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オトラブルー 〜ガンバ大阪 2023シーズン振り返り総括ブログ〜第2話 ポヤトスと宇佐美と、そしてジレンマ

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第1話はこちらから

 

 

 

 

「そのうちじゃなくて、今すぐがいいの」

 

ガンバ大阪の2023年はそういう感情を堪えながら生きていかなければならない……それは誰もがわかっていた。しかし、いざそんな流行歌が街を席巻し始めた頃、それを堪えなければならない事を実感として自覚しなければならない季節が訪れる。

言ってしまえばこの年の降格枠は、降格枠というよりもある種のドボン枠だった。「ガンバはおそらくそこには落ちない」という考えと展望は別に慢心ではなく、現実的に予想すればむしろベターな推測だっただろう。だが、いざその"ドボン枠"が現実的な可能性を抱いて迫ってきた時、それは去年辿った道のように……人の心のベクトルも少しずつ振れ始める。そのうちじゃなく、今すぐに───。その危機感と誘惑は、急速に近づいてきていた。

 

 

 

オトラブルー 〜 2023シーズン振り返り総括ブログ〜

第1話 変革の序章(2022.11.11〜2023.2.25)

第2話 ポヤトスと宇佐美と、そしてジレンマ(2023.3.4〜2023.5.20)

第3話 夏に来た春(2023.5.20〜2023.8.26)

第4話 もう一つの青(2023.8.26〜2023.12.16)

 

【過去のガンバ大阪 シーズン振り返り総括ブログ】

2017年 -嗚呼、混迷のガンバ大阪-

2018年 -奪還-

2019年 -What is "GAMBAISM"

2020年 -喜怒哀楽-

2021年 -さよならシンボル-

2022年 -砂浜のキャンバス-

 

 

 

2023年のJリーグを振り返る記事も色々更新しています。それらの記事はこちらにまとめておりますので是非!

 

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開幕からの2試合は勝ちこそできなかったが、新体制による新しいプレースタイルの構築段階としては悪い試合では決してなかった。

ただ…近年のガンバはあまりに特徴的なメンタルを抱えたチームだと思う。それがミスであっても、不可抗力的な何かであっても、例えば手応えのあるリズムが何かの拍子に乱れた時にあまりにも脆い。まるで水の苦手な犬かのように怖気付いてしまう。…かと思えば2022年終盤がそうであったように、本当に窮地に追い込まれた時の脅威の跳ね返し方には目を見張るものがある。それを踏まえるとメンタルというものは、個人もチームも強い・弱いを簡単には括れないものなのだろう。

だが今季のガンバはことごとく前者の道を辿っていった。今振り返れば、それが明確に可視化されてチームに影を落とし、歯車を回す事への恐れを抱かせる始まりとなったのは第3節神戸戦だったように感じる。

 

 

蹂躙……その言葉がよく似合う試合だった。

キックオフからのファーストプレーで好機まで持ち込み、3分の時点で先制した神戸は、低い位置からでもビルドアップを試みるガンバをまるで一つずつ詰めていくかのように徹底的にプレスをかけてくる。ボールの受け手も潰し、パスコースを消されて行き場を探すボールホルダーにも襲いかかり、その連鎖の果てが生んだスコアは4-0…。

実際問題として、前半はそれでもチャンスを作れていない訳ではなかった。ガンバにはポゼッションは構築段階、未だ未熟である事は当然と言えば当然で、単に負けただけであれば割り切って次に向かう事も決して不自然なリアクションではなかったはずである。いずれにしても今年は最初から結果が伴う道のりを歩めるとは考えていない。良かったところに目を向けて、一つずつ積み上げていこう……そう割り切る事も出来たと思う。だがこの日のガンバは自分達のやろうとしている事が発展途上だからこそ、襲いかかる神戸のプレスと最終的にそれを成就させてしまうクオリティを前に自信にも至っていない手応えが粉々に破壊され、今取り組んでいるチャレンジを否定されたかのような感覚と迷い、恐怖心を増幅させたような気がしてならない。キャンプでは神戸に大勝したそうだが、それも跳ねっ返りとしては一つの要素になってしまったのかもしれない。いずれにせよ、手応えを少し手に持つようなオフと開幕2試合を過ごせたからこそ、チームとしてのメンタル面に脆さを抱えるガンバにとって神戸戦はあまりにも効き過ぎてしまったように思う。

 

 

 

