【前回までのあらすじ】
広島に0-5で叩きのめされ、地の底に手を触れたような感覚さえ覚えたサンガ。一部では「降格枠の一つは京都で決まりだろう」との声すら聞かれるようになった。しかし大熊清GMの就任等を経たチームは夏の補強が解禁されるまでに3勝3分1敗を達成するなど一定の持ち直しに成功。そして夏の補強では米本拓司、そしてラファエル・エリアスを迎え入れ、2024年のサンガは残留に向けた加速度を増していく。
【P・PURPLE〜京都サンガFC 2024シーズン振り返り総括ブログ〜】
第4話 Pursue (2024.8.24〜12.8)
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第26節新潟戦で完敗を喫した事で2ヶ月ぶりの敗戦を喫した時には、連勝の流れがこの敗北で止まることによるぶり返しのような不振のターンに再び入るのでは…という疑心もあった。しかし続く第27節C大阪戦では攻撃陣が躍動。新加入のエリアスはハットトリック、原大智も1ゴールを記録し、マルコ・トゥーリオは決定的なチャンスメイクを重ねていく。3トップの破壊力を下支えする川﨑颯太のハードワークや福田心之助の攻撃への関与、そしてカウンター一辺倒にならない為に平戸太貴と福岡慎平のところでボール保持のフェーズを作れるようになっていた。スコアは5-3の勝利。スコアに表れているように守備面は課題を残す試合となったが、セレッソが前がかりになってきた時間にはこれまでも持っていた強みのようにカウンターを効果的に発動しており、攻撃の形はこの試合で大いに提示することが出来たと言える。
黒を基調とした30周年記念ユニフォームを身に纏って迎えた第28節FC東京戦は今季のベストパフォーマンスかつベストゲームと呼ぶべき試合だった。
間違いなく今季のサンガでベストゲーム。
— RK-3 (@blueblack_gblue) 2024年8月24日
元々の強みを出した上で、前の試合は攻撃完璧守備アチャーだったのが守備でも攻撃に釣り合うパフォーマンスを出してくれた。
相手との相性もあるにしても、前戦の良さを残して前戦の粗を修正してみせたのは本当に素晴らしい。0で終われたことが本当に嬉しい。 pic.twitter.com/0yGbqnNTx1
これまでのサンガはハイプレスとそこからのカウンター一辺倒な展開になりがちなところがあったので、昨季から合う相手と合わない相手が明確になっており、そして今季の序盤は相手にも対応されて手詰まりになった…というのは第2話で書いた通りだ。
だが夏に入る頃にはもちろんこれまで通りにプレスからのショートカウンターを手札として残しつつ、平戸と福岡の起用は中盤でボールを持てるようになる時間を担保するようになり、そうなるとやや1.5列目に近いポジションを取るようになったトゥーリオのスキルが存分に活かされ始める。それは連鎖的に物事が上手くいくようになり、原がストライカー業に専念できるようになった事も大きい。そしてそれは3トップの能力を引き出すだけでなく、福田と佐藤の両SBが攻め上がってWGや川﨑颯太と連動する為の時間を作れるようになる事にも作用する。サイドからのクロスが多いのは序盤戦も同じだったが、サイドで福田が狙いを持ってクロスを入れる状況をどうやって作るか…の工夫は前半戦とは大きな違いがあったし、中のターゲットが原に全てを委ねるのではなく、エリアスが必ずニアサイドに入る事で相手DFにも選択肢を増やさせるようにもなった。一つの修正が、ある種のコンボ的に問題を解決していく様がよく表れていたのがC大阪戦やFC東京戦だったと思う。
守備面でもこれまでの強度を強みとしたサンガに顕著だった「行きすぎる」という部分が調整された跡を感じる場面があった。試合序盤にFC東京がFC東京陣内でビルドアップを試みながら、少しずつ中盤に持ち出し始めていた。それと共に仲川輝人がすーっと斜めに走り出していく。FC東京のボールホルダーは仲川にロングボールを蹴るようなモーションを見せた。この時に仲川をマークしていた佐藤響は、おそらく序盤戦であればこのボールホルダーに対してプレスに行っていたんじゃないかと思う。だがここで佐藤がチャレンジした場合の分は悪かっただろう。その状況の上で佐藤はチャレンジではなく、仲川に並走する形でリトリートを選んだ。
