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S Adventureの後先〜京都サンガFC 2022シーズン振り返りブログ〜第4話 冒険の後先

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【S Adventureの後先〜京都サンガFC 2022シーズン振り返りブログ〜】

 

第1話 新章は延長線

第2話 ウタ・カミ・A BEAUTIFUL STAR

第3話 依存の弊害(前回)

第4話 冒険の後先

 

 

オリジナルアルバム出してみました!聴いてみてくださいませ。


 

 

 

2022年9月3日は、試合前からどことなく異質な雰囲気が漂っていた。

この試合がJ1に帰ってきたサンガがJ1に留まる為の正念場である事は言うまでもなかった。勝点26で14位のサンガと、勝点24で17位の神戸。ACLから帰ってきて心機一転を図る神戸は、アンドレス・イニエスタ大迫勇也という二大巨頭こそ欠きながらも、彼らがサンガの12年間の旅路を思うと別世界のようなスター集団だった事は変わらない。そんなチームと競り合うサバイバルは、たとえそれが残留争いではあったとしても、このチームが12年間追い求めてきたヒリヒリ感だった。

加えてこの日は、このクラブの礎を築いた…まさしく「サンガの父」と言うべき偉人の訃報が届いたタイミングでの試合だった。そういう意味では、その相手が神戸だった事も不思議な縁のようにも感じる。

 

そんなこのクラブの歴史にとってもトップクラスにヒリつくシチュエーションの中で迎えた神戸戦……曺貴裁監督はピーター・ウタカをスタメンから外していた。清水戦ではベンチからも外れていたので、単に欠場したと見る向きの方が強い(実際は清水戦から外していたかもしれないが…)。それがこの試合ではベンチメンバーに留まっていた。それは第24節柏戦でのベンチスタートとは、その意味合いが異なるのであろう事は多くの人が察していたと思う。

 

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実に痛快な程に完璧なゲームだったと思う。開始10分までに2点を取り切ってしまったサンガのアタックはまさしく「電光石火」そのものだった。

おそらく、昨年から合わせても曺監督の理想系に限りなく近い90分はこの試合だったように思う。頂点に置かれた山﨑はウタカほどストライカーとしての馬力はない分、ウタカ以上に潰れ役を一身に担い、常に最前線で攻撃の経由点で在り続けた。両WGの豊川雄太松田天馬、そしてこれまではWG起用がメインだった武富孝介は流動的にポジションチェンジを繰り返しながら、山﨑が潰れたボールに対して噛み付いていく。この時の神戸のように、比較的スローテンポで試合を進めたがっていたチームがこのやり口で開始早々に失点を喫すればパニックに陥るのも致し方なかったのだろう。

 

 

 

神戸相手に掴んだ快勝は間違いなく大きかった。状況に少しの安堵感を覚え、そして神戸が変革しなければならない強い危機感を覚えるほど大きな意味を持つ90分となった。そして曺監督は、結果以上にこの試合の内容に手応えと快感さえ掴んでいたのだろう。現代サッカーは「極限まで偶然の要素を排する」事が重要視されている中で、サンガのやり方は曺監督の云う「秩序あるカオス」に代表されるように、いわば「偶然を引き起こしやすくする為の組織的戦術」を作ろうとしている。カタールW杯に於けるスペイン戦の日本代表でもそうだが、奇襲こそ計画性を持って組み立てなければならないのだ。そして前半戦まではその中でウタカは必然性を担保する存在だった訳だが、どちらかといえば曺監督の志向する"流れ"によりアジャストする形の山﨑を軸に置いた事で、サンガのハイペース・ハイテンポ感は一層増していく事となる。

実際、続く第29節鹿島戦では1-1のドローに持ち込み、第26節の延期分として行われた横浜FM戦では敗れこそしたが、優勝争いに絡むような相手を前にギリギリの戦いを演じてみせた。両試合とも前半戦で戦った時より良い内容で戦えていた。特にマリノス戦は、彼らの状況が状況だった部分はあるにせよ、首位相手にあれだけのゲームを見せた事は素直に讃えたい気持ちがあった。この2試合は相手が相手だった事もそういう感情にさせたのかもしれない。

だが、結局何かを手に入れれば何かを失うのがサッカーでもある。新たに手にしたシステムは罠でもあった。それをサンガは、11月までみっちりと味わう運命を彷徨い始める事になる。

 

 

 

