RK-3はきだめスタジオブログ

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さよならシンボル〜ガンバ大阪、2021年シーズン総括ブログ〜第1話 青写真

2021年2月20日埼玉スタジアム──

去年、まるで勝てる気がしなかった川崎相手に見せたサッカーはガンバファンに希望を持たせるには十分なものだった。

 

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新しいシステム、2位になった去年には見られなかった流動性のある攻撃、2点ビハインドを一度は追いついた試合展開……最終的に敗れはしたものの、90分の試合を見た後の感覚はどこか清々しかった。宮本恒靖というレジェンドに率いられながら、魅力的なスタイルで殴り込みに行こう、そしてクラブ創立30周年を美しく飾るのだ……確かに開幕戦では神戸に敗れた。しかしそれでも、12月4日を迎えるその時にはきっと笑顔でいる……そんな未来を確かに信じていた。

 

 

 

 

 

 

 

3月3日を迎えるまでは。

 

 

 

 

 

 

 

全ての歯車はあそこから狂った。

無論、それが無ければ全てが上手くいっていたというつもりはない。だが、あの日から全ての風向きが変わってしまったのも事実である。

サッカーでエンドを選ぶ時に風向きを気にするのと同じで、物事にも風がどちらか吹いているかで同じ事柄でも良く見える事と悪く見える事も別れたりするものだ。新エンブレムやブランディングの件だってそうだ。状況が違えば、また別の受け止め方になる場合だってあっただろう。あの3月3日以来、ガンバはずっと向かい風の中にいた。

 

 

 

歯車とは人間の気難しさによく似た代物なのだろう。ガンバ大阪クラブ創立30周年……それは今までクラブが歩んできた30年間の中で、ともすれば2012年以上に苦しみを背負いながら戦ったシーズンだったのかもしれない。

今回からは2021年のガンバ大阪を総括するブログを複数回に渡って書いていきたいと思う。最後までお付き合い頂けたら幸いです。

 

 

 

 

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2020年シーズンを2位で終えたガンバは喜びと不安の二つの側面を抱いていた。

もちろん、配分としては前者の方が大きい。2位という数字は2015年以来だし、2015年もチャンピオンシップでの結果によるものだった事を踏まえると優勝した2014年以来の成績だ。そもそも、近年のガンバは強豪・名門と見られる事も多いし、実際にコンスタントに好成績を残してきた。しかし見方を変えれば「西野朗長谷川健太の時にしかトップ3に入れていない」という見方も出来る。ガンバにとって、西野監督と長谷川監督以外で3位以内に入ったのは初めてだった。しかもそれが宮本恒靖の下で掴んだ2位と思うと感慨もひとしおだろう。多くのガンバファンにとって「宮本恒靖監督」というフレーズは夢見ていたものだったし、OBの監督就任でこれほどまでの感慨深さを感じられるのは、過去も未来もおそらく松波正信宮本恒靖遠藤保仁宇佐美貴史の4人しかいないと思う。そんな監督の下で、ようやくタイトルに現実味が持てるようなシーズンを過ごしたのだ。

東口順昭倉田秋がベテランに、宇佐美貴史井手口陽介が中堅となる中で髙尾瑠、山本悠樹、福田湧矢といった若手の台頭も印象的だった。宮本監督は優秀監督賞も受賞した。後半戦にかけて調子を上げての2位だったのも高揚感には一役買っていたのだろう。

 

 

その一方で、2位という成績には喜びつつ、全てをポジティブに捉えるべきかといえばそれもまた違った。

宮本監督は本来、ハイプレスを基調としたもう少し攻撃的なスタンスで考えていたのだろうとは思うが、2020年が過密日程となったことでセーフティーな戦い方にシフトした。守備に関しても、積極的に前からプレスをかけるという原則はそれなりに最後まで維持されていたが、基本的には押し込まれる展開の試合が多く、最後はGK東口順昭を筆頭に昌子源三浦弦太キム・ヨングォンといった個の力でカバーしていた部分も否めず、攻撃はパトリック頼みになりつつあるところがあった。これは特にアデミウソンが事実上の退団となり、井手口が負傷離脱した11月以降にかなり顕著だったと言わざるを得ない。事実、2021年シーズン開幕前の予想でガンバを優勝予想にした人は前年度2位のチームとしてはかなり少なかった。これは川崎が予想の本命として余りにも人気すぎたのもあるが、トップ3予想にした人もそこまで多かった訳ではない。そして2021年は遠藤保仁がいない。遠藤が試合に出場せずに終わることは2017年頃から増えてはいたが、遠藤クラスの選手になると「そこにいる」というだけでも意味を持ってくる。いわゆる「ヤットロス」といういつか直面するテーマと向き合うのか、という問題もガンバは抱えていた。

ただ、ガンバの選手やスタッフ陣、そしてフロントも決して2021年を甘く、いわば2位に胡座をかいてシーズンに入った訳ではない。ガンバには終盤の9連勝で変に楽観視したままシーズンに入ってしまった2018年2019年の反省もあったし、久々のACLという新たな刺激もある。何より、1位2位の天王山となった第29節川崎戦、そして天皇杯決勝で見せつけられた川崎との差はとんでもなく大きかった。

 

 

 

「打倒川崎」──ガンバの2021年のテーマは大きく言えばこれだった。結局それがタイトルに近付く為の絶対条件だったし、2020年の上位陣は皆それを意識してシーズンに入っただろうが、その側面での意識は川崎に直接打ちのめされた、差を見せつけられた回数と舞台の分、ガンバが打倒川崎に期する想いは他のチームよりも強かっただろうし、誰もがこのまま2021年を迎えてはいけないとは心に強く思っていたはずである。