それでも3月はまだ良かった。

ファインゴールを決めた宇佐美貴史の負傷退場と終了間際のミス起因の失点という2つの悪い要素が絡んだ第4節広島戦も後半のパフォーマンスは悪くなかったし、2点ビハインドからドローに持ち込んだ第5節札幌戦での2得点はポヤトス監督の理想とするような形・流れからもたらされている。町野修斗一人に前半で4点を奪われる衝撃的な敗戦となった第6節湘南戦ですら、内容的にはそこまでネガティブなものでは無かったし、ルヴァンカップでの開幕3試合もなかなか良かった。そして第7節川崎戦…今まで散々屈辱を与えられてきた相手に完勝したゲームを見た時は、少なくとも間違った道を進んでいるという訳ではない…と素直に感じる事が出来た。ここまでの7試合は1勝3分3敗。その数字ほど悪いパフォーマンスではなかった……それは今でもそう思う。

だが、不振のチームを表す時に「きっかけを掴めない」とはよく言うが、本来は掴んだきっかけをどう拡げるのかが最も大事な事である。「きっかけに点火した火を燃え広げられない」という事象は、思えば2022年も辿った道だった。個人的に今季のガンバは前述した第3節神戸戦と、川崎戦に勝ってシーズン初勝利を手にした状態で挑んだ第8節京都戦に負けた事は、チームに尾を引く影を落としたように感じている。

 

 

京都も神戸と同様にインテンシティーとプレスを徹底的に押し出してくるチームであり、三浦のところで潰された決勝点は今のスタイルを続ける以上は起こり得る事象だったとはいえ、起こり方としては最悪のパターンだった。

前述の神戸戦じゃないが、手応えを掴んだ後で苦手なタイプの相手と対峙し、そこを制し切れないまま「想定された最悪のパターン」で刺されてしまう……2022年に顕著になったように、ガンバのやり方自体が極端にブレブレになったようには見えなかったが、それゆえに選手個々に、そしてチームが内包する矛盾とジレンマは膨らんでいったように見えた。それがガンバ大阪公式DVDの予告動画に出てくる宇佐美の「見えん、糸口が」のセリフであったり、福岡将太のリアクションであったりに繋がっていたのだろう。

 

 

結局、第8節京都戦で連勝を逃したガンバは続く第9節横浜FC戦では最下位を相手に圧倒的に押し込みながらことごとくポストに嫌われてドロー。第10節鹿島戦、そして満員の観衆をパナスタに集めた第11節C大阪戦では種類の異なる悲劇を見せられ、ショックで殴られる。第12節名古屋戦第13節浦和戦での連敗は暗中模索から抜け出せないチームと完成されたソリッドのチームの対峙という点でいささか妥当な敗北だった。

こうなるとファン・サポーターを含めた外野からも、ガンバがやろうとしている事やその上での選手起用に疑問の声が大きくなっていく。

 

 

 

…ではそもそも、今季のガンバのサッカーとはどういうものだったのだろうか。

ポヤトス体制でのガンバはポヤトス監督やスペイン人監督へのイメージから「ポゼッションに固執しているのでは?」と言われる事が多々あったが、実際にはそれとは異なる部分があった。もっと言えば、そもそもポヤトス監督はポゼッションのチームを作りたくてポゼッションを徹底している訳でもない。その考えは後の第15節新潟戦後の記者会見での回答に端的に表れている。

 

Q「新潟にかなりボールを支配される展開になりましたが、ポヤトス監督にとってそれはある程度ゲームプランにあったのでしょうか。」
ポヤトス監督「そうですね、自分自身まず支配という言葉は支配イコールやはりチャンス数かなと思っていて、ポゼッション数で言えば、新潟さんが今日は(ボールを)持っていたかなと思うんですが、ポゼッションというのはいつもコメントさせていただいているようにチャンスを作る手段でしかないと思っていて、そういったところでいうとポゼッションは(新潟に)持たれたんですが、チャンス数でいうとそんなに作れていなくて、逆に自分たちの方が守備からしっかりチャンスというのを多く作れたんじゃないかなと思っています。そういった意味では自分たちの方が支配できたのではないかなと思っています。

 

上にも書かれているように、確かにポヤトス監督は「ポゼッションは手段に過ぎない」という事は繰り返し語っていた。この新潟戦はチームが苦境に陥った末に久々の勝利を挙げた試合なので方針転換のようなイメージを受けるが、これに関しては最初から一貫してそういうスタンスを維持しており、沖縄キャンプの時点で東口順昭も「ポゼッションは手段でしかないから、一発で行ける時は行け」と指示されている事をコメントしている。