国立競技場で行われた第30節FC東京戦、生まれ変わったシンボリックなロケーションと煌びやかな演出、そこに集まった50994人という大観衆……浮き足立つほどにこれまでの12年間とかけ離れた場所での敗戦は、実にこのスポーツの表裏一体さとジレンマを露呈したものだった。

ウタカを先発に戻したこの試合だったが、ウタカが夏以降にコンディションをかなり落としてしまった事は誰の目から見ても明らかだった。それを補う為にサンガは神戸戦で成功したこれまで以上にハイテンポ・ハイペースに傾倒したサッカーをやるようになったが、今度はウタカがその異常なハイペースについていけなくなる事態が生じた。まさしくマグロの生態のようで、これまではウタカという"緩"で緩急をつけていたサンガが、いつの間にか急でやりきるしかないチームになっていった。

サンガは神戸戦以降で勝利したリーグ戦は第31節鳥栖戦のみだが、この日は17分の時点で豊川雄太が得点を決めている。神戸戦も10分までに奪った2点で勝った訳だ。サンガにとって急襲で早いうちに点を取り切ってしまう事が既に勝ちパターン化していた。1点さえ取ってしまえば、後は後半用システムのように運用した3バックにシフトしてカウンターを狙うやり方に移行し、効率良く攻め込む事が出来る。だがそれは開始早々の急襲に成功すれば…の話で、それが出来なければ時間の経過と共に相手がペースに慣れてくるようになる。そうなってくると次の得点チャンスは終了間際にオープンなカウンターゲームに至るギャンブルのような時間帯まで待つしかない。良くも悪くも、サンガにとって試合開始の合図は賽を投げる合図と同義だった。

難しいのは、残留を争うライバルとなった神戸・G大阪・清水のように個でぶん殴るほどの戦力値は擁していないサンガにとって、これまでのベースを極端にする事自体は方法論としては間違っておらず、ウタカが前半戦のような輝きを放てなくなった以上、それが現状のサンガにとってベストだった事も事実である。実際、この日の最大のチャンスが訪れたのはウタカが下がった後に訪れた。この後訪れる天皇杯準決勝の広島戦でも似たような事が言える。だがそういう局面が訪れた時に、そこで最もクオリティと確実性を発揮できるのも結局ウタカだった。そのジレンマの中での二者択一を迫られていたのがこの時のサンガだったように思う。

まだ13位だった10月初旬、曺監督が取材陣に対して呟いた「でもな、ガンバは地力あるしな」という言葉は、ガンバ云々以上に残留争いを強いられる上でのそのジレンマが端的に表れていた一言だったのかもしれない。サンガにとって、第32節名古屋戦と第33節C大阪戦のドローはその典型的な試合だった。特にセレッソ戦の最後の数十分は、絶対的な存在が守るサンガのゴールと絶対的な存在を担保できない前線のズレが浮き彫りになった末にスコアレスドローだったように見えた。無論、前線に絶対的な存在を置かない事で成立したオープンサッカーだったところもある。名古屋戦セレッソ戦も、内容としては良い展開に持ち込めたのはそういうゲームセットで挑んだ部分が大きいだけに、その実情は大きなジレンマとしてのしかかる事となった。

 

 

 

前半戦が終わった時、感覚としてはどこか満足感があった。川崎に勝った第16節が終わって迎える中断期間に、まさか9位で入れるなんて夢にも思わなかった。「一息つけるかも」なんて錯覚は神戸戦に勝った時も鳥栖戦に勝利した後もあった。だが最終節を前にして順位は16位。今季2度目の降格圏という現実を、ラスト1試合というタイミングで背負う事となる。

 

最終節を前に15位のガンバが勝点36で、17位の清水が勝点33。そして16位のサンガが勝点35。得失点差では対ガンバではサンガが優位に立てるが、対清水では試合前の時点ではサンガが上回っているものの、数字上の理屈で清水と得失点差勝負になった暁には清水が優位になる事が確定していた。

対戦相手は最下位の磐田だった。磐田は前節の時点で降格と最下位が確定している立場である。ちょうど1年前、この地でJ2天王山と持て囃されたの今となっては皮肉に聞こえる訳だが…。それはともかくとして、一般的に考えれば有利にも見えるし、実際…前年のJ2では磐田に優勝を譲ったが、今季の戦力値ではサンガの方が上だったと思う。だが…サンガは前半戦で磐田に1-4で敗れている訳で、それこそ12年前にそういう立場のサンガがFC東京を引き摺り込んだ過去がある。あの日以来の最終節で、まさかあの日をひっくり返したような立場にサンガが追い込まれるとは夢にも思わなかった。

 

