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オトラブルー 〜ガンバ大阪 2023シーズン振り返り総括ブログ〜第3話 夏に来た春

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前話(第2話)はこちらから

 

 

 

 

5月20日万博記念公園もみじ川広場ではウルフルズのライブが行われた。

15:30開演のそのライブは、細かい情報はわからないが、ライブが終わったのは18:00〜19:00くらいだろう。この国に名バンドは数多く存在するが、あそこまで"元気印"的なキャラクターを全面に押し出して活動するバンドはそう多くない。ライブを堪能した観客はその後、受け取った元気と多幸感をその表情に滲ませながら、太陽の塔を望むスロープを登って最寄りの万博記念公園駅へと歩いていく。

 

日を同じくして5月20日ウルフルズのコンサート会場の南東方面にあるパナソニックスタジアム吹田では19:00よりガンバ大阪vs横浜F・マリノスの試合が行われた。

キックオフの時間はちょうどウルフルズのライブに来た観客が帰り始めるか、或いはコンサートがクライマックスを迎える時間帯だっただろうか。万博記念公園駅、これからガンバの試合を観にいく"ファン"にも関わらず、どこか暗い面持ちと不穏な空気感を漂わせながら太陽の塔を望むスロープを降りていく。ウルフルズの楽曲のポジティブさを思い浮かべた時、2つの界隈が交差するその道はあまりにも皮肉だった。重すぎる週末の晴天を前に、この日の意味をどう咀嚼すればいいのかに苦慮しながらパナスタに向かっていた。

あの日、パナスタで起こった出来事は自分としては擁護や支持はしたくない。そして、その後にどう未来が好転しようとも「あの出来事があったから」とは間違っても思わないし、同時にそういう歴史にはしてほしくない。ゴール裏の彼らと比べれば自分が立場的にはライトファンにあたるからそういう見方になるにしても……あの夜の事は自分にとっては、そこにポジティブな意味を持たせたくなかった。あのハイタッチが映し出したものは断じて希望ではない。

 

 

だが一方でこの試合のガンバのプレーぶりには少なからず希望はあった。

今季初めてスタメン出場した倉田秋が見せた気迫のプレーから、ガンバにとっての逆襲の夏は幕を開ける。それは夏に来た春のようで、そして短すぎる夏でもあった。「酸いも甘いも」とはよく言うが、酸っぱさや甘さと違う美味と苦味を喰らい続けていくように、ここからのシーズンは展開されていく。

 

 

 

オトラブルー 〜 2023シーズン振り返り総括ブログ〜

第3話 夏に来た春

 

第1話 変革の序章(2022.11.11〜2023.2.25)

第2話 ポヤトスと宇佐美と、そしてジレンマ(2023.3.4〜2023.5.20)

第3話 夏に来た春(2023.5.20〜2023.8.26)

第4話 もう一つの青(2023.8.26〜2023.12.16)

 

【過去の シーズン振り返り総括ブログ】

2017年 -嗚呼、混迷のガンバ大阪-

2018年 -奪還-

2019年 -What is "GAMBAISM"

2020年 -喜怒哀楽-

2021年 -さよならシンボル-

2022年 -砂浜のキャンバス-

 

 

 

2023年のJリーグを振り返る記事も色々更新しています。それらの記事はこちらにまとめておりますので是非!

 

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ポヤトス監督が元々考えていた事は、基本的には4-1-2-3の陣形を維持しながら戦う事であり、両WGはサイドで幅を確保した上で、CFとWGの間にできるスペースはインテリオールに突かせたいという意図があったように思う。前回では宇佐美貴史のインテリオール起用は低い位置からスペースを突けるようなパスを出させたい…と書いたが、ポヤトスはそもそもインテリオールに、場合によってはストライカーにもなってしまうような攻撃性を求めていたように感じ、そこのスペースを宇佐美やダワンであり、或いは石毛秀樹に狙わせたい……思えば開幕前のキャンプの時点で、インサイドハーフ起用に関して問われた宇佐美が「あれだけ(今日の練習)を見て、インサイドハーフなんだ、と言われるとちょっと違う」と語っていたのにはそういう意味合いがあったのだと私は解釈していた。前回のブログでも書いたが、そういう意味に於いてポヤトスの求める宇佐美の動きに最も近かったのは開幕戦の柏戦、そして賛否は多かったが第9節横浜FC戦だったように想像する。

