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喜怒哀楽〜2020年のガンバ大阪を振り返る〜第2話 一寸先は閉塞感

第1話

 

 

4ヶ月の時を超えた7月4日、ようやくJリーグが再開する。パナソニックスタジアム吹田でのホームゲーム、相手はセレッソ大阪。図らずも遠藤保仁の通算出場記録更新の試合は大阪ダービーとなった。だがスタジアムはリモートマッチと称された無観客試合で静寂に包まれ、どことなく不思議な雰囲気で試合は進む。

 

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開幕戦に勝利し、戦力も充実していたガンバにとって追い風は吹いていたと思っていた。しかしミゲル・アンヘル・ロティーナ監督体制2年目で、組織的な完成度としてはかなり高いレベルにいたセレッソ相手に見せたパフォーマンスは低調そのものだった。個人の記録の為にサッカーがある訳では無いとは言えども、遠藤保仁の記録樹立の試合がよりにもよってこんな試合でいいのか?そもそも、この空白の4ヶ月を経て辿り着いた景色がこれなのか…?試合前の昂りはどこへやら、目の前に映し出されたのは去年と一昨年の頭にも見た閉塞感だった。Twitterもガンバファンの間で様々なコメントが飛び交う。議論や意見程度ならまだしも、意味不明な批判や誹謗中傷、逆に余りにも盲信的なものまで、それは確かに「いつか通った道」に見えた。

 

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だが、ここから少々意外な展開を見せる。良い意味で。

第3節、敵地で名古屋と対戦したガンバは5分に三浦弦太のゴールで先制するも、前半のうちに名古屋に逆転を許してしまう。セレッソ戦同様、この日の試合内容も低調だったのは否めなかった。すると61分、宮本恒靖監督は倉田秋に加えてパトリック、渡邉千真の3人を同時に投入する。するとアディショナルタイム、割り切ったパワープレーからパトリックが落として最後は渡邉が押し込む。土壇場で同点に追いついた。続く第4節の清水戦は開幕3連敗中だった清水相手に劣勢を強いられたが、この日も74分にパトリックと渡邉を同時にピッチに送り込む。終了間際、またしてもヒーローになったのは渡邉だった。逆に第5節大分戦でヒーローになったのは先発で出たアデミウソンで、続く第6節広島戦、第7節神戸戦では完封勝利で4連勝。あの大阪ダービーが終わった時の絶望的な空気はどこへやら、元々スロースターターで知られるチームはいつの間にか開幕ダッシュを決めていたのだ。第7節終了時点で6勝1分と圧倒的な成績を誇る川崎に次ぐ2位に付けたのである。

 

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新型コロナウィルスの影響もあって過密日程が避けられない事から、今季は5人交代ルールが設けられてたのは周知の通りだろう。「5人の交代枠を活かす事」……勝負の鍵をそこに置くのなら、1位川崎、2位ガンバという順位は自然だったのかもしれない。昨年の総括ブログでは「修正力が微妙」と書いたりもしたが、今年の宮本監督は交代策を非常に上手く使った。

特にツートップである。基本的には宇佐美貴史アデミウソンの2トップでスタートし、途中から渡邊とパトリックを投入する形が最も多かったが、この4人は四者四様のストロングポイントを持ち、そして全員がレギュラーに値するプレーヤーだった。キックの精度やチャンスメイクにも長けた宇佐美、個人技と前への推進力に秀でたアデミウソン、ストライカーとしての技術がすこぶる高い渡邊、そしてフィジカルモンスターパトリック……名古屋戦の同点弾なんかはまさしく渡邉とパトリックの特性が出ていたし、大分戦アデミウソンのゴールや神戸戦の宇佐美のゴールもそう。宮本監督は対戦相手に応じて2トップを選び、かつ相手が疲れたり慣れたりしたタイミングで総入れ替えする事で流れを一変させるだけの手札を有していたのだ。CBには三浦とキム・ヨングォンという代表クラスの2人がいて、GKは既に説明するまでもない存在の東口順昭がいる。第8節川崎戦からは昌子源も戦列に入り、守備は元々粘り強く戦える下地があった。そんな中で中盤の運動量はもはや人外の井手口陽介が君臨し、FW同様に倉田秋小野裕二を途中でスイッチさせる……。