前半10分くらいか。DAZNで映ってるかわかんないけど、FC東京が自陣でボールを回してる時に仲川が左から右に斜めにぬーっと走っていった場面があった。それこそ前節に原が決めた場面のように。仲川ってそういう隙を縫ってくるのめちゃくちゃ上手い選手だし。…
— RK-3 (@blueblack_gblue) 2024年8月24日
その結果ボールホルダーはロングボールを諦めてビルドアップをやり直したのだが、この佐藤の守備判断が前半戦と後半戦のサンガのスタンスの変化というか、チャレンジをしていくベースの上にチャレンジをすべきかどうかのジャッジを下せるようになったという成長と意識の変化を如実に示していたシーンだったと言えるだろう。
台風の影響で第29節鹿島戦をこの流れで戦えなかったのは残念だったが、台風により延期と代表ウィークによる中断を挟んで迎えた第30節横浜FM戦…この時点で好調だったチーム同士の対戦として注目されたゲームでは、これまでなかなか勝てなかったマリノス相手に2-1の勝利を収める。相手が開始早々に退場者を出した事でフルタイムに近い時間を数的優位で戦えたという幸運があったとはいえ、昨季までは代表ウィークが終わるなり芳しくないパフォーマンスを見せていたサンガが、実質的に3週も期間が空いた直後の試合をマリノス相手に制した辺りも、一つずつ難点を解決していくような軌跡が見てとれた。もちろん一人少ない相手に対してのゲーム運びの難儀さなどチームとして未熟な部分を拭えた訳ではなかったし、勢いが背中を押した部分も当然あるだろう。とはいえ、これは歩みとしては前進しているはず……新潟戦に負けた後から3連勝となった事も、代表ウィーク明けの横浜FM戦を取った事も、その要素と捉えても良いものだった。
9月22日、第31節ガンバ大阪戦はクラブにとってメモリアルな試合となる。
3連勝を果たし、ラファエル・エリアスが月間MVP、曺貴裁監督が月間最優秀監督を手にした中で迎えたこの試合は実にスリリングな展開が繰り広げられた。
前半20分に先制点を許したサンガだったが、27分には相手のミスを突いたトゥーリオのシュートのこぼれ球をエリアスが押し込んで同点に追いつく。曺貴裁体制ではピーター・ウタカやパトリックのように元々Jリーグに慣れていた選手以外が、それこそ前半戦のトゥーリオも然りだがなかなかフィットしにくかった流れがあった中、エリアスがここまでフィットしたのはトゥーリオのシュートの後にも全力で終えるスタイルが功を奏した部分もあるのだろう。後半に入るとそのエリアスが原のロングボールを受けて個人技で決め切り逆転に成功。終盤は「1つのミスがシュートに繋がる」と曺監督が語るような展開の中で同点に追いつかれ、あわや逆転というシーンも2度訪れたが、試合は2-2のドローで結末を迎えた。
ただ、サンガにとってこのチケットが早々に完売した試合で最大のハイライトは別のところにあった。
サンガが明確に「創立30周年記念試合」と掲げた訳ではないが、今季の中でこの試合には最もそういう意味合いが付与されていたと思う。そこで打ち立てた「20323人」という数字……サンガにとって「来場者数が2万人を超える」という事は、1999年と2002年に当時黄金時代を迎えていたジュビロ磐田との試合で達成して以来、ある種のアンタッチャブルレコードのような感覚を覚えていた。
色々な条件が揃っていた事は確かだ。元々アウェイ動員が強いチームでありつつ、土地柄としては「むしろパナスタよりサンガスタジアムの方がぶっちゃけ近い」という人もいるであろうガンバが対戦相手だった事はこの記録を立てる上で大きな要因になっている。とはいえ、サンガ自体の後半戦の好調であったり、8月の好調であったり、7月の福岡戦や8月の名古屋戦、C大阪戦のように反省材料はあっても、普段DAZNだけで見ている人の観戦意欲を煽るようなスリリングなゲームが続いていた…という側面もあったと思う。そういう背景があって迎えた大台を超えのこの試合で曺監督が「今日の90分というのは、監督でありながら1つのショーを見ているような、そういう雰囲気の試合でした」と振り返ったようなエキサイティングなゲームを繰り広げた事は、それはこのクラブにとって、仮に勝点3を獲得できていたとしてもそれ以上の重みがあったんじゃないか…とも思う。エリアスが逆転ゴールを決めた時のスタジアムの雰囲気……古参ぶる気はないが、仮にも私はサンガを見始めてそれなりの年月を経過した。その過去の記憶を辿ってみても、それはサンガの記憶の中に無い光景に触れた気がした。少しだけ、J1のクラブへと手をかける感覚を掴んだようなと言うべきか…。
