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さよならシンボル〜ガンバ大阪、2021年シーズン総括ブログ〜第4話 献身

 

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【さよならシンボル〜、2021年シーズン総括ブログ】

 

第1話:青写真

第2話:Before 3.3 / After 3.3

第3話(前回):ガンバの一番長い夏

 

オリジナルアルバムの配信も開始したのでそちらも観てね

 

 

2020年はガンバのヘッドコーチを務め、現役時代は言うまでもなくガンバ大阪屈指のレジェンドであり、湘南の監督としてパナスタに凱旋した山口智監督は天皇杯ベスト16の試合後に「準備してきたことと逆のことが起こった」と語った。

 

 

そのコメントに乗じた私のツイートがこれなのだが、ネタツイとは言えども多くのガンバファンの感想もこれに近いものがあったと思う。正確に言えば「心の準備と逆のことが起こった」といった具合だろうか。

芳しくない試合内容の続いた2021年の中でも最悪に近い内容だった第29節鹿島戦を終えたガンバは、週末には残留争いの直接対決となる第30節柏戦が控えている事もあってターンオーバーを敷いたスタメンで天皇杯湘南戦に挑む。GKも東口順昭を温存して石川慧を起用した事に始まり、鹿島戦からは菅沼駿哉小野瀬康介、パトリックを残して8人を入れ替え、それに合わせてシステムも3-4-2-1から4-2-3-1に変更した。

 

 

開始早々にパトリックのゴールで先制に成功すると、前節までの試合内容が嘘だったかのようにガンバは躍動感と流動性のある見事なサッカーを展開する。これまでの試合では、攻撃はまずパトリックを第一選択肢とした上で進めていた。山口監督の言う「準備してきたこと」とはまさしくそれに対しての対策だっただろうし、「逆のことが起こった」と言いたくなる気持ちもわかるような攻撃を繰り返していた。

私はこの試合を現地に観に行っていたが、ガンバファンですら歓喜より先に困惑の雰囲気さえあったし、それを喜びと捉えるかショックと捉えるかの違いだけで、ガンバファンですら抱いた感想は山口監督や湘南の選手に近いものがあったのかもしれない。スタートの時点での実力差が明白だったACLのタンピネス戦を除けば、ここまでガンバがフルタイムで試合をコントロール出来たのは2021年でこの試合が初めてだった。この勝利は計画通りなのか、偶然なのか、突然変異なのか……ただ、たまたま偶然上手くいったというほどではなく、手応えやチームとして整理されていた部分もそれなりに感じたし、少なくともこの湘南戦第21節福岡戦や第24節清水戦のように「なんか勝った」というような勝利では無かった。

勿論、湘南がガンバ以上にターンオーバーを敷いて試合に挑んでいた事も抜きにしては語れない。それでも松波正信監督は次の残留争い大一番である第30節柏戦に於いて湘南戦のメンバーを中心にスタメンを構成したのは手応えの表れだろう。後半は劣勢を強いられる苦しい展開になったとはいえ、前半の立ち上がりからアグレッシブなサッカーを見せて2点を叩き出せたのはこの時のやり方がある程度機能はしていた事の証明だったと思う。結果も内容も最悪だった中で、そして少しずつ向上の為のトレーニングが出来るようになってきた中でのこの湘南戦は少なからず意義があった。

 

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結果から言えば、柏戦に続いてこのやり方を採用した札幌戦でクラブ創立30周年記念試合と銘打ちながら大惨敗を喫した事で頓挫し、残り試合は緊急で招聘した木山隆之コーチの下で結果を愚直に求める割り切ったサッカーに切り替える事になるのだが、少なくとも湘南戦の結果と内容は後ろ向きになっていたベクトルを前に向ける事は出来たと思う。特に宇佐美貴史のプレーを見ているとそれを強く感じた。

今年はずっと苦しそうにプレーしていた宇佐美が、この湘南戦では前を向いて活き活きとしたプレーを見せ、そしてそれ以降の試合でも徐々にフォームを取り戻していったのである。

 

 

 

言うまでもなく、私は関係者でもなければ記者でもない、コネもルートもないただのガンバファンであり、当たり前ながら知人でも友人でも無いのでメディアを通じた印象でしかモノを語れないし、推察する事も出来ない。だが、今年の宇佐美のプレーは必要以上に色々な重責を背負い込み過ぎていたように見えた。10年前くらいの宇佐美を見た人は彼の欠点に献身性や責任感の欠如を挙げる人もいるかもしれない。だが今年もそれを欠点に挙げる人は少なくともガンバと宇佐美を追って見てはいないだろう。むしろ2021年に関しては、その責任感の強さこそが宇佐美自身を苦しめていたようにすら映った。

 

 

2019年夏の復帰以降からよく見られる傾向だったが、最近の宇佐美は中盤まで下りてボールを受ける事が多い。特に今年はそれが顕著だった。その上でガンバの攻撃はパトリック頼みのニュアンスが強くなっていたし、停滞する攻撃陣の中心にいる宇佐美の成績も芳しいものでは無かったのは確かだ。

