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S Adventureの後先〜京都サンガFC 2022シーズン振り返りブログ〜第2話 ウタ・カミ・A BEAUTIFUL STAR

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【S Adventureの後先〜京都サンガFC 2022シーズン振り返りブログ〜】

 

第1話 新章は延長線(前回)

第2話 ウタ・カミ・A BEAUTIFUL STAR

第3話 依存の弊害

第4話 冒険の後先

 

 

オリジナルアルバム出してみました!聴いてみてくださいませ。


 

 

 

開幕戦で浦和という巨大な相手から勝利を得る事が出来た意味は間違いなく大きかった。

残留争いすら出来ない状況に陥りがちな昇格組の多くは、1点と1勝をなかなか掴み取れないところにある。「内容が良い」「よく追いついた」みたいな試合を重ねても、特に昇格組は基本的に開幕から3試合の間に一つは勝っておく必要がある。一つ勝つ事で初めてチームはJ1の渦に飲まれる事が出来るのだ。そこに飛び込めなかったチームは渦から弾き出され、J1という凄まじい渦を遠巻きに見るしか出来ない。例えば2006年のサンガもそういう経緯を辿って最下位での降格に至った。

だからこそ浦和戦、そして続くC大阪戦の開幕2試合で勝点4を持っていけたことは、終わった今となっても残留を果たす上で最も大きいポイントだったようにすら思う。優勝候補の浦和に勝った後で複数のスタープレーヤーや豊富なタレントを揃えるセレッソとも引き分けに持ち込んだ事は、サンガを「何をやっても上手くいかない」的な悪循環に飲み込まれることを防いだ。いわば昨季のスタイルがサンガにとっての「立ち帰れる場所」で在る為に、開幕早々からそれを破壊される訳にはいかないし、逆にそこさえ乗り切ってしまえば、最終的に残留出来るかどうかはともかくとしても意外と大崩れはしない。

 

 

 

とはいえ、そう順風満帆に物事が進むはずもある訳がない。事実、サンガは開幕戦で浦和に勝利して以降、リーグ戦での勝利からは暫く遠ざかった。開幕5試合を1勝2分2敗。勝点5。数字として見れば昇格組としては悪くない一方で、4戦未勝利となった現実に一抹の不安が無かったかと言えば嘘ではない。しかし日本代表がW杯出場を決めた代表ウィークの後、このチームは出来過ぎなほどの1ヶ月を過ごす事になる。

第6節神戸戦……この試合をスタンドで見ている時、実に不思議な気分というか、異様な程の感慨深さがあった。開幕から4試合勝利のないサンガが、敵地で三浦淳寛監督の解任に踏み切るほどの絶不調に至り、この試合が新体制の初陣でもあった。今後の流れを左右するという意味で重要な試合だったが、この試合を見る感覚はどこかエモーショナルなものを感じていた。まぁ、アウェイだったのでユニフォームは白だったが、12年間ずっとJ2を彷徨った紫の戦士達があのアンドレス・イニエスタと交わっている……イニエスタのみならず、大迫勇也や山口蛍、酒井高徳など、この12年間のサンガとは縁もあるわけなかったようなスター軍団と戦う日が来たのかと。まずこの試合の感想はそこから始まった。

 

 

そしてこの試合で神戸相手に見せたサッカーは実に見事だった。奪った3つの得点はいずれもカウンターによるものだったが、それは単なるリアクションと断罪するべきものではなく、よく言う"再現性"なるものを有した主体的なリアクションサッカーというべきものだったと思う。【神戸1-3京都】……スター軍団相手に見せた眩きは、あまりにも美しい逆転劇としてスコアボードに刻まれた。

 

それからの1ヶ月間の躍進はまるでこれまでの12年間の鬱屈が幻だったかのような光景だった。第7節G大阪戦はドローに終わったが、第8節鳥栖戦第9節柏戦をそれぞれ3-0、2-0で完勝。鳥栖も柏も今季絶好調の相手である。特に柏戦での荻原拓也のゴールは世界中で「マンチェスター・シティのようなパスワーク」なんて言われてバズったりもした。この目の前で繰り広げられているアグレッシブかつ大胆なスタイルで4試合を3勝1分だと?相手が神戸だガンバだ、今季好調の鳥栖だ柏だと?月間MVPがこのクラブから出ただと?なんだこれは本当にサンガか?サンガなのか?歓喜と困惑、恍惚と疑心、その全てを打ち消していくかのような興奮……順位表に刻まれた【5位】をスクショした奴は誰だ?そうです私です。

 