その後のシーズンは7〜9月ほどの上昇気流が続いた訳ではなかった。
ガンバ戦の後、第32節札幌戦は降格圏から脱出を図る巻き返しを見せた相手を再び突き落とすチャンスだったが内容的にも芳しくなく敗戦。続く第33節神戸戦は低調なパフォーマンスを見せた前半に2失点を喫し、一度は後半に追いつく粘りを見せたが再度勝ち越されて2-3で敗れる。
気が付けば17位のサンガに対し、12位のマリノスまで巻き込みつつあった残留争い。18位磐田との勝点差は6の状態で、第34節の相手はサガン鳥栖となった。この試合、他会場次第とはいえ鳥栖は負ければ降格が決まる。一方で、サンガが負けた場合は再び混沌の争いに巻き込まれる。その正念場で開始10分にGKク・ソンユンが一発退場というハードモードで幕を開けた試合だったが、もうこの時にはサンガはある程度の地力を持つようになっていたような気もする。ほぼ90分を数的不利で戦いながらも「出力を調整したハードワーク」を見せ、最後は2-0で押し切ってみせた。連勝が止まってからの2連敗…2022年の清水だったり、最終的に残留したとはいえ2018年の名古屋だったり、突然の連勝が止まって再び失速するチームは往々にして発生する。そんな中で、この6ポイントゲームを収めた胆力は評価されるべきだろう。
10月27日には準決勝神戸戦に敗れた事で、30周年の年に天皇杯優勝というタイトルを獲得する夢は打ち砕かれたが、最優先目標が残留である事には変わらない。
11月3日、快晴のエディオンピースウイング広島の空の下で、広島と再び対峙する。
優勝争いの真っ只中にいたチームに対し、サンガは躍動した。不屈の魂でつくった舞台の上に立ち華を掴んだGK太田岳志は再三に渡るピンチを弾き出し、広島の強力攻撃陣は行きっぱなしのプレスではない対応で対峙した。攻撃陣が見せた創造性は前半には見られないものだった一方で、機を見て仕掛ける一本槍ではない「カード」として機能したハイプレスとそこからのショートカウンターには元々あった良さも活きていた。結実の刻は62分、原との連携で右サイドを駆け上がった福田は、前に飛び出すエリアスを恐れて下がったディフェンスラインを嘲笑うかのようにマイナスのボールを入れる。走り込んだ平戸にとって、彼ほどのキック技術を持ってすればあのスペース、あの時間を与えられれば得点は必然だった。スコアは1-0……広島とサンガの間にはあまりにも大きな差がある。それはたった1試合の結果や内容では埋まりようがない。そんな事はわかっている。だが、あの日のピッチでの姿に限れば決して遜色などなかった。
半年前、サンガスタジアムの雨空の下…あの日、彼らはサンガを地の底まで叩き付けた。確かな事は、あの日からサンガの2024年の物語は大きく転換したという事である。あの日、降格枠の一つは京都で決まりとさえ言われたチームは残留までと一歩のところまで持ち直した。あの日と同じ相手と巡り会うこの日にこそ、京都サンガFCというクラブは2024年のケリをつけたかった。そこで見せた躍動は、広島戦からの軌跡を広島戦で結実させ、厳密には確定ではなかったが、この勝利でサンガのJ1残留はほぼ決まる。クラブは30周年の歴史の中で、未だ知らない4年目の扉を押し開いてみせた。
第1節〜第15節広島戦までの京都サンガ(2勝3分10敗:勝点9)
— RK-3 (@blueblack_gblue) 2024年11月3日
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第16節〜第35節広島戦までの京都サンガ(10勝5分4敗:勝点35)