ファンやサポーターはやっぱり宇佐美にはFWとしての働きを求めるし、その記憶とイメージが強い。その気持ちはわかるし、実際に宇佐美が最もその能力を発揮出来るポジションはそこだろう。元々賛否両論を生みがちな選手ではある。実際にガンバファンからもスタメン起用を疑問視する声や「聖域」と言い放つ声も散見していた。

 

一方で、今のガンバには「ゲームを組み立てられる選手」が誰もいなかった。その役割を期待されていた選手としてはチュ・セジョンや山本悠樹がいたが、両者ともなかなかコンディションが上がってこない。倉田秋井手口陽介は元々そういうタイプではない。その役割をギリ務められるのが宇佐美しかいなかったのだ。2019年夏の復帰以降は宇佐美自身がチャンスメイクやゲームメイクへの意欲を語っていたのでそもそもの心境やスタンスの変化もあるだろうが、宇佐美のポジションがズルズル下がっていたのはそうせざるを得なかった部分もある。試合がオープンになるラスト10分はともかく、それ以外の時間で宇佐美がいない時は更に攻撃が回らなかった。要するに、宇佐美が下がるしかない状況が今年はずっと続いていたと言える。終盤戦に入って山本が復調し、それに合わせるかのように宇佐美も本来のリズムを取り戻したのは偶然ではないだろう。

そして宇佐美もゲームメイクをセールスポイントとする選手では無いので、多少の改善は出来ても劇的に戦局を好転させられる訳ではない。すると宇佐美自身もチームとしての攻撃も更にフラストレーションが溜まるような状況に陥り、見る者には「宇佐美貴史」というストライカーのイメージと併せて停滞感を与えていた。忘れてはならないのは、その宇佐美のイメージの背景には遠藤保仁を中心とした当時のガンバの中盤、宇佐美の言葉を借りれば「アタッキングサードまで連れて行ってくれる役割」がいたという事である。

 

宇佐美へのインタビュー記事ではこう綴られている。

 

エースの苦悩はチームと個人の成績だけではなかった。

(中略)宇佐美もまた、周囲から見られるイメージと、果たすべき役割との間の中で揺れていた。ジレンマは感じていたのか、問うてみた。

「ありますね、それは……。ストライカーというか、そういう風に見られているんだなとは感じます。試合が終わって挨拶回りをする時に、そういう罵声を浴びせてくる人もいますし、チーム内でも、前でプレーすることを求められているのかなと思います。」

 

「一度サッカーから離れてみるのもありかな」「自分に罵声を」宇佐美貴史29歳、降格危機ガンバでの苦悩と心の支え〈インタビュー〉(下薗昌記)

 

 

更に言えば、宇佐美が個人として背負った重圧と責任はそれだけに留まらなかった。

それを如実に示しているのが、この2つの画像である。

 

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2020年と2021年に於けるガンバのユニフォームの販促画像をこうして並べて見るとわかりやすい。2020年10月に遠藤保仁が磐田に移籍して以降、このような販促物でセンターを飾る人物…即ちガンバの顔、或いは看板とされる選手の座は遠藤から宇佐美へと変わった。

遠藤保仁の退団」が持つ意味は、単に中心選手が退団した事とはまるで重みが違う。特にガンバファンの両親の下に産まれ、2歳の頃からガンバの試合や練習場に足繁く通っていた「一人のガンバファン」としての側面も持つ宇佐美はその事の意味を、自分に託された事の重みを誰よりも強く感じていたのだろう。チームを導く為の仕事、ガンバの象徴としての存在感……遠藤がいなくなった今、それらの全て自分が担わなければならない……その意思と責任感は無意識だとしても外野の我々が見ているより強く抱いていたはずで、その上で陥ったチームとしての停滞感の中で宇佐美が抱いた苦悩と葛藤は常人が想像出来るようなレベルでは無かったと思う。宇佐美からすれば、おそらく彼は求められる立場でありながら求める側の立場の気持ちを実体験として認識している分、王位継承には世間が想像する以上の重さを感じていたのではないか。

その数字は確かに彼の実力と期待値からすれば不本意なものではある。ただ、宇佐美の今季の姿は時に見ていて辛くなるほどの悲壮さすら滲ませていた。かつて献身性から最も遠いところにいるとも思われた男ではあったが、今年の宇佐美貴史という選手を一言で表せば「献身」という言葉そのものだろう。こんな状況でも決めたゴールの全てがターニングポイントと呼べるものだった辺り、宇佐美貴史はやはり「選ばれし者」だった。

 