 

 

 

だが、WGで起用された面々…既にチームの中で最も結果を残していた一人であるファン・アラーノは幅を取るよりも中に入る動きを好んでおり、それはWGに食野亮太郎や福田湧矢を起用した時も同様の傾向は見られていた。山見大登はスーパーサブをなかなか脱せず、タイプはポヤトスの求めるWG像に近いと目されていた杉山直宏はなかなかJ1の感覚に馴染んでこない。一方でインテリオールはというと、ダワンや石毛、怪我から復帰してきた山本悠樹はキレのある動きを見せていたが、前述のポヤトスの構想的にはやはりキーファクターとなるのは宇佐美であって、その肝心の宇佐美は…昨季の大怪我から急ピッチでの復帰を求めた事や、第4節広島戦での怪我も重なったのか、一向にフォームが上がってこない。

ガンバに限らず、チームに於いて、個人に於いて、本能的に居心地のいい距離感というものは元来存在するものだと思う。ポヤトスが志向したそれとは異なるニュアンスに対して、チームや個人がそれを拒絶しようとしていたとは思わない。ガンバが喫した5連敗、或いは7戦未勝利の中には酷い内容の試合もあったが、少なくともコンセプトは一貫している事を感じられたのはその表れではあっただろうし、降格枠が一枠少ないという特殊事情はあれど、フロントもポヤトスを最低でも一周するまでは待とうとしたのもそれゆえだろう。だが第2話でも書いたように、ガンバはまさしくトライしている時点での挙動を刺されるような展開が頻出し、次第に心地よいテンポと作ろうとしているリズムが不協和音を起こす。そうなった時に各々の粗は噴出し始めていく。

そこでポヤトスは第14節横浜FM戦より若干の、そして明確な変更をチームに加えた。

 

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CBに関しては佐藤瑶大の抜擢は意外ではあったが、三浦弦太やクォン・ギョンウォンの立場は少なからず揺らいでおり、そこが福岡将太と組ませる形で再編になった事は不思議ではなかった。サプライズは倉田のスタメン起用である。

倉田は昨季の後半からはベンチ入りもままならなくなっており、ポヤトス監督が就任してからも基本はベンチ外。カップ戦には出場する…くらいの立ち位置だった。だが出場時間は僅かながら、第11節C大阪戦第13節浦和戦では途中出場からカンフル剤として機能し、詰まっていた栓を抜くような効果をもたらしていた側面もあった。

 

 

ポイントは、その倉田の起用位置が左WGだったという事である。

倉田は4-2-3-1や4-4-2システムの時は確かに左サイドを主戦場としていたが、その2つのシステムの時もボランチで起用される機会も少なくなかったし、ましてや4-1-2-3のチームでプレーするときはインサイドハーフとしての起用が多い選手だった。事実、倉田のスタメン起用が発表された時には石毛の方を左WGとして予想した人も多かったように思う。それそれは同時に、言ってしまえばWGには幅を取らせたいポヤトスの志向とは少なからず反する部分のある起用ではあった。

しかし、倉田のシャドー起用と戦い方のマイナーチェンジはすぐに効果を発揮する。横浜FM戦は前年度のチャンピオンに0-2で敗れ、試合以外のトピックに飲み込まれるようにスタジアムの空気感は重苦しいものとなっていたが試合内容自体は悪いものではなかった。そして続く第15節新潟戦でも同様の意味合いを持つスタメンを選び、同様の戦術で挑む。開始2分に倉田が、その背中の10番が背負う矜持を示すかのようなゴールを自ら決めてみせたその時から、このクラブには遅く短い春が訪れる事となる。

