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S Adventureの後先〜京都サンガFC 2022シーズン振り返りブログ〜第3話 依存の弊害

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【S Adventureの後先〜京都サンガFC 2022シーズン振り返りブログ〜】

 

第1話 新章は延長線

第2話 ウタ・カミ・A BEAUTIFUL STAR(前回)

第3話 依存の弊害

第4話 冒険の後先

 

 

オリジナルアルバム出してみました!聴いてみてくださいませ。


 

 

 

彼らが紡ぐ黄金期を、まるで海外リーグでの出来事のような目で見ていた。

そういう対象であった川崎フロンターレからの勝利で以って、12年ぶりのJ1での挑戦はひと段落がつく。川崎戦は第16節なので厳密には次の試合が前半戦のラストになるが、ここからリーグは3週間の中断に入る訳で、ここが一つの区切りだろう。

 

 

16試合を終えたサンガの成績は5勝5分6敗。順位はというと、なんと9位。一桁である。

なんせ12年もJ2を彷徨ったのだ。この光景が信じられない。本来ならこの中断期間が2022年W杯が開催されているべきタイミングなのだが、前回のW杯やってた時にはJ2最下位だったんだぜ?それがどうだ。名古屋もガンバも浦和も清水も神戸もサンガより下にいるだと?その光景がもはや信じられない。

前半戦のサンガは間違いなく成功と呼ぶべきだ。それはこの後どんな結末を辿ったかを知っても尚、である。というかむしろ、この時の勝点が無ければプレーオフにも行けなかった訳で。それはやっぱり、第2話でも書いたように開幕からの2試合…浦和戦C大阪戦で勝点4を取れて、極端にJ1にビビらない状態でその後のシーズンを戦えた部分は大きかった。サンガを含めた殆どのチームがターンオーバーを敷くので同一線上での評価をするつもりはないが、中断期間に入った時点ではルヴァン杯も勝ち上がっている。ましてやサンガは一貫性を持ったスタイルを見せながらJ1の海を泳げていた。

開幕前の予想とも照らし合わせれば、これはむしろ望外の結果だったとすら呼ぶべきだろう。いかんせん、12年間の鬱屈を経て辿り着いたJ1である。まるで別世界にでもいるような感覚ですらあった。

 

だがその一方で、常に一抹の不安と隣り合わせの日々を過ごしていたのも事実だった。そしてそれは誰もが目に見えてわかっていた。言ってしまえば、それは時限爆弾に近い感覚ですらあったのかもしれない。

 

 

 

「ウタカ依存症」───それはピーター・ウカタを擁したクラブチームの全てに言われてきた言葉だった。

それは勿論、ピーター・ウタカという稀有なストライカーへの賛辞でもある。ただ、サンガの場合はいわゆる「戦術ウタカ」とは少し状況が異なっていた。

オフェンススキルが類稀に卓越していたFWと評するべきだろうか。ウタカの凄まじいところはフィニッシャーとして能力のみならず、ポストプレーからチャンスメイクまで全てを一人でこなせてしまうところにある。曺貴裁監督は選手の入れ替わりが激しい湘南で長らく監督を務めていただけあって、元々組織的なスタイルを構築して個に依拠しないやり方を目指す指揮官だ。実際、サンガは「戦術ウタカ」的なウタカから逆算して戦術を決めたのではなく、戦術から構築してウタカを嵌め込むようにしていた。

 

実際、ウタカを欠く試合でもサンガは極端に悪い試合をしていた訳ではない。それはこの後待ち受ける苦難の中でもそうだった。それは「戦術ウタカ」としては物事を考えないようにしていた表れであり、賜物だったと考える。

だが、J1はベースの上に絶対的なクオリティを乗せなければ戦える舞台ではない。それはベースを煮詰めて醸成されるクオリティとはまた異なったものだ。そしてそれを、サンガの場合はウタカがそれを担っていたし、ウタカの万能性はそのベースに対して迎合していた。前半戦で挙げた数々の得点もそうだし、第6節神戸戦ではウタカの存在でウタカ以外の3選手が得点を取れたのは第2話で書いた通りだ。曺監督体制でのサンガは組織的に偶然を起こしやすい状況を作る事でリズムとテンポを生み出しているチームだと捉えているが、その中で必然性を担保してくれていたのがウタカだった。要は、ウタカが担った役割はこのチームのラストピースそのものであり、このチームはウタカ無しでも輪郭を作れるが、ウタカ無し絵を完成させる事は出来ないという現実が常に隣にはあったのだ。

 

何よりウタカは38歳である。彼が前半戦に見せたパフォーマンスは、その年齢をまるで感じさせなかった。だが現実問題として、一定の年齢を超えた選手を主軸に据えるとなれば「それがいつまで続くのか」を考慮しなければならない部分がある。言い方は悪いが時限爆弾的なもので、どのタイミングでコンディションがガクっとくるのかは読めない部分があり、それは「今がいいから」という理由で手付かずでいい問題ではない。

前半戦のサンガは確かに良かった。当初の想定よりも遥かに良い軌跡を辿り、4月に限ればそれを「躍進」と呼ぶ事に躊躇いもなかった。だが、サンガを見ていた者の全てが今の躍動がそう長くは続かない事を理解していた。そしてそれは内部だって同じだろう。いつか突然ガクっとくるタイミングが訪れる事をわかっていながら、このやり方以外の選択肢が無かった。少なくともサンガに、先の事を見据えて2〜3試合を犠牲に出来る余裕なんてある筈がない。今のサンガにとっての最適解を、今のサンガにとってのベターを1試合1試合にぶつけるしかなかった。誰もがわかっていた燻る予兆を、わかっていながらも放置する以外の選択肢が無かったのだ。

 

