位置にいる相手との対戦でわかりやすく組み合えば、その結果は自然と戦力としての強さとチームとしての完成度で上回る方に転んでいくものだ。豊川雄太のスーパーゴールで一度は同点に追いついたが、スコア以上の差を見せられたような端末の末に1-3で6連敗。広島のスキッベ監督は試合後、紳士として、大人の礼儀としてサンガを称える文脈で「Jリーグの中でも面白い試合になったのではないかと思っている」と語ったが、終了間際の川村拓夢に蹂躙されたような一撃を見せられると……彼の大人としての振る舞いが嫌味にしか聞こえなくなるほど、サンガを取り巻く精神状態は荒み始めていたように思う。

 

 

 

6連敗という現実を抱えたサンガは3日後、天皇杯カターレ富山との試合に挑んだ。

相手はJ3。大前提として格下である。しかしこの時点で富山はJ3の首位であり、6連敗中のサンガが敗れるシチュエーションは試合前の時点で十分現実的だった。

 

 

この富山戦を私は現地で見ていた。

サンガは富山戦を一応ターンオーバーに近いメンバーで挑んではいたが、それはあくまで直近の広島戦からメンバーを入れ替えたというだけであって、言ってもこの時のサンガは川﨑颯太や麻田将吾といったごく少数の選手を除けば、負傷やコンディションの兼ね合いもあれど明確にレギュラーとして常時出場していた選手は多くなかった。特に3トップに至ってはほぼ日替わりのようなもの。要は良くも悪くも1軍ではなく、1.3〜1.8軍的な立ち位置の選手が多い。それゆえにターンオーバーっぽくありながも、スタメンはそれなりにJ1リーグ戦っぽい面子になっていた。

 

記憶が正しければこの試合はどこにも中継されていなかったと思うので、フルで試合を見たのは会場に訪れた人間のみだったと思うが……正直なところ、この試合の前半はその内容の稚拙さに絶句した。

サンガがボールを持ち、サイドに展開。しかしサンガがボールホルダーとなった立場での攻撃でギクシャク感が常に生じており、普段集団として攻めるサンガの攻撃陣は揃いも揃って孤立していたし、そこからクロスも上げられず、サイドで剥がす事も出来ない。試合は2-2でPK戦にもつれ込み、2周目まで到達したPK戦の末に所謂ジャイキリを果たされる格好になった訳だが、試合内容は2-2という結果を「よく追いついたな…」と思うほどのレベルだった。6連敗の最中、ターンオーバーという言い訳をしにくい選手編成……試合後の不安感は尋常じゃない。ジャイキリを喰らった以上のダメージがそこにはあった。

 

 

 

だが試合後、CFとして先発した山﨑凌吾のコメントは、試合内容が酷かったことには変わりない一方、富山戦に別の解釈を与えた事もまた事実だった。

 

今週、チームとして映像を見返しながら、密集するのではなく、幅をとって攻める練習に取り組んできました。

(中略)

今日、自分自身はゴール前で我慢するよう心がけていたのですが、縦にパスが入る回数が少なかったので、幅をとる分、クロスボールにしっかり入っていこうと意識してプレーしていました。

京都サンガF.C. オフィシャルサイトより

 

6連敗という結果が何かしらの変化を迫った部分はあるにせよ、広島戦までは「一つの武器がハマるかハマらないか」の一点張りで戦っていたサンガが、言い方は悪いが天皇杯という目標としては決して最重要項目ではない舞台を利用して、この富山戦から"幅"を求めるようになった事は確かだと思う。その幅は富山戦でやろうとしたような物理的な幅でもあり、大枠としての戦術は一つであっても、その外枠の幅をどうにか広げてキャパシティを増やしていく……時としてそれが皮肉のようにマイナスに向く事もあるが、少なくともサンガは味方に追随するような動きはチームに備わっている。

連動はこのチームは出来る。その連動をどう使っていくか、その連動の出し方をいくつか持てるのか。この段階でベースをひっくり返す事は逆に無謀。であれば、このベースをどう応用させていくか…6月以降はそういう事に取り組んでいたようには見えた。

 

第17節、前半戦のラストゲームの相手は新潟だった。

新潟にしてもサンガにしても、その戦術としての方向性こそ真反対であるが、チームとして統一したコンセプトを持ってJ1まで駆け上がってきた…という点に於いては共通の背景を持っている。この試合の新潟は伊藤涼太郎のラストゲームという明確な期するものがあったが、サンガとしては順位の上でも7連敗はどうやったって深刻な意味を持つ。まさしく正念場だった。