 

 

 

第14節横浜FM戦からの大きな変化と言えば、これまでのようにWG然としたWGではなく両WGを2シャドー的に扱おうとした…という事である。アラーナにしても、典型的なWGとしての仕事よりはシャドー寄りのプレースタイルを好んでいた。この2人がワントップの近くで常にフォローが出来るような位置を取り、同時にプレスの一歩目にもにもなる。

この2シャドーの位置取りは、これまではまずは一人で打開策を見つける事を先決にしていたところなら数的有利の状況を確保していく事に繋がっており、連動性というか、攻撃にしても守備にしても連続的なプレーが出来るようになっていた。この時期のガンバはよく「距離感が良くなった」と言われる事が多かったが、距離感の良し悪しに絶対的な正解があるとは思わない。あるチームにとって正解の距離感が、あるチームにとって不正解である事は往々にしてある。その点で、この時のガンバから受けた「距離感が良くなった」という感覚は、いわばガンバが心地よくプレーできる距離感になっていた事の表れだったようにも感じていた。

そしてWGが担っていたサイドの幅は両SBが高い位置を取る事で担保するようになった。この後の連勝期間から黒川圭介や半田陸の大胆な攻め上がりが多く見られるようになったのはその辺りも影響してくる。

 

同時に、この体形の戦術を選択するとインテリオールの役割も変化してきた。

ゲームをコントロールしつつ、全体的に前傾傾向になるチームにしっかりと付いていく事も出来るゲームメーカーと、ともすればオープンな展開になりそうな中盤のスペースを埋めるダイナモと。それを踏まえた時、このやり方に於けるインテリオールは山本悠樹とダワンしか成立しなかった。それゆえに、元々は第2話でも書いたように「宇佐美貴史スペシャル」を異質として組み込み、ポヤトスサッカーの文脈で発揮する為に用意したインテリオールという枠を上下動の強度に劣る宇佐美の為には残せなくなった事で宇佐美はスタメンを外れる機会が増え、宇佐美のみならず石毛の起用位置もインテリオールよりWGが多くなっていく。山本にとってはおそらく、プレーメーカーとしてこの時期のガンバのやり方が彼にとって最も心地よい仕事だったと思うが、両SBが揃って高い位置を取る事に伴い、ダワンとネタラヴィの負担は相当大きくなっていたとは思う。

 

 

 

ただ確かな事は、このマイナーチェンジはポヤトス体制の路線の上で行い、路線の上の範疇での変更に留めていたという事である。

この時期のガンバはハイプレス的な要素を持っていた事もあり、ガンバの連勝に対して「ポゼッションからハイプレスに転換した事で復活した」と評する声もあったが、基本的にポヤトス体制でやってきたコンセプトや基本から逸脱したり、戦術を変更したというものではなかった。マイナーチェンジを施す事で配分を少し変えた部分はあったが、第2話4月時点で書いた記事でも書いたようにポヤトスは元々「ポゼッションの為のポゼッションはしない」という意思は徹頭徹尾強調している。ピッチ全体を使うというよりは全体的なエリアを限定しながらも、ポヤトスがポゼッション以上に口酸っぱく説くスペースとポジショニングの原則はしっかり維持していたからこそ、この微修正を一つの起爆剤に出来いたと考えている。

当ブログで書いた第24節湘南戦のマッチレビューのタイトルは「It's My Lifeが流れたらヤーと叫ぶように」としたが、これは当日の会場ゲストがなかやまきんに君だった事に伴う実にふざけたタイトルではあるものの、ポヤトスの原則を手にした上で心地よい距離感が復活したガンバはそういうお約束のリアクションのようなものを自然とやれるようになった…というところの感慨深さを表したつもりでもあった。

 

 