内容面から宮本監督の采配と選択に疑問視をつけるファンもいたし、個人頼み感が少し否めないところから目を逸らす訳にはいかない。だが間違いなく理には適っていた。チーム構築としてはともかく、勝つ為のロジックとしては大正解だった。ベストな選択を目指せば、一歩間違えればそれはワーストな選択肢になる可能性もある。宮本監督が今季執ったのは「ベターな選択肢を選ぶ事」とも言えた。今のガンバの戦力であれば、ベストなプランを求めて賭けなくとも、ベターなプランさえ与えれば一定の結果は出る。それを実践していたのが神戸戦までのガンバだったように思う。

 

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だが……今思えばこの後訪れる、あの悪夢の大阪ダービーの後の空気が1ヶ月ほど続いたような感覚の時期を呼び起こしたのは第8節、ガンバにとっていつぶりか…首位天王山と呼ばれる試合だったように思う。

スコアは0-1で敗戦。後半開始早々、大島僚太ミドルシュート一発の前に沈んだ。それでも内容の悪いゲームでは無かった。首位天王山という名に恥じないだけのゲームは演じてみせた。だが、川崎との差は「1点差」では無かったのは誰の目にも明らかだった。確かに今年の場合はガンバ云々よりも川崎がおかしかったという見方も正しいとは思うが…。

現実問題、一度は噛み合い、回り始めたガンバの歯車は再び狂い始める。第9節横浜FC戦こそラストワンプレーのパトリックのゴールでなんとか勝利したが、後半の試合内容は負けていてもおかしくないだけの試合だった。そして苦難はここから再び始まる。第11節浦和戦第13節FC東京戦は完全に自滅と言える試合展開で1-3で敗れ、第12節鹿島戦は先制には成功したが終始サンドバッグ状態。そのリードさえも守り切れず引き分けに終わる。今思い出してもこの辺りの空気は地獄だった。ネットに溢れる言葉は擁護も批判も薄っぺらく感じたし、私が書いたブログやツイートも間違いなくそう思われていただろう。挙句、今年特にフィーチャーされる機会が多かった「誹謗中傷」まで珍しくなくなる。

8〜9月の閉塞感の要因としては対戦相手との相性的な側面は大きかったと思う。インテンシティーを重視し、積極的に前から追い込もうとする今年のガンバのスタイルは、例えば神戸や大分のようにしっかりパスを繋いでくるチーム、或いはマリノスや序盤の清水のように終始アグレッシブに高いラインを維持しようとするチームとの相性は良かった。一方、セレッソや浦和、FC東京、或いは柏のようにしっかりブロックを敷き、割り切った戦い方で挑んでくるチームとの相性はすこぶる悪い。そう思えば7月には得意なタイプのチームが固まっていたし、8月は苦手なタイプのチームが固まっていたとも言える。

実際8月の閉塞感は思い出してみても尋常ではなかった。バイタルエリアより前にはスペースが無く、ボールは回せても局面を打破するところまで持っていけない。ゴールの匂いがしない…とはよく言うが、あの時のガンバにはシュートの匂いも無かった。この時期の象徴的な試合は浦和戦FC東京戦、そして9月の柏戦の3試合だと思うが、この3試合で挙げた2点……井手口と宇佐美のゴラッソは確かにスーパーゴールではあったが、同時にペナルティエリアに入らない、それしか術がない事の証左でもあった。

結局、前にボールを入れられない以上はボールを持つ位置というのは必然的にじりじりと下がってくる。この時期には「宇佐美はもっとFWの位置にいてくれ」という意見が頻繁に見られたが、今季の宇佐美のポジション取りは好調事と不調時を問わずそこまで高くない。だが状況が状況故に、それが効果的に作用する時とネガティブに作用する時が分かれる。この時期は完全にスペースを奪われていた事もあって、完全に宇佐美がアタッキングサードから追い出されたかのように作用してしまっていた。更に突き詰めれば、その悪い波はDF陣にも押し寄せてくるし、その結果が致命的なミスの連発だったとも言える。

 

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第14節仙台戦では4-1の快勝を収めたが、続く第15節柏戦は0-3で完敗。そして第16節、最下位湘南をホームに迎えたゲームで、あろう事かガンバは最下位湘南にさえ敗れてしまう。湘南にとってこれは9試合ぶりの勝利かつ、ガンバホームのガンバvs湘南では22年ぶりの勝利だった。

もう後はない。序盤はスタートダッシュを決めたが、今や二桁順位さえも現実的になってきた。思えばこの湘南戦の匂いは2019年の鳥栖戦に近い趣もあったのかもしれない。宮本監督の選択はオ・ジェソクを切ってまで突き詰めようとした3バックとの決別だった。

 

 

 

つづく。