しかしそんな中、攻撃の完成度は言うまでもなく新潟の方に分があったが、同時に新潟も決着をつけ切るパワーにはまだ課題があった。一方のサンガはこの試合は殊更にワイドな展開を強調していたように思う。セットプレーから先制したサンガは後半に追いつかれたものの、直後にパトリックが2ゴールを挙げて3-1。連敗は6でどうにか歯止めがかかった。最後はパトリックの馬力に頼った部分もあったとはいえ、キャパを増やすチャレンジに取り組みながら、最終的には3点取って勝つことが出来た……もっと言えば、もちろんクリーンシートに越したことはないが、流れだけを考慮すれば追いつかれてから勝ち越せた事は1-0のままで終わるよりも意味を持っていたのかもしれない。

 

 

 

順調…とまでは言わないが、ここからサンガは息を吹き返す格好となる。

後半戦の始まりとなる第18節横浜FC戦は攻勢をかけた前半に点を取り切る事が出来ず、逆に後半は一人少ない相手に対して先制を許す苦しい展開となったが、ラスト10分から麻田とパトリックが立て続けにヘッドを決めて逆転勝利。「きっかけを掴んだ」「きっかけを掴めなかった」とはよく言うが、最も大事な事は掴んだきっかけの火に連勝という薪を焚べる事だ。芳しい内容だったとは言わないが、6連敗から連勝に転じた事には大きな意味があった。

第19節鹿島戦をスコアレスドローで乗り切ったサンガは、第20節G大阪とのアウェイゲームを迎えた。前半戦の対決では相性が抜群にサンガにとって都合の良い噛み合わせだった事もあって、ガンバはサンガの戦術的なスタンスをを強く意識したゲームプランで挑んできたのでサンガは後手を踏む展開にはなったが、ガンバが敷いてきた対サンガ用のシフトに対し、サンガも後手後手に回るのではなく、効果的な後手を繰り出す事でしっかり対応してみせた。最終的には後半の失点で敗れる格好にはなったが、それでも戦い方の幅が広がった事を示した試合ではあったと思う。

なにより特筆すべきは第21節名古屋戦だった。

 

f:id:gsfootball3tbase3gbmusic:20240130132219j:image

 

名古屋は試合前の時点で3位につけており、文字通り優勝争いの真っ只中。サンガとは同じカテゴリーで戦いながら違うステージで戦っているような相手であり、前半戦ではその戦術的な噛み合わせの悪さからサンガは完全沈黙のような状態に追いやられた。0-1というスコア以上の差がそこにあった。

だがこの試合では違った。前節は黒星だったとは言え、チームの良い循環はこの時も渦巻いていたのだろう。白井康介の退団というダメージを被る中で台頭した右SBの福田心之助と左SBの佐藤響が単なるカウンターのサイド突破ではなく幅を確保するような動きを見せた事で名古屋守備陣の選手間を拡げ、そういうスペースが出来れば豊川雄太木下康介はそこに入り込める才覚を持つ。この時期になると、曺監督体制では主にインサイドハーフが金子大毅、アンカーが川﨑颯太だったが、川﨑が負傷離脱した事を機に金子と川﨑の位置が入れ替わるようになった。なるべく中央に留まりながら配球のポイントを金子で作れるようになった事で、インサイドハーフに入る川﨑然り、平戸太貴や谷内田哲平、松田天馬らもボールの受け手としての動きで回り始めていく。金子をアンカーに、福岡慎平と平戸をインサイドハーフで起用した名古屋戦では、名古屋が攻撃の潤滑油でもある永井謙佑を欠いていた事はサンガにとって間違いなくラッキーではあったが、それでも名古屋相手に見せたサッカーは第2節の惨状と比べれば見違えるほどのものだった。

それでも結局、組織として成立した試合の最後は個でどちらかが差し切るかになる。だが1-1で迎えた後半、キャスパー・ユンカーの、決まっていればJリーグの歴史に語り継がれていたであろうシュートはGK太田岳志が僅かに触れ、そしてサンガはアディショナルタイムにパトリックという強力な個で名古屋を差し切った……!!少なくともサンガは、相性の悪さが全てを左右するようなフェーズからは抜け出した。「名古屋相手でもこういう事をやれるようになった」……アディショナルタイムという時間での劇的勝利は余韻を抱きながら、その感慨と多幸感を大きなものにしてくれた。名古屋戦は7月16日。祇園祭宵山が踊る頃、パトリックの存在は宵山より高いところにあるようにさえ見えた。