開幕前にとある識者が「ポヤトスは(何かと比較されがちな)リカルド・ロドリゲスより柔軟性はある」と語っていたが、リカルドの柔軟性の如何はともかくとして、ポヤトスが柔軟性を持っているのはこの辺りの微修正をきちんと施せるところにあるのだろうか、とは素直に感じた。

 

 

 

前述した記事でも書いたように、ポヤトスには徳島時代に見せたような11人全員が徹底して戦術にコミットするサッカー、或いは徹底的にスペイン式のポジショナルプレーの確立を極端なまでに求める人も少なからずいたが、多少の余白を残す事はポヤトス自身がガンバに対して考えていた事でもあり、徳島時代と同じコンセプトは用いつつも、ポヤトスは何も別に「予算のある徳島」を作ろうとはしていなかったはずだ。そこはポヤトスにとても懐疑的な人も、ポヤトスにとても典型的なスペイン式を求める人も極端に物事を認識してしまっているように思う。

 

今振り返れば、その黄金比だった時期が6〜8月の絶好調期だったのだろう。

無論、黄金比だけでは長く続かないし、比率では無い高みを目指す上では別のバージョンアップも必要で、それが倉田が後に語った「(第25節鳥栖戦〜第26節札幌戦辺りから)新しいことを始めた」というところに繋がり、それが今季に限っては短い春の終焉に至って訳なのだが……。

 

 

 

第15節新潟戦からの2〜3ヶ月のサッカーはものすごく楽しかった。

第17節FC東京戦第18節鹿島戦の勝利なんて近年でも屈指の娯楽性を誇るゲームながら勝点3という結果を、それもホームで出してきた。その2試合ほど完勝ではなかったが、前半戦は戦術的な相性の悪さに完全に嵌め込まれた京都戦も2周目となる第20節での対戦では応用的な一つの対策の答えを提示してみせた。

その間にしれっと天皇杯という大チョンボを挟んだりもした訳だが、そこから8月末までの試合内容は、前半で地獄を見た事もあって痛快そのもの。いつぞやのぺこぱの漫才かのように「大丈夫か?」から始まる新潟戦からの11戦8勝2分1敗という大ブーストは壮大なカタルシスに触れたような感覚さえ抱いていた。第22節川崎戦なんて、対川崎戦の記憶から藤春廣輝の軌跡を詰め込んだようなあのストーリー性を誰が想像出来ただろうか?

 

「出来すぎて反動が怖い」……後に現実のものとなるその不安でさえも、近年のこのチームは感じる機会に恵まれてこなかったのだから。悶々と寝苦しい夏に時折吹く風に乗るかのように、ガンバは遅く訪れた春の道を駆け抜けていく。

これまで散々苦渋を舐めさせられ続けてきた川崎相手にシーソーゲームを劇的決勝ゴールで制してシーズンダブルを突きつけた時、「これ、もしかしたらACLもあるんちゃうか…」とすら思った人を「舞い上がっていた」とは言いたくない。空気感ではなく、そう言いたくなるだけの気流は確かにガンバの足元に流れていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

だが夏を過ぎ、8月末。

満員のパナスタでの勝利に沸いた第24節湘南戦を経た第25節鳥栖戦、山見大登がラストワンプレーでもぎ取った劇的な同点弾に沸いたその日のドローは栄光への入口ではなく、地獄の釜に触れた瞬間だったのかもしれない。

降格という生々しい不安と危機感が薄れてきた頃、もう振り返らないと決めたはずの茨の道が、また自分達の目の前に広がり始めていた事を知る。

 

 

 

第4話「もう一つの青」につづく。

 

 

オトラブルー 〜 2023シーズン振り返り総括ブログ〜

第1話 変革の序章(2022.11.11〜2023.2.25)

第2話 ポヤトスと宇佐美と、そしてジレンマ(2023.3.4〜2023.5.20)

第3話 夏に来た春(2023.5.20〜2023.8.26)

第4話 もう一つの青(2023.8.26〜2023.12.16)