G・BLUE〜ブログとは名ばかりのものではありますが...ブログ。〜

気ままに白熱、気ままな憂鬱。執筆等のご依頼はTwitter(@blueblack_gblue)のDM、もしくは[gamba_kyoto@yahoo.co.jp]のメールアドレスまでご連絡お願いします。

【ガンバ考察】ポヤトスは宇佐美貴史をどう考えているのか②スペシャリティ〜ガンバがそうであるように、ポヤトスもまた…〜

f:id:gsfootball3tbase3gbmusic:20230427115825j:image

 

 

 

前回のブログの続きになります。

前回のブログからご覧下さいませ。

 

前回のブログ

 

Jリーグ30周年記念特集こちらから!

 

オリジナルアルバム出してみました!聴いてみてくださいませ。

 

 

 

何より重要なポイントとして、徳島時代のイメージからか、肌感覚として…ポヤトス監督がフィールドの11人全員が戦術に徹底してコミットしたチームを作ろうとしている、或いはポヤトス監督にそういうチームを作ってほしいと求めている人が多いように思う。実際に徳島でやったサッカーはそういうスタンスに近かった印象があるし、確かにその視点で見れば現状の宇佐美がポヤトスサッカーに合っていないのではないか…という見解に至るのはわかる。

だが、ガンバでのポヤトス監督はそうは考えていないというか、むしろ戦術に11人全員が徹底的にコミットしたチームにはしたくないとすら思っているように思う。ポヤトスサッカーに見た想像以上の柔軟性と宇佐美の扱いを踏まえた時にそんな感想が浮かび上がった。

 

 

ポヤトス監督にとって、おそらく戦術にコミットして戦うのは9〜10人で良い。そして1つの枠はスペシャル枠として自由を与えた上でプレーさせたい。その対象が宇佐美…という事になる。

そもそも今回のブログを書くきっかけでもある訳だが、宇佐美の起用法の是非についてはガンバファンの中でも微妙に意見が割れているところがある。11人全員が戦術に徹底的にコミットするような完全なポジショナルプレーを主体としたサッカーを求める人には宇佐美の動き方は自由すぎるように映るだろうし、京都戦、或いは横浜FC戦の前半でも露呈したように中盤の守備に於ける強度不足の問題はある。だが、選手は人間である以上「できること」と「できないこと」はある。正確に言えば、全てをある程度こなす選手はいるが、全てがストロングポイントのような選手はいないという事だ。であれば選手を選ぶ立場の監督としては常に取捨選択の連続となる。どのメリットをとってどのメリットを捨てるか、或いはどのデメリットを排除してどのデメリットを許容するか。それは監督の専権事項であり、極端に言えばそれは「監督の好み」とも表現できる。

もし仮にポヤトス監督が目指すものが11人全員を徹底的に戦術にコミットさせるチームなのであれば、宇佐美の比較的自由なポジショニングはデメリットの側面の方が大きくなるとは思う。だが上で書いたようにポヤトス監督はそれを求めているとは思わない。むしろ、戦術を徹底しすぎることで頭打ち的になってしまう事を避けたい…みたいな意思はあるはず。その為のキーファクターが宇佐美であり、そのスペシャリティを、いわば異端を組み込む事で「戦術レベルが高いチーム」で終わらせないようにしたいのだと思う。

 

 

 

3トップで使うべき…という意見も多い。実際にミドルゾーンを担うポジションの選手としては守備に相当の不安があるのは間違いない。だが3トップで使うとなると、左WGは役割が明確化されているところがある。一方のCFはイッサム・ジェバリや鈴木武蔵の動きを見てもわかるようにミドルゾーンまで降りてくる…ポストプレーというか、ゴールに背を向けた状態でボールを受ける場面も少なくない。

一方、インサイドハーフ前回でも述べたように比較的個々の裁量に委ねる部分があるし、ポヤトス監督的には宇佐美は低めの位置をスタートに前に上がっていて欲しい…みたいな思惑に見える。CFのポジションからミドルゾーンに降りさせるよりは、ミドルゾーンに降りた鈴木やジェバリがいたFWの位置にミドルゾーンから入っていってほしい…とか。そのサッカーはジェバリや鈴木以上に宇佐美、ダワン、石毛のゴール数が多いように、シューターとしての才覚を最も発揮できるポジションがそこなのでは、という部分もある。その点で、結果的にポストに嫌われ倒したとは言えども、守備面はともかく攻撃に関しては横浜FC戦の宇佐美はまさしく「ポヤトスが望む宇佐美」だったと思う。