今年のサンガは天皇杯を含めて、格上や格下、戦力値の上下がどんな相手でもある程度良い試合が出来る、そして逆に良い試合をされてもしまうという特性を持っていた。第33節のセレッソは今季は総じて好成績を残し、Jでも有数のタレントを多く揃えるチーム。そして磐田は最下位で、その戦力値はサンガよりも低かったとも言えるが、セレッソ戦も磐田戦も試合展開としては似た推移を辿る事になる。

そもそもとして、サンガにとってこの日の状況が非常に難しい立場だったのは確かだ。引き分けをベターな選択肢として捉えられる15位ガンバと勝利する以外に選択肢のない17位清水に対して、サンガの立ち位置は実に中途半端というか悩ましい立場となる。他会場の清水が引き分け以下であれば自動降格は回避できるが、清水は札幌と訳のわからない打ち合いを始めたおかげで札幌ドームの途中経過はもはやアテにならない。サンガは0-0で進むのに、札幌ドームのおかげでサンガは16位と17位をずっと行ったり来たりを繰り返した。その一方で、15位のガンバも引き分けていた事で勝てば15位に浮上出来る状況もキープしていたサンガが、あまりにもアバウトな程のオープンな展開に突っ込んで行ったことは自然の摂理とでも称するべきなのだろう。終了間際の白井康介のブロックは間違いなく心を震えさせる魂のディフェンスだったが、そういう状況に陥るような場面は必然でもあった。それは今季、幾度となく繰り返された上福元直人のスーパーセーブにしても同じ事である。リスクのうま味は享受しても、それを結実させられない日々が続いた。

0-0。試合を終えたサンガに待つ他会場の経過は向かい風と追い風が交差するかのような二つの一報だった。残留を逃し、自動降格を回避したサンガには、事実上の第35節を戦う事となる。

 

 

 

2022年11月13日、満員のサンガスタジアム by Kyoceraは試合前からどこか異様な空気感に包まれていた。

対戦相手はロアッソ熊本。J2復帰一年目ながら一年を通してJ2の上位を走り続けたシーズンを最後は4位でフィニッシュ。プレーオフでは5位大分、6位山形を引き分けに持ち込んで勝ち上がってきた。

躍進の主役となった指揮官は京都サンガFCというクラブの歴史にとって重要な人物。大木武に率いられたサンガは今でも美しい思い出だった。だが、「大木監督率いるサンガのJ1を見てみたい」という想いはいつしか未練へと変わる。あと一歩を、あと一勝を掴めなかったチームの野望が、まるで永い言い訳のような瞑想に変わる様を見続けてきた。その末のJ1昇格で、そしてこの参入プレーオフで、対戦相手が大木武…このシチュエーションに額面以上の感情を抱いたことは言うまでもない。

 

 

J2でも屈指の組織的攻撃サッカーとも称された熊本を前に試合はやや熊本ペースで推移しながらも、サンガにはそれしかない方策をとにかく貫くしかない。

だがプレッシングの欧州にもなった試合展開は、偶然のノッキングを引き起こす確率を高める為の組織性を築いていたサンガにとっては好都合な展開でもあった。39分の豊川のゴールに至る豊川の動き直しや松田のアシストは、偶然を発生させる組織で偶然に出会した時の為のアドリブ力がしっかりと発揮されたゴールであり、それは目論見通りの展開だった。

 

先制さえ取れれば、このチームはカオスを緩めて良いテンポの試合を繰り出す事が出来る。後半はまさしくそういう展開になった。後半の立ち上がりからサンガは何度も決定機を迎えたが、そのスピード感は2点を追う立場の熊本には相当しんどかったはずだ。ああいうカウンターを繰り返されると、ビハインドのチームは総攻撃的なシフトになかなか踏み切れなくなる。熊本のパフォーマンスは間違いなく素晴らしかったが、一方で90分トータルで見れば、最終盤の展開はともかくとしてサンガにとっても何とかドローに持ち込んだ試合でもなかったように思う。

だが何度もあった試合を決めるチャンスを逃し続けた末に、68分にはセットプレーから失点を許す。プレーオフという舞台に"引き分け"の概念はない。このまま終わればJ1に残れるが、点を取られたらJ2に逆戻りだ。試合内容自体は決して悪いものではなかったものの、試合展開は「どんな相手でも良い試合を出来る・されてしまう」という性も含めて今季のあらゆるツケを払わされているかのようだった。

 

 

 