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第10節福岡戦に敗れた事で4月無敗とは行かなかったが、それでもこの1ヶ月が"歓喜の4月"と呼ぶに値するものだったのは間違いない。ご存知のように5月以降のサンガは失速という展開を迎えるのだが、最終的に4月に稼いだ勝点が残留の大部分を占めた訳で、この1ヶ月がサンガにとって素晴らしい季節だった事を否定する必要はないだろう。

だが……同時に、物事は表裏一体とはよく言ったもので、サンガの好調は失速の予兆を常に孕んでいた事を誰もがわかっていた。ファンもサポーターも、そしてそれは現場だってわかっていない筈は無い。だが勝てている現状と、そもそもサンガにとって数ヶ月先の為に目先を犠牲に出来るような余裕なんてなかった以上、サンガはそのまま突き進むしかなかった。

 

 

 

曺監督はサンガのスタイルを「秩序あるカオス」と称していた。ハイプレスとハイライン、常に速く攻め込んでいくアタッキングスタイル……上で書いたように、主体性を持ってカウンターを繰り出していく…リアクションするというよりはリアクションをしに行こうとするサッカーを構築していた。ハイラインを保つというより、常にそれで殴ろうとする事で対戦相手ごとハイペースな試合展開に引き摺り込んでいく。それゆえに背後を取られるリスクも当然大きくなるが、麻田将吾や井上黎生人、アピアタウィア久は背後から追う守備対応が出来る上に、何よりGK上福元直人はスイーパーGK的なスキルを有している。今季のサンガはリーグで4番目の失点数の少なさを誇ったのは上福元の余りにも超人じみたセーブを抜きにしては語れないのだが、ハイリスクを前提に戦術を設計しただけあって、そこをどう担保するかの部分は一応考えられていた。

このやり方自体は昨季から取り組んできた事なのだが、その傾向は去年よりも遥かに今年の方が顕著だった。J2で戦った昨季は基本的にサンガが戦力的に優位に立つような試合が多かったので、サンガがじっくりポゼッションをしながら攻めていくような展開に持っていけた試合が多かったが、少なくともJ1の舞台でサンガがポゼッションで優位に立つ事を前提に考える事はさすがに無理がある。であれば、相手もカオスに付き合わせる事で戦力差をイーブンに持ち込める可能性も高まる…といった算段なのだろう。そこで前述のリスク管理の面を踏まえると、ヨルディ・バイスを切ってアピアタウィアと井上の獲得に踏み切った理由も見えてくる。

 

だが、縦に速いだけの攻撃は試合をよっぽどオープンに持ち込まない限り決定的なチャンスに繋がらない。そこで大事なのがスピードを緩める存在だった。「緩急」は"緩"と"急"がある事で初めて速い攻撃として成立する。サンガがピーター・ウタカに依存したのはフィニッシャーとしてのクオリティのみならず、その"緩"をウタカが全て担っていたからだった。ウタカを介してスピードに変化を与える事で、縦に速いつもりで対処しにきたDFのズレを生じさせる事が出来るし、そこから独力でのフィニッシュにもチャンスメイクにも繋げられるのが4月頃までのウタカだった。第6節神戸戦はまさにその典型的な試合と言えるだろう。この試合でウタカの得点は無かったが、そのカウンターはウタカを介したか、或いは神戸の守備陣が必要以上にウタカに引き寄せられたスペースを利用した3得点だったのだ。神戸戦はウタカ以外の選手で3得点を叩き出した事実ゆえに「ウタカ以外が点を取れた事が大きい」とする意見も見受けられたが、むしろあの試合こそウタカがこのチームの攻撃の全てを司っていた象徴でもあった。

 

 

 

その歪みは第12節札幌戦から露呈し始める事になる。序盤こそそれなりにオープンな展開だったが、後半に入ると札幌は3バックの中央に入る岡村大八が徹底してウタカに当たり、両脇のDFがそれを補佐するような動き方を始めた。ブーストざ翳りを見せ始めた瞬間は福岡戦よりもこの札幌戦だったように思う。

結局、4月は最後の試合しか負けなかったサンガは5月は最後の試合しか勝てなかった。この時はまだ、対戦相手だったチームがハイプレス的な戦い方をしてきたので機能不全がそこまで露骨には目立っていなかったが、翳りは確かに結果に表れ始めてきてしまったのだ。「川崎に勝てるようなチームになる事」を目標にしていたサンガにとって第16節川崎戦での勝利は一つの集大成でありながら、この時点で4月のブーストは切れていた。

一見、川崎に勝利して突入する中断期間という事でサンガはその中断期間に気持ちよく入れたように見えたが……実際のところ、既にサンガはこの時点でジレンマと悩ましさは抱え込んでいた。曺監督にとって、決断を迫られるまでのカウントダウンはもう既に始まっていたのだ。

 

 

第3話に続く。