また、前回で語った事だがガンバでのポヤトスサッカーの根幹はスペイン式の徹底したポゼッションではなく、それはあくまで「スペースを如何に作るか・見つけるか・使うか」の3つであり、その手段としてポゼッションとビルドアップを強く意識する…という前提がある。前回で語ったように、そこに明確な意図があるならば、ロングボール1本であっても全然OKなのだ。その点、宇佐美は低い位置からスペースを見つけて、そのスペースに鋭いスルーパスを倒す能力がべらぼうに高い。今季の具体例で言えば広島戦で鈴木に通したパスや横浜FC戦で杉山直宏に通したパスはわかりやすい例だろうか。この2つのパスは宇佐美を低めの位置でスタートさせた効果が出たパスだと言えるだろう。総じて考えると、やはり宇佐美は「スペースを見つける」「スペースを使う(突く)」という観点に於いて圧倒的な才覚を持っている。ポヤトス監督にとってはそれこそが守備面のデメリットに目を瞑ってでも宇佐美を起用したい理由であり、宇佐美をスペシャルとして捉えている部分なんだと思う。

要は「宇佐美はインサイドハーフとしての役割を果たしていない」と言われたとしても、そもそもポヤトス体制に於ける「宇佐美インサイドハーフ」に求める役割は本来のインサイドハーフの役割とはそもそも異なっており、もちろんそれそのものの是非はあるとして、ポヤトス体制での宇佐美の役割は「インサイドハーフ」「インテリオール」ではなく、あくまで「インサイドハーフをスタートポジションとしたフリーマン」だという事である。宇佐美の役割が一般的なインサイドハーフ像とは異なる事はポヤトス監督・宇佐美の両者から沖縄キャンプや開幕戦の時点で守備負担の件も含めて示唆されていたようにも思う。

 

ポヤトス「貴史自身、中でプレーすることが好きな選手。ボールをたくさん触れますし、ゴールも中央にあるので、彼をあのポジションに置いています」

【番記者の視点】G大阪、インテリオール起用の宇佐美貴史が初ゴール「やること多い」30歳からの進化へ - スポーツ報知(金川誉)

 

ポヤトス「彼がボールを持つと何かが起こるし、持っていない時も危険な選手。サイドに置くと、守備で多く走らなければいけない。そこも考慮しながら、(中央の)今のポジションでプレーさせています」

G大阪ポヤトス監督、宇佐美貴史のインサイドハーフ起用を説明「ボール持つと何か起こる」- スポーツ報知

 

宇佐美「技術的なストロングやアイデア、自分が持っているものをどれだけチームの攻撃に落とし込めるか。うまくいかない理由も把握して、それを選手たちに伝える役割もしてほしい、と(ポヤトス監督には)言われています。チャンスメークしながら点を取りに行くところは、自分に課す最大のテーマ」「あれだけ(今日の練習)を見て、インサイドハーフなんだ、と言われるとちょっと違う。シーズンが始まればわかると思う」

G大阪が公開練習 宇佐美貴史がインサイドハーフ? ポヤトス監督の新布陣が浮き彫りに - スポーツ報知

 

言ってしまえば、ポヤトス監督としても宇佐美の起用位置に関しては「インサイドハーフ」でも「インテリオール」でもなく「宇佐美ポジション」くらいに考えているように思う。

例えば京都戦ではこの起用法が裏目に出る形になった。しかしその試合後の会見で宇佐美のネガティブトランジションについての質問を受けた際の返答は会見という場所であまり選手に対して否定的な事を言いたくはないという思考は少なからず働いていたとしても、そういう宇佐美の起用法に関する思考の一端が見える解答だった。

 

Q「宇佐美選手の良さは理解していますが、今日彼が起用されてネガティブトランジション(攻撃から守備の切り替え)で少し遅れたところでチームのリズムが出なかったところもあったように見えましたが、そこは宇佐美選手にも求めていくのか、また違った形での起用法を考えていくのか、いかがでしょうか。」
ポヤトス監督「全体的なところかなと思っていて、彼のネガトラ(ネガティブトランジション)が遅かったというよりは、もっといい状態をやっぱり作っていく必要があったかなと思っています。展開がオープンになってしまったのですが、やっぱり彼(宇佐美)はゴール前のところで良さが出る選手なのでもっと自分たちがいい状態を作りながら、彼の良さというものを出していければ良かったと思います。」