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残留を決めた状態で残り4試合は3分1敗。
12勝11分15敗の勝点47。第15節の広島戦を基点とすると、第15節までが2勝3分10敗の勝点9、第16節以降が10勝8分5敗の勝点38。20チーム中14位。それが2024年京都サンガFCの順位となった。
どれだけ後半戦で躍進したとはいえ、そもそも「なぜ前半戦がああなってしまったのか?」という現実を避けて通る訳にはいかないし、そこに至った責任を考える時、監督の責任は当然に大きい。就任1年目であれば「できないことをできるようにする為」という解釈もあるが、あの時期のサンガは「できていた事が意味をなさなくなった」という状態にして「できることさえできなくなった」という状態だった。それこそ浦和戦や広島戦は"末期"と呼ぶ他ない状況だったのだろう。個人の見解だが、あの5月の時点で曺貴裁京都のサイクルは終焉を迎えたように思っている。
しかしながら、詳しくは前話に書いたものを読んでもらいたいが、後半戦のサンガは何も「エリアスが入って強くなった」というチームではなく、きちんとチームとしての修正を施し、チーム状態を持ち直してからエリアスというラストピースを加えられた。ケーキで言うなら、崩れたスポンジを立て直し、福岡や平戸、トゥーリオといった出場機会が減っていた選手が生クリームを塗り、エリアスというイチゴを乗せたようなものである。一般的に浦和戦や広島戦で見たような状況に陥ったチームの空気とは悲惨なもので、そこまでくれば詰まった水道管のように切る以外の打開策が無かったりする。それはサンガに限らず世界屈指の名将が率いるビッグクラブでも起こり得る話だ。だがそこでチームやメンタルを繋ぎ止め、求心力を発揮し続けた曺貴裁という監督はその点に於いて異能な人材であり、スペシャルな能力なのだろう。前半戦の責任は彼にあるとするならば、後半戦の躍進もまた彼のスペシャルな能力で担保した土台に道筋をつけた結果だった。監督の良し悪しで言うなれば、ある意味功罪が両面共に大いに出たのが2024年だった……そう考えている。
とはいえ、トータルで考えればやはり2024年は苦しいシーズンであり、前半戦は散々たる日々だった。いずれにしても、開幕前に掲げた「最高で最強」というスローガンとは大きくかけ離れたシーズンではあった。
だが同時に、30周年というアニバーサリーイヤーを迎えた今年のチームは歴史の轍を踏まない、これまでのチームとは異なる姿は見せた。J2が生まれ、降格という概念が生じた1999年以降、サンガが残留するパターンはいつも同じだった。前半戦にある程度の勝点を稼ぎ、貯金を切り崩すようにして残留争いのハードなところを一歩引いて眺めるようにシーズンを着地させる…それは2023年もそうだったし、最終的にプレーオフには巻き込まれたが2022年も然りだった。
逆に言えばサンガが降格する時のパターンはいつも同じだった。前半戦で大きく出遅れ、失った勝点を取り返せないまま、取り返すほどの力を持てないまま、落ちるというよりも沈むように、降格の瞬間を待つかのようにシーズンを終えていく……2000年も、2003年も、2006年も、2010年もそういう流れでサンガはJ2に落ちた。広島戦で0-5で負けた時の絶望感には「あ、これ、サンガが落ちる時のパターンだ」とでも言うような14年ぶりの既視感も含まれていたのかもしれない。だが今季のサンガはこれまで何度も繰り返された「共通する降格パターン」に入り込みながら、クラブが何度も這い上がれなかったところからどうにか生き返った。こういうシーズンになってしまった事はクラブとして反省するべき部分でありながら、2000年も、2003年も、2006年も、2010年にも抗えなかったシチュエーションに抗い、過去のパターンを打ち破る瞬間を見せた。こういうシチュエーションになる事なんて誰も望まなかったが、こういうシチュエーションになったからこそ断ち切れる歴史もある。何より、J2という概念が生まれた日から「4年目のJ1」を手にしたこと自体がクラブにとっては初めてなのだ。今年のチームは最高でもなければ、最強とはかけ離れていた。だが今年のチームは30周年の年にクラブの悪しき歴史を変えたチームだった。残留への軌跡も然り、第22節福岡戦や第25節名古屋戦のような勝ち方は30年の歴史の中でなかなか見てこなかったような勝利だ。最高で最強ではなくとも、いつの間にか胆力のあるクラブには育っていた…それは揺るぎなく、誇り高き事実である。