 

 

 

…それにしても、パトリックの獲得は本当に、本当に大きかった。そしてそれは、単にパトリックがチーム得点王を獲得したというだけの話ではない。

おそらく、FWとしての総合力だけで言えば昨年までいたピーター・ウタカの方が上だと思う。サンガのスタイルを踏まえても守備のプレスの嵌め方を理解しているFWはJ全体の中でも貴重とはいえ、そもそもパトリックは決して器用なタイプのFWではない。出来る事、強みを発揮出来る場面は比較的限られている。実際に年齢面や安くない年俸を踏まえれば、獲得時点で疑問の声が出る事は致し方ない部分は否めない。仮にも私はガンバファンを兼ねているので機会を限定すればまだまだやれると考えていたが、それでもどこまでトップフォームを保てるかには多少の不安はあった。

だがシーズンを終えた時、Jと日本を知り尽くしたFWの90分あたりの74.5%という異次元の数字を叩き出していた。それだけではない。前述の名古屋戦を始め、第8節G大阪戦第17節新潟戦第18節の横浜FC戦……パトリックというFWは、勝点0が1になるゴールを、勝点1が3になるゴールを、それも途中から出て終了間際に獲っていく。世界で戦えるクラスのFWでさえも持ち合わせているとは限らないその特殊能力じみた才覚は、京都サンガというクラブに29年の歴史の中で最も欠けていたスペシャルだった。この男はそれを京都に運んでくれた。今季の残留を、この最高のエースストライカーの存在抜きに語る事は出来ないし、したいとも思わない。

 

 

第21節名古屋戦を終えるとJ1は中断期間に突入。3週間のブランクが開き、8月から始まる第22節からは新加入選手の出場も解禁される。

再開初戦となる第22節柏戦、第23節FC東京戦のサンガの出来は散々なもので、中断期間中に実施した和歌山キャンプで良かったものまで忘れてきたのでは?という不安にすら苛まれたものだが、一方で第24節札幌戦、第25節福岡戦に連勝。第26節からは神戸戦浦和戦、広島戦と優勝を争うチームとの3連戦となったが、この3試合を1勝1分1敗で乗り切った。特に前述の札幌戦と福岡戦、そして第28節広島戦をいずれもクリーンシートで勝利できた意味は大きい。札幌、福岡、広島…この3チームはいずれも、前半戦でサンガがスコア以上に悪い試合展開の末に敗れた相手だった。もちろん、前半戦と違って後半戦の札幌は彼らが不振に陥っていたなど全てのシチュエーションが前半戦と同じだった訳ではないから直接比較など出来ないが、それで言うならば広島戦に関しては後半戦の方が相手の状態は良かったはず。前半戦に完全にやられた相手を、後半戦でホームでしっかり叩く……確かにサンガは、1周目に出来なかった事を2周目で覚え、それがゴールに、守備に、そしてスコアという形で可視化されるようになっていった。

 

 

 

第28節広島戦の時、私は私用でリアルタイムではこの試合を観れていなかった。だがスマホを開いてスコアを確認した時、直近5試合が4勝1分だった広島を倒したと知った時は少々驚いた。それと同時に地下鉄を待ちながら、さすがにこれで残留は大丈夫だろう……そう胸を撫で下ろした事を覚えている。

だが、そこにクラブとしての構造的な問題を29年抱え続けたクラブの10月と現実は安堵の世を許すほど優しくはなかった。好転と退転を反復横跳びするように這いずり回った2023年はここから、最後の谷と山を迎え撃つ事となる。

 

第4話(最終話)チャンスとは分岐点であり」につづく

 

 

翡翠の傾き〜京都サンガFC 2023シーズン振り返り総括ブログ〜

第1話 冒険の季節は過ぎ(2023.1.8-2023.3.4)

第2話 イントロとスイミー(2023.3.4-2023.6.4)

第3話 安寧は成長か贋か(2023.5.27-2023.9.23)

第4話 チャンスとは分岐点であり(2023.9.30-2023.12.3)