ガンバ大阪公式サイトより

 

この京都戦のように、京都のペースに乗せられた上でインテンシティーの殴り合いのような試合展開になってしまった時には宇佐美の中盤における守備強度の問題が露呈する事は確かで、それは京都戦の敗因に少なからずリンクしていた事は否定しない。だが、試合によってそういうマッチングの不出来が出来てしまうのはスポーツの常でもある。それを飲み込んだ上でもポヤトス監督は、宇佐美に限らずインサイドハーフのポジションには他のポジションと比べて個々の裁量に委ねている部分はある。

実際に京都戦前には「すべての選手にインテンシティーは求めています」とした上で「貴史をヒデ(石毛)と比べることはしません」と語っており、これ穿った見方でもなんでもなく監督の本心で、それは宇佐美に限らず石毛やダワン、2人の山本や倉田秋にも同じ事は言えるのだと思う。教科書的なインサイドハーフの役割ではなく宇佐美には宇佐美のタスクが、石毛には石毛のタスクが発生する…という考え方であって、コンディションや噛み合わせによっての比較が選手起用に影響する事はあれど、最初からインサイドハーフの役割としての比較では考えていないように見ている。

 

 

 

ではなぜ、徳島ではあれほど緻密でロジカルで、11人全員を戦術に徹底してコミットしたような質の高いチームを作り上げたポヤトス監督が、なぜデメリットを許容してでも宇佐美というスペシャルを重要視しているのか、なぜガンバでは意図的に戦術的な余白を許容しているのか。それは前回で書いたような逆算思考の部分もあるが、それと同時に「ガンバが足りないものをポヤトスに求めた」事と同じく「ポヤトスもまた、徳島で得られなかったものをガンバで求めた」というようなところにある気がする。ここからは完全に推測であるという前提で読み進めて頂きたい。

 

 

 

育成年代やコーチングスタッフとしてキャリアを積み、パナイシコスでは早期解任の憂き目を見たポヤトス監督にとって、徳島ヴォルティスは初めてじっくりと腰を据えてトップチーム監督を務める事が出来たクラブだった。

1年目は17位でJ2降格、2年目はプレーオフさえも逃した8位。結果だけ見れば芳しくない。だが1年目は降格枠の増えたレギュレーションや、そもそもコロナ禍の入国制限によりポヤトス監督の来日が4月までずれ込むという不可抗力のディスアドバンテージに苛まれるというエクスキューズがあった中で最終節まで粘った事も事実であり、2年目も敗北の数はJ2リーグ史上最も少ない数字だった。そして何より、徳島で築いたポゼッションサッカーの完成度の高さには選手もクラブも自信を持ち、ファンや識者、そして対戦相手にまでも賞賛されるようになった。11人全員が高い戦術意識を持ち、そしてそこにコミットしていく……その徹底ぶりが編み上げた完成度の高さは一つの芸術ですらあったように思う。もちろん徳島が築いたスペイン文脈の影響も大きいのだが、結果だけでは見えてこない確かな価値がポヤトスヴォルティスとポヤトス監督の手腕にはあった。その何よりの証拠が徳島が3年目もポヤトス監督に託そうとしていたという事実そのものだ。

だが、いくら価値を語ったところで、現実として突きつけられた結果は「J2降格」と「昇格失敗」だった。価値に対する賞賛は自信にはなっても慰めにはならない。それはきっと本人達が一番身に染みて感じていたように思う。あの徳島は戦術面に関しては十分に「やれることはやった」と言って胸を張るべきチーム力と完成度だった。だからこそ、結果的に昇格争いの敗軍の将となってしまったポヤトス監督の中ではいくつもの「なぜ?」が浮かんでいたはずだ。その時に来たのがガンバからのオファーだったのだろう。

ガンバと言えばここ数シーズン、戦術的なアプローチは色々試そうとしていたものの全てが何かしらの理由で頓挫し、最後は「個の暴力」とでも呼ぶべきなりふり構わぬスタイルで順位的な帳尻を合わせようとしていた。これは松田浩監督体制でもそうだと思うが、戦術を武器ではなく整理ツールとして用いる事である種のストロングスタイル的に勝点をもぎ取りに行く事で掴んだ結果が2020年の2位であり、そして2021年・2022年の残留だった。戦術的に上手くいかなかったガンバは個でどうにかするしかなかったが、逆に言えば残留に限ればどうにか出来てしまうだけの個はあったのだ。