曺監督の続投には賛成も反対もあるだろう。私としても、2021年から始まった曺貴裁京都のサイクルは一周を回り終焉を迎えたと思っている。だが2025年に2週目のサイクルがあると言うのなら、そこにもう一度期待してみたい気持ちもある。
終わってみれば想定と比較して悪い数字では無かった。ただ、開幕前に掲げた「史上最高で最強」とは程遠いシーズンではあった。どんなチームのどんなシーズンにも波は少なからず起こりますが、サンガは特にそれが激しかった。このクラブが今後も"J1クラブ"という印象を持たせたいならば、今季前半の体た… pic.twitter.com/DwYDN9p9M7
— RK-3 (@blueblack_gblue) 2024年12月8日
本来、京都サンガは2024年にこの位置にいるべきクラブではなかったように思う時がある。それは2024年の順位…という意味ではなく、このクラブの立ち位置という意味で。
任天堂、KDDI、ワコール、堀場製作所、村田製作所、ニデック、オムロン、大和証券……パッと思いつくだけでも名ただる企業がスポンサーとして長年名を連ね、そのトップとして親会社の京セラが束ねている。「スポンサーのイメージほどサンガに金はない」とする意見はわかるし、スポンサー個々の温度感の違いは確かにあるだろう。各企業が会社規模のイメージほどスポンサーフィーを投じてくれている訳でもない事も理解している。だが、実際にどれだけ力を入れた予算が投じられているかはともかくとして、彼らが財政基盤をつくっている状況は「クラブの存続は保証してくれているもの」という表現はできる。この基盤を持っているクラブはイメージほど多くない。この基盤を持っていない殆どのクラブは、クラブとしての利益や移籍金収入をクラブ存続のための予算として考えていかなければならない。だがサンガの場合、そういう大前提のところは保証してもらえるだけの基盤がある。即ち、それが戦力強化であれ施策であれ、クラブで得た収益はクラブの向上の為に使う事ができる。自分達の収入で存続の為の何かを補填する必要がない。その基盤の有無は、クラブの成長を考える上で大きな差となる。わかりやすい言い方をすれば、リーグの中での立ち位置が近いところにいる湘南や新潟辺りと比べて「なぜ川﨑颯太をここまで残せているのか」という話だ。これが平均的な昇格組であれば、サンガにそういう基盤が無ければ、遅くとも2023年頃には川﨑は別のJクラブで開幕を迎えていたと思う。
加えて、もちろん風土として少し根付きにくい部分がある事を否定はしないが……それでも京都という市場はマーケット的には大いに恵まれた場所である。街の知名度で言えば日本では東京とタメを張れる唯一の場所だろうし、都市の規模もそれなりに大きい。何より京都に本社を置く世界的な企業も複数存在する。そしてそんな街のスポーツ市場で、例えばバスケの京都ハンナリーズなんかと比較した時にサンガは先行者利益を得られる立場だった。そもそもJリーグという区分の中でも、今となってはサンガは先行した立場にいたはずなのだ。そういう事を考えた時に、それこそ近年の神戸や町田を見ていると……サンガにはもう少し、クラブとして違う現在があったんじゃないかと考えてしまう瞬間がある。
思えば京都サンガというクラブは小さな事ばかりを追い求め、いつしかもっと大枠のところから逃げ続けてきたように感じる瞬間がある。誤解のないように言うが、今のサンガが残留を目指して戦う事、残留を目指した人事を行う事は決して小さな目標だとは思わないし、ここでいうサンガの間違えた目標として指すものではない。むしろ、サンガにはクラブとしてどうなりたいのか、クラブとしてのビジョンを描く事、スポーツビジネスとしてどう発展させていくのかを考える事からずっと逃げ続けてきたように思う。その生き様はどこかその日暮らし。毎日訪れる"その日"を乗りこなして、同じ歴史を繰り返しながら、いつしか地盤低下を招くように同じ歴史の標高だけが下がっていった。やりようによっては違う2024年が待っていたんじゃないかと思ったところで、その日暮らしを繰り返して辿り着いた2024年のサンガはもう先行者ではない。