要はポヤトス監督が徹底していたのはポゼッションやビルドアップそのものではなく、チームが主体的にスペースを使えるかどうか。スペースを作り、スペースを見つけ、スペースに走り、スペースに出す……それを主体的に行う為の手段がポゼッションであり、そういうポゼッションの出発点としてビルドアップが出来る意識とポジショニングをチームのベースに据える、という事である。新潟戦に勝利した後のガンバは「ポゼッションを諦めた?」とも言われる事があったが、選手起用や配分を少しいじった部分はあるにせよチームとしての基本コンセプトが変わったわけではない。

だからこそ、ガンバの選手が今年強く求められたことは「相手を見る」という事でもあった。スペース走る事、そしてそのスペースにパスを出す事…いずれにしてもスペースを見つける必要があり、その為に相手のポジションと位置をしっかり見なければならない。一般的に言う「リアクションサッカー」のリアクションとは違う意味のリアクション、例えるなら相手のフリに対して的確にツッコむようなプレーが重要とでも言おうか。要は自分達でしっかりビルドアップをし、ボール支配を高める事の目的が示す手段は、自分達が主導権を握る事で相手をしっかり見て行動に移す為の時間を作る事でもあった。言い換えれば「主体的に待つ」という事だろうか。

その点で言えば、特に序盤戦のガンバの軋みはその辺りの感覚を掴めていなかったところに起因するように思う。それこそ昨季の終盤なんかは選手達の役割、選択肢がハッキリしていたが、今季は選択肢を意図的に多く持つ為のプレーを心がけた事が迷いを生んだ形だろうか。最初の2試合はそれを「トライ」として割り切っていただろうが、神戸戦京都戦のようなプレスに遭うと迷いの側面の方が強くなっていたように思う。出し手側の迷いだけでなく、受け手側の準備も足りていなかった。そういう連鎖がボールロストを生み、失点に直結し、スコアへと溶けていく。その連鎖の末の悪循環に3〜5月のガンバは飲み込まれていたのだろう。

 

 

 

また、この時期…に限らず、結局このシーズンが終わるまでずっとファンの間でも大きな論点だったのは「宇佐美貴史の起用法」だった。

宇佐美貴史が如何にスペシャルな存在であるか…という説明はもはやここでするまでもないだろう。能力、実績、ストーリー性…今年から7番を継承したこの男が、このクラブの象徴である理由は幾つでも挙げる事が出来る。一方で、スプリントを含めた運動量や強度面に欠けるところがあるのも事実で、それは昔から指摘されていた欠点ではあった。

それもあって、開幕前の時点から「宇佐美とポヤトスは合わないのでは?」という推測をする人もいたが、実際にチームとしては低調な推移を辿り、宇佐美自身も第4節広島戦の負傷退場以降は目に見えてパフォーマンスに精彩を欠いていた。そして宇佐美欠場時に石毛秀樹が、そしてこの連載では第3回以降の話になるが山本悠樹が好パフォーマンスを見せていた事もあって、宇佐美起用の是非はこの辺りから盛んにファンの間でも語られるようになり、宇佐美とポヤトスは合わないんじゃないかという懸念に結果と内容が説得力を持ってしまったような構図にもなっていた。

ただ、ちょうどこの時期にそういうテーマのブログを書いたがのでそちらの方も読んで頂きたいが、最終的に起用するかどうかはまた別の話として、少なくともポヤトスにとっての宇佐美は彼の構想、理論に合った存在だとも思っている。

 

 

ポヤトス監督にとっての初期構想は宇佐美のインテリオール起用。4-1-2-3の「2」の一角、従来の宇佐美のイメージよりも一列後ろで起用する事だった。

そもそもインテリオールは日本で言うところのインサイドハーフにあたる訳で、トップ下ではない。それゆえに守備で求められる部分も多い。それでもポヤトスが宇佐美の中盤起用に拘っていたのは、上で書いたスペースを作る・見つける・使うの連鎖の中で、例えば石毛のように豊富な運動量でスペースに入る動きは苦手としながらも、スペースを使うという部分での宇佐美に期待していた部分は大きかったと思う。