 

 

 

戦術とは電車のようなものだと思う。

人が電車に乗る目的は「目的地に向かう事」である。その為に現在地に近い駅の改札に入り、列車に乗り込み、目的地に向かう。列車にも様々な趣向を凝らした列車がある。食堂車があったり、販売ワゴンがあったり、くつろげる椅子、効きの良いWiFi…列車の旅を快適にする為の機能は色々揃える事が出来る。だが結局のところ、電車に乗った目的が達成されるのは目的地の駅の改札を抜けた瞬間であって、車内を快適にする事では無いのだ。サッカーに於いてその目的地に辿り着くのは得点であり、勝利である。電車…即ち戦術は、あくまでそこに導く手段に過ぎない。別の言い方をすれば、戦術は入口から部屋に入り、そして出口から出る事で初めて成立する。ゴールや勝利は部屋の中ではなく、部屋の出口を出たところにある。

ポヤトス監督からすれば、徳島があと一歩に届かなかったところにはある意味では完成した戦術が檻のようになったような感覚があったんじゃないか、とも思う。その出口をどうやって作ればいいのか……ガンバがポヤトス監督に素晴らしい部屋を作る事を求めたように、ポヤトス監督は出口を作ってくれる"スペシャルな存在"を求めたのだろう。だからこそポヤトス監督はガンバを徳島の延長線に置くつもりはそもそもなく、それゆえに戦術的な余白を残し、そして宇佐美に"宇佐美ポジション"とすら言える舞台を用意したように思う。

徳島にスペシャルな存在がいなかった、とは言わないし思わない。だが2021年シーズンが終わった時に痛感したように、徳島でスペシャルな存在になるという事は近いうちに徳島からいなくなる事と現状では同義とも言える。一方、ガンバの場合は資金力がある。この資金力とは潤沢な資金で大型補強を連発できる…という意味ではなく、複数年契約であったり、移籍金によるキャッシュ確保の為に主力を売却しなければならないような逼迫性はないというところで「チームの主力をプロテクト出来る」という点にある。海外移籍はJクラブが逃れられない運命だとしても、Jクラブへの移籍であれば他クラブにとってガンバの主力選手を獲得する事は金銭的なハードルが相当高く、ガンバはディスカウントしてでも移籍金を得なければならないような状況ではない。そういう観点で軸と据えた選手は少なくとも国内移籍の観点ではプロテクト出来るし、逆に昌子源がそうだったようにそれでも合意させるようなオファーであれば相当額以上の金額を得られるのだ。要はポヤトス監督にとっては、徳島ではそれが困難だった「"スペシャル"を通年としての戦術設計として自然と組み込む」という事がガンバなら出来る。戦術を鍛え、そしてその戦術から脱するまでのルートを編み上げる事が出来る。

だからこそポヤトス監督は徳島の再現をガンバでやろうとしている訳ではないし、全員が全員にコミットさせた戦術集団で終わらせたくないと考えているのでは…と。そしてその"スペシャル"としてポヤトス監督が惚れたのが宇佐美貴史だったのではないか。思い返せば2021年5月27日、無観客のパナスタでポヤトスヴォルティスは躍動した。前半こそガンバペースだったが、後半は完全に一方的な徳島のゲームだった。内容面では間違いなく彼らの勝利だった。そんな試合で、観客のいないスタンドに鳴り響いたシュートの打撃音……徳島のプロセスとロジックをスペシャルで破壊したのが宇佐美貴史だった。もはや推測ではなく妄想の次元だが、その残像はポヤトス監督の中で今でも濃いのかもしれない。

 

 

 

最後に……戦術とかなんだとか難しい言葉や思考を並べてブログを書こうとしているのだが、確かに守備面には問題が少なからず生じていたとしても、横浜FC戦の宇佐美のプレーはファンとして純粋に楽しかった。面白かったのではなく、純粋に楽しかった。どれだけ新たな言葉と概念を学んでも、率直に感じたその感覚だけは忘れたくない…そう思うと同時に強く感じる。「やっぱり宇佐美貴史スペシャルなのだ」と……。

 

 

完。