アディショナルタイム……まだ2分程度の時間が残っているとは言えども、熊本が獲得したこのコーナーキックがお互いにとって2022年のラストシーンになる事はわかっていた。

前線に上がってきた熊本のGK佐藤優也がニアで潰れ、サンガのクリアは倒れたGK佐藤に当たってリフレクション。そのボールは僅かに軌道を変え、フリーで走り込んだ平川怜の足下へ、特大の決定機として転がり込む。そのノッキングは偶発的な事故ではあったのだろう。偶然を味方につけるサッカーを目指したサンガに、偶然は最後の最後でサンガから目を背けたように見えたそのシーンはどこか皮肉にも思えた。平川が振り抜いた右足の軌道が、その未来を打ち砕く──その恐怖に触れた刹那、その軌道に目を背けなかったピーター・ウタカがそこにいた。それはサンガを導いた英雄が、最後の最後で見せたクオリティと魂だった。

 

こぼれ球を拾った平川の2度目のシュートは、今度はポストを叩く。偶然が止めた時間をクオリティと魂で現実を掴み、最後は偶然が再び時間を動かし、未来を繋ぎ止めた。

 

 

 

個人的には、2022年シーズンのサンガは「J2の13年目」だと思っていたし、「S Adventure」というスローガンをそういう風に解釈していた。

最後のJ1が2019年だった磐田とは違って、最後のJ1が2010年だったサンガが久しぶりにJ1に来たところで、それを胸を張って「J1クラブに戻った」と言えるのかどうかはわからない。それだけに、J2での長すぎる鬱屈の日々を超えた解放のような1年間に"冒険"という表現はまさに言い当て妙のように思えた。J1という場所での冒険は、J2を2位で勝ち上がったサンガは実質的に最下位からスタートする事になる。それを踏まえれば、例え降格という結果に苛まれたとしてもこの一年は必ずしも失敗と称するべきものではないと思っていた。だが一方で、1年でJ2に舞い戻れば、2022年の冒険はひと夏の思い出のような過去にしかならない。この冒険の後先を委ねる旅路がこの2022年の軌跡だった。

横浜F・マリノス川崎フロンターレといった猛獣のようなチームも同居する世界を彷徨って辿り着いた16位という順位は、16位以下に陥った実力と、17位以下は回避した実力の表裏一体のような順位だった。降格圏に陥ったことも実力なら、そこから残留に持ち込んだことも実力なのだ。

 

だからこそ、サンガにとって"真のJ1復帰初年度"は来年だと考えている。

冒険は終わった。冒険は思い出を抜け出し、一つの軌跡となる。これからはこの日々を日常にして行かなければならない。2023年はそういう一年になる。

2023年はレギュレーションとしては降格の可能性は低くなる。だが、そこに嵌まらない保証などどこにでもないし、第三者から見ればサンガだって立派な降格候補だろう。今年と同じ考えではそこに嵌る事は目に見えているし、その自覚は我々外野が語るよりも現場は強く意識しているはずだ。一歩ずつステージとハードルを超えていき、そうした先にJ1は日常になる。いつしか随分と遠い存在となった鳥栖や札幌は一つずつ階段を登って"J1のクラブ"となった。S Adventureの後先が、このクラブの歴史にどんな意味をもたらすのか…その全ては来年に委ねられている。

 

 

 

ただ、それでも……このクラブにも少しずつ、胆力なるものは身に付き始めてはいるのかな、という気もしないではない。

 

ちょうど10年前、2012年11月11日。

大木武に率いられた京都サンガFCというチームは西京極陸上競技場で「勝てば昇格決定」というシチュエーションで戦っていた。昇格レースの主導権はサンガが握っていた。勝てば良かった。勝つだけで大木サンガはJ1に行けた。だが届かなかった。たった1点が獲れずに引き分けた。J1は潰えた。あの日も雨だった。そして曺貴裁率いる湘南に昇格を掻っ攫われていった。雨晒しの西京極の灰色の空の下、ただただ冷たい雨に打たれ、その両肩は雨に濡れるしかなかった。

 

2022年11月13日……あれから10年を経てJ1に戻ってきた。

元号は変わり、舞台は西京極からサンガスタジアム by KYOCERAという新たな本拠地へと変わった。大木武を前に、あの時と同じように、運命の主導権はサンガが握っていた。たった1点を守り抜いた。たった1点を耐え抜いた。J1を繋ぎ止めた。あの日も雨だった。だが、今はもう屋根がある。もう雨には濡れない。

 

 

S Adventureの後先〜京都サンガFC 2022シーズン振り返りブログ〜、完。