宇佐美の特徴に対する一般的なイメージは鋭いシュートやドリブルを繰り出せるところだと思うが、同時に宇佐美は中距離でスルーパスを放つ技術に於いて相当なものを持っている。東口がポヤトスからの指示としてキャンプ時に語っていた「行ける時には一発で行け」という言葉もあった。ポゼッションは手段として用いる前提に立った時、宇佐美の「スペースを見つけてそこにミドルパスを通せる」という能力はポヤトスにとっての間違いなく魅力で、その威力を高める為に宇佐美のイメージよりも少し低い位置からスタートさせるやり方を選択していたように思う。具体例を挙げれば、第4節広島戦の81分に鈴木武蔵に出したパスと第9節横浜FC戦の65分に杉山直宏に出したパスのようなもので、ファン心理的には結果の苦しさにポジティブ面を拾う気力が湧きにくい試合ではあったが、第11節C大阪戦の宇佐美の動きは、個人的にはポヤトスがこの起用法に賭けたい気持ちがなんとなくわかるような試合だったとも感じていた。

最終的に宇佐美のパフォーマンスがなかなか上がってこなかった事であったり、宇佐美ではなくダワンと山本悠樹のインテリオールでスタートした試合から結果が出始めた事もあって、宇佐美のインテリオール起用は束の間の死語となりつつあったのが2023年の顛末だった。だがポヤトスの基本方針を踏まえても、2024年開幕に向けてのブログでも書いたが、それを実践するかどうかはともかく、ポヤトスも本心では宇佐美の中盤起用を諦めていないのでは?と思う事もある。

個人的には、それも「合わない」という点で賛否があったが…第9節横浜FC戦の宇佐美は、ポヤトスが望む宇佐美のパフォーマンスが存分に出た試合だったように映った。だが宇佐美は前半に1点は決めたがシュートが3本ポストに嫌われるという呪われたかのような展開に至り、試合自体も1-1のドロー。ポヤトスの言葉を借りれば「リラックしてしまった」瞬間を突かれて同点に追いつかれ、宇佐美のみならずシュートというシュートがことごとく決まらない試合展開。このブログの全ては推測でしかないが、あの試合に対するポジティブな見立てが間違っていないとすれば、それがこのような結果に終わった事は今季を象徴するような皮肉めいた事だったようにも思う。

 

理想と現実…一言で言えばそうなるのだろうが、この時のガンバはあまりにも多くのジレンマを抱え過ぎていたのだろう。

これまでやってきた事と今やろうとしている事の差異、キャンプ時に掴んでいたはずの手応えと開幕後に増幅する迷い、順位とスコアの割には悪くない試合が多かった試合内容とそれが全く結果に繋がらない焦燥感……。少なくとも、2023年に取り組もうとしたサッカーに対して、意欲は各々が確かに持っていたように見えた。一方で、だからこその疑心暗鬼は意欲を結果が追い越そうとするかのように募っていく。膨れ上がった現実はガンバの順位を一つずつ押し下げていった。

 

 

 

18位。即ち最下位。

それは突きつける現実の中でも最も重く、目に見えた危機として順位表に映し出されていた。

 

 

第14節横浜FM戦、あの地獄のような空気は、これからどんな栄光に恵まれたとしても一生美談にはならない。どの理由を持ち合わせても支持しようとは思わない。一方で、あまりにも肥大化したジレンマを前に、きっとガンバの内部も外部も、それはフラストレーションを超えて病的な領域に達していたのだと思う。目の前にある青、付き纏うもう一つの青、その狭間に立たされた自分……ガンバに情を持つ人間の全てがそういう立場に立たされた時、あの日の地獄のような空間が出来上がったように感じている。

だが、地の底に触れたような空気がパナスタを包んだ横浜FM戦は、ピッチの上でのパフォーマンスに関しては次に繋がるものが見えていた事も事実ではあった。運命と必然に弄ばれたような2023年のガンバはここから、必然的な甘美な夏と転落を再び味わう事になる。

 

 

 

第3話「夏に来た春」につづく。

 

 

オトラブルー 〜ガンバ大阪 2023シーズン振り返り総括ブログ〜

第1話 変革の序章(2022.11.11〜2023.2.25)

第2話 ポヤトスと宇佐美と、そしてジレンマ(2023.3.4〜2023.5.20)

第3話 夏に来た春(2023.5.20〜2023.8.26)

第4話 もう一つの青(2023.8.26〜2023.12.16)