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話をシーズンに戻そう。

大惨敗に終わった札幌戦の結果を踏まえて、松波監督は残留を最優先に割り切った守備的戦術を木山コーチと共に構築するようになった。ルヴァン杯も敗退していたガンバにとって、第31節札幌戦から第32節浦和戦までの間はようやく2週間の試合間隔を得る事になる。浦和戦は防戦一方の展開ながら東口順昭の鬼神のようなパフォーマンスもあって何とかドローに持ち込むと、続く第33節鳥栖戦では「吹田の11秒」とも話題になった圧巻のカウンターから宇佐美が奪ったゴールを守り切って勝利。この鳥栖戦の勝利は本当に大きかった。内容としても守備的な戦い方ではあったとはいえ、防戦一方ではなく試合をコントロールしながら守れていたし、守備的な展開ながらGK東口が目立つような場面がさほど無かった事も大きな手応えになった。

続く第34節横浜FM戦でも、結果次第では優勝が消滅する2位チームを相手に守勢に回りながらも勝利。第35節大分戦、勝てば残留決定というシチュエーションで迎えた大分との直接対決をパトリックのハットトリックにより3-2で制した事で、ガンバは「最悪のメモリアルイヤー」に涙を添えずに済んだ。

 

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前年度のJ1リーグ天皇杯で準優勝を飾りながら、リーグでは終盤まで残留争いを強いられ、ルヴァン杯では初戦、ACLでは日本勢として唯一のグループステージ敗退…これは今季のガンバにぶつけられた現実に他ならない。残留を決めたばかりのガンバとACL出場圏争いの渦中の名古屋という構図で迎えた第36節、名古屋とは昨季は同じステージで戦っていたはずだったにも関わらず、試合前の状況と結果に映し出されたコントラストは辛かった。名古屋に置いていかれたのか、ガンバが躓いたのかはともかく、あの試合で見せられた実力差に広義的なショックがあったのは否めない。

一方で今年のガンバに降りかかった困難を顧みた時……言い訳も許されると言えば語弊があるかもしれないが、少なくとも一つや二つの言い訳くらいさせてほしいシーズンだったのは間違いない。活動再開時に小野忠史社長が語った「創立30周年を迎えるガンバ大阪において、過去を振り返っても一番困難なシーズンであるといっても過言ではありません。」という言葉の意味を、ガンバはそのシーズンの推移を辿りながら突きつけられ続けた。

確かに期待を裏切るシーズンではあった。ガンバ大阪というクラブにとってはもちろん、それはファン・サポーターにとっても同じである。間違いなく今年は楽しい一年では無かったし、週末は期待ではなく、いつしか土日と水曜日が近付く度に恐怖を覚えるようになっていった。

世の中に「趣味」と呼ばれるものはいくつかある。それらは趣味の範疇を越え、時として生き甲斐にまで昇華する。ただ、サッカーに限らず特定のスポーツチームにそれを充てがった時、ファンは時として難しい立場に置かれるのだ。例えば特定のミュージシャンのファンになってコンサートに行った時、席やセットリストに多少の不満は抱いたとしても概ね「楽しかった」とポジティブな気持ちで帰路につける事だろう。暗い気持ちで会場に行っても、ミュージシャンのパフォーマンスを見て元気を与えられて帰る事が出来ると思う。私も好きなバンドがあるのでその感覚を味わった事は何度もある。

だがスポーツは違う。特定の好きなチームを作っていない人であればともかく、どこかのファンやサポーターになればある意味で最後だ。元気に家を出たって、帰ってきた時には落ち込んで帰ってくる事だって多い。コンサートのチケットとは違って、スポーツのチケットは幸せの引換券ではない。ガンバ大阪というクラブを愛した者にとっても2021年は闘いだった。

 

今年のガンバに最もよく似合う言葉は「献身」だったと思う。第3話で書いた松波監督や前述した宇佐美の葛藤、それぞれ最前線と最後尾でチームを支えたパトリックや東口を始め、宮本恒靖前監督の言葉を借りれば「誰も経験したことがない作業」に取り組んだ選手を始めとした全ての関係者、そして神経をすり減らしながらも2021年を完走したファンやサポーター……そう思えば、「TOGETHER as ONE」という2021年シーズンのスローガンはある種の予言であり、ある種の皮肉でもあったように感じる。

 

 

 

「強いガンバを取り戻す」とみんな言うけれど、望めど願えど、あの頃に戻れはしない。歴史は歴史の上に重なり続けて、決して後戻りはしない。これだけ苦しく、苦悩と葛藤しかないようなシーズンを過ごしたのだ。もう過去に囚われる必要なんてない。

2022年、ガンバは片野坂知宏という新たな監督を招き入れ、新たなエンブレムを背負う。かつてチームの象徴以上の存在だった遠藤保仁はもういない。歴史を築いたエンブレムとも別れた。捨てるような過去などないが、過去への未練は断ち切らなければならない時期に来ている。

 

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強くなれガンバ大阪

取り戻すのではなく、新たな強い時代を新たなエンブレムと共に築き上げてほしい。未来は決して過去ではない。

 

 

さよならシンボル〜、2021年シーズン総括ブログ〜、完。

 

第1話:青写真

第2話:Before 3.3 / After 3.3

第3話:ガンバの一番長い夏

第4話:献身