ただそれでも少しずつ、クラブの時代は、クラブの風向きは変わっているように感じる。
このクラブの30年はどうしても、会社と競技の間に存在するスポーツビジネスをないがしろにしてきたように思う。ある意味でそれは、現場やフロントの競技面のプロとっては当然ピッチ内や練習場での仕事に邁進し、逆にビジネスサイドで派遣された会社側では京都サンガFCを会社として維持する為に努め、その狭間のスポーツビジネスがお互いにとって当事者意識を抱きにくい領域だったのかもしれない。そういう歴史が長かっただけに、例えば実質的に「30周年記念試合」に該当するのは第31節G大阪戦だったんだろうと思うが、わかりやすい目玉となるような記念試合をなぜ明確に設定しなかったのか?とか、試合日にどういうイベントを設定するかとか、そういうサッカーをエンターテイメントコンテンツとして捉えて利益を最大化する努力とアイデアに欠けているような印象は今現在も拭えていないが、それでもサンガスタジアム by KYOCERAという箱を手にし、クラブとして「チャレンジできるフィールド」を得た事で、少しずつクラブの悪癖のような歴史の習性が軋む音を立てている程度に過去の流れが変わる雰囲気は芽生えているのかもしれない。
次にサンガが周年を迎える時、サンガの立ち位置は世間にどう捉えられているのかはまだわからないが、サンガは「J2からJ1に来たクラブ」ではなく、これからは「J1のクラブ」にならなければならない。それはピッチ内でのパフォーマンスも結果もそうだし、結果や内容とは別のところで、日本のサッカーのトップリーグに所属するクラブとして相応しい、たとえ試合内容が芳しくなくても1日の体験を楽しんでもらえるようなコンテンツを提供できる会社である事、多角的にスポーツビジネスの会社として強く、魅力的に、これぞJ1と呼ばれるべきクラブを目指す努力をしてほしい。京都サンガというクラブには他のクラブが求めても簡単には得られない基盤があるからこそ、チャレンジできる事は本当はもっと多いはずだ。単発の企画が少々スベったって構わない。ピッチの中は昇格と残留というミッションをチャレンジとアクションの末に達成し、J1に定着しようとしている。次にJ1に定着すべきはチームではなく、クラブなのだ。だからこそ、ここ数年で見えつつある意識の萌芽を大事に、大胆に育てる姿勢を来季はより濃く見せてほしいと願っている。
時間は結果と引き換えに初めて手にできる代物である。少なくともサンガは、その取り組みをJ1にいながら推める為の時間を結果と引き換えに手にする事ができた。2024年はシーズン当初に掲げたような「最高で最強のシーズン」ではなかったが、このクラブの負の歴史を打ち破った年ではあった。であれば、これまでこのクラブが何度も逃してきた機を今度こそ血肉に変え、30周年という区点を分岐点と呼べる日を迎えなければならない。「KYOTO」というホームタウンの知名度は世界的なビッグクラブとも戦える力を持ち、街としてのポテンシャルは贔屓目を抜きにしても羨ましがられるレベルのものを持っている。その可能性の上に長年かいてきた胡座を解き、京都サンガという概念がどれだけ強く魅力的なコンテンツになるのかどうか。それが31年目から先の未来に向けて、京都サンガFCというクラブがスロースタートでアニバーサリーイヤーまで辿り着いてしまった歴史を追い越す為に課せられたテーマである。
P・PURPLE〜京都サンガFC 2024シーズン振り返り総括ブログ〜、完。
【第1話から読む】
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第4話 Pursue
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