 

 

ルヴァン杯プレーオフ第1戦、名古屋グランパスを前に、サンガは1-6で敗れ去る。直前で川崎に勝利していたチームはこの試合から、2022年の冒険を躍進とは呼べなくなった。

中断期間が明けてからの第17節鹿島戦、第18節湘南戦を共に0-1で落とし、再開後は連敗スタートを喫してしまう。第19節札幌戦は80分ほどを10人で過ごした札幌相手に終了間際の得点でなんとか勝利を掴み、続く第20節浦和戦は12年前に降格が決まった地で感動的な試合を見せたが、その結果はドロー。札幌戦以降、次のサンガの勝利まで実に2ヶ月という時間を要する事となってしまったのだ。

それでもまだ浦和戦第22節広島戦でのドローは見応えのある試合内容ではあった。7月のサンガはなんともジャッジが難しい時期だったと思う。だがこの時もサンガは、少しずつ不安が形になり始めた問題に対して他の選択肢を持ち合わせていなかった。わかっていてもこれで行くしかない……後は持ち堪える事も、何かしらのミラクルが起きる事も、全てを含めて時間が解決してくれる事を祈るしかなかった。

しかしその願いは虚しく、強制的にサンガから唯一の選択肢を奪う事態が発生する。

 

 

 

第23節G大阪戦…この試合のスタメンの人選も配置も、到底多くの人が予想出来ない顔触れが並ぶ。

クラスターの発生に見舞われたサンガは、ガンバとの残留争い直接対決に対して主力を欠いたというより、主力だろうが何だろうがとにかく18人を掻き集めて編成しなければならない状況に苛まれていた。最終的にガンバとの一戦はラストワンプレーで大前元紀がPKを決めてどうにかドローに持ち込んだ。

この試合は純粋によく引き分けに持ち込んだと思う。だが、危惧していた事態の最後のタイミングはこのクラスターだったのだろうか。続く柏戦、サンガはぱっと見は悪い試合とまでは言えなかったのかもしれないが、目に見えて精彩を欠き始めていたのは顕著だった。それは途中出場で戦列に復帰し、これまで誰よりもクオリティをチームに担保してきたウタカさえも……。川崎戦が台風接近により中止となったサンガは、横浜FMACLの兼ね合いもあって図らずも3週間のインターバルに突入したが、顔を出しつつあった「恐れていた事態」は、ガンバ戦柏戦のタイミングで誰も否定出来ないものと化してしまったのだ。

 

 

 

第26節を終えた時、サンガは消化試合数が2試合少なかったとはいえ、いつしか順位は14位まで落ちていた。

今シーズンのサンガが34試合を戦って獲得した勝利数は8。単純計算すれば大体4試合に1勝のペースで勝利を挙げた事になる。だが特筆すべきは、この8勝のうちの4勝が4月までの9試合の間に獲得したものだった。逆に言えばその後の25試合で3試合しか勝てなかった事になる。

「ウタカ依存症」の弊害が顔を出した後半戦からのサンガは明確に得点力不足に陥っていた。組織とのベースは構築出来ていたので、リズムとテンポを生み出してチームを回す事そのものは出来ていた。だがその攻撃が完結する機会はめっきりと減ってしまった。誰もがいつかどこかで、こういう状況に陥る事をわかっていた。キツい口調で言えば、その時に向けた対処ができなかったという事になる。

だが、繰り返しになるがサンガに何か対処法があったのか?と言えばそれは難しい。

 

 

 

例えば、ガンバ大阪で言うところの「戦術パトリック」のようにわかりやすいほどの「戦術ウタカ」ならそれはそれで思いきったシフトチェンジも出来たかもしれないが、戦術としてウタカを配した組織性が完成しており、ウタカは戦術の頂点というよりは「あまりにも替えが効かない構成要素」となっていた為、それがより一層他の選択肢を奪っていた。

では、よく「良い時にこそ改善を」「良い時にこそ変化を」と云うが…じゃあサンガが良かった時にいつか訪れる不安に対する対策を何か打てただろうか?…それは酷だったと思う。実際問題、サンガに3歩先を見る余裕なんてある訳がない。良い時に手を打っておくべき必要性は誰だってわかっている。だがそれと同時に「稼げるうちに稼がなければならない」という現実もあった。果たしてサンガに数試合を犠牲にしてでも何かを構築する為の時間に充てる余裕があったのかと言えば、まず無い。であれば必然的に、サンガは現実の為に最もベターな方策に固執する必要があった。良い時に手を打てなかったツケは16位転落という現実で払うハメになった一方で、17位には落ちなかった事は稼げる時に稼ごうとした結果でもあった。物事は表裏一体というが、サンガはそのコインのどちらが表なのかはともかく、片面をなぞるだけのキャパシティーしか持ちようが無かった。

 

 

 

3週間のインターバルを経て迎えた第27節清水戦。残留争いの直接対決ではあるが、この時の清水はゾーン状態にすら突入していた。ウタカが欠場したこの試合、試合内容そのものが悪いものでは無かったことはもはや例に漏れずというべきか。そしてその結末が、乾貴士に"クオリティ"を見せつけられる形で終わった事もまた、例に漏れずといった展開だったのだ。

次の対戦相手はヴィッセル神戸だ。勝点26で14位のサンガ、勝点24で17位の神戸……降格圏はもうすぐそこ。17位までの距離は、決断までに残された時間的猶予と同義だった。

 

2022年9月3日、サンガスタジアム by Kyocera。

迫り来る危機とクラブのこれからを左右する90分を前に、曺監督は決断を下す。ベンチ外なら単に欠場と言えたのだろうが、ピーター・ウタカの名前はベンチの7名の方にあった。

 

 

第4話に続く。