それは宮本監督も同様で、川崎を倒す為にはもっと攻撃が出来るチームにしなければならないし、パトリック頼みだなんて言ってられない。そもそも宮本監督が本当にやりたいサッカーは2020年にあった訳ではない。

 

 

上記のブログにも書いたが、宮本監督がやりたいサッカーは2019年の第12節C大阪戦〜第19節清水戦、或いは第28節札幌戦以降で表現されていた。アンカーには遠藤、山本、矢島慎也のようにゲームメイクを出来るタイプを配置し、インサイドハーフには倉田秋井手口陽介のように運動量とオフェンス力を併せ持つ選手を置く。インサイドハーフの選手がFW、或いはサイドバックかWBの選手との間で狭い距離感のトライアングルを作る事でショートカウンターを成立させていく……と。本来、宮本監督はこのやり方をもっと2020年に突き詰めたかった。それが2020年の開幕前にしきりに叫ばれた「ハイプレス」という言葉である。

だが2020年はご存知のように、新型コロナウィルス感染拡大の影響で3〜6月のリーグ戦が丸々吹っ飛び、7月から12月までの間にその4ヶ月分の日程を全て埋め込まなくてはならなくなった。宮本監督は理想は持ってはいるものの、基本的にはベストよりもベターを選択する監督である。これは多分、性質というよりは性格なのかもしれない。2020年は宮本監督のこの性格が良い方に転がることで手にした2位だった。ただ、ある意味「ベストよりベター」という彼のタイプは2021年上半期のガンバにとって大きな意味を持った。それは2020年のような良い意味ではなく、悪い意味として……。

 

 

 

少し話が逸れたが、詰まるところ、2020年よりも2019年のサッカーを軸にしたスタイル、やりかけのハイプレス、2020年に掴んだ守備の手応えと2021年のトレンド……それらを加味した答えが【4-1-2-3】だったのだ。

沖縄キャンプの際、ガンバは全ての練習試合のスコアや対戦相手でさえも非公開にしていたが為に、漏れ伝わるその情報にはどこか怪情報に似た匂いも漂ってはいたのだが、その方向性はゼロックス杯の川崎戦にて示される事になる。

 

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山本はアンカーの位置で、守備のタスクを少し減らす代わりにチームのコントロールタワーとしての役割を求めた。この試合では出場しなかったが、新加入のチュ・セジョンに求めた役割も同じだろう。両SBはインナーラップ的な動きも繰り返しながら、それに呼応してインサイドハーフの2人は出たり入ったりを繰り返す。特に小野瀬康介を右SBとして起用した事は、髙尾のコンディション不良もあったとはいえ、所信表明的な意味さえ感じられた。三笘薫の2得点で2点を先行されたが、前半から川崎相手でも高いライン設定で勝負に挑む。特にこの日の山本の出来は圧巻そのものだった。

3ヶ月前の第29節、そして一月前の天皇杯決勝…この2試合でガンバは川崎相手にまるで歯が立たなかった。それがどうした。この日のガンバは確かに川崎とやり合えていた。後半に入るとガンバは矢島、パトリックの得点で一気に同点に追い付く。60分に矢島がゴールを決めてからの15〜20分のサッカーはこれから始まるシーズンに期待を抱かせるには十分過ぎるものだった。

 

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ゼロックス杯は最終的にラストワンプレーの小林悠のゴールにより敗れ、それでもまだまだ川崎の背中は遠い事を同時に突きつけられる試合にもなったのは確かだ。シーズン終盤の大一番や天皇杯ゼロックス杯を背後の状況としてイコールで語るつもりはない。だが、それでも試合後の感覚は去年の川崎戦とは全くもって違う清々しさと手応え、そして期待感が試合後のピッチには残っていた。宇佐美が復帰し、継続された4-1-2-3の右WGとして起用された開幕戦となる神戸戦にしても、ゼロックス杯と比べると消化不良な試合展開で結果も一瞬の隙を突かれる形で0-1で敗れたが、開幕戦は「方向性を示す事」の持つ重要性はかなり大きかったりする。結果より大事だとは言わないが、開幕から3〜5試合のそれは意外と馬鹿にできない。神戸戦でもそれはできていた。

新しい事に挑戦して、そんなにすぐ結果が得られるなら世の中苦労なんてしない。待たされ過ぎるのは問題だが、待つ価値はある。あのゼロックスで見たサッカーの完成度が高まれば川崎の肩に手をかける事が出来るかもしれない。そうすればタイトルやACLでの好成績は自ずと付いてくるだろう。宮本監督にしても、これまでの3シーズンで出来なかった「目指すサッカー」にきっと今取り組めているはずだ。期待するだけのモノは見た、待つ価値はある。公式戦2連敗という結果は受け止めなくてはならないにしても手応えは確かにあったし、この時のガンバファンは少なからず明るい展望を抱いていた。次の試合は3月3日の名古屋戦。昨季3位の強敵を相手に、どんな成長を見せてくれるのか。この時はまだ、次の試合をちゃんと楽しみだと思えていた。クラブ創立30周年というメモリアルイヤーに相応しい結果とスタイルを、クラブレジェンドである宮本恒靖の下で───そんな甘美なストーリーは決して荒唐無稽な夢物語ではないと思い始めていた。

 

 

 

だが3月3日、名古屋戦直前……ガンバ大阪から発せられた一つのニュースリリースが、2021年の希望と期待と計画と、その全てを狂わせる事になる。

 

 

つづく。

 

 

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